落ち着きない
ハカセの所からまだ行ってない方向に歩くこと数分、くらい。
実際の時間は分からないから多分そんくらいの時、
「あ、扉があるよ」
「お、本当だな」
わたし達は扉を見つけた。今までのとは違う、初めて見る扉だ。これで4つ目か。
「んで、入るのは決まりとしてどうする?」
「やっぱ、またじゃんけんかな」
「だな」
という訳で、じゃーん、けーん、ぽん。
結果はわたしがグー、ユイカもグーだった。
「あいこだな」
「もう一回」
あーい、こーで、しょ。
わたしはチョキ、ユイカは、チョキ。
「またか」
「次で決まらない気がしてきたよ」
「アタシもだ」
あーい、こーで、しょ。
わたしがパーで、ユイカもパー。
「……」
「……」
まさかの三連続あいこ。これ結構難しいんじゃない?
「次で決まんだろ」
「どうだろ」
あーい、こーで、しょ。
「……」
「……」
ま、結果は予想通り。
「どうする?」
「こうなりゃ決まるまでやり続けっぞ」
「よしきたー」
あーい、こーで……と腕を振り上げた時。
「あ、あのぅ……」
「ん?」
「しょ?」
そこには女の人が立っていた。
ユイカと同じくらい長い、緩いウェーブのかかった茶髪で、顔には赤い縁のメガネをかけている。
わたし達が見たとたんにそのメガネの奥の目を泳がせ、口があわあわ動き出して若干震え始めた。
「どうした?」
「ああ、あのぅ、あ、あた、あたし…」
「ユイカ、ひょっとして通りたいのかも」
わたし達は扉の前でじゃんけんをしている。きっとこの人、中に入りたいけどわたしが邪魔で入れないんだと思う。
「あ、そっか、ワリィ、ここは邪魔だったな」
「いい、いえ、それもそ、うなのですが、あ、あたし…」
「ひょっとして、対戦希望ですか?」
そういえばここに居る人な以上、参加者に間違いない。となれば目的はわたし達との戦いかも。
「そうなのか?」
「え、ええっと、確かにそれもそ、うなのですが、あ、あのぅ、あ、あた……」
「そういえば自己紹介してかったね」
「おいサキ、さっきから言葉の腰折りすぎだぜ」
そいやさっきから途中で区切らせてばかりかも。
「ありゃ、それはごめんなさい」
「おいアンタ、アタシ等に何か用事なんだろ?」
「は、はい!」
「ならまずは落ち着け、なんならこの中で落ち着ける場所探そうぜ」
ユイカが扉を指差す。
「少なくともこの薄暗いとこよりはマシだろ。サキ、どっちか決めていいぜ」
「はーい、じゃあ引き戸で行こっか」
わたしは扉を引いて開けた。
「さ、行こうぜ」
「は、はは、はい!」
わたしの後にユイカ、その後に女の人が入った。
扉の先は、夜だった。
正確には扉の先にあったのは真っ直ぐな道路で、日は暮れていて外灯と車のヘッドライトが光っていた場所についた。ハイウェイって言うのかな?
「車がうるせぇな、こりゃさっきの所の方が良かったかもな」
「じゃあ、戻る?」
「いや、でも向こうよりは明るいから良いだろ、どこか静かな場所でも見つければ良い」
「あ、あのぅ」
女の人が手を挙げた。何か言いたいみたい。
「どうした?」
「あ、あそこに……」
女の人が指差す先を見ると、建物が見えた。
自販機が外壁にあるのを見るに、休憩所のような場所かな。
「ちょうど良いな、あそこに行こうぜ」
「おー」
わたし達は休憩所へ移動、扉を開けて中に入り、電気をつけた。中は特に汚くも、というか使用感が全く無かった。
「んで、アンタの用事は何なんだ?」
中にあった椅子に座ったユイカは、入り口でおどおどしている女の人に訊ねた。
「あ、あのぅ……」
おどおどして、目線が泳いで、言葉がたどたどしい、かんなり落ち着きの無い人だなー。
「まぁ座れよ、話しは落ち着いたらで良いから」
「は、はい……」
女の人はユイカの向かいに座った。
どうするか考えたわたしは、やはりユイカの隣に腰かける。
「参加者、だよね?」
ユイカにだけ聞こえるように小声で話す。
「だろうな、もしくはアロマと同じ元参加者だ」
そっか、その可能性もあったんだ。
確かアロマさんには『時により声をかけられる場合がありますのでその時は訴訟を隠さずに話してくださいね』て言われたっけ。
そういえばこの人、どことなくアロマさんに似てるかも。
「すぅー……はぁー……」
女の人は深呼吸で心を落ち着かせようとする。
「ん……よし!」
ぐっ、と手を握って意を決したようにわたし達を見た。
