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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT1 「幻からのシシャ」
21/62

A1-10

「ぐッ! エリ、回復を頼む!」


「はいっ!」


 巨大な爪で引き裂かれ、大きなダメージを受けた俺は一旦引きながら叫ぶ。それを聞いてラザさんが盾を構えて俺を守り、エリが回復魔法を唱える。


 対峙するのは、全高五メートルはあろうかという赤い鱗を纏った竜だ。胴体がずんぐりしている西洋タイプのドラゴンで、その印象に違わず口から吐くブレスや、体重を乗せたひっかき攻撃が強力な威力を持っている。


 この竜の名前を「クリムゾンウィル」という。このダンジョンにしか存在しない、レベル80のモンスターだ。しかし、こいつはその数値以上の実力を持っている。アビリティ〈看破〉を三つ装備した俺には、この竜は能力値こそ普通だが、〈炎属性攻撃強化5〉を持っているうえ、モンスター自体の体重がすさまじいことが見えている。HPもかなり多い。


 続けて振り下ろされた竜の爪を、ラザさんが〈イージスの盾〉で防ぐ。現在、〈イージスの盾〉の効果による鈍足を食らって離れた相手を追うことはできない。さらに〈ダインフレス〉で切りつけたときに毒状態も入ったから、HPもガンガン減少している。俺のように偶発的なダメージを受けることはあるものの、戦況はこちらが有利だ。


 そう、この竜は図体こそ大きいが、ボスではないのだ。というか、このダンジョンにはこういった巨大な竜しかいない。


 白竜の王城。その名前に偽りはなく、マップ自体も白亜の神殿、いや城のようだ。窓や天井には豪奢な装飾がなされ、中にいるだけでなんだか居心地が悪くなりそうだ。


 だが、それは人間の住むためのサイズではない。廊下だけでも幅二十メートルをゆうに越えるし、天井だって見上げるほどだ。そしてなにより、広い。この城が屋内であることをほとんど忘れそうだ。


 そしてその住人は、すべて竜。竜が住むのにこんな装飾とか窓とかが居るのかは疑問だが、それはこのダンジョンを「夢見た」人間の想像力の問題としておこう。


 そして、外から見たら尖塔に見えるであろう、先が見えないほど高い天井のある十字路を通るたび竜が雄叫びを上げて降ってくるので、心臓に悪い。位置的には中ボスなのだが、それぞれが油断すると一撃死しかねない力をもっているのだから、たちも悪い。


 とはいっても、俺、エリ、ラザさん、リタの四人でやれば楽勝とまではいかないが圧勝できる。ラザさんは最強クラスの盾である〈イージスの盾〉を持っていて戦線を維持できるし、アタッカーとなる俺とリタで間髪いれずに攻撃できる。そして後ろには魔法によるサポートができるエリが控えているのだ。パーティーとしてのバランスは申し分ない。プレイヤースキルだって十分だ。


 ラザさんが攻撃を受け止めている間に、リタが右手に持った〈アスカロン〉で切りつける。レベル60の剣の中では極端に重いその刃は、多めのダメージボーナスと相手の体勢を崩す効果を生み出す。


 ラザさんの背中の後ろから飛び出し、すかさず俺も攻撃に加わる。〈ダインフレス〉に緑色の光を纏わせ、重い二連刺突を突進しながらお見舞いする。


「みなさん! MP貯まってきたので、〈ポセイドン〉解放します!」


「了解!」


 返事をし、俺とリタが下がる。ラザさんはそのまま残り、竜をその場所にとどめる役割を続行する。


「いきます!」


 エリが言い、スフィアーツの光とは別に浮かんでいる魔珠系スフィアーツ〈ポセイドン〉の碧い光をさらに強くする。


 その直後、竜を中心に大規模な水の奔流が発生し、竜をもみくちゃにする。水属性地形破壊魔法〈ダイダルウェイブ〉だ。だが、通常状態で使うそれとは、範囲も威力も桁違いとなっている。


 〈ポセイドン〉は解放必殺技として、〈ダイダルウェイブ〉を瞬間発動する能力を持っている。元々消費MPが110の〈ダイダルウェイブ〉を、起動時の消費MPである80だけで発動できるのは確かに魅力的な効果なのかもしれないが、パーティーでの戦闘では後ろにひっこんで魔法を詠唱することで消費MPを節約する魔法使い特化型プレイヤーにとっては無用なものだ。


