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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT1 「幻からのシシャ」
17/62

A1-6

 友人を探して訪れたのは、城塞都市ドリストレグンという鉄と蒸気の街だった。


 ドリストレグンの街並みは中世ファンタジーの世界観には合わない近代的なもので、至る所で煙突から煙をあげる建物が立っている。地球上の歴史で例えるならば、産業革命直後のヨーロッパだろうか。


 このゲーム世界観は空中都市のようなファンタジックなものがあったり、この街のようなゴツイものあったりするという感じでまちまちだ。一応弁護しておくとこのゲームは「これまでに起こった、またはこれから起こる伝説の物語」という世界設定を持っているので、まあ矛盾はしていない。


 鉄と蒸気の街らしく、このホームタウンではスフィアーツやスキルを「制作」する店が多く存在し、またプレイヤー同士で自由に決闘が行えるコロシアムも存在する。


 ラザさんはその中で、スキルを制作する店にいた。


 店番のNPCの前で顔をしかめ、考えごとをするその姿は、歴戦の戦士が武器の品定めをしているかのようだ。暗めの茶髪でブラウンの瞳を持つその渋い顔には古傷が通っており、なんともいえぬプレッシャーを放っている。着ている鎧にしたって金属のプレートとチェインメイルを組み合わせたような中世ファンタジーの傭兵そのものだし、まあこれほど「らしい」人もそうそういまい。


 そんな人がしかめ面をしているのだから普通は話しかけづらいものだが、


「よう、ラザさん。いいスキル作れそうか?」


 俺は気安く声をかけられる。このオッサンが、実は見た目ほど中身が歳をとっておらず、性格もらしくないことを知っているからだ。


 俺の声に反応したラザさんは、その厳しい表情を崩し、人の良さそうな顔でこちらを向く。ほら、気を抜くとすぐにこれだ。


「やあ、ガルド。折り入って相談ってなんだい?」


 やはりミスマッチなことこの上ない。本人が二十代前半らしいから渋いオッサンの貫禄など出せるはずもなく、ただの人のいいオッサンに甘んじている。


「ああ、ちょっと困ったことになってな。こいつのことなんだけど……ちょっと人の少ないところで話したいんだ」


 俺が後ろからついてきたリタを指さすと、ラザさんはちょっと意外そうに声を上げた。


「へえ、その人がどうかしたのかい……っと、はじめまして、僕はラザルス。みんなはラザさんって呼んでるから、君もそう呼べばいい。君は?」


「僕は、リタ。よろしくね」


 ラザさんことラザルスがリタに握手を求め、リタが応じる。どうやらリタは大人に対しても物怖じしない性格らしい。


「そうだな……話す前に、ちょっとコロシアムで戦ってみないかい? 君がどんな人なのか、知っておきたいんだ」


 ラザさんの提案にリタがうなずく。続いてラザさんがこちらを向いたので、俺も首を縦に振った。


「いやあ、ちょっと前まで取材対象になる人たちと決闘するのが日常茶飯事でね。交渉するにも相手のことを知るにも、一度戦ってみるのがいいんだよ」


 ラザさんは俺と同時期にこのゲームを始めたプレイヤーだが、俺よりも戦闘に関する腕は確かだ。飛び抜けて強い……それこそリタのような強さはないが、粘り強い堅実な戦い方が特徴だ。その根性で、超レア武器である〈オメガウェポン〉を入手するまでに至ったのだから本物だ。


「なるほどな。そういえば、さっきスキル制作していたみたいだけど、なんかいいのできたか?」


「高性能なスキルは合成するうちにできるんだけどね……。ほら、僕はアビリティの関係上、メインがあれ一本だけでしょ? スキルも五つしか装備できないからあんまり大技も入れられないし、なんとも歯がゆいよ……」


「確かにあれ一本じゃなあ……。さすがに〈オメガウェポン〉を通常運用できたらゲームバランスもあったもんじゃないし、セットできるスフィアーツが五つってのは多いようで少ないよな」


 ラザさんが使うスフィアーツの一つ、〈オメガウェポン〉は、俗に言う「ぶっこわれ武器」と呼ばれる類のものだ。装備中は多くのステータスが限界突破し、通常では考えられないほどの戦闘力を発揮することができる。しかも解放必殺技も超強力で、その威力は「英雄相談所」のとあるスタッフによる検証の結果、12000あることがわかっている。なんとあの剣精をほぼ二発、教官王なら三発で倒す威力だ。もちろんプレイヤーが食らったらひとたまりもない。


