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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
Tutorial2 「教官王と愉快な仲間たち」
30/62

T2-1

ちょっと時間を遡ります。T1とACT2の間の出来事です。

 遺伝子の神秘。


 その人物の見た目、適性、性格までもある程度決定づけてしまうDNAとやらは、なぜこのような人間を生んでしまうことができたのか。


 今、俺の前に立っているプレイヤー。名前をトリシアと言い、現実世界では俺の義理の妹に当たる人物だ。欧米人らしくすっとした鼻筋と、ぱっちりとした目。さらさらの金髪に碧眼。贔屓目を除いても、美少女と呼んで差支えない姿だ。これで、現実世界とほとんど変わらない姿なのだから恐れ入る。

この前あったのは一年半前のはずだが、その頃と比べてずいぶんと子供っぽさが抜けて、未発達ながら少しずつ女性としての魅力を身につけているように見える。


 詳しくは知らないが、学校も名門と呼んで差し支えないところに通っているし、成績も飛びぬけているわけではないが優秀らしい。


 重ねて言うが、この少女は俺の義理の妹だ。


 なぜ、半分ではあるが血をわけた兄妹が、こんな絵に描いたような優秀な美少女になってしまったのか。


「こっちはお兄ちゃんって格好いいね。日本でアニメとかってそういう感じの人、描かれているんでしょ?」


「まあ、せっかくのゲームだからな」


 若干おかしい日本語だが、やはりギルガメッシュ・オンラインの言語変換、もとい日本語変換機能には目を見張るものがある。ここ一年半でトリシアが日本語を勉強していなければ、この義妹は英語しか話せないはずなのだから。


 なぜ、トリシアがこのゲームの世界にやってきてしまったのか、理由は二日前に遡る。


 この義妹はたまに俺に電話してくる。その内容は学校で何か嫌なことがあっただとか、父親と喧嘩しただとか、まあそんな内容だ。ジュニア・ハイスクールに上がってからは精神面の変化もあってか悩みごとも多いようで、半年ぐらいは電話の頻度も多かったように思える。なぜ俺に電話してくるかと言えば、「両親に心配はかけたくない」だそうだ。なんてできた義妹だろう。


 便りがないのは良い便り。その頻度も最近は少なくなり、トリシアが学校になじめてきたのを俺は実感していた。その矢先のことである。確か、俺が夕食を食べているときだったか、例によってトリシアから電話がかかってきた。


 曰く、友達がVRヘッドギアをくれた、ということらしい。いつ話したのかは定かではないが、俺がギルガメッシュ・オンラインをやっていることを彼女は知っていた。だから、ゲームの世界を案内してくれ、という依頼が来たわけだ。ちなみに現在は六月の初めで、トリシアの通うジュニア・ハイスクールでは夏休みに入っているようだ。


 さてさて、諸君。自分には似ても似つかない美少女義妹がいたとしよう。彼女は品行方正で、自分と比べれば将来も有望だ。そんな義妹が、自分と同じネットゲームをやると言い出したら、歓迎するだろうか?


 否、断じて否だ。自分はともかく、将来有望な義妹の大事な時間をこんなことに費やすべきでは決してない。劣等感とかはないわけではないが、だからこそだ。こんちくしょう。


 だが、世界初のVR技術を使用したこのゲームの情報を、ただ外から見るだけというのも酷ではある。なにより、トリシアはVRヘッドギアを既に持っているのだ。


 そこで、俺は一案を講じることにした。ギルガメッシュ・オンラインの舞台となる絶景の数々は、一見の価値あり。だが、戦闘に関しては諦めてもらう。


 このゲームには初心者の心を折るに十分な強敵がわんさかいるのだ。これを利用しない手はない。


 人がゲームを辞めるとき、その原因はいくつかあるが、例えばこれならどうだろう。その時点でやれるだけの手を尽くし、最高のコンディションで挑んだにも関わらず、まったく手が出ずに敗北する。その時、人は諦めを知るのではないだろうか。



 具体的な作戦はこうだ。

 ①懇切丁寧に戦闘指導。

 ②必要な装備を揃える。

 ③十分倒せるレベルのボスを倒す。

 ④初見では到底倒せないボスと戦わせる。


「これってさ、ゲームなんでしょ? 戦ったりするんだよね? チュートリアルは曖昧なことしか言ってくれなかったけど」


「ああ、その通りだ。だが、このゲームの戦闘は普通のRPGとは結構違うんだ。まずはそこに慣れないとな。着いてこいよ」


 まずは第一段階、俺は善良なインストラクターとして振る舞うべきだ。


 そこでやってきたのは、ご存じ「狭間の大平原」。初心者から玄人までずっとお世話になる、超巨大ダンジョン。


「すごい……!」


「だろ?」


 どこまで続いているのか、見ただけではわからない広さ。時折小さな丘があったり、建物の残骸らしきものがあったりして、なかなか混沌とした雰囲気も醸している。草の背が高いわけではないが、サバンナのような大平原に建物の残骸があると言えば近いかもしれない。