「お、お待たせしました、あたしの名前は、シキといいます」
「シキ、か」
「何かわたしと似てるね」
一文字違いだ。
「だな」
「お、お二人のお名前は?」
「わたしはサキ」
「ユイカだ」
「サキさんと、ユイカさん、ですね」
「呼び捨てで良いぜ、多分年も近いだろうし」
「え、えっと……あたしは、じゅうく、なのですが」
『!?』
わたし達は顔を見合わせた。
「ど、どど、どうしました?!」
「い、いや……何でも無いぜ。とにかく、呼び捨てで良いから」
「は、はい……」
まさか19歳、年上だった。全然そうは見えなかったのに。
「で? アタシ等に声をかけた理由ってのは?」
年上と分かってもユイカはいつもの通りでいくようだ。
「そ、それはですね、お、お二人を見かけて、ここまで仲良しな参加者を見たのが初めてでして、そ、それで出来れば、あ、あたしもお話し出来たらな、と、お、おも、思いまして、ててて」
「サキ、多分この人普通の参加者だぞ」
「うん、言葉で大体分かった」
元参加者の人達はもうわたし達のことを知っている。だから、ただ仲良しに見えるということは、それを知らないということだ。
「よ、よろしければ、お、おは、おはな、お話ししませんか?!」
力強く声を上げた。
「別に良いよな。な、サキ?」
「うん、別にすぐ戦わなきゃいけない訳じゃないしね」
「あ、ありがとうございます!」
シキはぺっこりと90度以上頭を下げた。
「で、具体的に何を話せばいいんだ?」
「さぁ、ここに来てからの事とか?」
結構話せることあるかも。
「あ、あのぅですね、まず、お二人の出会いを、お話しいただけますか?」
お二人の出会い?
「アタシとサキのか?」
「は、はい、なぜお二人は共に行動をしているのか、何か、とく、特別な理由があるのかと、おも、思いまして」
まだ所々たどたどしいな。
「特別……って言えば、特別なのかな?」
「かもな、他にアタシ等みたいなの見たことねぇし」
「ど、どういうことですか?」
「アタシ等は、こういう事なんだよ」
ユイカが頭の後ろから握り、わたしは左手を持ち上げて、黒い紐が繋がっていることをシキに示した。
「え、えぇぇ?! ど、どどど、どうなってるんですかそれ?!」
ここまで驚かれたのは初めてだ。
「というか、今まで気づかなかったのかな」
「暗い所ばかりだったからな、メガネってことは目もよくないんだろ」
あー、なるほど。
「えっとね、コレは…」
「は! ま、まさか!」
シキがいきなり立ち上がり、わたしは言葉を止めた。
「あまりに仲が良すぎるあまり離れたくないと思って繋いでしまった……これでもう離れられないぜーとかですか!」
「……」
「……」
超流暢に長文を語ったなー。
「あれ? ……あ、あのぅ、違いました、か?」
「まぁな、つかどんだけ仲良くても、んな事はしねぇだろ」
「そだね」
「あ、あわわ……ごご、ごめんなさい!」
シキは再び90度以上頭を下げて、今度は謝った。
「す、すみませんでした! あ、あたしよくこうして勝手な妄想ばかりしてしまったりしててまして! それでよく人に迷惑をかけてしまったりしてましてて!」
ちょっと言葉がおかしくなってる。
「ちょ、とりあえず落ち着けって、深呼吸しろ深呼吸」
ユイカが落ち着かせようと深呼吸を促した。
「で、ででですが!」
しかしシキは全く落ち着かず、手をばたばたと動かして慌てふためきを体全体で表した。
「ユイカ、自分で落ち着くの待てば良いんじゃない?」
「そうかもしれねぇけど、ワリィ、待てねぇわ」
ユイカは立ち上がると、慌てるシキの前に立って両手を上げ、
「おい」
その肩をがっ、と掴んだ。
「ふひゃい?!」
妙な声で鳴いたシキは目の前にいるユイカを真正面に見る。
「いいから落ち着けって、ほら、深呼吸。すー……はー」
「す、すぅー……はぁー……」
自分を真似させて、シキに深呼吸をさせるユイカ。
それがしばらく続き、
「落ち着いたか?」
「は、はぃ……」
「ならよし、座れ」
落ち着いたシキの肩から手を離し、ユイカは元の場所に座り直した。
「優しいね」
「んなつもりは無かったがな、ずっとあのままじゃ話が進まねぇと思っただけだ」
「ふーん」
「あ、あのぅ……ありがとう、ございます」
「気にすんな、それよりもこの紐についてを聞け」
ユイカはシキに話し始めた。




