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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT1 「幻からのシシャ」
16/62

A1-5

 やってきたのは、中央に大きな丸テーブルのあるエリア。ギルガメッシュ・オンライン名物、「円卓の間」だ。入ってきた入り口を入れると全部で十四の扉がずらりと並ぶ円形の部屋で、ご存じ「円卓の騎士」の名を冠したボスたちと戦うことができる。


「円卓の騎士って、アーサー王の部下のことだよね?」


「ああ、それは知ってるんだな」


 最初はザコモンスターのいるダンジョンに行こうとも思ったのだが、何せリタはあの結晶竜を一人で倒す実力の持ち主なのだ。おそらく剣の練習も半端ではない回数やっていたに違いない。そこで、剣の練習ならだれでもお世話になるこのダンジョンにやってきたのだが……。


「誰と戦うよ? 一番レベルが高いのは教官王……いやアーサー王で、レベル120だ」


「どんな感じのボスなの?」


「人型で、両手剣を装備しているやつだ。接近戦しかやってこない生粋の騎士だよ。接近戦は苦手か?」


 俺が聞くと、リタは左手に光を集め、剣を出現させた。ついでとばかりに左手には腕輪が出現する。


「うーん。どうなんだろ」


 言うと、直後、リタの正面に氷の柱が二本立った。自然すぎて魔法を立ち上げるエフェクトに気がつかなかったが、左手の剣と腕輪で魔法を発動したのだ。そして、剣を一閃、たちどころに氷柱は消え去る。


 昨日もやっていた行為だが、それが意味することを悟り、はっとする。それはこのゲームにおけるソロ魔法剣士専用技「セルフMPチャージ」に他ならなかった。


 このゲームでは、MPを直接回復させるアイテムは存在しない。その代わり、俺たちには「加護」とよばれるHPとMPを自然回復させるパラメーターが存在し、アビリティでのみ増強させることができる。だが所詮は自動回復、レベル60スフィアーツの解放必殺技を連発できるほどの回復量はない。


 そこで、魔法剣士的なプレイスタイルを持つプレイヤーでのみ、使うことのできるテクニックが存在するのだ。


 キーとなるアビリティは、〈○○属性魔法吸収〉という、セットしたスフィアーツよりも消費MPの低い魔法が武器に接触した場合、魔法の消費MPぶんのMPを回復できる能力だ。この能力を応用すれば、スキルで消費MPを軽減した魔法を吸収し、消費した値以上のMPを回復するという夢の技術が完成する。


 しかし、まず自分の魔法を自分に当てるというのは結構難しい。発射するタイプの魔法はまず不可能だし、リタが今使っている魔法〈アイスピラー〉も武器に〈地形破壊〉のアビリティをつけていないと氷柱がその場に残らない。その上、本来魔法は使用者に対して攻撃判定を持たない。RPGのお約束として、広範囲魔法を放って自分が爆死する、ということにならないよう、「同士討ち(フレンドリーファイア)防止機能」があるというわけだ。


 そのため、このテクニックを使う為にはその同士討ち防止機能を解除する〈フレンドリーファイア〉というアビリティを装備しなければならない。これは俺も使っているわけだが。


 そしてこれが、ジレンマなのだ。〈○○属性魔法吸収〉は武器に魔法を当てなければMPは回復できないが、自分に対して攻撃魔法を使うと、武器だけではなく自分に攻撃がヒットしてしまい、ダメージを受ける。一応バフによって防御も可能だが、どちらにせよ武器に攻撃がヒットしているという判定は残ってしまうため、魔法を吸収したとしてもスフィアーツの耐久値は減ってしまう。それは、上級魔法になるほど顕著だ。


 そして、吸収できるMPが多いのは上級魔法である。多くのMPを吸収しようとすれば、スフィアーツの耐久値は減っていく。魔法の消費MPは軽減可能だが、スフィアーツはそうもいかないため、MP管理は非常にシビアになるのだ。最大MPを増やしたいところだが、アビリティ欄はこのテクニックを使うのに多く埋まってしまうため、他の能力がおろそかになってしまう。そのため、使うプレイヤーはほとんどいないのだ。


 だが、目の前で行われている行為は、その「セルフMPチャージ」に他ならない。リタは新たにスフィアーツを起動し、肩の上に赤い魔力の珠を出現させる。さらに氷柱を三つ生みだし、左の剣で薙ぎ払う。直後、右手に魔法剣〈アゾット剣〉を出現させ、即座に解放。全能力値を上昇させる〈ゴッドブレス〉を瞬間発動。間をおかず、氷柱を出現させ、剣で薙ぎ払い、仕上げに新たな剣を出現させた。


