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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT1 「幻からのシシャ」
23/62

A1-12

 このゲームには、二つだけ最高レベルが250のダンジョンが存在する。


 一つは全五階層のダンジョン、「深淵界」、もう一つは五つのエリアが存在するダンジョン、「星零界」だ。それぞれ最高クラスの強さを誇るモンスターが闊歩し、地形も入り組んでいる攻略には困難を極めるダンジョンだ。あまりにも敵が強すぎるために、素材収集目的以外ではほとんど立ち寄ることのない、まさしく秘境だ。


 そしてそれぞれの最深部には、ギルガメッシュ・オンランではもっともレベルの高いボスが待ちかまえているのだ。


 〈オメガウェポン〉は、「星零界」の最深部にいるボスがドロップするスフィアーツだ。そのドロップ率は100%、倒せば確実に手に入るものの、しかし〈オメガウェポン〉は現存するスフィアーツの中で最も入手の困難なスフィアーツとして知られている。


 まず、そのボスの強さからしてありえないらしい。ラザさんが言うには人型らしいが、それがまさに〈オメガウェポン〉を以てこちらに襲いかかってくるのだという。その絶望感たるや、筆舌に尽くしがたいとはやはりラザさんの言葉だ。


 〈オメガウェポン〉が起動された光が収まり、ラザさんの手にはあまりにも巨大な剣が握られているのを見ることができる。牙を思わせる二つの刃が組合わさり、巨大な生物のあぎとを思わせる剣身。原始的な強さを主張するそれとは対照的に、リボルバーの拳銃のような無骨かつメカニカルな意匠を持つ柄。それらが薄紫色のオーラを纏って、敵を威嚇していた。


 手始めに、ラザさんは〈オメガウェポン〉の剣先を向け、柄にある引き金を引いた。


 直後、剣身のあぎとに紫色のオーラが凝縮され、白竜へと発射される。その弾速は速く、まさしく砲弾のごときエネルギーを以て牙を剥いた。


 砲弾が命中し、白竜が大きく姿勢を崩す。それだけで、白竜のHPは1000以上減った。ラザさんは柄にあるレバーを引き、がちゃりという音とともに次弾を装填する。


 ラザさんを最大級の危険と判断し、白竜は体制を立て直すと滑空しながら突進を敢行した。


 ラザさんは冷静に〈オメガウェポン〉を構えると、さらにもう一発、砲弾を発射する。真っ正面から向かっていった白竜は避けきれず、砲弾がヒット。白竜はまたバランスを崩す。


 あれほどの巨体に、その重量。この竜を怯ませることのできる攻撃など、いくらもない。だから、この竜にはそういった攻撃を食らったときの対処法がプログラムされていないのだろう。されていたとしても、〈オメガウェポン〉の前には関係ないだろうが。


 ラザさんは白竜がバランスを崩した隙を逃さず、地を蹴る。巨大な剣を持っているにも関わらずほとんど飛ぶようなスピードで白竜に接近したラザさんは、その勢いのまま〈オメガウェポン〉を降りおろす。


 それからは、一方的な展開となった。すべてのスフィアーツの中で最も重い重量を持つ〈オメガウェポン〉は、その一撃でどんなモンスターの態勢でも崩す。元々攻撃の予備動作の大きい白竜は、飛び上がろうにも砲弾に打ち落とされ、近くで攻撃しようにもSランクの機動力と限界突破した筋力に裏打ちされた機動で死角に回り込まれ、致命的な攻撃をなすすべもなく食らっていく。


 もしプレイヤーが〈オメガウェポン〉使いと戦って、この悪夢を終わらせるためには、リタがやったようにまず起動させないか、解放必殺技をヒットさせて〈オメガウェポン〉の耐久値を減らすしかない。だが、現在白竜には〈オメガウェポン〉の耐久値を大きく減らす手段は存在しないのだ。


 そして、それは〈オメガウェポン〉を落とすボス、「星の皇帝」と戦うときも同じだ。スフィアーツを使うボスは、多くの場合武器に耐久値が設定されていない。だから、〈オメガウェポン〉を求める勇者たちは、この悪夢を真っ向から受け止めなくてはならない。いったい、どうやったそんなことが可能なのだろう?

 一度ラザさんに聞いたことがあるが、「もう思い出したくない」と言われてしまったものだ。


 そうしているうちに、白竜のHPは一万を切る。だが、時間経過で耐久値が減っていくために、〈オメガウェポン〉もあと少ししか使えない。


 だが、〈オメガウェポン〉にはまだ解放必殺技が残されている。さあ! いまだ! (効果:相手は死ぬ)とまで言われるその必殺技を、見せつけてやれ!


