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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT2 「二人の伝説」
42/62

A2-6

「やあ、ガルド。まさかこんなことになるとはね」


 その対戦相手は、真剣な顔をすれば歴戦の傭兵がごとき渋さを発揮する風貌なのにもかかわらず、その人のよい笑顔のせいでいろいろと台無しにしている男、ラザさんだった。


「おおっと! これはまさかの展開だー! ギルオン最強王者決定戦のはずが、決勝戦がどちらも英雄相談所出身とはどういうことですかー!」


「でも、それぞれの試合は見逃せないものばかりだったわね。まあみなさん、エキシビションだと思って、どうか最後までご覧になってね」


 会場からの野次が飛び交い、場内はなんだかんだでお祭りモードだ。俺はそれらに手を振って答えるオッサン青年に、半ば呆然としながら質問する。


「ラザさん……いたのかよ……」


「ああ、なにも聞かされていないって本当だったんだ。僕は予選から参加してたんだけど、決勝に出られるとは思わなかったね。まあ、こうなっちゃったけど」


「……そうかよ」


 もはや八百長も疑われるレベルだ。だが、そこで俺はある事実に気がつく。


「そういや、ラザさんとデュエルすんの、けっこう久しぶりだな」


「そうかな? 確かに、そうかも知れないね」


 例の〈ファルスクエア〉取材の件も含めて、俺も少しは腕を伸ばしたと自負している。


「ならいい機会じゃねえか。たまには白黒つけようぜ」


「お、言うね。なら僕も本気で行かせてもらうよ!」


 俺の方からデュエルを申し込み、ラザさんが受諾。待機時間が開始される。


 あいにく、俺はラザさんが他の試合で戦っているところを見ていない。なぜならば、試合が終わって観衆から逃れるように控え室に行くと、そこにはリタとルトが待ちかまえており、俺をほぼ監禁状態にしてくるからだ。ログアウトが可能なのでいつでも脱出は可能なのだが、何せあの観衆の数だ。選手が逃げ出したなどとなれば、ブーイングの嵐になるのは想像にかたくない。


 監禁しながら、次の試合相手の攻略方法を教えるわけでもない。そのくせ二人でいちゃいちゃ、もとい、ルトがリタにべったりなので、見ているこちらが砂糖でも吐きそうになってくる。


 準備時間が始まると、ラザさんは真っ先に〈器無き王の剣〉と〈イージスの盾〉を起動する。いつものスタイルだ。


 いや、そうとも言えない。この二つのスフィアーツは解放することでMPを回収できる。だからすぐに別の武器に切り替えられるのだ。何が出てきても不思議ではない。


 これまでと同様に、注意深く観察しながら〈ダインフレス〉の準備を整える。武装があれとはいえ、アビリティまでもいつも通りとは限らない。


 だが俺の疑りとは裏腹に、準備時間が終了してすぐ、ラザさんは突っ込んできた。地属性、光属性、雷属性を半減するバフを付けている。これでは鈍足、目眩み、麻痺が入らない。


 だが四の五の言っていられない。ラザさんが発動した突進刺突系スキルの緑色の閃光が俺の肩口を抉る。とっさに体をよじって第二撃目を回避しようとして、しかし青色の斬撃が飛んで来る。〈チャージ&シングルスタブ〉から別の斬撃系スキルに繋げてきたのだ。続く二発目を食らい、三発目をなんとか防御する。


 防御したら、反撃だ。俺は〈ダインフレス〉で〈トリプルスタブ〉を発動。至近距離で突きを見舞う。だが、それは〈イージスの盾〉にいとも容易く防がれてしまった。


 このままではジリ貧だ。俺は一度バックステップしてラザさんの斬撃を避け、〈ダインフレス〉で〈チャージ&テトラクラップ〉を発動。だがさすがに前衛をやっていて長いラザさんだ、すべてきっちり防いでみせる。


 しかし、それも計算済みだ。四連撃の最後で大きく跳躍し、距離をとる。 


 思えば、リタと共に白竜クラッドと戦った時も、幻想界で謎の男と戦った時も、俺はあまり活躍できていなかった。システムを利用した戦い方ならば自信があるが、剣術自体はとても巧いとは言えない。正面からぶつかられたら、うまく対応できないのだ。


 それだけが理由というわけではないが、俺は対人戦での戦い方、特に、盾を持った相手に対する対策を考えていた。今がその成果の見せ所と言っていいだろう。


 ラザさんが〈器無き王の剣〉に緑色の光をまとわせ、再び突っ込んでくる。それに対し、俺は〈クラウ・ソラス〉を明後日の方向に投げつける。間髪入れず〈ダインフレス〉で〈チャージ&ダブルスラッシュ〉を発動、ラザさんとすれ違う形で、わざと斬撃を空振りする。スキルのシステムアシストが緩くなるように合成したからできる芸当だ。


