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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT2 「二人の伝説」
41/62

A2-5

 先の戦いが相性の問題で圧勝したから実感はなかったものの、この大会は実はわりとハイレベルだった。というのも、二回戦であたった剣士が、あいつだったのだ。


「それでは、第二回戦を開始します! 第二回戦第一試合は、『呪剣使い』のガルドさん対、『ラグナー』ことゼノルドさんです!」


「どちらも変わったプレイスタイルね。ゼノルドさんの剣術は有名だけれど、それにどう対処するのかが見物といったところかな」


 最初はぎこちなかったジル先輩の解説も、なんだか楽しそうな雰囲気さえ感じられる。


 それよりも、相手のゼノルドだ。他のPvP大会でも多くの優勝を納めているから、今大会でも優勝候補として名をあげているに違いない。そして、俺にとってはちょっとした知り合いでもある。


「まさかこんな場で再びまみえることができるとはな……」


 相変わらず不気味な鎧と仮面を被ったその姿は得体の知れなさを醸し出しているが、その語調はフレンドリーだ。


「そうだな。この間のリベンジマッチといこうじゃないか。今回は、自爆はナシだ」


 俺がそう返すと、ゼノルドは渋い笑いで反応した。


「はっはっは。楽しみにしている」


 ゼノルドのほうからデュエルが申し込まれ、俺がそれを受諾する。試合開始までの十秒が始まり、俺は精神を集中させる。このゲームのデュエルにおいては、相手の動作から初撃を読むことは非常に難しい。なにせ、相手はまだ獲物を抜いていないのだから。そしてなにより、始まってからの十秒間は互いに近寄ることはできない。そう考えると、初撃では圧倒的に魔法使いが有利ではある。なにせ、その十秒間は魔法を詠唱し放題なのだから。


 とはいえ、悠長に詠唱していれば攻撃を読まれやすい。それを利用したフェイントもあるにはあるが、俺のスタイルならおとなしく〈ダインフレス〉を準備していたほうが建設的だ。


 そして、デュエル開始、準備時間の十秒が始まる。俺は、なるべくゼノルドの動きを注視しながら自分に状態異常魔法をかけていく。今更ではあるが、八つの状態異常がかかると、もうほとんど戦闘行為は不可能になる。


 十秒が終わる。その瞬間、俺はスフィアーツを起動し、同時にスキルを発動した。〈シングルスタブ・カタストロフ〉、俺の手に現れた片手剣が闇属性のオーラをまとい、俺の体はまるで操られるように突進を開始する。その感覚に、俺は精神的な吐き気を覚える。やっぱり、慣れないことはやるべきじゃない。


 俺が起動したのは〈ダインフレス〉ではなく、レベル40、闇属性の片手剣〈テュルフィング〉だ。こいつも呪いの剣の一種で、起動した瞬間に一つ状態異常が追加される上、〈ダインフレス〉のような打ち消し効果もないが、状態異常が一つ増える度に攻撃力が増加する。さらに、俺はこの剣に闇属性を強化するアビリティをたらふくセットしており、その威力はかの〈ラグナロク〉に迫るほどに強化されている。


 ひどく悪い視界の中で、ゼノルドが戦慄する息づかいが反響する。そりゃそうだろう。こっちは状態異常が八つもかかっているのだ。それでも動けるのは、単に〈シングルスタブ・カタストロフ〉のシステムアシストが超強力になるように合成したからだ。使用者の能力がどんなに下がっても威力が低下しない代わりに、一度発動したらキャンセルも軌道の変更もできない頑固なスキル。そんなものを二度も使おうものなら動きを読まれて致命的な隙を晒すことになるが、今この瞬間だけは有効だ。


 しかし、手に伝わったのは刺突が弾かれる衝撃。もちろんこれは想定内だ。俺は続けて、〈テュルフィング〉を解放し、〈ブルータルダンス〉を付け加える。


 弾いていなければ反撃できたものを!


