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迷惑をかけたくない

「お、思い形見というのですか」

「そういうことだ」

まずわたし達が持つ武器が思い形見という名前だという事、そしてユイカは自分がわたしの思い形見だという事をシキに話した。

「で、では、ユイカさんは、参加者とは違うのですね」

「まぁそうなるな、アタシはサキの思い形見、戦う為の武器だ。シキだって持ってんだろ?」

「は、はい、あります、けど……」

「けど?」

「そ、そのぅ……」

シキは急に視線を泳がせた。

そういえば、シキの思い形見は何なんだろ。今までの人は全員手に持って見えたけど、シキは手ぶらだ。ポケットに入るような大きさなのかも。

「どうした?」

「あ、あのぅ……わ、笑わないで、下さいね?」

武器を見て笑う?

「笑ったりしねぇから」

「で、でで、では……」

シキはスカートのポケットから何かを取り出した。握っていた手をわたし達に向けてゆっくり開く。

その上にあったのは……

「……何だ、コレ?」

「えっと……標識?」

標識だった。あの道路の横に立っている『止まれ』とか書かれてる赤い逆三角形のアレだ。

けどその逆三角形には『止まれ』じゃなくて『縮め』と書かれてるけど。

「コレがそうなのか?」

「にしては、小さすぎない?」

果物ナイフよりも小さいかも。

「す、少し待って下さい」

シキは標識を持つと、文字の部分に指を滑らせた。

その瞬間、標識が伸びた。

「いっ!?」

「おー」

ユイカの驚きの声と標識が床を叩くのがほぼ同時、そんな一瞬の内にシキの持つ標識が標準の大きさになった。

「す、すみません! 驚かせるつもりは!」

棒を両手で握ってしがみつくようにシキは標識を持った。

「これが、思い形見?」

どう見ても普通の標識だ。『縮め』と書かれてた文字も『止まれ』になってて、それを抜いてきたようにしか見えない。

まぁ、あんな拡大すれば普通では無いんだけど。

「は、はい、あたしがここへ来た時に持ってた物、です」

「つうことは……コレに最初手が触れたってことだろ?」

「だよね」

思い形見は、自殺直後最初に触れた物がなる。わたしはユイカそっくりのキーホルダーで、シキはこの標識ということだけど。

「何をどうしたら標識に手が触れんだよ」

「え、えぇと……ですね、そ、それは、あたしが死んだ時…」

シキは自らの死を語り出した。





歩道橋の上、知る限りで徒歩で行ける一番高い場所を考えたら、ここについた

別にどこでも良かったし、もう考えるのも嫌だった

早く、いきたかった

周りに迷惑をかけまくるのがもはや日常だったあたしに、居る場所なんて無い

だからこことは違うとこへいけば

迷惑をかけなくていいとこへいけば。あたしの居場所もあるはずだと思った

今が、チャンス。ちょうど下の道路に車が走ってないから

……よし、いこうかな





                                  ドシャ




……あれ?

あたし……生きてる?

わわ、それはマズイ

そのままいってくれれば残った身体は知らなかったけど、まだ生きてて動けるからこのままだと来た車を止めてしまってまた迷惑をかけてしまう?!


な、なん……とか、道路の端に……だけでも、行か……なく……て……は……




もう……め……い…………わ……く…………は……





かけたく……ない……





「……そして、標識の所まで行って、力尽きたみたいです」

「だから標識に手が触れたのか」

「そういうこともあるんだね」

道路のコンクリートに落ちたけど動いて標識の所まで行った、と。

でも迷惑になるからで道路から離れたとは、どれだけ人に迷惑をかけていたんだろ?

