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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT2 「二人の伝説」
44/62

A2-8

 大陸間弾道ミサイル。


 知識としては、知っている。というより、その当時のアメリカ在住者ならば、嫌でも知識を叩き込まれたはずだ。


 なにせ、テレビのワイドショーは日本から発射されたICBMの話題ばかり。静止衛星が「偶然」捉えたその発射台と、それを迎撃すべく配備されたイージス艦やパトリオットミサイルの勇姿が繰り返し映し出されたのだから。


 報道された、ということは、日本から発射されたICBMは無事に迎撃されたということだ。専門家たちがふるって議論している通り、不思議なことに後続のミサイルが発射されることはなかったし、核弾頭も積まれていなかった。一部の評論家が熱弁をふるっているような、本気で戦争を仕掛けてきている感じではなかった。


 だが、その理由はすぐに明らかになる。まず、俺たちのゲーム内のメッセージボックスに、俺とジル先輩の携帯端末に、エリのパソコンメールに、ラザさんはソースを話してくれなかったが、とにかく、それは俺たちの情報網に等しく届いた。


 内容は、簡潔だった。ICBMが狙っていたのはテトラロジックユニオンの支部、リタたちが「住んでいる」コンピューターのあるビルであったこと。これは示威行為であり、既にあらゆる手段を使って俺たちの生命を脅かす準備ができているということ。おきまりの、直接的な口止め文。


 そして、要求。幻想界内の指定した座標に存在するゲートの先で、我々は待っている。この場所に、リタとルトを連れてこい。


「ガルドさん。このこと、知っていたんですか……」


 一番ショックを受けていたのは、エリだった。誰が言い出したわけでもないのに「英雄相談所」のギルドハウスに集合した俺たちの間に、重苦しい沈黙が流れる。エリの質問に答えるのは俺しかいなかった。


「全部知ってたわけじゃない。だが、最初にリタに出会ったときから、このゲームの、日本のヤバイことに関与しているってことは、薄々感づいていたよ」


 なにせ、出会った当初のリタは、ログアウト不能な上に記憶喪失だ。何かない方がおかしい。


「だったら、なんで! わたしには何も話してくれなかったんですか! ガルドさんがした説明には、そんなこと、ぜんぜん含まれていなかったのに! わたしだけ、仲間はずれじゃないですか!」


 エリは必死だった。無理もない、俺たちは、エリにだけリタたちのことについて嘘をついていたのだから。今の俺は、正直に話すしかない。


「気軽に話せるような内容じゃなかったからな。本来なら、俺と、ラザさんだけ知っているべきだと思ったんだ。ジル先輩は……その現場を見ちまったからな。だが、それだけだ、リタとルトが何者なのか、俺たちはよく知らない」


 それから、今、俺たちが知っていることを話した。その課程で、話すことのできる項目の少なさに愕然としながら……。俺たちが、あまりにも知ることを避けていたのか、それを実感しながら。


「わたしたちは、どうすればいいんでしょう……」


 話し終えて、エリはぽつりと呟いた。


「このメールの通りにするなら、幻想界の、この場所に行かなければならないわね。あたしたち以外にあの二人のことを知っている人はいないんだし、このメンバーに同時に、しかもゲーム内と外どっちにもメールを送りつけてきたんだから、相手はネットワークに関する強力な力を持っている。本当に日本からのものだってのは、疑いにくいわ。つまり、相手はあたしたちをどうとでもできるってこと」


 ジル先輩が答え、エリはびくりと体をふるわせる。


「そのゲートの先には、何があるんでしょう」


「さあね、行ってみなきゃわかんないわ。あたしたちにもメールが来ている以上、あの二人に同行したほうがいいかもしれないわね……」


「その必要はないよ」


 ジル先輩の言葉にかぶせるように、少年の声が部屋に響く。見ると、そこには険しい表情をしたリタと、不安そうな表情のルトがいた。


「彼らの狙いは、俺たちだからね。これまで特にアクションもしてこなかった『彼ら』が、ICBMまで撃つぐらいだから、きっと重要なんだと思う。俺たちの持っている力が」


「お前たちは、何を知っているんだ……?」


 俺が問うと、リタは顔を伏せて答えた。


「正直、君たちとあまり変わらないと言っていいと思うよ。俺たちは、仮想空間に干渉する力を持っている。これを何で持っているのかは、わからない。でも、何時手に入れたのかはわかる……」


「仮想空間に干渉する力だと……。なんでそんなこと黙ってたんだよ!」


 エリが俺に向けた言葉を、そのままリタが受ける。リタは唇を噛んで思案し、言った。


「俺たちだって、よくわからなかったんだ。このゲーム内ではその力はうまく使えないし、あのCPMの中で、偶然できるようになっただけなんだ……」


「そんなの……」


 要領を得ないリタの言葉に俺が口を出そうとするのを、ジル先輩が視線で遮った。


「みんな、情報が不足しているわ。これじゃあ、何も判断できない。リタ君、君が知っていることを、あたしたちに話して欲しい。時間はかかってもいいわ。きっと相手も、こちらが悩むことぐらい折り込み済みでしょう」