 すべてがスムーズに行われる、あまりにも無駄のない挙動だった。左の剣が氷柱をかき消すたび、氷の粒子が宙に拡散し、まるで舞いでも踊っているかのようだ。


 それは、何かを始める前の儀式のようにも思えた。


「じゃあ、行ってくるね」


 俺が呆然としていると、リタは円卓の間の扉をくぐろうとしながら俺に声をかける。


「あ、ああ……」


 俺の間抜けな返事をどう受け取ったのか、リタは頷いて扉の中へと姿を消した。ここから先は一人しか入れず、二人以上入ると部屋が二つ構成され、それぞれ同じ能力を持つ別の個体と戦うことになる。俺はおとなしくここで待っているとしよう。


 そして、リタが帰ってきたのがたったの三分後、それも、死に戻りしたのではなく入っていった扉をくぐってだ。


「早ええよ!」


 俺が思わず叫ぶと、リタはきょとんとした顔になった。本当に、なんなんだこいつは。


 このダンジョンのボス「アーサー王」は、プレイヤーも使うことができる〈エクスカリバー〉というスフィアーツを以て戦いを挑んでくる。レベル120だけあって、すべての能力値が高く、ほとんど弱点がないため、初心者にとっては手に余る相手だ。


 この円卓の間だが、アーサー王以外はそこまで強いわけではなく、接近戦しかしないためにいい練習相手になる。俺だって、剣の練習をしたいときにはこいつらに相手になってもらうのだ。


 だが、アーサー王だけは違う。その基礎能力と三万を越えるHPもそうだが、なによりAIがあまりにも優秀なのだ。これは噂話だが、フェンシングでそれなりに腕をならしている人が正面から戦って完敗する実力だ。本人談で、世界レベルで戦う人なら安定して勝てそう、というレベルだと言われている。敵もこっちも人間離れした身体能力だから、あまり参考にはならないが。


 だから、もしこいつを倒そうと思った場合、ほとんどのプレイヤーはやつを魔法責めにする。いくらAIが優秀でも、エリアを埋尽くす攻撃範囲を持つ魔法を避けることはできない。絶え間なく魔法をうち続け、翻弄しながら少しずつダメージを与えるのが、アーサー王攻略の正攻法だ。


 それでも、普通はもっと時間がかかるものだが……三分とは……。


 見てみたい……アーサー王がこんなに早く倒される場面を。


 そんな思いが沸き上がり、俺は知らずにその願望を口に出してしまっていた。


「なあ、もう一度戦ってみてくれないか?」


「え? いいけど」


 俺はメニューウィンドウを操作し、追尾型のカメラを起動する。それに応じて、リタの目の前には撮影の許可不許可を選ぶウィンドウが出現する。


「せっかくだからさ、戦い方、見せてくれよ。そいつは後ろから追尾するタイプのカメラでさ、戦闘の記録をとることができるやつだ」


 俺が説明すると、リタは合点がいった表情になり、撮影を許可する。すると、俺の前には今のリタの状態を映すモニターが出現した。


 リタはその場で〈ゴッドブレス〉を唱え、さらに氷柱を出現させては左の剣で消滅させた。やはり、その踊るような動きにも一切の無駄がない。


 そしてリタがアーサー王へと続く扉をくぐると、俺は食い入るようにモニターを注視した。


 扉の先で待ち受けるのは、これまた円形の部屋の中央で聖剣〈エクスカリバー〉を地面に突き立てている全身鎧の姿。剣の練習に文句一つ言わずつき合ってくれる円卓の騎士たちの中にあって、ボスとしての風格を堂々と放つ人物。「英雄王」ならぬ「教官王」の愛称で親しまれる、ギルガメッシュ・オンライン仕様の「アーサー王」だ。


 円卓の騎士たちと戦い、スフィアーツの能力に慣れはじめて自信をつけてきたプレイヤーたちをその一太刀で斬り伏せ、現実の厳しさをレクチャーするスパルタ教官だが、今回ばかりは相手が悪かった。


 両手にそれぞれもった剣を、まるで疾風のような猛スピードでふるうリタ。その剣線は一切のぶれを見せず、自分に向けられた〈エクスカリバー〉の斬撃をことごとく弾き、逆に斬撃を的確にヒットさせていく。


 俺は最初、結晶竜を倒したときのように〈アポカリプス〉を使い、地形を変化させてから戦うのかと思っていた。しかし、リタはアーサー王へ真っ向から剣の撃ち合いを挑み、圧倒しているのだ。