 同時に、投げつけた〈クラウ・ソラス〉が、まるでブーメランのように戻ってくる。それはラザさんの肩口を軽く切り裂いて、俺の手に収まった。


 このゲームには痛みが存在しない。だが、痛覚が存在する。だから飛んできた斬撃が自分の体のどこを通ったのか、とても体感的に分かるのだ。俺のいた場所とは違う向きから攻撃され、ラザさんは反射的に〈クラウ・ソラス〉の飛来した方向を向く。その隙に、俺は〈クラウ・ソラス〉を腰だめで構え、突きを放った。


 ゼノルドは、俺がクイーンから〈クラウ・ソラス〉の使い方を教わったと推測していたが、それは当たらずとも遠からずだった。報酬のことで一度喧嘩を売ったことがあったのだが、〈クラウ・ソラス〉に代表される空中に浮遊する類の武器を使った戦術によって、まさにフルボッコにされたのだ。今でも、あの「痛覚」は忘れられない。


 攻撃はクリーンヒット。ラザさんは火傷の状態異常を負う。さらに、俺は至近距離でラザさんに向かって〈クラウ・ソラス〉を投げつけ、〈ダインフレス〉で〈エア・トリプルスラッシュ〉を発動。〈クラウ・ソラス〉と共に矢のように飛ぶ。


 空中攻撃系スキルはその制御が難しく、技の終わりの隙が大きいので敬遠してきたのだが、使いようによってはかなりのアドバンテージを生む。まだ制御に慣れないから、この〈エア・トリプルスラッシュ〉はシステムアシストが強く掛かっているのだが。


 〈クラウ・ソラス〉がラザさんの左肩を抉り、〈ダインフレス〉が〈イージスの盾〉に阻まれるが、俺の移動は止まらない。文字通り空中を飛翔しながら、再度接近して切りつける。ワンテンポ遅れて〈クラウ・ソラス〉が戻ってきて、またラザさんの肩口を切りつける。


 空中系スキルによって常に移動し続けている俺に、〈クラウ・ソラス〉は追いつかない。よって、〈クラウ・ソラス〉はまた飛んでいき、そして戻ってくる。


 スキルの最後と、〈クラウ・ソラス〉による斬撃が、重なった。これで止めだ! と思った瞬間、ラザさんの叫びが響きわたる。


「〈スーパーヒール〉!」


 二つの刃に切り刻まれる直前、ラザさんは回復魔法を唱え、HPをぎりぎり残す。だが、〈ダインフレス〉によって沈黙の状態異常が新たに入り、もう同じ手は使えない。


「やるね、ガルド。でも、これからだよ!」


 言いながら、ラザさんは二つの武器を解放、そのMPを回収する。俺はと言えば、空中系スキルの代償として、上空から自由落下するという隙を晒していた。そしてラザさんの手から放たれるまばゆい光。そのみるみるうちに大きくなる獲物の形は、間違いない。


「〈オメガウェポン〉……!」


 あれが出されたら、どう対抗すればいいのだろう。いや、今俺の手には〈ダインフレス〉がある。次になんとかして毒や鈍足の状態異常を入れれば、俺の勝ちだ。


 と、気を引き締めているとき、司会席から気の抜けた笛の音が響きわたった。


「えー、まことに恐縮ですが、ラザルスさん、250レベル武器の使用は反則です。よって、この試合の勝者はガルドさんになります」


 会場が、静まり返った。







 後で確認したのだが、確かに、エリは開会式でルールを宣言し、そこには「レベル250武器の使用禁止」があったようだ。〈オメガウェポン〉もそうだが、特にもう一つの250武器、〈アビスノヴァ〉が対人戦だとチートと呼んでも差し支えないほどの強さを誇るため、大抵のPvP大会では禁止になっている。250武器を持っているプレイヤーも少ないし、それが入手できるほどの腕前を持ったプレイヤーがそんなチートまがいに頼る意味もわからないが。


 去り際、ラザさんは笑っていた。


「ねえガルド、一つ質問していいかな」


「なんだよ」


「ジル先輩が幻想界に行くときにさ、どうして、ガルドはいつも付いていくんだい?」


「そ、それは……」


 それが当たり前になっていたので、理由も考えたことがなかった。というか、いつからだっただろう?