 そんな〈オメガウェポン〉(効果:相手は死ぬ)とまで言わせる性能なのだが、その分デメリットは大きい。


 まず、起動に必要な消費MPは堂々の250。十五個あるアビリティ枠すべてを〈MP上昇〉で埋めなければ起動することさえできない。さらに、起動中は常に武器の耐久値が減少するうえ、〈オメガウェポン〉を起動した瞬間ほかのスフィアーツの起動状態が解除されてしまうのだ。そしてもう一つ、「加護」によるHP、MPの自動回復効果が消滅する。


 つまりなにが言いたいかというと、致命的なまでに対人戦闘特化のプレイヤーに対して弱いということだ。アビリティ欄をすべて〈MP上昇〉に使うために状態異常を使われると手も足も出なくなるし、武器破壊系のアビリティやスキルを使われたら目も当てられない。起動時にMPをすべて消費するので、〈オメガウェポン〉の起動状態が解除されたら、そこに残るのはただ最大MPが高いだけのサンドバックだ。そうでなくとも、〈オメガウェポン〉は常時その耐久値が減っていくというウルトラ性能なのである。


 そして、このラザさんは〈オメガウェポン〉を使う数少ない猛者だ。当然、アビリティはすべて〈MP上昇〉で埋まっているし、〈オメガウェポン〉だってしっかり装備に入れている。それ以外の装備も、すべて〈オメガウェポン〉を実用的に使うためのものだ。


 ま、それもリタとの戦いで見せてくれるだろう。


 コロシアムについた俺たちは、まず受付にいるNPCに話しかけ、闘技場を借りる旨を伝える。プログラムで設定された言葉しか喋ることのできない町のNPCは、しかし非常に自然な表情で俺たちを闘技場へとつながるポータルについて説明してくれる。曰く、闘技場には自由観戦可能なものと、規定したプレイヤーのみ入ることのできるものがあります、どちらにしますか?


 もちろん、身内で楽しむための闘技場を選択する。俺たちは行き先が決定されたポータルへと入場し、闘技場へと現在位置を変えた。


「デュエルモードは、準備時間ありの完全決着でいいね? 賭けるアイテムはなしっと」


 ラザさんが確認し、リタの目の前にデュエルの受諾を促すメッセージウィンドウが出現するが、当の本人はなんだか不安そうな顔を俺に向ける。その意図を悟って、俺はため息混じりに解説した。


「デュエルってのは、ホームタウンの中でも戦闘を行う機能のことだ。道ばたで戦闘をされたら迷惑だからこういうコロシアムじゃないとできないんだがな。で、ラザさんが選択したのはHPが全損すると決着がつくやつで、開始十秒は相手の一定範囲まで近づけないルール。その時間でバフをかけるなり準備をするんだよ」


 リタは頷き、ラザさんはおや、とでも言うように眉を上げる。とりあえずルールを理解したリタは、デュエルを受諾する。


 平坦な円形のフィールドで対峙したラザさんとリタは、まだそれぞれの得物を持っていない。俺はデュエルが始まるまでの待機時間を見ながら、戦場から離れ観戦席へと走る。闘技場はその材質こそ金属系だが、ローマのコロッセオを元にしているらしく、たくさんの人が座ることができる構造になっている。身内で楽しむデュエルとはいえ、こんな広い観戦席で一人とはいささか落ち着かない。


 それぞれの前に表示されていた待機時間がゼロになり、デュエルが開始される。しかし、剣を打ち合わせるのはまだだ。ルールで規定された時間内では、相手の一定範囲内には近づけず、まずはスフィアーツを起動するなりバフをかけるなり準備をすることになる。


 リタは、アーサー王と闘ったときのように、まるで舞を演じるようにして剣を振り続け、多数のスフィアーツを装備するとともに自分にバフをかけていく。

対するラザさんは両手杖の〈プラネタリウム〉を起動し、雷、地、氷属性を半減すると同時に対応する状態異常を防ぐバフとMP自動回復機能を持つバフを自分にかけ、すぐに解放。一メートルはある柄の先から広がるプラネタリウムがごとき美しい円形のホログラムを光らせ、消滅させる。間を置かず中心に恐ろしげな怪物の顔がはまった盾と、豪奢な装飾がなされた直剣を起動する。


 直剣のほうを、〈器無き王の剣〉。盾のほうを、〈イージスの盾〉と呼ぶ。前者は攻撃力以外のパラメーターが一切上昇しない特殊な剣で、後者は防御力が非常に高く、盾を視界に入れたものを「鈍足」の状態異常にする強力な盾だ。


 準備時間中にかけたバフも、アビリティで補えない状態異常への対策だ。そのままでは効果時間が三分しかもたないが、まあそれも仕方がない。


 準備時間の十秒が終了し、同時にリタが地を蹴って急激に接近する。ラザさんも〈イージスの盾〉を構え、来るべき初撃に備える。


 リタはほとんど飛ぶような速度で接近しながら右手の剣をふるう。〈イージスの盾〉による「鈍足」の効果は受けておらず、どうやらアビリティで防御しているようだ。右手の〈アスカロン〉が一閃し、〈イージスの盾〉へと吸い込まれる。