 そこで俺はリタのスフィアーツに注目する。そこにあるのは、そこまで珍しくはない類のスフィアーツだった。左手に持っている、柄が機械じみた意匠となっているやや細めの剣は、〈ミストルティン〉というレベル100スフィアーツで、MPを消費して魔法弾を放つことができるのが特徴だ。右手に持っている特に特徴のない直剣は〈アスカロン〉という、魔法を使うことができない代わりに片手剣系スフィアーツではもっとも重い重量パラメーターがウリのレベル60スフィアーツ。右腕にある腕輪は、〈ドラウプニル〉というレベル10の魔法用スフィアーツ。そして肩の上に浮くのは白銀のスフィアーツ本体の輝きと、レベル120の魔珠系スフィアーツ〈ランドヴァリナウト〉の赤い光だ。


 だが、リタは両手に持つ二つの剣しか使っていない。武器の耐久値が減ってくると解放し、恐ろしい精度で命中させるが、二刀流から一刀流になったとしてもまったく動じず、すべての攻撃を弾き、避ける。そしてMPが十分に回復すると武器を起動して二刀流に戻り、猛烈なラッシュを再開するのだ。


 これを圧倒的と言わずして、何を圧倒的と言うのだろう。俺はモニターの中で行われる戦闘に、時間を忘れて見入った。


「なあ、どうして正面から打ち合ったんだ? あの竜と戦ったときは〈アポカリプス〉を使ってたじゃねえか」


 アーサー王の間から戻ってきたリタに俺がこう質問すると、リタはすこし悩んでからこう答えた。


「なんだか、こうやって戦わなきゃいけない気がして」


 帰ってきた答えに調子を崩しかけ、しかし一つの可能性に行き当たる。


 あれほどの剣術を習得するために必要とされる練習量は並のものではないだろう。だが、その練習相手となってくれる騎士たちがここにはたくさんいる。そして、その中で最も強いのは、言うまでもなくアーサー王だ。


 仮説にすぎないが、リタは記憶を失う前、アーサー王相手に剣術の練習をしていたのではないだろうか。そうでなければ、あの竜すら倒す強力な戦術である〈アポカリプス〉を使った戦法を使ったはずだ。だが、今回の戦闘をリタは知らず知らずのうちに練習だと思いこみ、剣だけで戦うという行為を通した。


 思いつきであったが、とりあえず行き着いた仮説をリタに話す。するとリタは首を傾げながらも、「初めて戦ったっていう気はしなかった」と答えた。


 仮説が間違っているという可能性はあまりないと思うが、それがわかったとして、なにが出来るというのだろう。俺はため息をついて、とりあえず言いたかったことを口にした。


「にしてもなあ、今時二刀流を素で使えるやつなんてそうそういないぞ……。いったいどんな訓練をしたら、あんな剣術が身につくんだか……」


「そうなの?」


「そうなんだよ」


 両の手にそれぞれ一本ずつ剣を持って戦う「二刀流」はアニメやライトノベルにはよく登場するものの、現実で実現するのは困難だ。なんちゃってドイツ剣術を使っている俺に細かいことはいえないが、日本で有名な二刀流使いといったら宮本武蔵ぐらいだし、その他の剣術流派では二刀流を主とするものはちょっと聞いたことがない。それだけ特異で難しい技術なのだ。ましてや、ネットゲームをやるような人間が習得するなど、ほとんどあり得ない。


 とはいっても、目の前の少年は実際に二刀を操ってみせたのだが。


 俺はため息を吐くと、少し落ち着いた思考でこれからすべきことを考え始める。というか目の前の少年は強すぎて、一人でなんでも出来るような気がしてきた。もう放っておいてもいいのではないだろうか。


 まあ、そういう訳にもいかない。とりあえずここで、新しい仲間ができたらどうするかパート2。友達を紹介する、だ。


「そうだな……ラザさんに相談してみるか……」


「ん? 誰、その人」


 いちいち首を傾げるリタ。なんだかこいつは見た目よりも子供っぽいよな。顔は日本の高校生っぽいが、なんだか表情があどけない。映画館で中学生ですって言っても通りそうだ。


「いつも一緒に狩りに行っているメンバーの一人だよ。情報技術に関しては詳しいし、話がよくわかる人だ」


 俺はあのオッサン青年の顔を思い浮かべ、まあ大丈夫だろうと当たりをつける。リタはいつもの曖昧な表情のままだ。


 俺はその当人と合うため、フレンドの機能のひとつであるメールの文章をメニューから入力し始めた。


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