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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT2 「二人の伝説」
43/62

A2-7

 俺が呆然とするなか、エリが俺の腕をがっちりと掴む。そして強い調子でこう言った。


「追いかけてください!」


「は? 何で……」


「いいから早く!」


 隣にいるラザさんに顔を向けると、こちらも目で訴えかけてきた。どうやら俺に拒否権はないらしい。


 ええい、ままよ。どうにでもなれ。俺はわけもわからず走った。なんとかジル先輩が走り去った方向は覚えていて、しかも最寄りの入り口だったため、すぐに追いつく。


 意外なことに、ジル先輩は俺を待ちかまえていたかのように、仁王立ちしていた。俺が口を開こうとすると、赤くなった目のひと睨みで黙らせ、メニューを操作する。


――Jillさんからパーティー勧誘を受けました。受諾しますか?


 意図がわからず、ジル先輩を二度見する。だが再び有無を言わさぬ圧力を受け、俺はすぐに受諾する。なるほど、これが殺気か。


 直後、ジル先輩が俺の腕をがっちりと掴み、メニューウィンドウを操作する。訪れる浮遊感、次の瞬間には、俺とジル先輩は重苦しい雰囲気を放つ部屋に転送されていた。


 ここはどこだ? と考えて、すぐに答えにたどり着く。ここは、「魔王の螺旋」の最下層、「英雄碑」の部屋だ。ジル先輩は「帰還の書」を使って、俺ともどもここに移動したというわけだ。


 俺の腕を放したジル先輩は、ぷっ、と吹き出した。


「あはははははっ!」


 続けて、腹を抱えて笑い出す。見ているこっちが恥ずかしくなってくるほどの、豪快な笑い方だった。


「ねえガルド君」


「な、なんだ?」


 笑い涙を指でぬぐいながら、ジル先輩は楽しそうに聞いてくる。


「デュエル、しよ? 完全決着でさ」


 俺は空返事をすることしかできなかった。ジル先輩はそれを肯定ととったのか、ああリスポーン地点を設定しなきゃね、と「英雄碑」に歩いていく。俺は慌ててそれを追った。


「それじゃ、戦おっか」


 リスポーン地点を設定して、すぐにデュエル申請を受諾。と、強引に話を進められたわけだが、待機時間に入ったことで、俺はなぜジル先輩がこんなことをしているのだろうかと疑問に思う。


 さっき、確かにジル先輩は「ごめんなさい!」と言った。つまり、告白を断ったというわけだ。あの時のジル先輩の表情は、本当にらしくなかったが、今のジル先輩は淡々としていて、いつものペースのように見える。


 準備時間が開始される。俺はいつものように〈ダインフレス〉を最大強化状態で起動。ジル先輩は片手地槍の〈ロムルスの槍〉を最初に起動し、闇、地、水属性を半減するバフを唱える。そして自然回復したMPを使って盾の〈ブライウェン〉を起動。確かこのどちらも〈加護上昇〉のアビリティを持っていて、防具にも〈加護上昇〉を複数付けていたから侮れない自然回復速度になっているはずだ。


 準備時間が終了し、ジル先輩が〈ロムルスの槍〉に地属性のライトエフェクトをまとわせながら突進してくる。スキル使用者の体重も加算された突進攻撃だ、受けたらただじゃ済まない。俺はオーバーなほど体を投げだし、その軌道から身を避ける。が、突進が終了すると同時、ジル先輩は属性攻撃のオーラをまとわせたまま、〈ロムルスの槍〉を降りおろした。回避行動の直後の俺は、避けることができず、クリーンヒットを許す。


 あれは属性突進系スキルじゃない。奥義系スキルだ。辛うじて吹き飛ばされなかった俺は、〈ダインフレス〉で〈トリプルスタブ〉を発動、だが一撃目を盾で受け止められ、そこでスキルがストップ、システムアシストが強引に終了されたことで、俺は大きな隙を晒す。


 だが、これをリカバリーする方法も存在する。俺は〈クラウ・ソラス〉を起動と同時に解放、〈ブルータルダンス〉の五連撃を開始する。


 上へ下へと揺さぶる連続攻撃で、ジル先輩は二発まともに食らった。だが、それも微々たるものだ。ジル先輩は使っているスフィアーツの防御力が高い上に、アビリティで闇、地、水以外のすべての属性のダメージを半減できるようにしている。〈クラウ・ソラス〉は光属性の剣だから、属性入りではほとんどダメージを与えられない。


