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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT2 「二人の伝説」
39/62

A2-3

 「魔王の螺旋」の「英雄碑」で復活した俺たちは、一様に「ないわー」という表情を浮かべた。致命級魔法からの解放必殺技のコンボなど、対人戦でも使うかどうかわからないごり押しの極みだ。〈看破〉によるステータス表示によればMPは無限のようなので、恐らくHPが減ってくると一度だけ使ってくる類のものだ。


「ごめんなさい……わたし、バフのかけ直しを忘れていました……」


 エリがしゅんとして謝る。それに対して、ジル先輩が明るく返した。


「〈アイス・レジスト〉のことかな? まああったらあったで他の奥の手を使ってきそうだけど、最初からあれを予想するのは無理よ。それに……」


 ジル先輩がにやりと不敵な笑みを浮かべる。


「初回で勝ってしまうボスなんて、つまらないわ」


 その発言に、俺は心の中で拍手喝采する。やはり、ジル先輩はオトコマエだ。姐さんだ。


「そうだね、次は〈アイス・レジスト〉を絶やさずにしてみよう。何が出るかはお楽しみってことだね」


 ラザさんがまとめ、それから弱ったように肩をすくめた。


「瀕死時の挙動だけど、一つは確認できたよ。エフェクトでわかったけど、〈リザレクション〉を連発してたね。あの感じなら、一万ぐらい回復してたかな」


「冗談きついぜ……」


 とはいえ、もう一つ必要な要素が確認できた。


「じゃあ、俺はあいつを火傷状態にする必要があるってことだな?」


「うん、あと、いっそのことガルドが〈プラネタリウム〉でサポートに徹するのもありかも知れない」


 俺は途中から巫女魔王の遠距離攻撃を受ける役に徹していたことを思い出し、頷く。


「わかった。なら、〈クラウ・ソラス〉をメインウェポンにして、遠距離攻撃を引き受けるぞ」


「ああ、頼むよ」


 さて、続く二戦目。巫女魔王のHPが半分を切るまでは初戦と同じ流れで、かなりスムーズに進行できた。だが、今度は巫女魔王の抹殺モードが俺を狙いだした。俺だけが離れていたため、ラザさんもジル先輩も援護に迎えず、〈クラウ・ソラス〉で迎撃することになった。巫女魔王の太刀筋はあの「教官王」に迫る巧みさで、俺は次々とクリーンヒットを食らってしまう。あっというまにHPは真っ赤な瀕死状態になった。


 だが、サポート約に徹するために〈フレンドリーファイア〉を外していたことが功を奏した。ジル先輩が〈ランドヴァリナウト〉から放った〈メギドフレイム〉と、エリが普通に詠唱した〈プロミネンス〉が巫女魔王を飲み込んだのだ。


 致命級魔法二つの直撃で、巫女魔王のHPは大きく減少する。それをきっかけに、ターゲットがエリに向かった。


 これで危機は脱したが、本当に警戒すべき攻撃が後に控えている。俺とジル先輩は慎重に距離を計りながら、堅実に巫女魔王のHPを削っていく。


 そして、そのHPが四分の一ほどまで減少したとき、魔王巫女はまたしても唐突に戦術を変える。うまくタイミングを見計らって味方に〈アイス・レジスト〉を絶やさず、巫女魔王に〈火傷〉の状態異常を発生させた万全の状態だったのだが、敵はその対策を持っていたようだ。


 魔王巫女がその太刀を地面に突き立てる。これまでやってこなかったモーション、その直後、地面から無数の氷柱が出現し、地形を変えた。エフェクトからして氷属性中級魔法〈アイスピラー〉のものだが、これはただの魔法ではなくボス固有の特殊攻撃によるものだと考えていいだろう。


 無数の氷柱のせいで、視界が制限される。と、思う間もなく、俺のHPが唐突に減少し始める。斬撃が来た方向を見ると、そこには不気味な仮面を被った巫女の姿がある。


「ガルド君!」


 ジル先輩が叫び、俺は合流するためその方向にダッシュする。だが巫女魔王は俺を正確に追尾しながら、容赦なく遠距離攻撃を放ってくる。なすすべもなく、俺のHPはあっという間にゼロになった。