「さて、まずはこのゲームでの戦闘だが、基本となるのは武器の「起動」だ。これはチュートリアルで聞いただろう? やってみな」


 トリシアが頷き、「起動、〈フルンティング〉」と強い語調で言う。すると、がっちりとしたつくりの柄を持つ両刃の剣が現れた。嬉しそうな顔のトリシアに頷き、俺は話を続ける。


「それが、スフィアーツだ。スフィアーツを起動すると、アバターの能力値が上昇する。その〈フルンティング〉は、力と防御力が上昇するはずだ。他にも上昇したかどうかは覚えていないが……そうだ、次はメニューウィンドウを開いてみろ」


 俺の提案に、トリシアは首を傾げる。

「メニューっていうのはわかる。でも、どうやって?」


 自らの不覚を悟って、俺は苦笑する。そうだった、このゲームはチュートリアルでさえメニューの存在を教えてくれないのだ。いったい、初期のプレイヤーはどうやってその存在を明らかにしたのやら。


「そうだな。開けって念じながら手をかざしてみろ。初期設定ならば、メニューウィンドウは銀色の縁にダークブルーのコントラストだったはずだ。それもイメージしてみるんだ」


 言われた通りにトリシアが手をかざすと、すぐに色の暗い宝石の板のように透き通る色のメニューウィンドウが現れる。ちなみに、俺としてはこの色は好みではないので、設定を変えて紙っぽい質感のものにしている。


 トリシアは言われずともメニューウィンドウにある項目を指でタッチし、アイテムやステータスの欄を見ていく。こういった感触はスマートフォンやタブレットで慣れているので、抵抗は少ないのだろう。そういえば、メニューを開いたりする動作に苦戦するという話を聞いたことがない。無音詠唱が発見されるまでには結構な時間がかかったというのに、おかしな話だ。


「基礎攻撃力がD、筋力上昇がD、魔力上昇がE、機動上昇がE、防御上昇がD、魔防上昇がE、強靱上昇がD、武器重量がDって書いてある。あ、あと解放必殺技が強力な刺突だって。みんなDとEだけど、弱いの? 初期装備だから?」


 トリシアの言葉に、俺は深くなり始めていた思考から顔を出す。


「ああ、そうだ。能力上昇値のランクは、基本的にはSが最大だな。まあ一部の武器はそれ以上あるんだが、今はいいだろう」


「この解放必殺技っていうのは?」


「音声で解放って言うことで発動する必殺技だな。そこに書いてあるとおりの攻撃をワンランク上の威力で放つんだ。特にスピードはかなりのものになるから、重量のある武器では基礎攻撃力が低くても一撃必殺になりうる。そのかわり、その武器は消えちまう。MPがあればすぐに起動できるが、高レベルの武器ではそのリカバリーが難しくなる。まあ、最初はそれよりもスキルを使った方がいい」


「スキル?」


 トリシアはこちらを凝視する。その視線に少しだけどきりとした。なんというか、美少女って何かするたびに破壊力があるな……。無論、妹だから手を出そうとかは考えないが。


「その項目の下のほうに書いてあるはずだ。見てみろ」


 トリシアの視線が文字を追って下がる。


「三つある……。〈ピアース〉〈スラッシュ〉〈グランプ〉ってあるけど」


「さすがは初期装備だな。一応それぞれの項目をタッチすれば詳細が出てくる。まあつまりスキルってのは、発動することでシステムに規定された動きをすることができる技だ。ホーミング性能もあって動く敵にも楽々攻撃を当てることができるから、うまく使うといい」


「どうやればいいの?」


「メニューを開いたときみたいに念じれば発動するが、最初は音声でやるといい。武器を適当に構えて、まずは〈スラッシュ〉を使ってみるんだ」


「わかった。じゃあ、行くね」


 頷き、〈フルンティング〉を構える。いかにも初心者らしく、腰ものっていないし武器を握る手に余計な力がこもっている。


「〈スラッシュ〉……」


 しかしトリシアが呟き、刃から青いエフェクト光が発せられるとその姿勢が見事に修正され、次の瞬間にはほとんどブレのない、まるで達人のような振り下ろしが放たれた。


 スキルによる動作を終えても、トリシアは打ち終わった姿勢のまま固まっていた。しばらくして俺がこらえきれずに笑い出すと、はっとしたように驚きと楽しさを含めた表情で振り返る。


「すごい!」


 その屈託のない笑顔に、驚き方をからかってやろうという思いは消えてなくなった。代わりに、さらなる解説を続ける。


「で、こっからは中級者編だが、そのスキルのモーションは武器カテゴリではなく、武器の種類一個ごとに、個別に存在するんだ。例えば、今の〈フルンティング〉の〈スラッシュ〉は振り下ろしだが、同じ片手直剣カテゴリの〈ダインフレス〉では右からの振り上げだ。スキル自体も派生して百種類ぐらいあるから、まさに千差万別ってやつだな」


