神を信じる少女
「たこ焼きの入れ物(確か舟って名前)は、現れた女の子の手によって公園のごみ箱に捨てられました まる」
「それ気に入ったのか?」
「わりと、ユイカもやる?」
「気が向いたらな」
「何をぼそぼそ言っている」
そうだった。今わたし達は、何故か怒られていたんだ。
理由はたこ焼きの舟をごみ箱に捨てずベンチの上に放置した事らしいけど。
「私だって鬼ではない。貴女がちゃんと食べ終わってゴミを捨て、構えるまでは待つつもりでいた。だがしかし貴女はそれをせずその場に放置した。それがどれほどに悪い事か…」
喋り方がちょっと変わってるなー、とか思いながら。
「あのー、別に放置した訳じゃないですよ?」
「何?」
「ちゃんと捨てるつもりでしたし、あの時はあなたが臨戦体制だったので急ごうとして一時的に置いただけですから」
「なっ……!?」
それを聞いた女の子は目を丸くして驚いていた。
「ポイ捨ても放置もわたしはしませんよ」
「そ、そうだったか……」
今度は何故か顔が赤くなっていた。
「どうした? 顔赤いぞ?」
「なな、何でもない」
手をぶんぶん振って否定する。
もしかして、自分の早とちりだと気付いて照れてる?
女の子は咳払いをすると、
「こほん、自己紹介がまだだったな、私の名はヒカルという」
自らの名前を言った。
「わたしはサキ、よろしく」
「ユイカだ。本名じゃないがそう呼んでくれ」
「サキと、ユイカさんだな」
ユイカだけさん付けだ。
「呼び捨てでいいぞ」
「それは出来ない。我が集団では年上にはさん付けという決まりなんだ」
「年上ねぇ……アンタ、今いくつだ?」
「今年16になった」
あ、同い年だ。
「アタシもだぞ」
え? ユイカも?
「何? 本当なのか?」
「あぁ、だから呼び捨てにしてくれ」
「分かった。ならばユイカと呼ばせてもらう」
……?
「ねぇねぇユイカ」
女の子、ヒカルに聞こえないように小声で訊ねる。
「どうした?」
「本当に16歳?」
「見えないか?」
「正直」
背も体型も、わたしより一つ二つ上でも通じると思うくらいある。
「そりゃそうだ。ウソだからな」
ウソ?
「じゃあ本当は?」
「分からん。それも忘れてるっぽい」
都合の良い記憶喪失だなー。
「でもよ、それをあっさり信じるアイツ、そこまで悪い奴じゃなさそうだな」
「それは納得」
こんなウソを簡単に信じるとは、騙されやすいタイプなのかも。
「何か言ったか?」
ヒカルが気づいた。
「いいえ何も」
「ふむ、しかし貴女達は変わっているな、参加者とこんなに会話をしたのは初めてだ」
「そういやそうか、普段サキと一緒だけど他の参加者とは言って二言三言くらいだもんな」
「そうだね」
と言ってもまだヒカルで4人目なんだけど。
「貴女達も神にお会いになりに行くのですね」
「は? 神?」
ヒカルの言葉にユイカは首を傾げた。
「そう、神です。この戦いを仕切りし者、優勝者の願いを何でも一つ叶えて下さる者、それが神です」
「あー、なるほどな。人を生き返らせられんのなら神様かもな」
確かにそうかも。慈悲があるなー神様。
「私は神に会うため、ここへ来たのです」
「どうやって?」
「神の像に祈りを捧げ、その膝元で自らの身体と離れ、精神だけの状態となってです」
「つまり、死んだんだろ?」
ユイカがばっさりと訊いた。
「そうとも言う。致死量の薬品を飲んだ」
毒薬で死んだのか、それは苦しそうだな。
「貴女達はどうやって?」
わたしは…………
「うーん……どうやってだろ?」
所々記憶が分からないけど、死んだ時も忘れてるなー、これは。
「ユイカは?」
そういえばユイカの死因を聞いてない。
「アタシは……」
沈黙が続く、これはユイカも忘れてる感じだな。
「…………確か、病気だ」
あ、覚えてた。
「病気か、それはまた苦労したな」
「多分だけどな、思い出せない事が沢山あって確証は無いぜ」
ユイカは曖昧なのか。
「だとしても、神は不平等無く優勝者を生き返らせて下さるだろう……だがしかし」
急にヒカルの声のトーンが下がった。
「中にはどうしてここに選ばれたのか理解出来ない者が沢山いた」
理解出来ない者?
「例えば?」
「あぁ……例えばな…」
ヒカルは一呼吸置くと、
「回りを気にせずにポイ捨てする者! バスで高齢者に席を譲らない者! 喫煙所では無いところでタバコを吸い、あげくその吸い殻を道に捨てる者!」
つらつらと語っていく。
「……」
「……」
わたしとユイカは顔を見合わせた。
「なんというか……」
小声でユイカに呟く。
「ヒカルって、めっちゃ良い子だね」
「だな、小学校でダメって言われてる事ずっと守ってますよって感じだ」
普通な事のはずだけど、ここまで守ってる人はそうそういないよ。
「後よ、さっき神の像の前とか色々言ってたけど、ひょっとしたらヒカルの奴、宗教とか入ってたんじゃね?」
あー、あり得る。良い子過ぎる故に、宗教とか良い子の集まりに入っててもおかしくない。騙されやすい性格っぽいから、多分そうだ。
「ちなみに、考えは個人それぞれのものですので宗教を全面否定している訳ではありません。ご理解下さい まる」
「急にどうした?」
「一応ね。ところでヒカル」
「何だ?」
「ヒカルってさ、信者とかいう単語使ったことは?」
「日常茶飯事だが?」
やっぱりかー。
「ひょっとして、サキも信者なのか?」
「まさかまさか」
「ふむ、ならば我らの仲間にならないか? 神は清く平等に、祈り捧げる我らを見守って下さるぞ」
「いいよ、間に合ってる」
居るかもよく分からないものに意味もなく祈るなんて、わたしはゴメンだ。
「それよりさ、そろそろ始めない?」
考えたからいつの間にか話し込んでいた。
「あ、そうだな。つい話し込んじまったぞ」
「そういえばそうだ」
「一話分くらいね」
「は?」
「こっちの話」
「サキとユイカが生き返りたいというのはよく分かった。だがしかし」
ヒカルはわたし達から離れて間合いを取った。腰にさしているレイピアに触れ、
「私にも同じように、理由があるのだ。正々堂々、勝負しようじゃないか」
引き抜いた。切っ先をこちらに向ける。
「だとよ、サキ」
ユイカが構えた。
「わたし達、元々卑怯っぽいのにね」
その隣で、ユイカと背中合わせでわたしは構えた。
二対一の、正々堂々とした戦いが始まった。