表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
ACT1 「幻からのシシャ」
13/62

A1-2

 ギルガメッシュ・オンラインのすべてのプレイヤーには、「スフィアーツ」と呼ばれる能力が与えられている。


 曰く、それは英雄の力を具現化し、我がものとする力。スフィアーツは手元に得物を出現させるだけではなく、得物の力に応じて使用者のパラメーターも上昇させるのだ。虚空から獲物を引き抜き、自身の力も強化する。どこぞのライトノベルの設定だよと言いたくなるが、俺もけっこう気に入っているので文句は言えない。


 だからこそ、大抵のギルガメッシュ・オンラインのプレイヤーは自分の武器を一つか二つ決めてから、しばらくは変えることがない。同じスキルを発動しても武器ごとに違う挙動になるし、重さや重心だって微妙に違う。そしてなによりも、人は自分だけの武器が欲しくなるものなのだ。


 その例に漏れず、俺は毒々しい金色を放つ直剣、〈ダインフレス〉を相棒としてずっと戦っている。


 なんとなしに超巨大ダンジョンである「狭間の大平原」に来ていた俺は、レベル40ぐらいのモンスターが多く存在するエリアで、狼のような姿をしたモンスターと戦っていた。


 スフィアーツによって強化された身体能力を持つとはいえ、四足歩行で移動する狼に追従するのは容易なことではない。だから俺は、襲いかかってきた狼から順々に攻撃することにしていた。


 狼の攻撃パターンは、牙をむき出しにして飛びかかってくるぐらいだ。動きは簡単に見切れるし、レベルが低いモンスターであるために〈ダインフレス〉にとっては餌でしかない。


 また、飛びかかってきた狼を〈ダインフレス〉で切りつける。すると、飛びかかってきた狼は急に動きが鈍くなり、立ったまま攻撃さえできなくなる。見ると狼のHPゲージの横には状態異常にかかっていることを示すアイコンが多数出現している。


 これが俺の愛剣、〈ダインフレス〉の効果だ。この剣を起動する前に自分が状態異常にかかっていると、起動したときに〈ダインフレス〉はその状態異常を吸収し、〈ダインフレス〉で切りつけられた相手はその状態異常にかかるのだ。しかも全部で八つの状態異常を吸収させておくと、すべてのパラメーター上昇量が一段階増加して、文字通り一回り強力になる。


 接近戦闘で特に障害となる状態異常は三つ、麻痺、鈍足、目眩みだ。それぞれ、筋力と機動力のパラメーターを著しく減少させ、そして視界を奪う。この三つを受けた時点で、接近戦なら死亡したも同然だ。


 さらに狼が飛びかかってきて、また無力化する。そうして、俺の周りには戦意をむき出しにしつつも何もできない狼の群れができあがり、それら一匹ずつに止めを刺していく。プレイヤー相手ではこんなに上手くいくことはないが、なんだか自分が悪役になった気分だ。最近は負けてばかりだったから、なんとなく物足りない気もする。


「もーちょいレベルの高いところに行くか。そろそろ回復アイテムの在庫切れるし」


 なんて考えたのが、そもそもの発端である。プレイヤーキャラクターにレベルという概念が存在しないため、狩りとは純粋にお金稼ぎや、素材アイテムの収集の為にある。HPやMPを直接回復するアイテムこそ存在しないものの、状態異常を回復するアイテムならあるし、店売りのものを買うよりも素材を集めた方が安くつく。仲間を復活させるためのアイテムなどはその筆頭だ。


 鬱憤晴らしのために戦っていたのが、いつのまにか素材収集に目的がすり替わっていたのは、悲しいかなゲーマーの性と言う他にあるまい。近くのエリアに生息するモンスターが落とすアイテムが何の材料だったか記憶を頼りにぶらぶらと歩き回り、アイテム一覧をチェックするのが億劫になるぐらいアイテムが集まった頃、「レベルが高いやつ」は向こうからやってきた。


 遠目からでもわかる、巨大な体躯。一歩を踏み出すごとに鳴り響く、地響きのような音。


 その存在感につられるように、俺はその方向を注視した。


 端的に言うと、それは竜だった。しかし、神話で語られるような竜とは、西洋風ドラゴンの姿を踏襲しているとはいえ大分印象が異なる。というのも、その竜の体は結晶のようなものでできており、光の当たる角度によって様々な色を放っているのだ。変な言い方になるが、シャボン玉が無理矢理竜の形を保っているようで、まるで現実感がない。宝石の結晶で竜を作りたかったのはわかるが、なぜオパールのように色の変わる宝石を選んだのだろうか。


 その考えを読まれたわけではないだろうが、俺はその竜と一瞬目が合った気がした。


 あの竜の名前を「結晶竜ヘルツシュプルング」という。このダンジョンにたまに出現する、レアモンスターだ。


 レアモンスターと言えば、どのRPGでもプレイヤーから狩られる存在である。なぜなら、レアモンスターとはたいていの場合高確率で希少なアイテムをドロップし、それが役に立つ場合が多いからだ。しかも出現率が低く、おいそれと会えるものではない。だからこそ、MMOでは時としてその奪い合いにも発展する。


