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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT2 「二人の伝説」
40/62

A2-4

 決定的瞬間というやつ。


 よく物語や、ドキュメンタリーで語られる「点」としての出来事だが、もしそれが語られる前に、誰も見聞きしていない所で()()()()()()()()()()、さて、決定的瞬間とはいずこにあるか。


 こんな風に回りくどい言い方をしても、特に事実は変わらない。リタとルトが原因でやることになった「魔王の螺旋」ボス攻略検証を終え、一応懐に入った現金を確認するために何気なくメニューウィンドウを開いて「円」の表示を確認したのだが……それがおかしなことになっていた。


「五、六……」

 桁数を確認する途中で、俺はその原因を確信し、「円」の表示のあるメニューウィンドウから顔をあげる。


「またあいつらか……」


 あの女王様がこんなミスをするはずがない。考えられるのは、あの二人組だけだ。俺は即刻メッセージを飛ばし、リタとルトを空中都市の広場に呼び出した。


「あー! ガルドさん、こんにちは」


 そしてやってきたのはリタとルト、そしてエリだ。なぜこいつがここにいるのやら、俺はため息を吐いた。


「どうしてここに?」


「わあ! いきなりひどいですね! 買い物をしていたら偶然会っただけですよ」


「……そうかよ」


 俺は気を取り直すと、リタのほうに顔を向ける。記憶を失っている時とはとても同人物には見えない。子供っぽかったその表情は一転して寡黙そうな青年のものになり、その印象の通り口数が少なくなった。そしてその右腕には、くまの人形もかくやという密着度でルトがひっついている。リタは俺よりも少し背が低いが、ルトはさらに低いし、リタが記憶を取り戻してからは幼児退行が進んだ気がする。カップルというより、兄妹を見ているようだ。


「おまえら、何か俺に送っただろ……」


 単刀直入に言うと、ルトが返事をした。


「うん! えっとね、まだガルお兄ちゃんにはお礼をしてなかったなって思って!」


「限度があるわ!」


 その純粋無垢すぎる言葉に、俺は思わず声を張り上げた。ルトがびくりとして、リタにぎゅっとしがみついた。リタは固まっている。なんなんだこいつらは。


「え、え? だって、ガルお兄ちゃんに何かお礼をするならなにがいいかなってエリお姉ちゃんに相談したら、守銭奴だからお金がいいって……」


「おいエリ、余計なことを教えるんじゃない!」


「え? 事実じゃないですか」


「うるさい! まあ謝礼ってなら受け取ってやらんでもないが、もっと現実的な数字にしろ。そうだな、諭吉十二枚ぐらいでいいだろう……」


「うわー、現実的といいながらけっこうぼってる! いったいいくら貰ったんですかー?」


「だまれ!」


 まったく、金銭感覚がおかしくなってくる。


 ところで、エリには一連の事件のすべてを話しているわけではない。エリに話している「設定」としては、リタとルトは家庭とか政治上の理由で離ればなれになった恋人同士で、このゲーム内で感動の再会をしたということになっていた。


 と、ここまで黙っていたリタが口を開いた。


「そっか、悪かった。だったら、俺たちがこのゲーム内で協力できることをしよう。自分で言うのもなんだけど、ゲーム内でならだいたいなんでもできるし」


 このゲームには、一般的なRPGでいう「レベル」は存在しない。装備がどんなに充実しても、キャラクター自体の能力はこれっぽっちも上がらないのだ。それをプレイヤースキルで補っていくわけだが、それにも限度がある。レベル250ダンジョンなどがそのいい例だ。その点から考えればこの提案は……なるほど、悪くない。


 だが、リタにこの案を出させたこと、そして次にエリの発言を許してしまったことを、俺はずっと後悔することになる。


「なら、こうしましょう! ガルドさんが、ジル先輩に告白する場を作るんですよ!」


「はあ? おまえ、何言って……」


「なるほど。確かにガルドはあの人に特別な感情を向けているように見える」


「確かにー! ボクもそう思うよ!」


「なんだよてめえら! 何人の気持ちを勝手に決めてんだ!」


 俺が反論すると、エリが冷たい視線を向けてくる。


「何言ってるんですか、昨日ボス攻略が終わってすぐあと、ジル先輩に熱い視線を向けていたじゃないですか。それともあれですか? 体が勝手にって」


「あ! それあるあるだよ! ボクだってリタちゃんとデュエルするときは胸が高鳴ってくるもん!」


 なんなんだこいつら……。俺が間違っているのか?