 それから、リタは話し始めた。俺たちが知っているゲーム上での無敵の姿ではなく、現実に生きていた、ただの少年だった頃の話を。


「そういうことだったのかよ……」


 聞き終えて、最初にそう漏らす。わかったのは、彼らもまた、このゲームの、この事件の被害者だったということだ。


「つまり、君はこのゲームを作った根幹にあるプログラムを、所有者であるルトごと持ち去ってしまった。そういうことだね?」


 ラザさんがそう確認をとると、リタ頷いた。


「うん、それで間違いないよ。今は、それがどんな力を持つのかはわからない。『彼ら』は、それをS.W.って呼んでたみたいだ」


「S.W.か。スノウ・ホワイト……白雪姫ってことなのかな?」


 王妃の呪いで永遠に眠れる、森の美女。何者かによって電子の牢獄に捕らえられた、眠れる日本国民。もしその通りの意味だったら、あんまりにも悪質なジョークだ。


「で、その『彼ら』はS.W.っていうプログラムを取り戻したいと思っている。だからこんなことをした、か」


 まるで映画か何かのような話だ。一つのプログラムのために、数千万ドル単位のミサイルまで飛ばすなんて。


「俺も、君たちも、『彼ら』に対して有効な手札を持っていない。あるのはこのプログラムだけだ。だから、君たちが危険を冒す必要はない。俺たちだけが行けばいいんだ」


 話は終わりだとでも言うように、リタは背中を向けて歩きだし、ルトもそれに続く。だが、俺にとってそれは到底納得できない話だ。


「待てよ!」


 俺は、我知らず叫んでいた。


「手札がないだって? 今、てめえが持っているそのプログラムとやらはなんなんだよ! てめえは今、幻想界で必死に戦っているやつらの、ジル先輩の願いを、叶えられるかもしれねえ鍵を持ってんだぞ! それをてめえらは、ただ犠牲になるだけで済ませようってのか!」


 リタとルトは、俺からすれば英雄そのものだ。もしかしたら、俺が日本から救出されたのも、ルトが幻想界で活動していたからかもしれない。そんな力と恩を持った人間が、ただ相手の要求に従って犠牲になるだど、許すことはできそうにない。


 俺の言葉に、リタは勢いよく振り向き、反論した。


「相手は日本を電子の牢獄にたたき込んだやつなんだよ! 何をしてくるかわからない。恩人である君たちを、失うわけにはいかないんだ!」


「それはこっちも同じだこのやろう! てめえには昨日の借りがあんだ。てめえがいなかったらあんなこともなかったしな、仲間なんだよ! てめえらも! それにな、ルトの表情をちゃんと見やがれ、不安がだだ漏れなんだよ! てめえらだって覚悟なんかできてねえ、違うか!」


「だったら、どうするの!」


「俺らも行くんだよ! 向こうから会う場所を提供するっつってんだ、上等じゃねえか。ボッコボコにしてから吐かせる。それだけだ」


「……っ! それができるなら……」


「二人とも、ちょっと落ち着きなさい」


 ジル先輩が間に入り、俺の頭をはたく。俺はよろめいて、もう一度視界にリタを捉える。その表情に、俺は一瞬で冷静になった。


 こいつも、どうしていいか分からないのだ。目は口ほどにものを言う、その体言だった。


「どっちも、言ってることは正しいわ。でも、一つの方向しか見ていないし、相手の悪いところに目がいってるわね。まずは、何ができるか、批判しないようにたくさん上げること、これが、ブレインストーミングの基本よ」


「何を……」


 何を言っているのかわからず、俺が声を上げようとすると、ジル先輩は人差し指を立てて遮った。


「リタの案は、確かにあたしたちに被害を与えずに事を済ますことができるかもしれない。でも、その後になって、口封じの為にあたしたちは抹殺されるかもしれない。で、ガルド君の案だけど、ルトちゃんの持っているプログラムで何ができるのか、分からないうちから行動を起こすのは危険よ。もちろん、指定された場所は幻想界内だし、あたしたちの安全も保証されないわね。つまり、どちらも一長一短ってこと」


 まだ話は終わっていないと言うようにウインクし、ジル先輩は立てた指をぐるぐるする。


「あたしたちに必要なのは、時間よ。あたしたちに何ができるのか、まだぜんぜんわかっていない。ちゃんと頭を合わせて、対抗策を出さないといけない。幸いと言っていいかはわかんないけど、時間を指定されているわけじゃないしね」


