青くない港街
アロマさんが示してくれた方向に歩き続けていると。
「あ、あったあった」
扉を発見した。最初に入ったものとも、ハカセの黒い扉とも違う初めて見る扉だ。
「さてと、どうやって開こうか」
「押すか引くか、だよな?」
ハカセに聞いて分かったことなのだが、扉は押しても引いても開き、その開け方によって異なる場所に連れていくのだとか。
「ここは公平にじゃんけんだね、わたしが勝ったら引く、ユイカが勝ったら押すで」
「OK」
わたし達は右手を前に出す。
「さーいしょはグー、じゃーんけーん、ぽん」
わたしの合図と共に手を出す。
結果、わたしがチョキでユイカはパー。
「わたしの勝ち、じゃあ引いて入るだね」
「だな」
扉に手をかけ引くと、引き戸となった扉が開いた。
「行くよ、ユイカ」
「おぅ」
わたし達は扉の中に入った。
タァン
銃声が響いた
その音を聞くと、俺の隣に並ぶ者が弓なりに曲がり、仰向けに倒れていった
まるでゼンマイが切れたように動かなくなったソイツを見ると、その背中から地面に真っ赤な池を作り、その腹から空へ鮮血の花を咲かした
花を見た俺は叫んだ。涙を流す……のをこらえ、銃声を響かせた相手を見る
躊躇いや抵抗は無く、花を見て怯んでいる相手のその耳に、顔に
タァン!
銃声を聞かせた
その音を聞いた相手もまた、仰向けに倒れて顔から鮮血の花を咲かした
その花を見た瞬間、こらえていた涙が溢れた
視界がぼやけたまま隣にいた彼女を見る
すでに花は枯れ、顔には表情というものを感じられなかった
俺は泣き叫んだ。今までで一番近くにいた者を、隣にいた者を失った悲しみだけが体を包み、身体中の水分を全て使ったのではないかというほどに垂れ流した
どれほど経った頃だろうか
冷静になった頭で、改めて彼女を見る
ふと、胸ポケットに入れていた物を取り出した
それは懐中時計、彼女からの唯一の贈り物にして、2人を繋ぐ絶対の証
蓋を開け、内側に掘った文字を読む。俺の名前と、彼女の名前、互いに名字は無く名前だけが並び、その上には近いの言葉が……
……また、涙が溢れてきた。まだ体に水分があったのかと冷静に考える
そして、冷静故に思い至った結果
俺は
タァン
新たなる鮮血の花を咲かせ彼女の元へ向かうことにした
「扉を抜けたら、そこは港町だった まる」
「あ、それ今使うのか」
「今回はいつ使おうか悩んでたからね」
引いて開けた扉を抜けた先は、海の見える港町だった。
工業地帯でもあるのか、コンテナが沢山ある港、その更に向こうを見れば、
「青い空、青い海、そして歩き出せば数歩で海にたどり着く砂浜…」
「いや全部違うぞ」
は無かった。
曇った灰色の空、それを反射して灰色の海、歩き出せば数十歩以上かかってやっと波打ち際に行ける長い砂浜。
どうやら天気の悪く、海が引き潮の時に来たらしい。
「そういえば、扉の中なら天気があるのかな」
「さぁな、ここはずっとこの空なんじゃねぇか」
前に入った街は数時間ぐらいいたけど日が暮れたりはしないでずっと昼だったし、ここもこうなのかな。
「もう少し晴れてたらなー、良い景色なのに」
「かもな」
まぁ考えてても仕方ないし、
「よし、泳ぐか」
「だな……って、はぁ!?」
わたしの急な提案にユイカは目を丸くした。
「マジ言ってんのか? サキ」
「あれ? もしかしてユイカ、泳げないの?」
「そうじゃねぇよ。その格好で泳ぐ気かって聞いてんだ」
「ユイカは浮きそうだけどね」
何せキーホルダーなんだから。
「この格好のせいで絶対溺れるぞ」
両手を拡げ服をよく見せる。
あー、確かに。