 だから、俺がこのゲームを始めた頃は好き好んで〈ポセイドン〉を使うようなプレイヤーはいなかったのだ。威力だけならば致命級魔法である〈メギドフレイム〉のほうが強いし、一段階下の水属性上級魔法〈ペインスコール〉も威力はともかく範囲は申し分ない。前衛に守ってもらい、アビリティによって強化したそれらを撃つほうが効率的だ。


 だが、エリがこのゲームを始めた頃、特定の魔法を発動する解放必殺技にはある利点があることがわかった。


 それが、アビリティ〈オーバードライヴ〉の利用だ。スフィアーツの解放時に余計にMPを消費することで解放必殺技の威力を上昇させるこのアビリティだが、〈ポセイドン〉のようなスフィアーツにセットすると〈ダイダルウェイブ〉の威力と攻撃範囲がどちらも上昇するのだ。


 それだけなら、魔法の消費MPを増加させることで魔法を強化する〈スペルブースト〉の融通が聞かない劣化版に思えるが、〈オーバードライヴ〉にはそれ以上の利点がある。威力と範囲の上昇が〈スペルブースト〉とは比べ物にならないほど大きいし、MPを消費するタイミングはスフィアーツの解放時だから、単純に魔法の消費MPを増やすのではなく、消費するタイミングを分散させているからデメリットとしてはさほど重くない。しかも魔法は瞬間発動なので、追いつめられたときの一撃必殺技として優秀な能力を持つ。


 この事実が明らかになってからは、一発逆転の切り札として肩の上に〈ポセイドン〉を浮かべるプレイヤーが増え、PvP大会では大いに警戒されることとなったのだ。


 炎属性の竜であるために水属性の状態異常である毒も防げなかったこの赤竜は、お察しの通り水属性が弱点だ。強化版〈ダイダルウェイブ〉によって赤竜のHPは爽快なスピードで減少し、そしてゼロになった。実に、最大HPの半分近くを削る威力である。


 竜が断末魔を上げ、濁流が収まる頃には消え去っていた。竜をその場に押しとどめていたラザさんには傷一つないのは、まあゲームのお約束として受け止めてもらいたい。


 だが、プレイスタイルの関係上〈フレンドリーファイア〉を装備している俺とリタにとって、あれは危険だ。仮に水属性を完全に向こうかするバフをつけていたとしても、起動していたスフィアーツがすべて粉砕されていただろう。ダメージこそないものの、盾専用スキルを使用していなければラザさんも濁流に飲まれ精神的にたいへんなことになっていたはずだ。味方に迷惑がかかるのは悲しいかな地形破壊魔法の宿命だ。


 ドロップアイテムが自動的にそれぞれのアイテムストレージに分配されると、ラザさんが感嘆しながら言った。


「いやあ、やっぱり魔法職は派手でいいよね。地形破壊魔法とか、まさに大魔法って感じで」


「俺たちじゃ消費MPの関係で使えもしないからな。使ったとしても威力が知れてるし」


「わたしたちから見たら、近接特化スフィアーツの機動力をちゃんと使いこなせてる人たちのほうがかっこいいと思いますよ?」


 隣の芝は青く見える、というやつだ。ラザさんから始まった会話は、最後にラザさんまで戻ってくる。


「でも、一番派手なのは間違いなく〈オメガウェポン〉だよな」


「そうですね」


「違いない」


 その様子を見ていたリタが、首を傾げながら会話に入ってくる。


「ねえ、どうしてラザさんは〈オメガウェポン〉を使わないの?」


「あー、うん。使いたいのはやまやまなんだけどね。あれって起動時に使う消費MPが250だから、耐久値を使いきった時点でMPのほとんどを失うんだよね。でも、今この中で盾を持っているのは僕だけだろう?」


 このゲームをやったことのある人間の中なら、これは常識だ。だからこそ、入手が困難を極める〈オメガウェポン〉は、その希少性にも関わらず分解して素材にされてしまうちょっとした不遇武器でもある。


「じゃあ、僕が前線で盾役をやったら、ラザさんも〈オメガウェポン〉を使えるの?」


「できるのか?」


 俺が聞くと、リタは自信ありげにうなずいた。


「そうか、じゃあ、お言葉に甘えて。次の戦闘では〈オメガウェポン〉を使おうかな」


 さきほどの竜ならば、〈オメガウェポン〉の前では為すすべもないだろう。俺は次の獲物となる竜に対して、心の中で合掌した。


 しかし、次の戦闘はなかなか発生しなかった。中ボスの竜が出現する十字路を通っても、襲われることがないのだ。


「なあ、もしかして直前に攻略パーティーが来てたんじゃないか?」


「かもねえ、こちらは戦闘せずにずっと走ってるのにぜんぜん追いつかないから、結構実力のあるパーティーみたいだね。もしかしたら複数のパーティーがいるのかも知れない」


「なあエリ、この地図は取材のときにマッピングしたやつなんだよな?」


 俺が聞くと、エリは肯定のしぐさとして首を振った。


「はい。わたしが同行したパーティーは、ボスのところまでたどり着いて、そこで全滅しましたから、ボスのいる部屋の位置は間違いないです。ですが、ほかに道がないという保証はありません」