 滔々と話される盲点に、俺はなんだか自分がひどく頭の悪いやつに思えてきて、苦笑するしかなかった。


「すごいですね、ジル先輩は」


「そう? ま、これが生き残るための方法ってやつかな」


 ジル先輩は幻想界で戦い続けてきたのだ。まさに、歴戦という言葉が似合う。


 それから、ジル先輩主導で会議が始まった。鍵となるのは、やはりリタとルトの能力だ。俺はルトが幻想界ホームタウンで敵モンスターを操った事を思い出して話し、それが発端となって会議の場所はあの吉祥寺の街にそっくりの仮想空間になった。


「相手が幻想界内で会うんだったら、前みたいに敵モブを出して戦わせればいいんじゃないか?」


「それは……出来るか出来ないかっていったら、出来ると思う。でも、相手も同じような手は使える可能性が高いよ。俺は、おすすめできないかな」


 俺の案にリタが反論し、お流れとなる。まったく、ブレインストーミングというのはなかなか成立しないらしい。


「えっと、ここってホームタウンなんですよね? なのに、モンスターを出せるんですか?」


 エリが横から質問をし、俺は何気なく答える。


「ああ。ルト、そうだよな?」


「うん、この町だったら、だいたいなんでもできるよ」


 と、話を聞いていたリタがいきなり息をのみながら手を叩いた。


「そうか……指定されたエリアが、戦闘エリアであるという保証はないんだ……! もしかしたら……!」


「ん……? どうしたの、リタ」


 ルトが首を傾げて聞くと、リタは期待の膨らむ声を上げた。


「ルト! 一度どこかのダンジョンで、マップの改変とかができるか試そう!」


「それは、どういうことだい?」


 今にも走って出ていきそうなリタの様子に、ラザさんが落ち着いた声で質問し、座らせる。


「えっと、実際にやってみたほうが早いよ。だから、みんな、ついてきて!」


 というわけで幻想界の低レベルダンジョンにやってきた俺たちだが、ぼこぼこと腐敗してそうな泡を出す沼地が景色を占めるなり、リタは俺たちの度肝を抜く行動をとった。


 宙に手をかざし、そこにポータルを出現させたのだ。その扉の中にひょいと入り、頭をのぞかせる。


「やっぱりだ! エリアには直接干渉できないけど、新しい『窓』を作ることはできる。この中なら、いくらでもいじくれるよ!」


 ポータルから出てきたリタは、ルトにも同じ事をやってみるように言う。結果は成功、同じことができるようだ。


「でも、新しいエリアを作っても、相手がそこに入らなければ意味がないだろう? なにか策はあるのかい?」


 ラザさんの質問に、リタは自信を持って答えた。


「彼らが欲しいのは、俺たちの持っているS.W.なんだ。だから、絶対に追ってくるはず。多分、相手はこのゲームを管理しているやつらだから、壊れ武器みたいなのも持っていると思う。そこが付け入る隙になるはず。ちょっと、こっちに入ってきて」


 自分の作ったエリアに一行が入ったのを確認すると、リタはパチンと指を鳴らす。その瞬間、背後に気配を感じたときのような寒気が走った。


「うん、やっぱり。今、ここを戦闘エリアにしたんだけど、こうなったらエリアへの干渉ができなくなった。敵モブは設置できるみたいだけど、このダンジョンのやつだけに限定されている。本番じゃ使えそうにないね」


 リタは咳払いを一つする。


「これなら、相手をゲームシステム的に殺すことで、現実世界の相手を殺すことができるはずだよ」


 その結論に、ラザさんが待ったをかけた。


「ちょっと待った。相手はこのゲームを管理しているかもしれないなんだろう? ゲーム上で殺しても、現実世界のほうが死ぬとは限らないんじゃないかい?」


 予想はしていたらしく、リタはうんうんと頷いた。


「ルトを助けるまでは、俺もそう思っていたんだけど。そうじゃなかったんだ。この幻想界領域内である上は、ここでの死は現実の死となる。それは、不変のルールにされているみたいなんだ。俺やルトみたいな人工知能であっても、例外じゃないんだ」


「例外じゃねえのかよ……」


 俺が驚いて口に出すと、リタはこちらを向いて頷いた。


「まあ、だから俺はルトを救出するために人工知能になる必要があったんだけどさ。これは確実だと思っていいと思う。だから、最初は俺とルトで行こうと思ったんだけどね」


「おいおい、それを早く言ってくれよ」


「そうだね……ごめん」


 その後も会議は順調に進み、俺たちはなんとか呼び出しをしやがった相手に対してどう立ち向かうか、その対策を十分に練ることが出来た。


 再度呼び出し場所を指定し、そしてタイムリミットを切ったメールが俺たちのもとに届いたのは、次の日の朝のことだった。


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