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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT2 「二人の伝説」
45/62

A2-9

 指定された日、八月二十八日に、俺たちは「狭間の大樹・上層」のとあるエリアのポータルを前にしていた。


「この先……か」


 見た目だけなら他のポータルを変わりはない。だが、その先にあるものを想像すると、これが地獄の門か何かに思えてくる。ジル先輩は幻想界のダンジョンに潜る度、こんな感覚を味わっていたのだろうか。


 もし、このゲームの管理者を倒したとして、何が変わるのだろうか? それは、既に先の会議で答えが出されていた。リタとルトの、この世界に干渉できる能力。それを使えば、このゲームのシステムを乗っ取ることできるという可能性。時間はかかるかもしれないが、あの二人のことだ、大まじめに攻略するより、ずっと早く解決するに違いない。


「これで、あたしたちも一蓮托生ってわけね。みんな、用意はいいかしら?」


「おう!」


「はい!」


「うん!」


 ジル先輩の確認の言葉に、俺たちは思い思いの返事と首肯を返す。各々の獲物を抜き、俺たちはそのポータルの中へと足を踏み入れた。


 段取りはこうだ。


 まず、リタとルトが新たなエリアを作りだし、俺、ラザさん、エリがその中に入る。相手の実力が未知数な以上、後退はできるだけ素早くだ。続いて、リタとルトが作り出したエリアの中に入る。この間で、リタとルトは相手の技量の目星をつけておくと宣言していた。


 そこから、交渉の開始だ。何より知っておくべきなのは、相手の正体、そして目的だ。おそらくこのゲームを管理しているようなやつらだと推測はできるが、念のためそこは探っておくべきだ。


 交渉における最低限の目標は、俺たちの生命の保証。これに関してはラザさんとジル先輩が担当だ。どうなるかはわからないが、交渉の材料はある。何せ、相手はリタたちを手に入れるために、ICBMまで飛ばしたのだから。


 もし、相手がこちらの領域に入ってきて、交渉の余地もなかったら、諦めて戦うしかない。リタは、例え自分のような人工知能であったとしても、この領域での死はそのまま存在の消滅に繋がると言っていた。


 大丈夫だ。まだ、俺たちには手がないわけじゃない。


 そう思いながら、ポータルをくぐった先の景色を見る。


 真っ白い。何もない空間だった。サイバー系の映画とか、マンガで出てきそうな、「初期化」された空間。そのイメージが脳裏をかすめた。


 そして前には、精悍な雰囲気を漂わせる老人が一人。


「あんたが、俺たちを呼び出したのか。目的はなんだ?」


 リタたちが領域を作り出す時間稼ぎをするのは、俺の役割だ。老人はゆっくりとこちらに視線をあわせると、鷹揚に頷いた。


「その通です。君たちを呼んだのは、私でございます。ようこそ、幻想界中枢へ」


 そして優雅に一礼。こうして見ると、着ている服も礼服のような感じだし、執事か何かのような雰囲気だ。それも、王族か何かに仕えるような。


「あんたの目的は何だ」


 少なくとも、すぐに襲いかかってくる様子はない。そう判断した俺は、単刀直入に疑問を投げかける。


「君たちと話がしたい。そう言えば、疑いますかな?」


 対する老人は淡々としていて、何を考えているのか、全くわからない。


 と、リタが後ろから焦ったように耳打ちしてくる。


「ダメだ、ガルド。エリアを作れない……。後ろのポータルも閉じてしまっているし、俺たち、閉じこめられているよ……」


 俺は息を呑んだ。それに追い打ちをかけるように、老人は言葉を重ねる。


「いくらかの不正アクセスを確認しましたが……まだ、君たちの力はその程度……。ふむ、ナイト、君はどう思うかね」


 老人が何もない空間に言葉を投げかけた直後、そこにはいつの間にか背の高い男がいた。


「英雄とは最初から英雄だったわけではない。そういうことでありましょう」


「そうか、そうだな。まだ中枢のセキュリティを破るほどではない、か」


 突然現れた男に、俺は肩を強ばらせる。何だ? いつ、現れた? それに、何者だ?