「なるほどな。で、その時の映像は放送されたのか?」


「一週間ぐらい前ですが、特にボスの大きさと強さが話題になっていましたよ」


「そうか。だったら先客はそのときのルートを辿ったんだろう。俺たちも同じルートを進んでいるわけだしな」


 なんにせよ。先に障害となるモンスターを倒してくれているのはありがたい。少し物足りない気もするが……。


「……っていうことは、ボス攻略も先を越されるんじゃないか?」


 円卓の騎士などの強制タイマン型ボスはともかく、パーティーで攻略することを前提に考えられたダンジョンのボスは、倒されると三十分から数時間経たないと復活しない。もし、先にいるパーティーがこのダンジョンのボスを倒してしまっていたら、俺たちはそいつにお目にかかれないというわけだ。


「まあ、今回はボス攻略が目的じゃないんだし、別にいいんじゃないかな」


 ラザさんが言うが、俺はどうにも煮えきらない感情をもてあます。


「そうだけどよ。せっかくここまで来たんだから、ボス攻略もしたいじゃねえか、なあ、エリ」


「え? わたしですか? わたしは、この前の取材でボスは見ましたけれど……」


「あーはいはい。わかったから。なんにせよ、まだボスが倒されたと決まったわけじゃないんだから、とにかくボスの部屋まで行ってみようよ」


 ラザさんが会話を区切ると、リタが「おー」と賛成する。移動再開だ。


「なあエリ、このダンジョンのボスってどんなやつなんだ? 一緒に行ったパーティーが全滅したってことは、結構強いやつなんだろ?」


 道中、俺が気になって聞くと、エリはわざとらしく口をとがらせた。


「えー、ガルドさんっていつもネタバレすんなって言うじゃないですか」


「そりゃ、そうだが。先行しているパーティーがいるんだぜ。のぞき見はできないんだし、それに今回は四人そろってるし、作戦ぐらいは立てたいじゃねえか」


「僕も聞きたいな。たぶん、次に〈オメガウェポン〉を使うの、ボスになりそうだし。あと、リタ君が前衛になるからね」


 ラザさんの言葉に賛同するように、リタがうんうんと首を振った。


「しょうがないですね。教えてあげます」


 何がしょうがないのかは分からないが、エリは偉そうに言ってから説明を始める。


「ボスの名前は、『白竜クラッド』。名前の通り、白い鱗のすごく大きな竜です。たぶんここの中ボスの三倍ぐらいはあるんじゃないかと思います。攻撃パターンは通常の竜タイプのモンスターと特に変わりませんが、とにかく重くて、一人だと盾受けすらできません。なにより、HPが十万以上ありますし、属性魔法なら地形破壊魔法まで完全に無効化するようです」


 なんと、HP十万越えとは。なかなか見ない値だ。一応、とあるレアモンスターのHPは少なくとも三十万以上あったりするのだが、あれはいくつものパーティーが死に戻りを繰り返してHPを削っていく敵なので、例外だ。


 通常のダンジョンのボスは、ボス部屋と呼ばれるエリアに存在する。ボス部屋に入ることのできる人数は決まっており、それ以上の人数が入ってもボスは現れない。規定の人数が部屋に入り、部屋の扉が閉まるとボスが姿を現すのだ。一応、アイテムによって脱出は可能だが、乱戦になるとそれも難しい。


「そうか、地形破壊魔法まで完全に吸収とは、やばい装甲だな」


「そうですね。わたしは後ろでバックアップに徹することになりそうです。まあ、MPが溜まったら解放使いますけどね」


「そうだな。頼りにしよう。でも、乱戦時に〈ダイダルウェイブ〉は勘弁な」


 俺が冗談めかして言うと、ラザさんとリタが陽気に笑う。なんだかな、この二人、相性がいいっぽいぞ。


 HPが高く、魔法がほぼ通用しない相手にこのメンバーでそこまで戦うことができるか。俺は期待に胸を膨らませながら、巨大な廊下を駆けた。


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