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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT2 「二人の伝説」
37/62

A2-1

 まずは、こちらのVTRをご覧に入れたい。八月一二日に動画サイトで配信された、「英雄相談所」の番組だ。この回では最近ギルガメッシュ・オンラインで新たに出現したダンジョン「魔王の螺旋」に挑むパーティーの追跡取材をしていた。


『新ダンジョン「魔王の螺旋」からお送りしております。この新たな試練に挑むのは、ギルド「灼牙騎士団」のパーティーです! さっそく戦闘が開始され、とても話しかけられる雰囲気ではありません!』


 レポーターはエリだ。カメラ機能を持った四角い水晶のような形のアイテムを持ったスタッフに向け、高めのテンションで話す。その後ろでは「灼牙騎士団」の面々に混じり、レポーターを死守する「英雄相談所」のスタッフたちの死闘が映っている。その中には、俺の姿もあった。


 動画についているコメントには、「お前を倒すッ!(迫真)」という台詞が混じっており、俺はそれに眉をひそめざるをえない。


 それは疑いようもなく、俺が「因果剣ファルスクエア」との戦いで放った言葉だったからだ。せっかく苦労して手に入れた〈ファルスクエア〉の情報を扱った回を自分でも見たのだが、どういうわけかあの台詞が入っており、以降、レポーターの護衛などで俺の姿が映るたび、「お前を倒すッ!(迫真)」というコメントが入る。これを黒歴史と言わずに、何をそう言うのだろう。


 そんなどうでもいいことはともかく、このダンジョンのレベルは、60~120だ。そこまで高いわけではないが、その実際の難易度は下手なレベル100ダンジョンよりも遙かに高い。


 というのも、ダンジョン内のほとんどのモンスターが徒党を組んでいるからだ。それも、異なる種族のモンスターが組み、その弱点を補いあって戦闘を挑んでくるという厄介すぎる代物。分厚い鎧に身を包んだ黒い影のような体のモンスターが戦線を築き、四足歩行の機械系モンスターが素早い動きで前衛を攪乱し、後ろに控えるエレメント系モンスターが魔法を放ってくる。まるでプレイヤーのパーティーのような連携に、この戦闘に参加していた俺も大いに苦戦させられたものだ。


 だが、当の「灼牙騎士団」も負けてはいない。盾を構えた壁役のプレイヤーが攻撃を引きつけ、攻撃役のプレイヤーが刃にさまざまな属性を帯びさせて突進していく、そして彼らを癒す回復役。それらが絶妙なコンビネーションを発揮して一歩も引かなかった。


 だが、この快進劇がダンジョンクリアまで続くことはなかった。その要因は実によくあるもので、機械系のモンスターが自爆して回復役のプレイヤーを巻き込んだことだ。それで一気に戦線が崩壊し、二重螺旋の形をとったエレメント系モンスターの強力な魔法に一網打尽にされてしまった。


 そしてロケ地は「英雄相談所」のギルドハウスへと移り、今回の取材を担当したということでエリがまとめる。


『「灼牙騎士団』のダンジョン攻略は失敗に終わってしまいましたが、わたしたちはとある筋からこのダンジョンのボスが持つスフィアーツの入手に成功しました! その名も〈断空剣〉。性能はこのようになっています!」


〈断空剣〉

起動時消費MP:120

カテゴリ:両手剣(太刀)

魔法スロット:3

武器攻撃力:S

筋力上昇:A

魔力上昇:A

機動上昇:A

防御上昇:A

魔防上昇:A

強靱上昇:A

武器重量:C


特殊効果

「断空」(MPを30消費して離れている相手に斬撃を浴びせる)

「解放必殺技」刀を振り抜き、周辺の空間を切断。広範囲に強力な物理攻撃を行う。


『両手剣ながら、遠距離攻撃が可能なスフィアーツです。これまで確認されている遠距離攻撃武器は、〈ミストルティン〉や〈ミョミニル〉、〈オメガウェポン〉が代表的ですが、遠距離からの斬撃が可能なのはこの〈断空剣〉だけです! その使い勝手は、ぜひ、ご自分の手で! 当番組では、「魔王の螺旋」の攻略研究コーナーを企画しています。ご期待ください!』