 だが、竜が遠くをみるように首をもたげた瞬間、俺は百八十度ターンし、全力疾走を開始した。


「やばいやばいやばい!」


 このゲームに存在するレアモンスター、特に「狭間の大平原」にいる個体は、非常に強力な能力を持っている。このダンジョンのレベルが10~140となっているゆえんがそれであるが、「結晶竜ヘルツシュプルング」のレベルはその最大レベルの140だ。この前戦った因果剣はレベル120だが、ソロで戦う難易度はどう見積もってもレベル差20以上はある。


 まず、その攻撃力からして狂っている。数値上の攻撃力がSランクという限界値であるうえ、結晶でできた体は非常に重く、その体重を乗せたひっかき攻撃を食らおうものなら一発でプレイヤーがお墓に早変わりする。その上、吠えるだけで上級魔法を何発も発動し、さらに取り巻きとして上級魔法を唱える精霊系モンスターを数体従えているのだ。


 そんなやつに一人で挑もうものなら、RPGで言う一ターンでオーバーキルに次ぐオーバーキルをされる。そして竜本体とその取り巻きに、落としたアイテムをかっさらわれるのだ。その余りに理不尽な強さから、「ソロ狩り」と恐怖と畏怖を込めて呼ばれる。


 俺は必死に逃げた。だが、これで逃げきれるならば、やつは「ソロ狩り」とまでは呼ばれなかっただろう。


 地面を、巨大な影が覆った。


 思わず頭上を見上げると、そこには結晶竜の腹があった。そしてやつは器用にも空中でターンすると、俺の逃げる進行方向へと着地した。


 地震でも起こったかのような振動と、腹の底に響くような大音響。俺は顔をひきつらせ、しばしの間体を硬直させる。


 いくらこれがゲームだとはいえ、ここまで大きな敵を前にしては足がすくむ。仲間がいれば軽口でもかけあって励ましあうのだろうが、あいにく俺は一人だ。


 俺が停止している間に、追従していた精霊系モンスターが魔法を唱え、俺の目の前で爆発が起こる。炎属性上級魔法〈エクスプローション〉だ。


俺は空中を吹っ飛ばされながら、しかしなんとか自失の状態から復帰した。VRを利用したゲームではシステム上に規定されていないとはいえ、「自失」も立派な状態異常だ。


 とはいえ、俺に残された選択肢、というか未来は一つだけ。「あきらめる」、それだけだ。出会っちまったものは仕方がない。初心者プレイヤーが「ソロ狩り」に虐殺されることなど、もはや通過儀礼みたいなものなのだ。俺も初めてではない。ただ、久しぶりだった。


 仕方のないことだ、うん。相手は「先輩竜」とか、「竜狩り殺し」とか言われるほどの相手なのだ。負けたって恥ずかしいことは一つもない。だが、


「諦め切れないんですよねえ……」


 奇しくも、俺はゲーマーである。大量のアイテムを、むざむざカツアゲされるだけで済ませるものか。一矢ぐらいは報いてやらねば気が済まない。


「〈解放〉……」


 両手で呪いの愛剣〈ダインフレス〉を構え、後ろからついてきている〈クラウ・ソラス〉の力を解放する。意志を持つ剣である〈クラウ・ソラス〉は、自身の力で相手に向かって飛んでいく。


 無論、これで倒せるとは思ってない。だが、これで竜の注意をあの剣に向けることができる。


 そして、俺は竜につき従っている精霊へと走った。最初の炎魔法に続けるようにほかの精霊も魔法を放っていたようだが、〈エクスプローション〉の爆発で吹っ飛ばされたことにより、どれも当たらなかったようだ。意図しなかった幸運だが、この隙を利用しない手はない。


 次の魔法を詠唱する精霊に向けて、俺はスキル〈トリプルスラッシュ〉を発動する。〈ダインフレス〉が青い光を帯び、目にも留まらぬ三連撃を見舞う。いくつかの状態異常を発生させられ、ダメージによって詠唱をキャンセルされた精霊はたたらを踏む。


 その隙に、近くにいたもう一体の精霊に切りかかる。今度は〈トリプルピアース〉と〈ダブルグランプ〉を続けて発動し、一気にHPを削りきった。


 精霊が光を放ちながら四散するのを見届けず、俺は最初に攻撃した精霊にダッシュ斬りをお見舞いする。そのまま三回力任せに刃をふるい、こちらもきっちりとしとめた。


 だが、そこまでだった。これまで〈クラウ・ソラス〉に気を取られていた竜が、割れるような大音響で吠えたのだ。その瞬間、地面からいくつもの赤い光が現れる。


「やばいッ!」


 そして次の瞬間には、灼熱の奔流がいくつも竜の周囲を通り、天へと駆け上っていく。炎属性致命級魔法〈プロミネンス〉だ。エリが必殺技として使うものと比べればずいぶんと慎ましい規模だが、それが何本もあれば話は別だ。とっさに飛び退いたものの、回避しきれず熱の奔流に焦がされる。