 解放必殺技特有の強い光と闇属性武器のエフェクトが乱舞し、ゼノルドに殺到する。技量で劣る俺が正面から戦うのは危険だ。能力的に優位に立てる状況を作り、短期決戦に持ち込まなければ。


 だが、〈ブルータルダンス〉の五蓮撃を打ち終わっても決着は着かなかった。驚きながらも、俺はすぐさま〈ダインフレス〉を起動して視界を確保する。


 突進系スキルの射程外で悠々と〈ラグナロク〉を構えているゼノルドが、そこにいた。HPは半分ほど減っているが、それはつまり〈ラグナロク〉、いや〈ラグナロク+〉の力が最大限引き出される状況ができているということだ。


 どうやらゼノルドは〈ティルフィング〉による〈シングルスタブ・カタストロフ〉を弾いた直後、すぐに離脱したらしい。あの攻撃がブラフであると完全に見破られていたわけだ。


「確かに〈ラグナロク〉の防御性能はあまり優秀ではない。逃げることも必要な運用だ、解放必殺技で押し切られないための、な」


 言うなり、ゼノルドは〈ラグナロク+〉を持っていない左手に武器を出現させる。それは解放必殺技の光と同時に乱舞系スキルの赤色を帯び、急速に迫ってくる。


「はや……」


 普通の突進系スキルの射程外だというのに、一瞬で距離をつめてきた。刃の形から刀系のスフィアーツであることがわかったが、それだけではない、使っている乱舞系スキルもかなりスピードが強化されている。その突進スピードによって、ゼノルドは攻撃だけではなく、回避も可能なのだ。


 一撃目を胴に食らい、二撃目をなんとか〈ダインフレス〉で防御する。だが、それこそが罠だった。そこは、〈ラグナロク+〉の、ゼノルドの射程内だった。


 解放したスフィアーツが手から消えるのを待たず、〈ラグナロク+〉による攻撃を開始する。スキルを使わずスピードこそ平凡だが、フェイントを交えた正確な斬撃が俺を捉える。なすすべもなく浅いヒットを連発され、じりじりとHPが減少していく。これでは、あの時の焼き直しだ。


 だが、俺もこうなったときの為に対策を考えていた。というか、当然の流れなのだが……。


「解放!」


 その叫びに、ゼノルドが思わず忍び笑いを漏らす。〈ダインフレス〉の素の解放必殺技は、上段の薙ぎ払いだ。それはもう、先の戦いで知られてしまっている。


 だが、俺が叫んだのはわざとだ。俺が解放したのは〈ダインフレス〉ではない、〈クラウ・ソラス〉のほうで、これこそが技量で勝る相手に対して俺が対処できる作戦だった。


 同時に、〈ダインフレス〉で〈トリプルスタブ〉を発動。いかに剣術の廃人であろうとも、二つの独立した攻撃をすべて防ぐことはできまい。これで毒の状態異常が入れば、俺の勝ちだ。


 〈ダインフレス〉の剣先がゼノルドに突き刺さり、有効打を与えた。そのHPの二割が削られ、新たに状態異常のアイコンが追加される。


「クッ、沈黙か……」


「沈黙かよ……」


 ゼノルドがバックステップで距離をとり、仕切り直しとなる。俺もゼノルドも苦い表情だ。


「なかなか楽しませてくれるな。さすがは『英雄相談所』のスタッフなだけある。君の主とは一度戦ったことがあってね、全く歯が立たなかったのだよ」


「まじかよ……」


 我らが「英雄相談所」の女王、「クイーン」は、確かに有名な剣士でもある。最近は自ら出ることはあまりないが、俺が加入するまえは割と活発に参加していたらしい。古参の知り合い曰く、「鬼神のようだった」とのことだ。そうやって自ら動くことで、「英雄相談所」が今の規模にまで大きくなるきっかけを作ったらしい。


「君の〈クラウ・ソラス〉を使った戦術、思い出すぞ……。彼女からの直伝かね?」


「残念ながら、違うぜ。俺は『呪剣使い』だからな」


「クックック、そうか……」


 もちろん、この会話も戦いの一環だ。こうして時間をとることで互いのMPは回復し、必殺のコンボに必要な要素を揃えていく。回復魔法を唱えたりはしない、その隙にゼノルドが致命傷を負わせてくることはわかりきっている。


 次が、最後。俺も、おそらくゼノルドも、そう思っていた。


 先に動いたのは、ゼノルドだった。〈ラグナロク+〉を構え、スキルを発動せずに走って間合いを詰めてくる。接近されたら、こちらが不利だ。


 俺はそうはさせぬと〈ダインフレス〉を解放、同時に〈オーバーラン〉を発動する。スキル名に恥じず、猛烈な勢いでの突進だ。高速で振りかぶられた〈ダインフレス〉の刃が、〈ラグナロク+〉と交錯する。


 ゼノルドの反応もさすがだった。解放必殺技の加速度を乗せた攻撃を正面から受けないよう、刃をすべらせて受け流す。これで、俺は主力の武器を失うことになった。


 だが、これも予想のうちだ。俺はすぐさま〈プラネタリウム〉を起動、〈フラッシュ〉〈ショック〉〈スロウ〉と状態異常魔法を連続で唱える。


 ここでもゼノルドは俺の予想を越えてくる。三つの魔法のうち、二つを打ち返してきたのだ。俺は以前ゼノルドと戦い、エリの不意打ちをまんまと跳ね返されたことを思いだし、舌を噛む。俺は目眩みの状態異常にかかってしまった。