「くそッ!」


 You are diedの文字が視界に表示され、俺は悪態をつく。仕方なくパーティーのHP表示を注視していると、今度はジル先輩のHPが減少しだした。〈イージスの盾〉ならば完全に防げるのだろうが、起動していた〈アルビノクラッド〉では少し防御力が足りないようだ。じわりじわりと減っていく。


 ラザさんとエリは、必死にジル先輩と合流しようとしているだろう。だが、それも氷柱に邪魔されているようだ。


 そして、巫女魔王はだめ押しをしてきた。唐突にラザさんとジル先輩のHPがゼロになり、エリも瀕死状態にまで追い込まれた。〈断空剣〉の解放必殺技、その範囲攻撃によって、氷柱もすべて吹き飛ばされる。


 氷の欠片が周囲に舞う中、太刀を構えるその姿は、なかなかに絶望感のある風格を漂わせていた。







「そう来たかって感じだな……。きれいに各個撃破されたし、やっぱ解放必殺技が驚異だな」


 俺が率直な感想を述べると、ラザさんが補足する。


「うん、あの解放必殺技は、近いほど威力が高いみたいだね。いきなり現れたと思ったらHPがゼロになってさ、びっくりしたよ」


 完全に、相手の術中にはまった形のようだ。だが、そこから対策を導き出すのが俺たちプレイヤーというわけで。


「あの氷柱は〈ダイダルウェイブ〉で一気に掃除できそうですね。はあーあ、使っておけばよかった」 


「あんな状況は滅多にないからな……。仕方ねえさ」


 俺がフォローすると、エリが首をぐるんとこちらに向けた。その表情は驚きに満ちている。


「ガルドさんがまっさにきにフォローするなんて……」


「あのなあ、俺だってフォローするときはするぞ。いつもラザさんとジル先輩に先を越されるだけで。というか、最初に死んだのは俺だ」


「それ、威張りながら言う言葉かな?」


 ジル先輩が冗談めかして言い、俺たちは顔を見合わせて笑う。


「それじゃ、もう一度作戦を練ってみようか」


 ジル先輩の一言に、俺たちは真剣な顔をつきあわせた。








 一度ホームタウンに帰って装備を組み直し、いざ三戦目へ。ジル先輩とラザさんは巫女魔王の攻撃を確実に受けきるために、〈イージスの盾〉を準備、さらにラザさんはいつもの〈器なき王の剣〉の代わりに片手雷鎚の〈ミョミニル〉をメインウェポンにしていた。俺とエリは引き続き魔法による援護と回復が役割だ。


 問題となるのは、HPが半分を下回った時からの、急激な行動変化。あれ以上のパターンを持っている可能性もあるが、まあその時はその時だ。


 それに、今回の作戦はそれをさせないためのものでもある。


 相変わらず、巫女魔王は魔法を使う俺とエリを集中的に狙ってくる。今回は俺とジル先輩、ラザさんとエリのツーマンセルを組み、どちらが狙われても対処できるように陣形を変えた。幸いなことに巫女魔王はこれに対処する作戦を持っておらず、安定してHPを削っていく。


 二度目の行動変化、HPが四分の一のレッドゾーンに近づくと、巫女魔王は一瞬動きを止める。魔法詠唱のモーション、〈ニブルヘイム〉の発動だ。


 俺たちは、あえて自分たちに〈アイス・レジスト〉をかけず、しかし全員に〈アイス・アブソーブ〉のバフをかけていた。これで、無効とはいわずともダメージを半減させることができる。


 そして、〈ニブルヘイム〉の効果時間の終わり際、ラザさんが〈ミョミニル〉を解放する。片手雷鎚というカテゴリにしては破格の重量を持ち、〈アスカロン〉と双璧をなす高携行性重量武器の「強力な投擲」が、巫女魔王にクリーンヒットし、吹き飛ばす。その間にエリとラザさんが距離をとり、ジル先輩が接近。その間に俺はジル先輩に〈スーパーヒール〉をかけ、HPを回復する。