 そしてダメージを受けたことを事実の通り意に介さず、ジル先輩は反撃を行う。防御できなかったことで自由になっていた〈ブライウェン〉を突き出して、こちらの体勢を崩し、スキルを使わない〈ロムルスの槍〉による突きを放ってくる。間髪入れず、刺突系スキルを発動、盾でこちらの視界を阻害し、その一瞬後、ジル先輩は俺の視界から姿を消した。


 俺は反射的に左右を確認する、が、それが致命的な隙となった。上から来た四発の緑色の閃光が、俺のHPを残らず刈り尽くす。


 HPを全損して、俺はリスポーン地点、つまり同じ部屋に復活する。やはり、まったく歯が立たなかった。こんな時でも、ジル先輩の腕は全く鈍っていない。


 俺が顔を上げると、さっぱりした笑顔のジル先輩の表情が視界に入った。


「あはは、実はね、彼も……俊もああいうことをする人だったんだ。こう、文化祭の時にね、クイズ大会

に参加して、自力で優勝しちゃって、それで、告白してきたのよ……後でぶん殴ってやったけどね」


 未だ日本に囚われている、ジル先輩の恋人の話。独白に近いその言葉に、俺は何も返すことができない。


「なんだか、思い出しちゃった。ありがと、こんな気持ち、久しぶりだよ。でも、ごめんね?」


「……ああ」


「やっぱり、あたしは俊のことが忘れられない。だからその気持ちには答えられないけどね……嬉しかった。ほら、あたしって幻想界で戦ってるからさ、日本に捕らわれている人と話すこともあるの。感謝されることもあるけど、真逆の感情を向けられることもあるんだ。その度にね、あたしのこの力は、仮初めのものだって実感するんだ。あたしはゲームをやっているだけ、俊に会えるのかも分からない。それでも、このゲームの中のアイテムと、円が貯まっていくの。それが、すごく、怖かった。このまま、何もできずに死んでしまうんだって思って」


 言葉とは裏腹に、ジル先輩の表情は晴れやかだ。


「でもね、ガルド君みたいに、あたしのことを大切に思ってくれる人がいるんだったら、もう、怖くないよ。ファーブニル討伐も、今日の大会も、すっごく楽しかった。だから……あたしが向こうで死んでも……」


「死なないでくださいッ!」


 ほとんど無意識だった。それだけは許せないと、まるで胸の内で何かが暴れ出すかのようだった。


「大切に思ってくれる人がいるんなら、死なないでくださいよ! もう、ジル先輩が向こう側に行くのを見送るのは、嫌なんです! 日本本土に何人の人が捕まっていると思っているんですか! こんなことずっと続けていたら、いつかは……」


 いつぶりだろうか、叫びながら、涙を流したのは。


「他の方法を探しましょうよ! あの二人だって、きっと何かを知っています。もう、ジル先輩が危険を冒す必要なんてッ……」


 そこで、俺の言葉は唐突に途切れた。口がオーバーヒートしてしまったかのように言うことを聞かず、呼吸することを思い出したかのようにせき込んでしまう。


「もういいよ、君の言いたいことはわかった。そうだよね、待っている人がいるのにね……。ごめんね、ガルド君」


「い、いえ……」


「確かに、リタとルトはこのゲームと、今の日本の現状と何か浅からぬ縁を持っていると思う。何をどうすればいいかなんて、まだ分からないけれど、向こう側でただ戦い続けるよりはよっぽどマシよね。うん、そっか。あたしは、向こう側で戦うのが辛かったんだ。でも、そこから目を逸らし続けてた。俊を助けられる可能性があるって思いこんで、幻想界に縛り付けられていた……」


 そう言葉にすると、ジル先輩は顔を手で覆って、座り込んでしまった。手で隠していても分かるほど、大粒の涙が頬を伝う。


「じ、ジル先輩……」


「大丈夫……。あ、ははは。こんなふうに泣いたの、いつぶりだろ。あれから、旅行先でどんな景色を見ても泣けなかったのに……今日は、二回も、泣いちゃった……」


 それから、長い沈黙が訪れる。立て続けにバーゲンをして、出せる品が無くなってしまった市場みたいに。もう言葉は売り切れだった。


 しばらくして、ジル先輩が座り込んだ姿勢から手をのばしてきた。


「起こして」


「は……はい」


 俺が手を差し伸べるが、ジル先輩は何かに気が付いた表情になって、さっと手を除ける。


「敬語」


「あ……は、おう」

 今度はジル先輩の方から俺の手を握る。俺は促されるままにジル先輩を起こした。その目は赤く腫れていたものの、そこには穏やかな笑みが浮かんでいた。


「ま、しばらく幻想界に行くのはやめにする。他の方法のことだけど、それも今日はパスね。こんな顔じゃ、みんなに会えないわ。でもみんな待っていると思うから、君だけでも行ってあげて」


