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ドリーミング・レジェンド  作者: 世鍔 黒葉@万年遅筆
Tutorial1 「人はそれをロマン武器と呼ぶ」
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T1-1

 序章はチュートリアルパートと銘打って、ストーリーをあまり進行させずにゲームシステムのお披露目する構成となっております。ゆるりとお楽しみください。

 ようこそ、「ギルガメッシュ・オンライン」の世界へ。

 頭上を光の珠が舞っていることにお気づきでしょうか? それは、あなたが「英霊」である証であり、そして英霊の力である「スフィアーツ」です。

 今あなたが持っているスフィアーツは……〈フルンティング〉ですね。それは、「起動、〈フルンティング〉」と音声をお願いします。

 ……うまくできたようですね。そのスフィアーツは、あなたの持っている力に応じて、武器を自在に顕現させる力です。

 あなたが望めば、スフィアーツの力を使い、古の時代の英雄が振るった武器や魔法など、おおよそ伝説的な全ての力を手に入れることができましょう。

 しかしながら、その過程には様々な障害が立ちはだかるでしょう。魔法を宿した獣、闇の存在、英雄の亡霊、果ては全ての生命の王である竜など、あなたが一度死んだくらいでは到底乗り越えられない存在もあるでしょう。

 ですが、もし、あなたが本物の英雄ならば、幾千の死を重ねようとも彼らに挑み、必ずや勝利を掴むことができましょう。

 そのようにして、伝説は生まれるのですから。

 それでは、健闘を祈ります。あなたに英霊の祝福があらんことを。




――「ギルガメッシュ・オンライン」オープニングチュートリアルより。








 金属同士がぶつかり合う硬質な音とともに、青い光がぱっと飛び散る。俺の目の前で騎士風の剣を振りあげているのは、ボロボロのマントと騎士鎧を纏う、長躯の骸骨だった。


 本来、こういった不死者(アンデッド)には十字架とか、神か何かの祝福を受けた光の剣とかで攻撃するのがお約束だろう。だが俺は恐ろしげな骸骨野郎にも負けず劣らず禍々しいオーラを放つ剣を手に、この敵と相対していた。


 ついでに言うと、俺の視界の左の上の端には緑色と青色のゲージ、更にはその最大値と現在地の数値が映っており、それぞれ、HPとMPと記されていた。


 もし現実世界でこんな骸骨野郎に出会ったら、俺なら真っ先に逃げるだろうし、誰だってそうする。相手は尋常ではありえない姿をしているし、容易に人を殺傷できる騎士剣を持っているのだから。


 そんな相手にも一歩も引かず剣の打ち合いをしているのは、お察しの通りこれがゲームだからだ。乱暴な例を挙げれば俺はゲームの主人公である勇者様――このゲームでじゃ英霊というが――、この骸骨野郎はその進撃の道中で踏みつぶされる雑魚モンスターというわけだ。


 俺は戦況を確認するために、再び視界端へと視線を向ける。そこにはHPとMPの他に、二つの黄色のゲージがあった。〈クラウ・ソラス〉と記されたゲージはまだ残量が十分にあるが、〈ダインフレス〉と記されたゲージは残りわずかだ。


 骸骨の放ってきた逆袈裟斬りを剣で受け流して防御し、ちらりと手にした剣に目を向ける。


 この剣の銘は〈ダインフレス〉。美しい黄金の刀身に黒々としたオーラを纏う、一目でわかる呪いの武器だ。だが、あと数度この武器で打ち合いをすれば、美しい刀身は粉々に砕け散ってしまうだろう。その前に、ちょっとした華を添えてやらねばならない。


 先ほど攻撃を弾かれた骸骨野郎は、それでも負けじと剣を振り上げる。対して、俺は剣を下げたまま構えることもしない。このままでは、骸骨野郎の騎士剣は俺の首を捉えるだろう。


「〈解放〉……」


 だが、そう俺が呟いた瞬間、〈ダインフレス〉がひときわ禍々しい光を放ち、俺は弾かれたように骸骨野郎の首へと斬撃を放っていた。攻撃を始めたのは骸骨ほうが先だったのにも関わらず、〈ダインフレス〉は吸い込まれるように骸骨の首へと迫り、それを断ち切った。


 首を切断されると同時に、骸骨野郎は支えを失ったように膝を着き、その骨と鎧は速やかに灰となる。残ったのはボロボロのマントだけだ。これも、時間経過で消滅するだろう。


 そして、渾身の一撃を放った〈ダインフレス〉はその禍々しいオーラを失い、塵すら残さず砕け散る。〈解放〉を使った代償だ。ワンランク上の強力な攻撃を行うことができる代わりに、使えばその剣は砕け散る。ロマン溢れる必殺技というわけだ。