 その疑問はすぐに解消した。後ろで、ルトが尋常ではない声音で言う。


「お……おまえは……な、何で……?」


 俺が振り向くと、そこには恐怖で凍り付いているルトの姿があった。続けて、ラザさんがはっとした様子でつぶやく。


「なんてことだ……彼は、『ナイト』だ。あれが、伝説の……」


 一ヶ月前の、ラザさんの言葉を思い出す。初期のギルガメッシュ・オンライン、その幻想界で活動していた最初の「英雄」で、おそらく、リタたちを救出した張本人。西洋風の鎧を、炭素繊維や高分子繊維で作ったら多分こんな感じになるであろう外装を身にまとったその姿は、確かに尋常でないオーラを発しているように感じられる。


「人間なんて、そんなものでしょう? ねえ、おじさま」


 更に、もう一人。今度はその姿に、俺が一番驚くことになった。長くのばした、赤い髪、そしてビジネスライクなスーツ。その姿は、「英雄相談所」のギルドマスター、クイーンと瓜二つだったのだ。


「英雄など、一人で十分、そうでしょう?」


 だが、その雰囲気は穏やかでどこか達観していたクイーンのものとは異なり、子供っぽさが目立つ。あのギルドマスターが「女王」というならば、ここにいるのは「王女」と言うべきか。


 どこか孫娘を見るような眼差しで王女にうなずき返した老人は、再度、問いに対する答えを返す。


「君たちと話したい。というのは本心ですが、目的はそれだけではありません。確実に果たさなければならない目的はもう二つ。S.W.の奪還と、君たちの抹殺です」


 直後、三人はそれぞれの獲物を抜く。


「もう察しておられるでしょうが、名乗っておきましょう。私はD.L.計画、『観測者』。コードネーム『ルーク』。この世界、ギルガメッシュ・オンラインの管理者です。以後、お見知り置きを。ナイトとクイーンのことは、君たちもよく知っているでしょう。特に、ラザルスさん。あなたならば」


 隠そうともしない戦意に、俺たちは反射的に獲物を構える。だが、唐突に出たラザさんの名前に、俺は当人の顔を見てしまう。そこには、いかなる表情も現れていなかった。


「いやねえ、その男は、坊やたちとは『違う』のよ。その二人と坊やが接触したことを知って、力を貸した。最初から、あなたたちを利用しようとしていたのよ」


 王女が、くすくすと笑いながら言う。しかし、俺たちにはそれを気にする余裕などなかった。相手の敵意を認めてか、ルトが〈ヨトゥンヘイム〉を手に、突然ナイトに切りかかったのだ。


「ルト!」


「うおああああ!」


 悲鳴とも叫びとも思える声を上げて放たれた一撃を、ナイトは持っていた「鞘」で受け流した。それを気にせず、王女は言葉を続ける。


「坊やたちだけだったら、見逃してもよかったのだけれど。CIA直属のあなたにここのことを知られると、いろいろとまずいのよ。だから、死んでちょうだい!」


 言い放ち、王女は黄金に輝く剣を構えて突進してくる。それに反応して、ジル先輩が盾で受け止めた。その横からリタが飛来し、〈アスカロン〉の重量攻撃でクイーンに似た王女を後退させる。


「みんな! 援護をお願い!」


「は、はいッ!」


 ジル先輩の言葉にはっとなり、俺、エリ、ラザさんは魔法による援護を開始する。


 ルトとナイトの攻防は続いているが、どちらもHPは減っていない。だが、ルトの表情には余裕がなかった。


 攻撃をジル先輩に止められた王女は、新たなスフィアーツを起動する。現れたのは俺がいつも使っている〈クラウ・ソラス〉だが、それは王女が触らなくても独りでに動き、ジル先輩に襲い掛かる。その変速的な攻撃に、ジル先輩はうまく手を出すことができない。