 がいん! という大音響をもって、〈イージスの盾〉は攻撃を受け止める。Sランクの防御性能を持つ〈イージスの盾〉だから、ランクBの攻撃力しか持たない〈アスカロン〉では本人にダメージは通らないだろうが、ラザさんの表情に余裕はない。あまりにも速い攻撃もそうだが、武器重量がとびぬけている〈アスカロン〉の攻撃によって〈イージスの盾〉の耐久値が楽観できないほど減ったのだろう。


 間髪入れず、リタは両手の剣によるラッシュを始める。それに対してラザさんはなんとか〈イージスの盾〉で攻撃を受け止めつつ、右手の剣に青いライトエフェクトを纏わせた。四連斬撃がリタのラッシュの隙間を縫って浅くヒットする。


 しかし、攻撃スキルの発動によって生じた防御のほころびをリタは的確につき、確実にラザさんのHPを減らしていく。


 俺は外からその様子を見ていたわけだが、ふと、戦っているときのリタの表情が気になった。


 楽しそう、という感じではない。つまらなそうかと言えば、それも違う気がする。何か、心ここにあらず、といった雰囲気だ。今のリタは、何を考えているのだろう。


 猛然とラッシュを続けるリタもすごいが、それをなんとか受け止めているラザさんにも拍手を送りたい。だが、攻撃に転じるとそこに生じた防御の隙を突かれてしまうため、どうにも攻めあぐねていた。そういえば、リタのほうも〈アポカリプス〉を使っていない。あの戦法は大型モンスターに対してだけ使うのだろうか?


 不意に、ラザさんがリタの斬撃に合わせて盾を突き出し、剣と衝突した衝撃を利用して後ろに飛んだ。


「すばらしい剣術だね。けど、果たして一対一で究極の武器に勝てるかな?」


 そして、剣と盾両方が光を放つ。解放必殺技の前触れだ。そしてラザさんにとって、「切り札」を召還するための儀式の一つ。


 実は、ここまでラザさんが使った二つのスフィアーツは、解放必殺技が「MP再生」のものだ。盾カテゴリに属するスフィアーツは解放必殺技がこれで固定だが、剣や杖カテゴリでこの解放必殺技をもっているものは数少ない。


 そしてそれが、〈オメガウェポン〉を「実用的に」使う手段の一つなのである。消費MP250を誇る〈オメガウェポン〉だが、起動するためには限界まで最大MPを強化し、かつMPが満タンでなくてはならない。普通にスフィアーツを起動して闘っていたら、MPを満タンにはできないし、アビリティも埋まってしまっているからMP自動回復の強化もできない。リタのような「セルフMPチャージ」も不可能だ。


 だから、解放時に、起動時に消費したMPを回復することができる能力を持った武器を使うしかないのだ。


 一対の剣と盾が、使用者の魔力へと還元されていく。そして、それが究極の武器である〈オメガウェポン〉の供物となるのだ。


 俺は、この展開に正直わくわくしていた。超人的な戦闘能力を持つリタが、果たして〈オメガウェポン〉にどう対処するのか。いくら〈オメガウェポン〉が対人特化型プレイヤーに弱いと言っても、正面からの殴り合いならば非常に有利だ。だが、あのリタなら……。


 俺の見たことのない何かを見ることができるかもしれない予感に、俺の胸は高鳴っていた。


 が、その瞬間、リタも左手の〈ミストルティン〉を解放していた。弾かれるように左手が持ち上がり、まっすぐに剣先が向けられる。そして〈ミストルティン〉の先端から光の矢が放たれ、ラザさんの胸に突き刺さった。


 それでHPがゼロになることはなく――というかHPは全く減っていなかった、ラザさんの右手にはまぶしいほどの光が集まり……。


 そして、すぐに消えた。


「え?」


 あのまぶしい光は、〈オメガウェポン〉起動時のエフェクトだったはずだ。だが、あの巨大な剣は姿を現さず、ラザさんの両手は空のままだ。


「……あ」


 ラザさんと俺はほぼ同時にその原因にいき当たり、苦笑してしまった。その元凶は、〈ミストルティン〉の解放必殺技。あの剣から放たれる光の矢は、命中した相手のMPをすべて消失させる効果があるのだ。対人戦で使うとあまりいい顔はされない有名な武器だったが、俺もラザさんもすっかり忘れていた。ラザさんは、〈オメガウェポン〉の起動直前にMPをすべて涸らし、今やすべての戦力を失った。


「とりあえず、降参していいかな?」


 思わせぶりで尊大な台詞を言った手前、ラザさんはとても気まずそうな表情で言う。俺は心からラザさんに同情した。


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