 俺が指を鳴らす仕草をすると、羊皮紙のような質感のパネルが空中に現れる。俺はタッチパネルの要領でそれを操作し、その表示を確認して肩を落とす。


「出ねえ……」


 さて、ここまでの流れを誰かが見ているのならば、今起こった出来事が全てゲームの中の出来事であるとわかるだろう。


――ギルガメッシュ・オンライン。


 それが、このゲームの名だ。どこぞのMMPRPGだと言いたくなるタイトルだが、まったくその通り。これはMMORPGだ。


 多くのRPGには、レアアイテムというものが存在する。イベントでしか手に入らなかったり、一部の敵がそれこそ気が遠くなるような確率で落とすようなものだったり、とにかく、入手困難なアイテムだ。


 何を隠そう、俺はそのレアアイテムを探している。アイテム名は「名もなき聖騎士の紋章」。最近追加された武器の作成に必要な素材で、俺がさっき戦った「クルセイダー」という名の骸骨が落とす。だから奴が出現するダンジョン「狭間の大平原」北東に位置する城壁跡でこうして戦っているわけだ。


 だが、相手はレアアイテム。おいそれと出るようなものではない。百体も倒せば出るらしいが、しかし、それは簡単な道のりではない。なぜなら、これは普通のMMORPGではないからだ。


――VRMMORPG。


 ジャンルの名前だけなら、アニメやライトノベルで聞いたことがあるだろう。ファンタジーと現代が共存できる、素晴らしき箱庭世界。


 ヴァーチャル・リアリティ(VR)其は仮想の事象を、現実であるかのように知覚させる技術。ようは現実世界の俺が体を動かす代わりに、この仮想空間のアバターが体を動かし、こうして戦っているのだ。


 そして、このゲームには銃や弓、クロスボウといった文明の利器は存在しない。プレイヤーが使えるのは伝説上の剣や槍などの近接武器や盾、それか魔法の杖だけだ。だから敵を戦う時はさっきのように敵の攻撃を弾いたり回避したりしつつ、その合間に攻撃を叩き込まねばならない。スキルや魔法の支援があるとはいえ、なかなかに骨が折れる。そんな戦闘を百回以上やるというのは、なかなかの労力だ。


「俺の、一万円(チェーマン)……!」


 無意識に歯をぎりりと噛みしめていた自分に気が付き、俺はため息を吐いた。


「しかしなあ、あいつにはほとんど状態異常(デバフ)が効かねえし……。一度出直すか」


 思わず口に出したのは、俺の戦闘スタイルが相手に状態異常を発生させて戦況を有利にしつつ戦うものだからだ。だからこそ〈ダインフレス〉を使っているのだが、さっき必殺技を使った代償で手元にはない。この武器は強力だが、戦闘準備に時間がかかるのが玉に傷だ。


 はーやれやれとその準備を開始しようとしたとき、俺は視界左上のHPゲージの横に、なにやら見慣れたアイコンはあることに気が付く。そしてその意味を悟り、背中の毛が逆立つ。


「くそっ、ナイトメアだ……」


 既に数時間このエリアに居座っているから、この周囲に出現するモンスターにはあらかた出会っている。近くに隠れているはずの「ナイトメア」は、本来ならば俺にとってカモに近い存在である。


 今、この瞬間に攻撃されていなければ。


「なんでピンポイントで『沈黙』になるんだよ……」


 俺のHPゲージの横に並んでいたアイコン。それは状態異常「沈黙」を示すものだ。沈黙といっても喋ることができるわけではないが、多くのRPGの例に漏れず、「沈黙」状態では魔法を使うことができなくなる。そしてそれは、今俺が最も喰らいたくないデバフだったのだ。


 続けて、HP横のアイコンが増える。今度は「鈍足」。プレイヤーの移動を著しく妨げる異常だ。つまり、俺は魔法を封じられた状態で、その場に釘づけにされている。どう考えても絶体絶命だ。せめて沈黙さえどうにかできれば、魔法で状態異常を回復できるのだが。