「ガルド、自分の気持ちに素直になったほうがいいぞ」


 リタまでもが賛同する。


 まあ確かにジル先輩は強いし美人だし、さっぱりした性格で話してて苦じゃない。漢気があるのに、たまに見せる女性らしいしぐさにはどきっとさせられるが。


 いや、そうじゃない。だいたい俺はジル先輩の現実世界での姿を知らないし、それに、先輩には彼氏がいるのだ。いまだ日本本国に囚われているひとが。


「なんだよ……それ」


 俺が呟くと、エリがおおげさにため息を吐いた。


「はあ、ガルドさんがいじっぱりなのはいつものことですけど、仕方ありませんね」


 急に、決して軽くない沈黙が流れる。


 その様子に、俺はこいつらの意志が変わらないことを確信する。こいつらは、冗談ではなく本気で、そう思っているのだ。


 なら、抵抗は無意味だ。無意味なのだから、次善策を打たねば。こいつらが食いつきそうなネタと言えば……そうだな。


「わかったよ。なら、どっかの野球少年マンガみたいに、優勝したら何かする、でいいんじゃないか? よくあるだろ、そういうの」


 計画が大きくなればなるほど、それが失敗する確率は増えていく。なにせ、俺らはまだ高校生なのだ。計画倒れなど日常茶飯事。


 だが、俺の言葉を受けて、顔を見合わせたときのエリとルトの表情を、俺は多分一生忘れないだろう。

「やっと認めた。決まりですね!」








 ここで俺は、自分がどうしようもなくバカだったことを認めなければならなかった。野球少年マンガの定番としては、県大会や全国大会で優勝できなければ廃部となる前提条件だが、これがほぼ不可能なのだ。だからこそ、そのマンガは盛り上がる。


 本来なら、不可能のはずだった。だいたい、今の俺の状況と野球少年マンガがどうリンクするのかがわからなかったし、その後出てきたPvP大会で俺が優勝して、その暁に告白するという案も現実的じゃなかった。


 だが、俺はなにもわかっていなかった。あの二人組が、文字通り不可能を可能にしてしまう力を持っていたということが。


 第一の関門、どうやってPvP大会を主催するか。

 答:「英雄相談所」がスポンサーをやればよい。


 第二の関門、どうやって人を集めるか。

 答:リタとルトが一晩で二つの250レベルスフィアーツ、〈オメガウェポン〉と〈アビスノヴァ〉をとってきて賞品にした。


 第三の関門、当の本人たるジル先輩をどうやって招くか。

 答:大会の解説としてご招待。


 速やかだった。あまりにも速やかだった。あれよあれよという間に準備は整えられ、ついでにルトが俺に残した六桁の金額が消費され、かなりの無茶が通された。


 そしてPvP大会当日、八月二十五日。


 俺は愕然としながら人でいっぱいになったコロシアムを眺めている。依然俺とリタがデュエルを行った城塞都市ドリストレグン内の施設だが、夏の終わりの一大イベントということで、最大級のものが使われていた。


「なんだよ……これ」


 ちなみに本大会は決勝トーナメント。予選はすでに終了済み、俺はなぜか、その八人の枠の中に入れられていた。


「『英雄相談所』主催のギルオン最強王者決定戦、第一回戦です! 引き続き、司会はわたくしエリがつとめさせていただきます! 解説として、知る人ぞ知る槍の達人、ジルさんをお招きしました!」


「よろしくおねがいします」


「さあーて! 第一試合はギルド『ヘヴンズゲート』所属のケンさん対、我らが英雄相談所からの刺客、『呪剣使い』のガルドさんです!」


 デュエルの方式はどちらかのHPが全損するまでのもの。開始十秒までは相手の半径7メートル以内に近づくことも、ダメージを与えることもできない。


 相手は華奢な印象を与える青髪の少年。バランスをとるように両腕を少し広げ、低い姿勢をとったその無手の構えからは、突進系のスキルを繰り出してきそうな気配がある。まだ準備時間さえ始まっていないから、きっとブラフなのだろうが。


 という純然たる現実逃避の思考は、客席からの歓声に後押しされて加速する。これだけの観衆だ、下手な負け方をしたらいったいどうなることやら。ちくしょう!