 上昇するエネルギーによって吹っ飛ばされ、俺は地面に叩きつけられる。HPはもう二割を切っており、風前の灯火だ。


 そしてそんな俺をあざ笑うかのように、「ソロ狩り」の呼び名を持つ竜はのぞき込むようにして顔を近づけ、そして前足を振りあげた。〈クラウ・ソラス〉が自律飛行して与えられたダメージは微量だったようで、ほとんどそのHPは減っていない。


「まだだッ! まだやられねえよッ!」


 恐怖に屈しそうになる自分に鞭打って、〈ダインフレス〉の解放必殺技を発動する。システムアシストによってバネ仕掛けのように起き上がり、神速の薙ぎ払いをその顔面にお見舞いする。


 さすがに、これは効果があったようだ。HPゲージが良くわかるぐらいには減少した。竜は痛みによってか、その喉を鳴らしながら一歩後退する。


 だが、それまでだ。〈ダインフレス〉を解放した俺の手には、もう武器は残っていない。〈ダインフレス〉をもう一度解放したところで、状態異常を吸収させていないあれの威力はたかが知れている。そして、この結晶でできた竜は防御力に定評があるのだ。


――ああ、詰んだわ。


 目の前で前足を振りあげる竜に、俺にはもう抵抗する意志はない。SBEを使おうとも思ったが、それをやってHPを減らしたこいつを他のプレイヤーに討伐されるのはなんだか癪だ。自爆をやるからには、やはり確実に同士討ちしなくては。


 ジル先輩とラザさんがログインしていれば復讐の機会はあったのだろうが、残念ながら今ログインしている仲間はエリだけだ。そして、だいたいこいつは一日か二日以内にどこかの竜狩り部隊がやってきて、死闘の果てに倒される運命なのだ。それまでに軽く一、二パーティーは全滅させるが。


 そんな風にぼけっと竜を眺めていたのだが、直後、俺は信じられない光景を目の当たりにすることになった。


 それが現れたのは一瞬だった。矢のような速度で飛んできて、振りあげられた竜の前足に突き刺さった。それにより、圧倒的な重量を持つはずの竜がバランスを崩し、後退する。


「えーと、なんていうか、あれだよ。お疲れさま」


 そんな超常現象の直後に、なんだか気の抜けた声が聞こえてきた。いつの間にか、俺をかばうようにして一人、何者かが立っていた。


 身長は俺よりも低い。日本の平均的な高校一年男子の身長といったところか。すこし振り返ったその顔にはあどけなさが残っており、その黒髪と黒目は彼が少なくともアジア圏の人間であることを示していた。


 止めを邪魔された竜は、忌々しげに乱入者である少年を叩き潰さんとする。だが、少年が左手に持っている剣に青い光を纏わせ一振りすると、地面から三つの氷の柱が出現し、竜の前足を受け止めた。直後、少年の右手から光が放たれ、見覚えのある剣が現れる。


 〈アゾット剣〉。その解放必殺技が発動し赤い魔の光を放つと同時に、俺を回復魔法の光が包む。残り少なかったHPは、それでほとんど全回復した。


 その時点で、竜の前足を受け止めた氷の柱は竜の重さに耐えきれず、ヒビが入り始める。だが少年はそれを予期していたかのように左手の剣を氷柱へとふるい、すぐにその場を離れた。するとたちどころ氷柱は消え去り、突然支えを失った竜はつまずくようにして顔を地面に落とした。


 絶好の攻撃のチャンスだが、少年はそこで俺に振り返ると、こう言った。


「危ないから、離れていて」


 無茶だ。俺はそう思った。ソロでこの竜に勝てるわけがない。だが、俺は少年の言うとおり、その場から走って逃げた。一応〈クラウ・ソラス〉を起動し、機動力をあげるのも忘れない。


 それを見届けた少年は、剣を片手に竜へと向き直る。


 常識の範疇で行動するなら、俺はこの場から一刻も早く立ち去るべきだ。ソロでこの化け物に勝ったプレイヤーの話など聞いたことがない。この少年が倒されたら、今度こそこの竜は俺に牙を剥くだろう。


 だが、少年の堂々とした佇まいを見ていると、その場から動く理由がないように思えた。少年からはどんな気負いも感じられず、普通ならば「狩られる」存在であるはずのソロプレイヤーが、「狩り」をしているような不思議な安心感さえ覚えた。


「行くよ……」


 少年がちいさく言い、直後、その周囲の大地が爆発するように崩壊した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