 いや、それは明白だ。俺とジル先輩が出会ったのは、まさに、幻想界の中、「狭間の大樹・上層」の入り口だったのだから。


 下層から上層へと移動するポータルエリアでは、パーティーに入っていないプレイヤーの姿を見ることはできない。誰にも咎められず、俺はあの時、一人で幻想界へと入っていったのだ。


「ねえ、そこの君、どうしたの?」


 幻想界の入り口で佇み、キョロキョロと周囲を見渡していた俺に、ジル先輩はそう言った。その頃の俺は、こんな不遜な感じのアバターではなく、中学生相応の姿をしていた。だから、顔にいろいろなものが出ていたのだろう。


 なぜこの場所に来たのか、それは、当時の俺にはよくわかっていなかった。だが、ジル先輩は悟っていたのだ。だから、俺の手を取り、パーティーを組んで、一緒に「狭間の大樹・下層」まで戻ったのだ。


 もし、その場にジル先輩がいなかったら、俺はあの後、どうしていただろう。母親と弟を失い、父親の所行を知ってサンフランシスコに逃げ帰った直後の俺は、なぜ「ギルガメッシュ・オンライン」にログインしようと思ったのか。それは、明白だ。


 だが、今覚えているのは、あの時のジル先輩の姿だけだ。赤茶色のショートヘア。正面から相手を見ることのできる蒼い瞳。騎士然とした鎧と装備。蒼いスフィアーツの輝き。


「ああ……」


 俺は思わず声を漏らすが、既にラザさんは去ったあとだった。我に返って、思わず舌打ちをする。


 控え室に戻ると、そこにいたのはリタ一人だけだった。


「おい、あいつはどうしたんだよ」


 俺が問うと、リタは真剣な声で返した。


「こういう場だったら、男だけで話したほうがいい。で、どうする?」


 俺はため息を吐いた。その反応にリタは口を開きかけるが、俺が制止する。


「いや、決めたよ。結局、お前らが正しかった。それにな……」


 ずっと目を背けてきたことを、口に出す。


「ジル先輩には、死んでほしくないんだ」


 リタは頷いた。


「なら、よかった」


 まったく、あの無邪気に屋根の上を走り回っていたリタはどこに行ったんだ? そう思いながら、俺はリタにジル先輩と同じ陰を見る。それは幻想界で戦っている者特有のものなのか、それとも……。


「さあ、次は表彰式だ。行ってきなよ」


「おう」


 俺は控え室を後にする。そして迎える野次混じりの大歓声。やれやれ、すっかり持ち上げられてしまったな。


「並みいる強豪を打ち倒し、見事頂点に輝いた三人です! 拍手で迎えましょう!」


 俺のほかにも、ラザさん、そしてゼノルドが控え室から出てくる。


「優勝者には〈オメガウェポン〉と〈アビスノヴァ〉。準優勝、三位には金一封が送られます。ではまずゼノルドさん、今の心境をお聞かせください!」


 エリがインタビューをする間、俺は自分がこれからすべきことに関して思いを馳せる。恋愛か、あの親父と分かれてからの俺は、そんなものには縁がないと思っていた。


 思えば、こんなずさんな企画、本気で邪魔しようと思えば頓挫させられたはずだ。いかにリタとルトが力を持っているとはいえ、所詮は素人。だが、俺は本気で妨害しいようとしなかった。それに、今、俺は優勝してしまったのだ。


 俺は苦笑した。状況証拠が揃いすぎている。


 やがて、俺のインタビューの番が回ってきた。俺にマイクを向けるエリは、有無を言わせぬ圧力を放っている。俺は、それに力強く頷いて見せた。その反応が意外だったのか、エリが一瞬きょとんとした表情になる。が、すぐににやっとして、質問した。


「『英雄相談所』からの刺客として放たれたガルドさんですが、本当に優勝してしまいましたね。どう思いますか?」


 相変わらず、黒いことをするやつだ。俺はまた苦笑しながら、答えを返す。


「まあ、確かに悪いことをしたと思う。だが、俺にも譲れないところがある。優勝した今、俺はここに宣言する」


 エリとラザさんからの期待のまなざし、会場からのどよめきが頭の中に入ってくる。だが、俺はただ一点を見つめていた。解説としてエリの後ろに立つ、ジル先輩の顔を。


「ジル先輩! 好きです! 付き合ってください!」


 直球だった。というか、あの短い時間でほかに言葉が思いつくものか。


 俺の突然の告白に、会場がどっと沸いた。あまりにうるさかったので、エリが「静粛に!」と叫んだくらいだ。このエリの台詞も相当にイレギュラーだったのだが、あいにく、今の俺はそれを指摘する余裕がなかった。


 そして当人のジル先輩は、驚きのあまり目を見開いて、こちらを凝視していた。やがて顔を赤く染め、嬉しそうな色を見せ、しかしすぐに青いものが混じり、泣きそうな表情になる。ジル先輩もこんな表情をするのかと、場違いな感想を持った。そして……。


「ごめんなさい!」


 半泣きで、甲高い声だった。ジル先輩は脱兎のごとく素早さで駆け出し、控え室のほうへ逃げてしまった。当然、会場は大荒れ、野次や口笛やら叫び声で大変な騒ぎになる。


「なんだよ……これ」


 こんな結末、誰が予測できたというのか。

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