T1-10
「ちょっとガルドさん、あれはなんですか!」
ウバイド遺跡の「英雄碑」で合流するなり、エリは大声で聞いてきた。
「ああ、〈アゾット剣〉の解放必殺技で、〈リフレクション〉と〈エクスプローション〉を同時に発動したんだ。〈アゾット剣〉の元々の能力じゃ消費MPが足りないからな、〈オーバードライヴ〉を二つつけなきゃいけねえんだよ。まあでも効果は絶大で、〈リフレクション〉の中で爆発が反射するから十回以上ヒットして、プレイヤーなら絶対に死ぬ。名付けて、〈スター・バースト・エクスプローション〉だ」
俺がすらすら説明すると、エリは一瞬ぽかんとしたが、すぐに表情を厳しくする。
「そういうことを聞いているんじゃありませんっ! 自爆するなら言ってくれればよかったじゃないですか! 戦う前にわたしに〈レジスト・エレメンタル〉をかけさせたときにでも! それに、その名前はダメです!」
「何でだ? 見た目からもピッタリだと思うんだが」
「なにが何でもダメです! 聞いた瞬間、寒気がしましたよ。ほら、腕にこんなに鳥肌が立っちゃってる!」
意識したことは無かったが、このゲームでは鳥肌も再現されるのか。リアリティを追求するのはいいが、そこまでやる必要性には疑問を感じる。
「あーはいはい、わかったよ。あれについてはSBEと呼ぼう。それよりも、早く女王様に報告しようぜ。報酬を貰い損ねちまう」
俺がそう話を切り上げると、エリはがっくりと肩を落とした。
「あれが平和的な解決方法だっていうのは認めませんよ……」
「おお、そのツッコミが欲しかったんだよ。もっと大声だったらよかったがな」
「うう……納得いかないです」
そうして、俺たちは「英雄相談所」のギルドハウスへと帰り、〈ファルスクエア〉と撮影した動画を検証班に提出、依頼は晴れて達成だ。後日、俺とエリの所有する「円」が大きく増えるだろう。
その時点で、時刻は午前0時を回っていた。エリは眠いし疲れたとのことで早々にログアウトし、俺はゼノルドを自爆に巻き込んだ後、エリと合流する前に決めていた「待ち合わせ場所」へと向かう。
そこには、黒を基調に血管のような赤の流れる不気味な鎧男、ゼノルドが待っていた。
「よう、こっちの都合とはいえ、騎士道に反することちしまって悪かったな」
俺が軽く謝ると、ゼノルドは軽く顎をしゃくって答える。
「いいさ、こちらが仕掛けた勝負だ。君が気にする必要はない。それで、私をここに呼んだ理由とは?」
ウバイド遺跡の「英雄碑」にそろって死に戻りした後、俺はゼノルドに後で話があるから一時間後に空中都市の広場で待っているようにと頼んだのだ。相打ちだったとはいえ、勝負が決まった手前、彼は彼なりの騎士道精神にのっとって俺の頼みを聞いてくれた。結果、俺の落とした〈ファルスクエア〉を回収したエリがゼノルドに狙われることは避けられたわけだ。
「あんたさ、俺たちがボスに挑んでたの知ってたんだろ? あんたは興味なかったみたいだけど」
「そうだ。私には〈ラグナロク〉があればいい。後は、強者との出会いを求めるのみだ」
「ま、そうだろうな。でもあんたなら気に入ると思うぜ、〈ファルスクエア〉の性能は」
そう言って、俺はメニューウィンドウから一つ画像を選択、ゼノルドに見えるように開示する。
〈ファルスクエア〉
起動時消費MP:120
カテゴリ:両手魔法剣
魔法スロット:5
武器攻撃力:A
筋力上昇:A
魔力上昇:C
機動上昇:A
防御上昇:A
魔防上昇:A
強靱上昇:A
武器重量:B
特殊効果
「因果の魔陣」(加護などのHP自動回復効果を無効化し、回復魔法でダメージを受ける。回復魔法によってHPがゼロになることはない。HPが減少するほど魔力上昇が増加し、最大でX級相当の魔力になる)
「魔法詠唱短縮14」魔法詠唱開始時、消費MP70ぶんの魔法詠唱時間を短縮する。
「解放必殺技」消費MPが合計120以下であればいくらでも魔法を瞬間発動。
『因果律をさまよう魔力を呼び寄せる力を持った魔法剣。使用者の危機に反応してその力を高め、人が扱うには過ぎた魔力まで扱うことができる。しかし使用者は因果律から送られてくる魔力によって本来存在するはずのない運命にまで巻き込まれていく』
俺が苦労して手に入れた〈ファルスクエア〉の説明文だ。HPが回復できず、HPがある程度減らないと魔力上昇が貧弱という尖った性能だが、レベル120の武器だけあってそれ以外の効果は高水準だ。中二病的な説明文は、中世ファンタジーのお約束としておこう。
「こいつを確定ドロップするボスの攻略法は、たぶん三日後ぐらいに英雄相談所の動画放送で流される。気が向いたら倒してみろよ」
ゼノルドはしばらく〈ファルスクエア〉の説明文をにらみ、やがて満足したように背筋をのばす。
「ふむ、そうだな。確実に手に入るというのなら、やってみよう。そして、ガルド殿」
白い仮面で表情は見えないが、ゼノルドは不敵に笑っているように見えた。
「機会があったら、また手合わせ願おう。あの時、君は全力ではなかったのだろう? 途中からスキルによる攻撃しかしなかったのは、私を油断させるためだった、違うかな?」
俺は肩をすくめる。
「買いかぶりだ。まあ勝負すること自体は大歓迎だが、ああいうタイミングではもうやめて欲しいな。英雄相談所の掲示板に書き込んでくれれば、いつでも相手になるから。あと、俺なんかよりもっと面白いやつも紹介できる」
「そうか。それは楽しみにしておこう」
そう言い残して、ゼノルドはどこかに歩いて行ってしまった。まったく、なんともこじらせてる人だよなあ。
ともかく、これで俺はこのゲームでも屈指の有名人とパイプを持つことができたわけだ。いつか有効に使わせてもらうとしよう。
それよりも、これから手に入る五万円のことだ。オンラインショップで何でも買えるこのご時世、ギルガメッシュ・オンラインでの「円」を為替相場に沿ってドルに替えれば、だいたい何でも買える。もちろん、「円」のままこのゲーム内の露天で珍しいアイテムを買うのもアリだ。現実世界では未曽有の円高が進行中であるため、五万円というのは数字以上の価値がある。
なにが買えるか皮算用しながら、俺は空中都市の麗しき通りを上機嫌で散歩することにした。
チラシ裏的解説
・〈SBE〉
名前的に色々とアウトな技。VRMMOの(知名度的な)火付け役のライトノベル、ソードアート・オンラインで主人公が使用する二刀流スキルの中に〈スター・バースト・ストリーム〉という技がある。また、ファイアーエムブレム「紋章の謎」等に登場する闇魔法「マフ」に対抗できる唯一の手段として「スター・ライト・エクスプローション」という魔法が存在し、SBEはこの二つの名前を併せた結果最高に厨二な名前になってしまう。そしてなぜか自爆技である。もういろいろと危ない。
それよりもなぜこれをなろうコンに出そうと思ったのか。




