初めての戦い
暗いような明るいような、そんな殺風景な場所をユイカと共に歩いている。
いきなり死んでいると言われたのには驚いたけど、その時の事はすっかり忘れているようなので好都合。ここに慣れた頃にぽんっと思い出すでしょ、きっと。
という訳で、今はこの疑問を解かないと。
「この紐、なんなんだろうな」
わたしの左腕に着いているブレスレットと、ユイカの頭の中と繋がっている黒い紐が何なのかさっぱりだ。わたしの左腕はともかく、ユイカのは何故か頭の中、腰まで届くほど長い金髪の中に紐が続いている。
その為、ユイカは常にわたしの左側を歩いている。
「うーん、ちょっと手繰ってみるね」
わたし達は立ち止まり、ブレスレットから伸びる紐を手繰ってみた。指を這わせて行けば、必然的にユイカの髪の中に向かって……
「ひっ」
うわぁ、ユイカの髪さらさらだ。まるで本当の人形みたいに。
「お、おい、ちょっと、やめ……ひぅ」
けっこう長いなこの紐、ユイカの髪も長いけど。
「んぁ……くぅ……やめ……」
あれ? ここにあるのってまさか……
「だぁーーーーーーー!」
「!?」
ユイカがいきなり吠えた!?
「やめろっつてんだろ! 聞こえねぇのか!?」
「え、あ……ごめん」
紐から手を放した。
「はぁ……はぁ……ったく」
肩で息をしているユイカ。心なしか顔が赤い。
「痛かったの?」
「いや、なんつうか……その……」
「その?」
「……気持ちよか……ごにょごにょ…」
「え?」
「だぁぁ! 今の無しだ! 気にすんな!」
「えー」
気持ちよかったって聞こえた気がしたけど……
「まぁ付いてるもんは仕方ない! それで良いだろ!」
「うーん、まぁいいけど」
多分、外せないっぽいし。
「じゃあ行く……ん?」
歩き出したユイカが前を見て急に止まった。
「どしたの?」
「居たぞ、参加者だ」
前から男の人が歩いてきた。手にはナイフを持っている。
アレがわたし達と同じ死んだ人なのか、でも普通に動いてる。
そもそも謎が多すぎるんだよな。この世界も、わたし達も、この紐も。……まぁいいか、きっといつか分かる時がくるかもだしね。
「へへ、腕が鳴るぜ」
ユイカを手を握って指をパキパキと……
「あれ? ふんっ、ふんっ」
「鳴らないね、全然」
「う、うっさい! いいからやるぞ!」
ユイカは前から歩いてきた男の人を指さした。
「そこのアンタ! アタシ達と勝負しな!」
男の人は受け入れたのか、ナイフを握り直して立ち止まった。
「行くぜぇ!」
ユイカが前へ走り出した。そうなると、
「うわぁと!?」
紐で繋がれているわたしも引っ張られて前へ動かされた。
転んで引きずられるのはゴメンだ、何とか歩速を合わせて付いていく。
紐の長さは計ってないからよく分からない。けどわたしが手を挙げたりユイカが頭を下げたりする必要はないぐらいの、普通にはちょうどよい長さだ。けどいざ戦いとなるとこの長さはちょっと動きにくい。
もうちょっと、伸びないかな。
その時、
「お?」
ブレスレットから黒い紐が伸び出した。紐はみるみる内にわたしとユイカの間にたるみを作り出す。
わたしは立ち止まってみた。するとたるんでいた紐がユイカに引っ張られていき、わたしが引っ張られる事なくユイカが男の人の元に到着した。
「オラァ!」
ユイカが右ストレートを放った。男の人は避けるも、素早いパンチが肩に当たった。
続けて左フック、コレは完璧にヒット。
男の人も反撃に出た、ナイフをユイカに向け突き刺す。
「甘ぇぜ!」
するとユイカは、そのナイフを受け流す。体を捻りながら前へ動かさせ、カウンターで拳を叩き込んだ。
……何というか、ユイカ強すぎる。わたしただ見てるだけで良くない?
「ん?」
男の人を殴り飛ばした後、わたしが来ないことに気づいたユイカは後ろを振り向いた。
「なにやってんだよサキ、オマエも来い……って、なんか紐伸びてねぇ?」
黒い紐は地面に付くほど伸びていた。
「てかさ、ユイカ強すぎるよ。ボクシングでも習ってたの?」
「いいや、ちょっと武道をやってんだよ。つかこんくらいならサキにも出来んだろ?」
「まさかまさか」
わたしは首と手を左右に振った。あんな技出来る訳無い。
「もう邪魔にならないように遠くで見てる方が良いかなーと思えてきたよ」
「なに言ってんだよ、せっかく2人組なんだから2人でやらなきゃ意味ねぇだろ」
「えー」
戦うこと自体に抵抗が無いってのもおかしいかもだけどさ、結構大変そうだ。
「良いから早く来いって」
「はいはー…っ!?」
その時、男の人がナイフを振り上げてユイカに向けて降り下ろそうとしていた。
「ユイカ! 危ない!」
あのままじゃ当たる!
「ん?」
パシッ!
「え……?」
心配した瞬間、ユイカは縦に落とされたナイフを二本の指で止めた。
し、真剣白羽取り……しかも指二本で。
「へへ、不意討ちじゃアタシは倒せないぜ」
ナイフを取った手を引いて男の人を寄せると、先ほどのように空いた手で殴り飛ばした。
……やっぱり、わたしが出ない方が絶対良いよ。うん。