「そ、それで、気が付いたらこの世界に来てました」

「なるほどな、つまりは、アンタも誰かに思われてるって事だ」

「え? お、おも、おもわ、思われて?」

「この世界に来れるのは自殺したアタシ等を思ってる誰かがいるからなんだ。ここにいるって事は、つまりはそういうことなんだよ」

まぁハカセ知識だけどね。

「あ、あたしが、思われ……て……てて、ててて」

「落ち着け、深呼吸」

「す、すぅー……はぁー……」

なんでだろう、シキは年上の筈なのに、ユイカの方が年上に見えるのは。

「そ、そんなことが、あり、あり得るのでしょうか? あ、あたしみたいな迷惑のか、かた、かたま、塊が」

「あり得るから、ここに居んだろ。自信持てよ」

「ゆ、ユイカ、さん……」

「呼び捨てで良いって」

「そ、そんなの出来ませんよ、こ、こんなあたしに、し、親切にしてくれた方を呼び捨てなんて、てて」

「じゃあわたし達がもっと敬って呼べばいいんだ」

わたしは軽く提案してみた。

「もっと敬う?」

「うん、だからコレからはシキを……様付けで」

「え、えぇ、えぇぇ?!」

スゴい驚きようだった。

「そそそ、そんなこと、ととと?!」

「落ち着け。ほら深呼吸」

「すす、すぅー……」

「でもまぁ、この状態を見るにアタシ等がそうすれば呼び捨てで呼びそうだな」

「んぐ?! けほ、けほ」

深呼吸の空気が変なところに入ったのか、シキはむせて咳き込んでいる。

「……けど、無理強いしたら逆につらそうだな」

「だね、今分かった」

「つう訳で、もう好きに呼んでくれ」

「けほ……す、すみません。でで、では…」

シキは辺りに視線を泳がせた後、意を決したようにわたし達を見て、

「ゆ、ユイカさん」

ユイカをさん付けで、

「さ、サキちゃん」

わたしをちゃん付けで呼んだ。

「え? なんでわたしだけちゃん?」

「な、なんか、そ、そん、そんな感じがしたもので」

「ふーん、まぁいいけど」

実際に年上だし。

「あ、そういや勝負はどうするんだ?」

「あー、忘れてた」

「う、や、やや、やはり、戦わなくてはいけないのですね」

「まぁ、そういうルールらしいからな。戦わなきゃ、先に進めねぇんだ」

「うぅ……そ、そうなん、です、よね……」

「つか、今までも戦ってきたんだろ? ならその一つだと思えばいいんだよ。さっさとやっちまおうぜ」

「は、はい!」




「さて、ユイカ、出番だよ」

「ん? ……げ、まさか、アレか?」

「もちろん、あえてまだ言ってないのはその為さ、ほらほら、今がチャンス」

「うっ……え、えっと、何て言やいいんだ?」

「それはおまかせ、最後にまる、で閉めればおけ」

「わ、分かった……」

ユイカは先ほどのシキみたいに深呼吸をすると、

「シキと戦うため、アタシ達は戦いやすい広い場所へと移動していた まる」

「おー、初めてとは思えないね、ぐっじょぶ」

ぴしっ、と親指を立てる。

「うぅ……お前、毎回毎回こんなハズイ事してたのか」

「ふっふっふっ〜」

「あ、あのぅ……ユイカさん? 今のは、いったい?」

シキに聞かれた。というか隣にいたら当然だね。

「いっ!? いい、いや、何でもねぇよ! 気にすんな!」

「は、はい……?」

「ユイカ、次もやる?」

「いや……ワリィ、しばらく猶予くれ」

かなり疲れた顔だ。

「じゃ、またいつかね」

「おぅ…………あ、この辺りいいんじゃね」

そこは林の中の開けた場所だった。

道路の方は車が走ってるからということで、こっちに来てみたら見つけた場所だ。

「んじゃあ、戦う訳だが……シキ、分かってると思うけどアタシ等は2人一組だ。もちろん2人がかりだけど、覚悟してくれよ」

「は、はい! ユイカさんは、サキちゃんの思い形見だからですよね! あ、あたしのコレと同じように!」

シキは標識を地面に付きながら答えた。

「お、おぅ……」

何だろう、シキの言葉がはきはきし出した。慣れたのかな?

「よし、ならさっさと始めて、さっさと終わらせちまうか」

わたし達とシキは互いに間をあけて立つ。

「サキ」

ユイカが耳打ち、多分シキには聞こえないようにだ。

「お前の能力、なるべく試してみるんだ」

「でも、使い方よく分かってないんだよ?」

「だからだ、実戦で使うことが一番向上になるんだよ」

「確かにね、じゃ、チャンスが来たらやってみるね」

わたし達は互いに構えて、背中を合わせて立った。

「い、行きますよ!」

シキとの勝負が開始された。


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