 これで、〈ニブルヘイム〉は受けきった。しばらくは同じ魔法は使ってこないだろう。〈ニブルヘイム〉は氷属性魔法のなかでは最強のもので、その分コストが高い。


 俺は〈プラネラリウム〉を解放してMPを回収すると、新たに〈エペタム〉を起動する。ジル先輩を追いかけ、巫女魔王を挟撃する体制を整える。生命線たる後衛のエリのもとへは行かせはしない。正面と背後から攻撃し、その場で釘付けにする。


 流石に二人に直接攻撃されては、その高い機動力で逃れることもできまい。巫女魔王のHPは着実に減少し、あと少しで倒すことができる、その時、巫女魔王の太刀が銀色の強い光を発した。解放必殺技、広範囲に強力な物理攻撃。


 だが、これこそが俺たちの狙っていた展開だった。この攻撃を受けきるために、俺とジル先輩は最大HPを上昇させるアビリティを装備し、防御面を強化していたのだ。俺は〈イージスの盾〉を構えていたジル先輩の後ろに隠れ、斬撃から身を守る。衝撃波のエフェクトがいくらか回り込んできてHPを削られたが、それもHPの三割程度だ。最後に俺とエリとジル先輩が解放必殺技で大ダメージを与え、ついに巫女魔王はそのHPをゼロにする。


「おつかれ!」


 ファーブニル・オルタナが消滅するのを確認してから、ジル先輩が手を上げ、俺もそれに答えてハイタッチする。続けてエリとラザさんともハイタッチをし、健闘を讃えあう。


「ドロップ品は……と。お、結構ある」


 そして早速戦利品を確認し始める。とどめを刺したのはジル先輩だったので、〈断空剣〉もそのアイテム欄に入っていた。


「やっぱり、みんなで戦うのは楽しいですね! ガルドさんが〈フレンドリーファイア〉をはずしただけで、すごく戦いやすくなりましたよ!」


「そうかよ」


 俺がエリの台詞を軽く流すと、エリはむくれて反論してきた。


「集団戦闘でも〈ダインフレス〉を持ってくることはないじゃないですかあ。せっかくジル先輩もラザさんもいるのに」


「まあまあ、僕らはいつも一緒ってわけじゃないんだしさ。それに、個人の好みっていうのは大事だよ」


 ラザさんの言うとおり、俺たちは常に一緒に活動しているわけじゃない。「英雄相談所」の依頼というのは報酬が一人ずつに支払われるので、パーティーでやっても諍いの元になるというのもそうだが、俺たちは基本的にソロプレイヤーなのだ。本来のアビリティ構成が、ラザさん以外一人で戦うことを前提としていることがそれを証明している。


「ま、そんなことより、早く持ち帰って報酬を貰ってこよう。三万円エーマンが待ってるよ、ね? ガルド君」


 ジル先輩がその短い髪を軽くかきあげ、にやりとして言う。俺はその動作に一瞬見とれる。


「ああ、そうだな」


 こうして、ある意味絶体絶命だった俺の「英雄相談所」における社会的生命は特に問題もなくセーブされたわけだ。セーブはされた、のだが……。


「ぜ、全員で山分け……?」


「ええ、そうよ。協力者の分の報酬は書いてなかったでしょう? だから、山分け。文句ある?」


 必要なものをすべて届け、依頼を完遂した俺に、女王様はそう言い放った。失意に崩れ落ちる俺に、ラザさんの気遣う手が肩におかれ、ほかのメンバーは苦笑いしたのだった。


 さて、俺たちが持ち込んだ画像データによって、「魔王の螺旋」ボス攻略特集が組まれたわけだが、またしても俺は眉をひそめることになる。


『「お前を倒す!(迫真)」が杖持ってるw』


 このコメントが続出したのだ。確かにボスを倒した回では〈ダインフレス〉は使わなかったが、まさかここまでコメントされるとは。


 なんだかんだで、俺は「呪剣使い」と認識されているらしい。

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