 当然ながら、この言葉には疑問の声が寄せられた。いつもはちゃんとした攻略方法を確立しつつ、その戦闘シーンと併せて入手したスフィアーツの紹介もしているのだ。〈ファルスクエア〉の時がいい例だが、これには理由があり、俺の頭痛の種でもある。


 「灼牙騎士団」が全滅してしまったが、本来はそこで取材を終了するつもりはなかった。とはいえ、「灼牙騎士団」は再挑戦のための準備に時間がかかり、すぐに再開というわけにはいかなかった。


 その余った時間で、まだ余力のあった「英雄相談所」のメンバーで「魔王の螺旋」の再深部を目指していたのが事の発端だった。もちろんそこで新たな攻略方法が確立されたりしたのだが、運良くボスのいる再深部にたどり着いて、一度全滅してみようとボス前の「英雄碑」でリスポーン設定しているところに、「彼ら」がやってきたのだ。


 今では「英雄相談所」の面々とある程度の面識がある、リタとルト。その二人だった。


 その場の空気が凍り付いたのは、言うまでもない。この二人がやってきた方向が、疑いようもなくボス部屋の方向だったからだ。まあそこまでならよかったのだが、リタはそこに爆弾を投下した。


「これ、あの時みたいに、必要だろう?」


 記憶が戻る前とは違う喋り方で、リタは俺に一つの映像データを渡してきた。あの時というのは、おそらく俺がリタと初めて出会った頃に、アーサー王と戦っているところを見せてくれと頼んだ時のことだろう。そう解釈して受け取り、何気なく再生すると、そこには想像を絶する光景が映されていた。


 ボスの姿は、端的に言うと巫女装束の女性のようだった。だが、なんとも生理的嫌悪を与える魔王的な雰囲気を持つ仮面を被り、油断なく太刀を構えるその姿は、文句のつけようのないボスの風格を放っている。


 と、思う間もなく、蹂躙が開始された。


 リタの主力武器は〈ミストルティン〉と〈アスカロン〉、ルトは〈ヨトゥンヘイム〉だ。特に〈ヨトゥンヘイム〉はその大きさ故に二人で一人のターゲットを狙うのには不向きなのだが、この二人は文字通り次元が違った。


 開幕、リタの〈アポカリプス〉が発動され、一瞬でフィールドが形を変える。いくつもの岩柱が立ち、その合間を飛ぶように二人は駆け抜ける。この二人以外ではほぼ見ることができない、高速の三次元戦闘だった。ルトがその巨大な剣をボスに叩きつけたと思ったら、リタがその隙を埋めるように〈ミストルティン〉の魔法弾を撃ち込んでいる。まるで思考を共有しているかのような、完璧な連携だった。呆然としながら映像を見る俺の後ろから、それが気になった他の「英雄相談所」のメンバーが覗いてくる。そして一様に無言になって離れていった。


 この映像は、ある程度「強さ」に自信のあった「英雄相談所」のメンバーのプライドをズタズタにすることになった。結果、ボス攻略はおわずけとなり、取材も一旦中断。それで、あの放送内容だ。


 なぜ、番組の代表たるクイーンはあの放送内容を許したのか。その理由を知ったのが約一時間前だ。それは、「英雄相談所」のギルドハウスの依頼を張るための掲示板に、無造作に掲示されていた。



・依頼内容:「魔王の螺旋」ボス、「ファーブニル・オルタナ」の攻略方法検証

・報酬:三万円

・受諾資格:「呪剣使い」のガルド。及び彼の協力要請があった者



 名指しだった。ちなみに「呪剣使い」というのは一応ギルド内での俺の呼び名で、面識はあるがあまり親しいわけではないメンバーは俺のことをこの名で呼んだりする。あのラグナー野郎が知っていたのもこの呼び名だ。決して自分から名乗ったわけではない。


 「英雄相談所」では、メンバーがヘマをしたりしても、特に罰則があるわけではない。だが、ともすれば罰則以上の責め苦を受けることになる。それが、これだ。もし、俺が一定の期間内にこの依頼を達成しなければ、様々な動画サイトで「魔王の螺旋」の攻略コーナーはどうなったのかと囁かれる。それは、ギルド内でも同じだ。