 ナイトメアという名のモンスターは、この通り姿を隠したまま近くのプレイヤーにデバフを放ってくる非常に性格の悪い存在だ。俺は今、奴の術中に完全に嵌っている。


 俺は目を凝らし、奴が出すはずの尻尾を探す。今度は有害そうに光るエフェクトを見逃さない。奴は自分の姿を隠せても、魔法を使う時のエフェクトは隠せないのだ。


 これで奴の位置を掴めたわけだが、新たに追加された状態異常は「呪い」。MPが徐々に減少していく効果がある。これでは、もはや一刻の猶予もない。


 だが、こういった事態は想定済みだ。俺は〈ダインフレス〉の他に起動していたもう一つの武器を、()()()()


 銘は〈クラウ・ソラス〉。神秘的な青銅色の刀身を持つ剣だ。この武器は意志を持つ剣という設定を持ち、手放しても持ち主の周囲を浮遊し、勝手に付いてくる。だから別の武器で戦いながら、もしもの時のための備えとできるわけだ。


 そして、〈クラウ・ソラス〉のもう一つの特殊能力を発動させる。


「解放!」


 解放により輝くその剣を、全力で目星を付けた場所に投擲する。すると〈クラウ・ソラス〉は不自然にその軌道を曲げ、そこにいる何者かを切り裂いた。


 ぎゃ、という獣じみた悲鳴が聞こえたかと思うと、〈クラウ・ソラス〉が通過した場所から瘴気をまとう血色の悪い馬が現れる。


さらに〈クラウ・ソラス〉は回転しながら戻ってきて、再びその馬、「ナイトメア」を切り裂いた。もう一度、回転ノコギリよろしく襲い掛かってくる刃を前に、ナイトメアは為すすべもない。


 十秒間の自動追尾攻撃。これが〈クラウ・ソラス〉を解放したときにだけ発動できる特殊能力だ。これは相手の姿が見えなくても追尾してくれるのだが、俺は決してそれを忘れていたわけではない。沈黙を食らった直後に発動していれば鈍足も呪いも喰らわずに済んだはずだが、とにかくそうではない。


 さて、〈クラウ・ソラス〉の特殊能力は強力だが、流石にあれだけではナイトメアを倒すには不十分だ。やはり、自分の手でトドメを刺さなくては。


「起動〈ダインフレス〉!」


 言いながら手をかざすと、俺の肩の上を漂う鈍色のスフィアーツが一段と輝き、俺の右手に美しい黄金の刃を持つ剣が収まる。規定のMPが消費され、代わりに〈ダインフレス〉と記されたゲージが視界左上に追加される。


 新たな獲物を得ると同時に、HPゲージの横にあった状態異常のアイコンが、三つから一つに減っていた。


 これが、〈ダインフレス〉のスフィアーツが持つ特殊効果だ。武器を出現させると同時に、自身に発生している状態異常を打ち消し、新たに一つ状態異常を発生させる。しかも、起動時に受けていた異常が多ければ多いほど強くなる、筋金入りの呪いの剣だ。


 〈ダインフレス〉の起動によって課せられた呪い、もとい状態異常は「火傷」。HPの回復を妨げる効果を持つが、持久戦でなければ関係ない。


 俺が〈ダインフレス〉へとスキル使う意思を向けると、それに呼応するように〈ダインフレス〉が水色の光をまとう。


直後、俺は地を駆ける疾風と化して、目星を付けた場所へと突進する。その勢いのまま、抉り込むような刺突を放ち、踊るようにステップを踏みながら体を回転させ、幽霊馬(ナイトメア)の側面から体重を乗せた斬撃を見舞う。続けて〈ダインフレス〉に緑色の光をまとわせ、ノーモーションの突きを繰り出し、傷を抉るように剣を捻って馬を地面に引き倒す。


 我ながら鮮やかな身のこなしだが、これは、俺が自分で身に着けた技能ではない。「スキル」と呼ばれる、ゲームシステムに登録された動作をなぞることのできる技だ。さっき発動したのは〈チャージ&ダブルスラッシュ〉と〈トリプルスタブ〉という何の捻りもない名前のスキルで、使っている武器に応じてモーションが変わるようになっている。使っているのが呪いの剣〈ダインフレス〉であるから、抉ったり捻ったり、ややエグイモーションになるわけだ。


これがあれば、竹刀すら握ったことのない人間だって、達人のような剣戟を放つことができる。俺のことを騎士よろしく華麗な剣舞のできる超人的な青年だと誤解したのなら本当に申し訳ない。


 さて、引き倒したナイトメアを見ると、二割以下にまで減ったHPと、「沈黙」「鈍足」「呪い」のアイコンが確認できた。これも〈ダインフレス〉の特殊能力で、起動した際に受けていた状態異常を、攻撃した時に相手に付与することができる。呪いのなすりつけというわけだ。