 だが、ゼノルドに入った状態異常は鈍足だ。互いに〈キュア〉を使って状態異常を治療し……と思うまもなく、ゼノルドはスキルを使って突進してきた。


 対する俺は〈プラネラリウム〉を解放、MPを回収しつつ消滅させ、闘牛士に似た要領で〈ラグナロク+〉をいなす。突進系スキルはその移動距離がやっかいだが、攻撃の軌道が読みやすい。


 次の一手に対処すべく、突進の先へと視線を移す。が、そこにゼノルドはいなかった。その瞬間、青色の閃光が俺の顔のすぐそばを通り抜ける。


「ッ!」


 まだスキルの効果時間が終わっていなかったのだ。次の瞬間、また剣先がかするように通り抜ける。なぜ命中させない? 俺がその疑問を浮かべるころには、俺は完全にゼノルドを見失っていた。


 そしてその致命的な一瞬、死を告げる音が俺の背後から響きわたる。俺が振り返ると、ゼノルドは肩に赤い魔珠を出現させているのが見えた。


 〈ランドヴァリナウト〉、その解放必殺技、レベル120以下の魔法を瞬間的に発動する。


 さらに、解放必殺技のエフェクト。〈ラグナロク+〉が、獲物を前にした鷹のように牙をむき出しにしているようだった。


 それと同時に、全方位から〈ファイアボール〉の炎の弾丸が飛来する。デジャヴ、あの〈ファルスクエア〉の剣精が使ってきた攻撃方法だ。


 こうなった時点で、標的の負けは決していたといっていいだろう。広域致命級魔法など強力な攻撃手段があるこのゲームでは、いかにそれを使わせないかがデュエルでの基本なのだから。


 だから、それは完全なる条件反射だったと言わざるを得ない。〈ファルスクエア〉を即時解放し、〈リフレクション〉を瞬間発動するという行為を、俺はほとんど無意識にやっていた。あの剣精に対する攻略法が体に染み着いていたのだ。


 〈ラグナロク+〉の刃よりも先に〈ファイアボール〉が着弾していなければ、それも無駄な行為になっただろう。だが、実際には〈ラグナロク+〉が俺のHPを残らず吹き飛ばすよりも前に、ゼノルドの残りHPが消滅した。


 勝負が決し、数秒間は会場内に静寂が訪れた。


「な、なにが起こったんですか! ジル先輩!」


 エリが場内全員の気持ちを代弁する。それに対して、ジル先輩は「うーん」と唸っていたが、しばらくして合点がいったようにうなずいた。


「えっとね、ガルド君がSBEっていう自爆技を開発する時に、英雄相談所で検証を行ったことがあったんだけど、〈リフレクション〉ってね、魔法を反射した瞬間に、全方位に無属性の攻撃判定が発生するのよ。近距離で魔法を反射してもちゃんと対象に命中しにくいからある機能みたいだけど、今回はそれが連続して発生したってことかな」


「そ、そうですか。それにしても、今のゼノルド選手の技、すごかったですね。〈チャージ&テトラクラップ〉をわざと命中させずに背後に回り込むとか、それより、〈ランドヴァリナウト〉の解放必殺技ですよ! あんなこと、可能なんですね!」


「あたしも初めて見た、参考にしたいものだわ。でも、ちょっと蛇足だったんじゃないかな。完全に背後をとっていたから〈ラグナロク〉の解放必殺技が確実に命中していたはずよ。まあ、決まっていたらすごくかっこよかったでしょうけど、こんなの、誰にも予測できないわ」


「予想外の展開でしたが、準決勝第一試合はガルドさんの勝利です!」


 アナウンスを聞きながら、俺の前で膝を着いたゼノルドはゆっくりと立ち上がり、愉快そうに笑った。


「クックック。楽しかったよ、まさかこのような終わりになるとは思わなかったが、勝負には予想外の出来事が付き物だ。またどこかで会おう」


「ああ、そうだな」


 よもや勝てるとは思わなかったが、勝ちは勝ちだ。次の試合が待っている。もうどうにでもなれという気持ちと、このまま優勝してみたいという気持ちが同居し、俺は自分がどうしたいのか分からなくなっていた。


 そして、決勝戦。そこには、意外な相手が待っていた。


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