 それは、未だに俺が体得できていない、クイーンの使う奥義だった。あの女王様は、宙に浮く剣を使って戦う。今、俺たちが見ているように。


 数秒の後、ルトがナイトの持つ赤い剣によって吹き飛ばされる。いつの間にスフィアーツを起動したのだろう。それだけでなく、左手に持った「鞘」から魔法を放って、王女を援護し始める。


 前衛を彼らに任せ、俺たちはありったけの魔法を王女とナイトに放つ。ナイトと王女の勢いはそれでも衰えることを知らないが、流石にエリの使う超高威力の魔法は全力をもって回避しなければならない。その上他の魔法攻撃の余波によって、じりじりと二人のHPが減っていく。


 六体二で、じりじりとしかHPを減らせない。その事実に驚きつつも、俺たちは全力を傾けた。特にナイトの実力には目を見張るものがある。最初のうちはルトとの攻防に全力を注いでいたものの、すでにあしらうような動きで王女を十分に援護している。


 だが、まだ、俺たちが有利だ。この数の有利は覆せない。


「やはり、これでは多勢に無勢ですかな。それならば」


 老人は、杖のように地面についていた〈エクスカリバー〉を持ち上げ、剣先を勢いよく地面に叩きつけた。


「きゃ!」

 その瞬間、空間が歪んだ、とでも表現すべきだろうか。平衡感覚がおかしくなり、エリが短く悲鳴を上げる。俺もそのせいで前後不覚に陥った。

それは長くは続かず。俺たちはすぐに戦闘ができる状態に復帰する。だが、平衡感覚の戻った世界に、リタとルトはいなかった。


「……ッ! おい、リタ! ルト! どこ行きやがった!」


 作戦の要がいなくなったことで、俺は半ばパニックになって叫ぶ。それをたしなめるように、王女が言葉を投げかける。


「ルークが言っていたでしょう? 私たちの目的は、W.S.なんだから。それを回収しただけよ? 別に死んだわけではないんだから、安心して頂戴?」


「何が……!」


「あの娘はねえ、『姫』に選ばれたのよ。W.S.の力を使いこなし、次世代を担う『英雄』としてね。ああ……まったく羨ましい。それを奪って逃げるなんて、とんでもない坊やだわ」


「喋りすぎだ、クイーン」


 ナイトの言葉に、王女はわざとらしく拗ねた様子を見せる。


「いいじゃないの。こいつらはどうせ、助からないわ」


「いいさ。彼らにはそれを知る権利がある。力があるかぎり、より広い景色を見ることができる。これが、この世界の法則だ」


「ふん」


 ルークが割って入り、ナイトが不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「さて、これで、三対四ですね。さあ、勝負を続けましょうか」


 三人はこちらと距離をとって合流し、待ちかまえるように動かない。


「ガルド君。今のうちに、〈看破〉して」


 不意に振り向いたジル先輩のささやきに、俺は表情を引き締め、相手のアビリティ構成を探る。意外なことに三人とも〈看破阻害〉を使っておらず、スムーズに情報収集が進んだ。


「クイーンに似ているやつが〈勝利の剣〉とか〈クラウ・ソラス〉を主軸にしてる……クイーンと同じだな。じいさんのほうは、〈エクスカリバー〉主軸の前衛構成。ナイトは……」