 そしてなにより、責任者たる女王様はそのことを「全く」気にしない。いつしか、そのメンバーがいたことも、そんな企画があったことも忘れ去られる。それだけだ。


三万円エーマン……三万円だ……!」


 俺はあくまで報酬のために依頼を受けている。そんな風に思っていないと、とてもやりきれない。


「どうしたんですか、急に。何か電波でも受信しましたか?」


 協力者の一人であるエリが、眉をひそめて聞いてくる。


「いや、何でもない。それより、こいつはなかなか壮観だな」


 気持ちを切り替えるために、無理矢理話題を作る。「魔王の螺旋」の入り口にあたるエリアは、どこまで続くともわからない巨大な「穴」だ。直径にすれば五百メートルぐらいだろうか。その深淵からは五つの塔が立っており、四つが一つを囲むような配置だ。それぞれには橋が渡されており、穴の淵から見るとさながら要塞のような威圧感がある。


「本当にゲームみたいな雰囲気ね。これが幻想界だったら、絶対行きたくないわ」


「そうだね。お金にうるさいガルドからしたら、これは財宝の眠る難破船みたいなものかな?」


 続けて、ジル先輩とラザさんが感想を述べる。


「変なこと言うなよ。まあ、手に入る素材はかなりおいしいけどな」


 軽く口には軽く返し、気合いを入れるつもりで手に持った〈ダインフレス〉を地面に突き立てる。


「目的はここのボス、「ファーブニル・オルタナ」の撃破、及びその攻略方法の検証。報酬は山分けだ」


「はーい! 質問です!」


 と、エリが声を上げて質問する。


「何だ?」


「せっかくの高レベルダンジョンなのにリタとルトちゃんを呼ばないのは何でですか? 二人入れれば、丁度六人パーティーでしょう?」


 その質問に、俺はため息を吐くのを押さえられない。


「な、なんですか。その反応は……」


「いや、悪い。だがよ、今回の目的は攻略方法の検証だ。だがあの二人がいれば、大抵の状況はなんとかなっちまう。というか、たった二人でダンジョンボスを圧倒すらしやがる。だから今回のパーティーには入れられないんだよ」


 それに、ルトはともかくリタのほうが、あまり表に出たがらないのだ。俺に渡した対ボス戦闘の映像もさっさと回収してしまったし、面識のある「英雄相談所」のメンバーからの取材もすべて断っている。


 それだけではない。ルトからの頼みを果たし、リタは無事に記憶を取り戻したようなのだが、当の本人は自分のことを話したがらないのだ。彼らがAIであるということはもちろん今いる四人以外は知らないし、そして俺たちもそれ以上は知りようがない。「英雄相談所」内でも、何故か圧倒的な戦闘能力を持つ若いカップルという枠に収まってしまった。


「ふーん。そうですか。なら仕方がないですね。あの二人、はたから見てると面白いのになあ」


 確かに、リタとルトのいちゃつき具合はなんかもうすごい。リタが押されてばかりなのがエリとしてはそそるらしく、彼がルトに抱きつかれて照れているのを見るたび、にやにやと笑みを浮かべている。怖い。


 それはともかく、今は依頼だ。俺たちは穴の中央にそびえ立つ塔へと続く橋を渡っていく。このダンジョンが出現してからまだ日が浅いので、多くのプレイヤーが徒党を組んでやってきていた。


 ほどなく中央の塔にたどり着き、大広間の真ん中にある魔法陣の上に集合する。そしてパーティーのリーダーである俺が出現したポップアップウィンドウを操作し、俺たちは転送させられる。


 このダンジョンでは、一定の戦闘エリア内にプレイヤーが溢れるということはない。まるで迷路のように張り巡らされた通路と部屋の集合体が一フロアで、それが七つ重なっているのがこのダンジョンの実態だ。下層に降りる階段は一つではなく、よってフロアも広大なため、他のパーティーと出会うことは少ない。


「よし、じゃあ、いっちょいきますか!」


 俺たちはそれぞれ得物を構え、ダンジョンを進み出した。


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