 ついでに言っておくと、〈ダインフレス〉を持っている限り、起動時に受けた状態異常を全て無効化できる。呪いの剣万々歳だ。


 と、つまり俺は完全に油断していたわけだ。俺はいつも〈ダインフレス〉に八つの状態異常を吸収させて、最大まで強化している。今〈ダインフレス〉が吸収している状態異常は三つで、当然、最大強化時よりも威力が劣る。いつもなら削りきれるはずの敵HPが、残ってしまっていた。


 血色の悪い馬が嘶き、体を丸める動作に入った時、俺は自らの不覚を悟った。そうだ、こいつは瀕死になると、いわゆる「自爆技」を使ってくるのだ。それも強烈なやつを。


「やばっ……!」


 直後、ナイトメアは黒い炎の弾と化し、俺に突っ込んできた。こいつもシステムに登録されたれっきとした魔法技で、名前を〈メギドフレイム〉という。区分は闇属性致命級魔法。その名の通り喰らったら一撃で死にかねない物騒な魔法だ。


 俺は全力でその場から身を投げ出し、決死の回避を試みる。その甲斐あって直撃は避けられたが、〈メギドフレイム〉の闇の炎は俺の背中を捉え、ぼふう、という音と共に燃え上がった。


「うげえ!」


 地面を転がり、無様な恰好で地に這いつくばる。即死は免れたが、今のでHPの六割以上を削られた。このゲームでは「痛み」を感じることはないが、攻撃をくらうと何故か「痛い」という錯覚が残る。そのショックで、少々目を回す。


 だが、これで戦闘は終了だ。俺は用心のために〈クラウ・ソラス〉を起動し、周囲を警戒しつつも一息つこうとする。


 このダンジョン、「狭間の大平原」はギルガメッシュ・オンラインでも最大級の広さをもつ。俺としてはやりすぎじゃないかと思うその広さだが、端から端まで六十キロメートルもあるらしい。琵琶湖よりもやや狭いくらいといったところか。


 その広さからか、同じダンジョン内でも場所によって様々なレベル帯のモンスターが生息している。俺がいるエリアは城壁の跡のようなものが点々とあり、かつてそこを守っていたと思しき骸骨騎士や軍馬の幽霊が跋扈している。


 俺は隠れられる場所を探すべく、近くの城壁跡を横切る。階段の踊り場のような場所があればよいのだが……。


 しかしそこで見つけたのは、城壁の陰に隠れて見えなかった、ちょっとした絶望の群れだった。



12/10/2016 この話だけ全面改稿。


チラシ裏的解説

※本解説は設定のおさらいや元ネタ等を紹介する作者の自己満足コーナーです。おつまみ程度にお読みください。


・〈スフィアーツ〉

 本作のとても重要なゲームシステム。MPを消費して武器を呼び出し、それを用いて戦うゲームデザイン的に中核をなす仕様。気づいている方も多いと思われるが、スフィア(Sphere)とアーツ(Arts)をくっつけただけの造語。


・〈ダインフレス〉

 人によってはダーインスレイヴと言った方が分かるかもしれない。北欧神話に登場する呪われた魔剣。一度鞘から抜いてしまうと、生き血を浴びて完全に吸うまで鞘に納まらないといわれる(wiki調べ)。もともと、邪竜の代表格であるファーヴニルが守る宝だったらしい。そんなものを人間が持っていいはずがなく、所有者はだいたい破滅的な最後を遂げている。


・〈クラウ・ソラス〉

 通称「光の剣」。こんな名前なのでいろいろな作品で登場し、それぞれ性能が違うらしい(wiki調べ)。アイルランドの口承では照明になったり巨人に対して特攻(FE脳)を持っていたりするようだ。

 ケルト神話では、ダーナ神族がアイルランド上陸時に持ち込んだ四種の神器として登場する。こっちのクラウ・ソラスは命じれば独りでに敵に跳んで行って確実に殺しただとか。本作はこっちの設定を採用している。


・〈メギドフレイム〉

 直接的な名前ではファイナルダンタジーⅩに登場するモンスター「キマイラブレイン」が使用する技。こちらは印象が薄いが、ファンタシー・スター・オンライン(PSO)をプレイしたことがある人なら「メギド」と聞いただけで背筋が凍るはず。オブリリー……メギド……うっ、頭が……(即死率50%)。

 メギドという名の語源はハルマゲドンで検索するとちょっとわかるかもしれない。

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