 そうして、準備時間の十秒が始まる。俺は手早く〈プラネタリウム〉を起動し、自分に状態異常を発生させる魔法をかけていく。仕上げは〈ダインフレス〉の起動、いつものパターンだ。〈クラウ・ソラス〉も起動すれば、MPは丁度空っぽになる。ぴったり十秒が経過し、勝負が開始される。


 と、思うまもなく、俺の足下に魔法陣が現れる。氷属性上級魔法〈アイシクルコメット〉。俺は左に体を投げ出し、直後に降ってくる氷のつぶてを回避する。デュエルでは不意打ちなど日常茶飯事だ。特に魔法使いは。


 相手の装備を確認、レベル80の氷属性魔剣〈シヴァ〉だけだ。相手が氷または炎属性の魔剣を装備している場合には、〈ムスペルヘイム〉と〈ニブルヘイム〉が一番の警戒項目だ。しかも、相手はおそらくまだMPを残している。魔法を詠唱するそぶりを見せたら、すぐに突進系のスキルで中断させるべきだ。


 にらみ合いが続き、双方のMPがじわじわと自然回復していく。俺のMPが半分程度まで回復した時、相手が動いた。〈シヴァ〉に青い光のエフェクト、斬撃系スキルか? しかし飛んできたのは氷属性の突進刺突系スキルだった。俺は一瞬反応が遅れ、一撃目をまともに食らう。だが機動力は俺のほうが上だ、すぐさまステップで右側に退避する。突き攻撃は防御しにくいが、横方向の移動で用意に回避ができる。これも、スフィアーツによって強化された身体能力があってこそだが。


 おそらく、今ケンが出したスキルは〈トリプルスタブ・カタストロフ〉だ。相手が三連突きの二発目をかわされ、三発目を虚空に打ち込んでいる間に、俺は〈グランプ〉を発動。重い一撃を横っ腹に叩き込む。ケンは吹き飛ばされ、地面に転がった。


 俺はちらりと自分のHPを確認……今の一撃で三分の一程度減っている。まったくふざけた威力だ。ということは、相手は純然たる属性戦士、氷属性の威力をアビリティでブーストしまくっているのだ。


 次に〈看破〉を使って相手のHPバーを確認。こちらもクリーンヒットを食らってHPの三分の一を減らしている。そしてもっと重要なことだが、目眩みの状態異常を食らっていた。


 この好機を逃す手はない。俺は一気に接近し、立ち上がった相手の目の前で手に持った剣を解放した。解放必殺技独特の音と光に、目がよく見えなくてもケンはすばやく反応する。すなわち、その音の発信源に向かって〈シヴァ〉の解放必殺技を発動したのだ。


 その場で大きく跳躍、そして真下に向けて剣を突き出し、速度を乗せて落下。その着地点には、巨大な氷の柱がいくつも突き立つ。なるほど堅実な対処法だ。この挙動ならば敵の解放必殺技を跳んで避けた上で、即死級の攻撃を食らわせることができる。だが、俺が解放したのは〈クラウ・ソラス〉だ。


 〈クラウ・ソラス〉の解放必殺技、十秒間自立飛行し、相手を攻撃する。

 解放必殺技のモーションが終わり、すぐに新しい〈シヴァ〉を起動して自分に状態異常解除魔法〈キュア〉をかけたケンに、自分の意志で相手を攻撃する刃が襲いかかる。


 ニ手、俺はアドバンテージを獲得した。そしてそれは、デュエル内では致命的なものだ。


 完全に背後を取った。視界内に〈クラウ・ソラス〉を入れることで注意を引きつけ、俺自身はすでに〈ダインフレス〉を解放している。強力な上段斬り、その刃は性格にケンの首を捉え、半分以上残っていたHPを残らず吹き飛ばした。


 遅れて、観客席からの大歓声。


「勝者、『呪剣使い』のガルド! いやー、あっというまに決着がつきましたね!」


「どちらも攻撃に特化したアビリティ構成だからね。どちらがいつ死んでもおかしくない戦闘だったわ。ケンの解放必殺技のタイミングはなかなか手堅いものよ、あれをされたら、一度引かなければいけない。属性戦士の恐ろしい所ね」


 エリの司会と、ジル先輩の解説。


「でも、それを完璧にいなしたガルドの戦法もすばらしい。あれはおそらく目眩みの状態異常を利用するための戦法だったのだろうけれど、結果的に相手の解放必殺技を封殺していたわね。それと、今回は出〈ニブルヘイム〉はなかったわね。〈プラネタリウム〉のせいで〈アイス・レジスト〉を警戒していたのかしら?」


「ジルさん、ありがとうございます! それでは、続く第二試合です。準備が終わるまで、少々お待ちください……」


 俺は、思わず引きつった笑みを浮かべる。相手を完全に封殺しての勝利、そして観客の大歓声。

 もう後には引けなくなってしまった。


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