 俺の期待が届いたのかどうかはわからないが、ラザさんはついに〈オメガウェポン〉を解放する。剣身のあぎとが開き、そこに膨大なエネルギーが蓄えられる。禍々しさと神ヶしさが入り交じったその威容に、俺は息をするもの忘れて見入った。そして巨大な砲弾が発射され、直後、大音響とフラッシュが視界を覆い……





 そして俺の目の前に表示されたのは、「You are died」の文字だった。






「あーくそ。なーんかおかしいと思ってたんだよ。普通、強いフラッシュを伴う攻撃って、味方のやつなら仲間の位置は見えるはずだしな……」


 エリに蘇生アイテムを使ってもらい、墓から脱出した俺は、負け惜しみぎみに言った。


「ご、ごめん。僕も、すっかり忘れてたよ……」


「あー、いいよいいよ。……って、リタ。おまえは何で生きているんだ?」


 俺がラザさんの後ろから顔を出したリタに向かって言うと、リタは視線で聖堂の柱の影を示した。


 まあ、理屈はわかる。リタはマップの遮蔽物を使って、〈オメガウェポン〉の解放必殺技から身を守ったのだ。相変わらずおかしい危険察知能力だが、くそッ、やはり〈フレンドリーファイア〉が不人気な理由はこれだ。


「ところで、みんな、あいつはどんなアイテムを落としたんだ?」


 俺が言うと、皆初めて気がついたかのようにアイテム欄を確認し始める。


「わたしは……鱗とか、爪とか、そんな感じですね」


「白子の鱗……? なにこれ?」


「僕は……と。盾系スフィアーツだね」


 おお、盾系とは、珍しい。このゲームにおいて盾系スフィアーツは数少ない防御要因だ。伝説上の盾の絶対数が少ないというのもそうだが、盾の性能のバリエーションを多くするのもまた難しいのだろう。


「名前は〈アルビノクラッド〉。レベル120で、防御値がAだけど魔法吸収がついてる。なかなか強いね」


 アルビノクラッド。白子の外殻、か。というかあの竜はアルビノだったのかよ。確かに白い鱗に赤い瞳だったが。


「とにかく、いったん戻りませんか? いつまでもここを占領しているわけにもいきませんし」


 エリが言い、俺たちは部屋の扉を開く。そしてそこには、六人のプレイヤーがいた。


「あ……」


 エリが声をあげ、俺たちは立ち止まる。彼らは思い思いの得物を持っており、ボス戦の前の待機状態だったことがわかる。


 ……気まずい。


 そんな俺たちの気持ちを知ってか知らずか、先に口を開いたのは相手のほうだった。


「あれを……倒したんですか?」


 そう言って驚いた顔を見せたのは、豪奢な飾りのついた両手杖を持った男だった。その雰囲気を見る限り、いきなり文句を言われるようなことはなさそうだ。


「そうです」


 ラザさんが答えると、六人の間で戸惑うような声が聞こえてくる。四人で……?

 とか聞こえてきたが、まあ確かにこの人数でよく倒せたものだと思う。


「失礼しました。私たちも、ここのボス攻略を目指していまして、もしよかったら、どうやって倒したか教えてもらえませんか? 実は、私たちもボスと戦ったのですが、後少しのところで全滅してしまったんですよ」


 やはり、先行していたパーティーだ。ラザさんが目配せしたので頷くと、ラザさんが事情を説明する。


 要するに、ボスが瀕死状態になってから〈オメガウェポン〉でごり押ししたという事情だが、六人のリーダー格らしき男は感心したように頷いた。


「なるほど、同じ重量武器でもXランクじゃないと止められないんですね」


「ええ、あとは〈アスカロン〉の解放必殺技でものけぞらせることが可能でした」


 話を聞くうち、六人のパーティーは特定の属性を強化するアビリティで固めた魔法使い四人で高火力の魔法を打ちまくる戦術を使っていたことがわかった。


「それなら、今の編成ではつらそうですね。ボスも倒されてしまいましたし、私たちはまた今度挑戦するとしましょう」


 リーダー格の男がパーティーメンバーを促し、六人のパーティーは帰還すべく英雄碑へと歩き始める。しかし、その中で一人、声をあげたプレイヤーがいた。


「あ、あの! もしかしてあなたは、英雄相談所のエリさんではありませんか!」


 俺と同じぐらいの年齢のアバターを使っている少年で、興奮と緊張の入り交じった表情でこちらを見つめている。


「はい、そうですけど……」


 エリが答えると、男はうれしそうな顔で言葉を続ける。


「やっぱり! えっと、エリさんが番組に出てるとき、いつも見てます!」


 要領を得ないファン宣言だったが、エリにはしっかり伝わったようだ。


「あら、そうですか? それは、ありがとうございます」


 エリが元気のいい笑顔を向けると、少年は頬を赤らめ、ためらいがちに言った。


「あの……握手してもらってもいいですか!」


「いいですよ」


 エリが笑顔で了承し、少年の手を握る。やっぱり、笑顔って印象として大事だよな。なんて考えていたら、六人のリーダー格の男がラザさんに再度話しかけてきた。


「エリさんがいるってことは……もしかして、みなさんも英雄相談所のメンバーなんですか?」


「まあ、そうですよ。そうは言っても、裏方ですけどね」


「いやあ、謙遜することはないですよ。番組の中の詳細なデータを調べるのとか、大変でしょう? それに、〈オメガウェポン〉だって持っているっていうじゃないですか。すごいなあ」