 俺が話している途中でも、トリシアは武器を構え、別のスキルを発動していた。俺はそれを苦笑と共に見守り、発動し終わったところで声をかける。


「待ちきれないようだな。んじゃ、さっさと狩りにいくか?」


 トリシアが頷き、俺たちは手頃なレベル帯のエリアへと向かった。「この狭間の大平原」にはレベル10から140までの敵が存在するが、入り口付近の敵が弱いかというと、全くそんなことはない。だから、本当に初心者ならばこのダンジョンで戦うべきではないのだ。無論、俺がこのダンジョンを選んだのには理由があるわけだが。


「んじゃ、まずはあいつらと戦ってみろよ」


 そう言って俺が指差したのは、なにやら緩慢な動きで歩く、人間サイズのゴーレムだ。その名を「ジャンクドール」といい、レベルは20だが動きが非常に遅く、案山子同然の敵だ。歯車を露出させて蒸気を吹き出すその姿は、見るものに愛嬌を振りまく。ドールと名前にあるし、設定上は機械人形とかそういったものの成れの果てなのだろうか。


「わかった」


 トリシアは頷き、「ジャンクドール」のいる崩壊した古城らしき建物のそばに走っていく。にわかに青や緑の光が放たれて、彼女がこのゲームにおける戦闘の基本を習得していっていることを示していた。


 すぐにボロボロの機械人形は倒れ、バラバラになりながらフェードアウトするように消滅する。それを確認したトリシアは、また走って帰ってくる。


「よし、次、いこうか」


 まだ足りないと額に書いてあるような表情のトリシアに苦笑しながら、俺は次の目的地へと足を進めた。


 ちらほらといる「ジャンクドール」をトリシアが片っ端から切りつけ、倒しながら進んでいると、古城跡の陰から大きな泉が姿を現す。


「わあ……」


 トリシアがちいさく歓声をあげたのも無理はない。泉は普通のものではなく、紫や緑などさまざまな光を反射しているのだ。近寄ってみると、泉の底には何か宝石のように透き通った岩がごろごろとあることがわかる。


 と、その水を割って出てくる者がいた。魚のようなぎょろりとした瞳。水掻きのついた腕と足。熱帯魚のような派手な赤色。


 このエリアに出現するレベル40のモンスター。「ルビーサハギン」だ。〈フルンティング〉で対抗するには少し荷が重い相手だが、一体ならば大丈夫だろう。


「敵だぜ、相手してやれ」


 突然出てきたモンスターのせいでびっくりした顔のトリシアに声をかけると、我に返ったようにこっちを向いた。俺はその顔に頷いてみせる。


 するとトリシアは剣を握っていないほうの手を握りしめ、力強く頷き返してきた。そしてすぐに「ルビーサハギン」に向かっていく。


 近づいてくる相手に反応した「ルビーサハギン」は、その口を開いて威嚇しながら、右手を振りあげる。それを見て取ったトリシアは、ダッシュを無理矢理止め、そこから敵の側面に回り込むようにして再び走り出した。


 慌ててトリシアを追う「ルビーサハギン」は、そこでいきなり飛んできた単発弱刺突スキル〈ピアース〉によって顔を貫かれる。その痛みに奇声を上げ、腕を振り回すも、そこにはすでにトリシアはいなかった。


 初めてにしては上出来だ。正面からぶつかっていかない所が賢いと言わざるを得ない。俺とは大違いだ。


 その後も、同じように敵の側面に回り込みながらスキルを叩き込もうとする。だが、単発重斬撃スキル〈グラント〉をヒットさせて大ダメージを与えるも、その慣性で体が引っ張られ、無防備に体を置いてしまう。そこに「ルビーサハギン」のカウンターが入り、トリシアは三メートルほど吹き飛ばされる。


「大丈夫か!」


 俺が叫び、トリシアがぶんぶんと首を振りながら起きあがる。その瞳はキッと敵を睨み、そして口は必殺となる言葉を発する。


「解放……」


 言うなり、トリシアは瞬時に体勢を建て直し、全体重を乗せた刺突を「ルビーサハギン」に叩き込んだ。解放必殺技によるシステムアシストと能力値を越えた破壊力を持つ剣先が敵の胸に突き刺さり、一気にHPを削り取る。


 断末魔の叫びを上げ、淡い光を放ちながら「ルビーサハギン」が消滅する。俺はもしもの時のために起動しておいた〈プラネタリウム〉を解放してMPを回収し、拍手を送る。


 どうやら、この義妹にはなかなかの戦いの才覚があるらしい。俺はそのことに驚きつつも、作戦を完遂するために次のステップに続く準備にかかった。



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