「じゃあ、参加者探そっか」
「だな」
切り替え早く、わたし達は歩き出した。
なんとなく、わたし達は町ではなくコンテナの並ぶ方へ来てみた。
わたしの何倍も背の高いコンテナとコンテナの間に出来た道で、よくドラマとかでマフィアが取り引きしてたりするような場所だ。
「こんなところに人がいたら、逆に妙だね」
「現在進行形のお前が言うか? つうか、人探してんのにそれは致命的だろ」
「でもつい行ってみたくなってね。それに下手な街中より戦い易いと思うよ」
「アタシ等はそうでもないだろ、拳だし」
「あー」
それもそうだ。これじゃ相手の方が戦いやすいかも。
「だが……選択は正解だったみたいだな」
「え?」
ユイカが指さす前の方を見ると、男の人が走ってきた。
普通の人かもと思ったけど、それも一瞬、手に持ったスタンガンがそうじゃないと教えた。
「先手必勝の特攻だな、構えろサキ!」
「うん」
わたしとユイカは互いに前へ構えた。
相手はスタンガンだし、お互い至近距離戦。間合いに入った瞬間に戦闘開始だ。
しかし、
「ひ、ひぃぃ!」
男の人はわたし達を無視してそのまま走って行ってしまった。
「……あれ?」
思わずポカンとしてしまう。
わたし達と戦う為に突っ込んでいた訳ではなく、どうやら何かから逃げていたらしい。
「な、なんだアイツ?」
次の瞬間、
タァン
「……?」
銃声が聞こえた。しかし別にわたしやユイカが射たれたらしい感覚は無い。なのでまさかと思い後ろを見ると、
「うぁ……ぁ……」
スタンガンの男の人が弓なりに曲がって倒れていくところを見たのだった。
「誰かと戦ってたのかも」
「で、逃げ出したのか?」
わたし達は構えを解いた。
「まぁ銃が相手じゃね、スタンガンとはリーチが違い過ぎるよ」
「なぁ、それアタシ達にも言えねぇか」
「あー……うん」
ということはこの先にいる人って……
その時、前から人が歩いて来た。手には拳銃、それがさっきの発砲音を出した本人だと示した。
先がツンツンとしたショートカットの、男の人だ。
拳銃の上、相手が逃げ出すくらい強い。多分ヒカルより強くやりにくい相手かもしれない。
「チッ……逃げ出すくらいなら最初から来るんじゃねぇよ」
男の人は舌打ちをした。機嫌は悪そうだ。
「……あ?」
そしてわたし達に気づいた。
「オマエ等も参加者……だろうな、そんな変な格好してんなら」
ユイカの方を見て男の人は言った。
「何だ? 二対一で来んのか?」
ふむ、会話は成り立ちそうだな。
「まぁ一人の参加者と一人の思い形見なんで」
「思い形見? 何だソレ」
「アンタの持ってる拳銃とか、あの男が持ってるスタンガンとかのことだ」
「……オマエ等、この大会とやらの事知ってるのか?」
「まぁ、一応少しは」
ハカセに聞いてきたばかりだ。
「ぜってぇアンタよりは詳しいぜ」
「そうか……なら教えやがれ」
銃口がこちらに向けられた。
「それが人にもの頼む態度か?」
ユイカがわたしの前に立った。
「ユイカ、危ないよ」
「心配すんな、アタシはダメージ概念ないからな」
「なら平気か」
「いや、もう少しぐらい心配してくれても良いんじゃね?」
「でも平気な訳だし」
「そりゃそうだがよ……」
「何話してんだ」
おっと、忘れてた。
「説明くらいしてやるから、銃を下ろせよ」
銃口に怯まないユイカが問いかける。
「……チッ」
舌打ちと共に男の人は拳銃を下ろし、ズボンについたホルスターに戻した。
「こっちに来い、その男が起きたら後々面倒だからな」
踵を返して来た方向に歩き出した。
「俺は、早くこのふざけた世界から去りたいんだ」




