0:其れは突然に。
─月曜日、早朝5時。
小鳥の囀りが耳に障る。
まだ夢を見て居たいのに……。
窓から街を見下ろせば人通りは少なく、通る人々は皆急ぎ足で静かな街の姿など眼に映ってはいないようだった。
何時から、何処からあれ程人が溢れ返るのだろうか。
僕はこの景色が、出来る事ならもっと静かな世界がずっと…続けば良いと思った。
7時44分。
僕は学校へ向かう為、部屋を出た。早めに目覚めてしまったせいか何時もと調子が狂う。まだ眠いような、疲れが残っているような感覚が在る。
──
昔から二度寝をすると絶対に寝過ごしてしまう質だった。其れを恐れ、再び眠る事は出来ずただ、何をする事も無く時間が過ぎるのを待った。
6時30分、普段起床する時間。目覚ましを解除し忘れた携帯電話が其の時を知らせる。
其れからは何時もと同じ順序で身支度を済ませた。
──
駅へ向かう間は普段と同じ色。
早朝とは違い、街には既に人が溢れて居た。
擦れ違う人、追い抜いて行く人、様々。
街を見ながら歩き続ければ既に駅は目の前だった。
改札口を通りホームへ行けば同じ制服の男女が既に長椅子を占領して居た。
仕方が無いので適当な柱に背中を預け電車が来るのを待つ。目を閉じ、耳には携帯電話に繋いだイヤホン。
この時間はとても長く感じる。
耳で音楽は鳴り続け、時は経過している事は確実だが不安になり何度か目を開き辺りを確認する。
自分だけ置いていかれているんじゃないか、と感じて。
2、3曲終わった所で電車がやってくる。
電車の扉が開くとホームに居る皆が我先にと言わんばかりに乗り込んで行く。
押し込まれるように車内に踏み入れ、丁度空いていた二人席に一人で座る。隣には此処には座るなと言わんばかりに鞄を置き、窓外に目を向けた。
他にも学生は乗っているが、共の席に座る程親しくは無い。勿論学生以外とも親しくは無い。
そして発進する電車の窓からただ、過ぎ行く景色を目に映していた。
何時もと同じ行動で流れて行く時間。
何時も迷う事無く歩む道。
何時も見る景色。
今日も何時もと同じなのだろう。
電車が止まる。何処かの駅に停車したのだろう、新たな人々が乗り込んで来る。
気にせず窓外を見続けた。
そう。何時もと同じ─
「あの。」
何時もと─
「あの。」
─…声。反応求めるように何度も同じ言葉を掛けている。
其の声は此方に向けられていたのだろう、ふと肩を叩かれた。反応するように声の主の方へ向く。
視線の先には声からして多分女性が居るのだろう。一体何の用があるのか?何かホームに落としたのだろうか…。
などと考えながら相手の姿を視界に入れて行く。
「…!?」
白いワンピースに長く青色の髪、綺麗な白い肌。
その姿に驚きを隠せなかった。
美しい女性だったという事もある。こんな女性に声を掛けられる事など、増して見る事など初めてだった。
しかし、驚いた理由はそれでは無い。
細い腕に握られたもの。
其れは真っ直ぐ此方に向けられ、人差し指は引き金に掛かっている。
動く事も声を出す事も出来なかった。
まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。
何が起こっているのか理解出来ていないからかもしれない。
今分かるのは、何時もの電車で知らない女性に何故か銃口を向けられている、という事。
ただ驚く相手の姿に、彼女は優しい笑顔で告げた。
「…すみません。心、借りますね?」
─バンッ
電車内に銃声が響き。
胸元を銃弾が貫き。
意識が遠退き。
そして目の前の景色は、闇に変わった。