「……そうだな」


「特にエリちゃんとか、首をながーくして待ってるんじゃない? なんかみんな色々と企んでたみたいだし、お礼をしなきゃね。ほら、行った行った」


 う……と思わずうめき声をあげる。今戻ったら、エリやラザさんにイジリ倒されるに違いない。そう、俺はふられたのだ。


 まあ、こんなことも生きているからこそのものだ。俺はそう片づけることにした。







 と、思っていた時期が俺にもあったわけだが。その数分後、俺は仲間たちの元に戻ったことを激しく後悔することになる。「英雄相談所」に戻るや否や「よっ、ふられんぼう大将!」と言われ、注がれる生暖かい視線は、俺の精神をじりじりと削っていく。極めつけはいつものメンバープラス、おろおろしているルトだ。


「じ、ジルお姉ちゃんには日本に彼氏がいたんでしょ! それなら仕方ないよ! ね、ね?」


「そうですね。自分の気持ちにすら気がつかなかったガルドさんに彼女がいたことなんてないでしょうし、初恋は叶わないってやつですね」


「そ、そんなことないよ! ボクの初恋の人はリタだし、ガルドお兄ちゃんは優しいから、きっとどこかで……」


「どうなんですか? ガルドさん」


 エリから質問が飛んできて、俺は思い切り視線を背ける。


「言うか、そんなこと」


「あ、やっぱりですね。まああれですよガルドさん。生きていればきっといい人が見つかります。あ、でも年上好きでしたら、早くしないといき遅れになりますよ?」


「うるさい!」


「そ、そんなこと言っちゃだめだよエリお姉ちゃん。ガルドお兄ちゃんは今傷ついてるんだから……。え、ええっと……」


「まあジル先輩のことだからこれからも友達でいようって感じになったんですよね?」


「ああ、まあ、そうだが」


「なるほどー、よかったですね。これなら傷は浅いですよ」


「ぐ……」


 くそっ、こいつ、絶対分かってて言ってやがる。それよりも、後ろで何も言わずにニヤニヤしているラザさんだ。こっちからもじりじりと継続ダメージを与えてくる。と、思っていたらラザさんも加わってきた。


「いやあ、大会とかの大勢の前で告白するっていうのは、学園ものとかではよくあるんだけど、現実では高確率で失敗するんだよね。ほら、恋愛っていうのは、一対一の関係だろう?」


「ラザさん……ならなぜ止めなかったんだよ……というか、〈オメガウェポン〉使ったの絶対わざとだろ!」


 俺が睨みつけながら問うと、ラザは気の抜けた笑みを浮かべながら答えた。


「ああ、やっぱりバレた。でもいい機会だとは思ったし、それに、ほら、君もジル先輩もそのぐらいしないとはぐらかしそうだろう? ま、エリがその気になっているのを、僕が止められるわけもないよね」


「う……」


 何故だ、言っていることが明らかにおかしいのに反論が出てこないぞ……。


「え、ええっと! もう! ガルドお兄ちゃんは今傷物なんだから! ほ、ほら、景品で〈オメガウェポン〉と〈アビスノヴァ〉も貰ったわけだし……」


 そんな風に、ルトが下手くそなフォローにまわり、新手の拷問かと思うような時間が続く。


 それでも、俺たちの日常は平和なものだった。少し時間が経てば、この経験も笑い話になるのだろう。現在進行形でなっている気もするが。


 だが、そうはならなかった。


「あれ? リタ、どうしたの?」


 蒼白な顔をしたリタが俺たちのいるギルドハウスの一室に飛び込んできて、言った。


「みんな、良く聞いて。まずいことになった。ついさっき日本本土から、大陸間弾道ミサイルが発射された。きっと、俺たちが関わっている」


 俺たちは、いや、世界中が目を逸らし続けていたんだ。この世界が、このギルガメッシュ・オンラインというゲームが、いかに歪んだものであるのかを。


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