 表示されたスフィアーツを見て、俺は目を剥いた。


〈ロゼッタブレード〉

起動時消費MP:160

カテゴリ:魔鞘

魔法スロット:5

攻撃力C

筋力上昇:C

魔法上昇:S

機動上昇:B

防御上昇:A

魔防上昇:A

強靱上昇:A

武器重量:C

「武器召還」任意のMPを消費して片刃の剣を召還する。消費したMPによって基礎攻撃力が上昇する。

「武器解放」召還した武器を消滅させると同時に、召還に使用したMPのぶんだけ魔法を瞬間発動させる。

「MPリストレイト」召還した武器によって相手のスフィアーツの耐久値を減らしたとき、召還した武器の基礎攻撃力に応じてMPを回復する。

「MPゲイン」相手にダメージを与えたとき、ダメージ量に応じてMPを回復する。

「解放不可能」


 見たことのないスフィアーツだ。最初の能力説明を見て、それが尋常ならざる性能を持つことが一目でわかる。それに、なんだ、このMP回復アビリティは。チートじゃねえか。


「ナイトのやつは、やばい。見たことのねえスフィアーツだ……あの鞘が本体で、剣のほうは壊してもあまり意味がねえ」


 俺の必死な情報収集をあざ笑うかのように、老人、ルークが親しげな語調で話し始めた。


「質問ならば、なんなりと受け付けましょう。君たちには、それを知る権利がある。しかし、それを持ち帰ることができるかどうかは、君たちの持つ『力』にかかっている。さあ! 見せてください、君たちが、真実を知るに足る人物であるのかを!」


 ルークたちの戦意が増大し、殺気として感じられるまでになる。おいおい、なんだよこれは。ここは仮想空間じゃなかったのか。


「今なら……まだ間に合うかな……」


 と、ジル先輩が唐突に呟いた。王女の攻撃を受けることで一人だけ突出した位置関係で、こちらを振り向き、手をかざした。


 俺にはジル先輩の呟きの意味をわからなかったし、手をかざした理由もわからなかった。だが、変化は唐突に訪れる。


 半透明の壁が現れ、俺たちとジル先輩を分断したのだ。俺は驚いて壁に触れるが、それは確固とした質量を持っていた。


 その現象を見たナイトが、感心したようにため息を吐いた。それに反応したわけではないだろうが、ジル先輩は得意げに呟く。


「ダンジョン生成用のソースコード。最近取ったんだけど、やっぱり売らなくて正解だったわ。中枢っていうからもしかしてと思ったけれど、ドンピシャね」


 そうして、ジル先輩は壁に近づき、俺の頭を指さした。


「あたしにはこれぐらいしかできないけれど、勘弁してね」


 その壁は、ジル先輩の声を残酷なまでにクリアに通した。ジル先輩は、穏やかな表情で言葉を続ける。


「ガルド君、ふっちゃってからでなんだけど、君に告白されたとき、すごくうれしかったよ。こんなあたしでも、大切に思ってくれる人がいるってわかって。それに今、自分のことを大切に思ってくれるひとを守ることができる」


「ジル先輩……」


 それからジル先輩は真剣な表情になって、俺の背後を見た。


「ラザさん。ガルド君とエリをお願い」


「ああ、わかった」


 ラザさんが応じると、ジル先輩は背中を向けて、ルークたちに対峙する。


「あたしは今、幸せだよ……」


 そう呟き、槍を構えて突進する。三対一な上に、相手も相手だ。とても勝てるような状況じゃない。


「逃げるよ!」


 ラザさんが俺の腕を引っ張るが、俺は無我夢中になってそれを振り払い、半透明の壁を叩いた。言葉が出なかった。今は、この壁が憎い。ただそれだけしか頭に浮かばなかった。国家がなんだ、この世界がなんだ。俺の愛した人は今……。


 直後、俺たちの立っていた床がガラスのようにひび割れ、三人とも落下していく。その向こうに、ジル先輩を置いて。


「あ……ああっ……!」


 息がつまったような感覚。白い「初期化」された空間から、どこまでも落下していく。


 やがて真っ白な空間が終わり、「狭間の大樹・上層」の景色が視界に映し出される。どこまでも広がる星空と、その中に浮かぶ巨大な樹。俺たちは宇宙飛行士かなにかのように、くるくると回転しながら下方へ加速していく。


 やがて上層と下層を繋ぐ、夜の海にも似た境界線へと達し、俺たちはいつもの世界へと帰還させられた。


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