「そちらだって、ここまで誰も欠けずに来ているんでしょう? 十分すごいと思いますよ。そうですね、もし、みなさんがよかったら、今度ここに攻略に来たときに、ご一緒してもいいですか? ここのボスを攻略するパーティーの取材をしたいんですよ」


 そうしてラザさんが取材のアポイントメントをとり、エリがファンの少年と会話している間、リタはまったくの蚊帳の外だった。気まずそうにするでもなく、ラザさんの隣にいる俺に話しかけるでもない。ただそこにいない人間であるかのように、ぼうっとしているだけだ。


 そして俺はと言えば、


「あなたは、もしかして〈ファルスクエア〉の回で戦ってたガルドさんじゃないですか?」


 一応は知られているようだ。俺が返事を返すと、ラザさんと話していたその男が「おお!」と反応する。


 そんな風にして始まった突発的井戸端会議は、少し意外な形で終わることになる。


「なあ、あんたたち、ボスの扉の前を塞ぐたあ、いい仕事してんじゃねえか」


 声のした方向を振り返ると、そこにはいかにもガラの悪い集団がいた。全部で十二人はいるだろうか、ファンタジーらしく皮鎧などは着ているものの、髪型や装飾品は派手目だ。


「悪いが、俺たちがここを通る。邪魔するってんなら、おまえらの墓をここに残してもらうぜ」


 そうして威圧的な態度を見せた男に、俺はなんとも気分の悪いものを感じる。


 さてさて、様々なゲームに、ネットワークを介したコミュニケーション機能が付いているこのご時世。どのようなタイトルにも、当然ながらマナーというものがある。例えば、効率のいい狩場を長時間独占したり、道を塞いだりするというのは明確なマナー違反であり、ゲームによっては、システムによってそういった行為が禁止されている場合がある。


 MMO、ひいてはそれがVRを用いたものなら、マナーは非常に大事なものとなる。このゲームではダンジョン内でのPK、プレイヤーキルが可能であり、死亡したプレイヤーのアイテムを他人が奪うことも可能だ。しかし、可能だからといって、それが容認されるかというと、そういうわけでもない。


 相手の行っているのは、明らかな脅迫行為。要するに、ここを当さないと殺すと言っている。ボス部屋の仕様によって「順番待ち」が生じるこのゲームでは好まれないものだ。


「そうかよ、ならさっさと通りな」


 だが、今のところ俺たちと相手の利害は一致している。


 俺はなるべく口調を合わせて言うと、その場の皆に目配せをする。周囲の同意が得られたところで、俺は歩きだし、その場にいた十人全員がガラの悪い集団の脇を通り抜けた。


「なんて言うと思ったか!」


 全員がガラの悪い集団の脇を通り、扉のある場所から十分に離れたところで、俺は一人、全力疾走を開始する。こういう輩は、他の場所でおこういった恐喝行為をしている可能性が高い。今のうちに、マナー違反とはどういうものなのか知っておいたほうがいいだろう。


「なっ、待て! ガルド!」


「総員、一応リスポーンポイントをここ以外の場所にしろ! あとはどうなっても知らねえぜ!」


 叫び、〈ファルスクエア〉を起動、自分に中級回復魔法〈スーパーヒール〉をかける。しかしそれは〈ファルスクエア〉の効果によって俺のHPを減らす呪いとなり、俺のHPは一気に半分を切る。


 そしてすぐに解放。〈リフレクション〉と〈エクスプローション〉を同時に発動する。


「見ろ! これが芸術ってやつなんだよォォォォォォ!」


 そう叫び、大破壊をもたらす爆炎を蓄えようとした瞬間、唐突に〈リフレクション〉の殻が砕け散り、俺は背後から強烈な衝撃を受けて一気にHPがゼロになった。再び視界に現れる「You are died」の文字。


 〈アスカロン〉によって俺を一瞬で墓に変えたリタの肩にラザさんが手を置き、とてもイイ笑顔を浮かべてこう言った。


「ああ、このバカのでよければ、持って行っていいですよ」


 ガラの悪い集団は、一様に顔を引きつらせてボス部屋の中に入っていった。


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