輝きを失わない女5
1色目 『輝きを失わない女 5』
わたしは常に先を行く。先手必勝。
「・・・ていうか、なんで隠れてんの元姉?」
ふふふ、まったく妙才はお馬鹿さんね。
「隠れているのでは無いの。これは待ち伏せよ!」
「はぁ?」
たくっ、このお馬鹿ちゃんは先を読めないんだから。
「これを見なさい」
「何それ」
「これはわたしが授業中に書いた偽ラブレター」
「へー・・・」
「へー・・・」って!!!馬鹿!トリビアじゃないのよ!馬鹿妙才
「よく聞きなさい。これは巧妙な罠。わたしが下校途中の君ヶ主次女と
顔面が20代後半に見えるちょっとだけゴリマッチョなあの
甘々ゲロゲロカップルの前に登場。
そして顔をチークで赤くして、この手紙をちょいゴリマッチョに
『あ・・・あの・・・ずっと好きでした!私の気持ち、読んでください!』と言って渡す。
頬を赤めるちょいゴリマッチョと憤慨する君ヶ主次女!甘ゲロカップルの間に出来る
溝という名の隙。
その隙をわたしが突く!これで君ヶ主次女もお終いよ!」
「ねえ、それは次女じゃなくて三女に対してするべきことじゃないの?」
「・・・」
・・・何を言っているのかしら、この子。
「思うんだけど、次女を監視しても三女には何の攻撃にもならないよね」
聞こえない、聞こえない。
「なんで元姉ちゃんは次女ばっか見てるの?好きなの?」
「好きじゃないわよ!」
「じゃあなんで次女ばっか相手にしようとするの」
「・・・」
左目の空洞が蠢く。あの日の記憶が少しだけフラッシュバックしてきた。
高校1年生の時だった。
中学生で生意気なグループがいると聞いたわたしと仲間たちは、
そのグループにケンカを吹っかけて、結果全滅。
わたしは最後の一人となっても手を休めることなく拳を相手に目掛けて打ち込んだ。
だが、アイツはわたしの一撃を鮮やかにかわすと、隙だらけのわたしの顔面目掛けて
腕を伸ばしてきた。その時は何が起きたのか全く理解できなかったけど、
すぐ理解する。
わたしの左にあったはずの眼球は抉られ、抜き出されていた。
叫び狂うわたしは、痛みに耐えきれず地面にひっくり返り殺虫剤を吹き掛けられた
虫の様にジタバタと足を動かし一生懸命藻掻く。
だが痛みが引くことは無く、さらに吐き気が襲ってきたため残された目のフィルターが
霞む。
だが地面に落とされた自分の眼球だけはハッキリと見えていた。
だからせめてそれだけは奪い返さなければいけない。
眼球を掴むため震えが止まらない腕を強引に伸ばす。わたしの左目は目の前にある。
誰にも渡さない。
爪の先っぽが眼球に触れる、その感触に安堵した。
それが失敗だった。
わたしの目の前にある、わたしが掴もうとした眼球を、エメラルドグリーンの爪を持った
細い指がひょいっと掴み上げ、そのまま落ちた眼球を口へ運び桃色の唇を大きく開き、
指を離して眼球を口の中へ落下。
ごくりと一飲みしたあの女は、とても満足そうな表情を浮かべている。
それを見ていたわたしは、まるで自分自身がその女に食べられてしまったような錯覚に陥り
耐え切れず嘔吐、そのまま気を失った。
「妙才、あの女はとてつもなくヤバイ奴なの。正面切って攻撃を仕掛けてもやられるのが
オチよ。
だから仇を取りたいのは山々だけど、まずは足元から崩すべきだと思う。
だからまずはあの次女を壊す!」
キリリとした表情でそう言うと、妙才は目を丸くしていた。
ふふふ驚いた?あなたの姉がいかに策略家なのか分かっていただけたかしら?
「要はタイマン張りたくないから、背後から襲うってことね」
「待って。なにかが違う気がするの!」
そんなこと言われたら、わたし卑怯者みたいじゃん!!
「っ・・・・は!」
こちらへ近づいてくる足音。右目でチラ見をしてみれば、歩いてきたのは
ちょいゴリマッチョの男。
来た----!!!来た来たきたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
わたしは木の陰から飛び出して、ちょいゴリマッチョの目の前に立ち
すかさずラブレター(偽)を
差し出す。
「ずっ・・・ずっとあなたが好きでしたぁ!!!これ読んでください!!!」
予定より少し声が裏返ってしまったけど無問題。これで君ヶ主次女も終わったも同然。
ホホホホホ
『ビリ ビリ ビリ ビリ』
・・・ん?
差し出した腕を伸ばしたまま顔を上げてみると、わたしの書いたラブレターが千切られて、
紙吹雪の様に宙に舞っていた。
「・・・・へ?・・・・」
どういうことなのかしら?
唖然とするわたし(と、恐らく妙才もびっくりしている筈)
しかもよく見れば、この男・・・君ヶ主次女の彼氏じゃ無い?!あれ?あれ?
「雲ちゃん、どうしたの」
わたしの目の前に立つよく見れば髭面の男の横から背後霊の様に出てきた細身の女。
地面に落ちていたわたしの書いた偽ラブレターの残骸を拾い上げる。
「な・・・何でもない!何でもないんだよ!!!」
妙に焦っている髭面のちょいゴリマッチョ。さてはこの背後霊女は彼女かしら。
―あらあら、これは、これは。何ていうかご愁傷さ・・・・・
「・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!??????」
有頂天だったわたしの心が徐々に下に向かって落下していく。
偽ラブレターを掴んでいる女の爪の色、その色を見た瞬間、わたしの胃から内容物が
逆流してきた。
「ひっ・・・・ひぎぃっ・・・・」
ガタガタと震えが止まらない両足。唇が真っ青に染まる。
目の前にいる女の爪の色は見間違えることのない、あの日と同じエメラルドグリーン。
そう、つまりこの目の前にいる女は・・・・。
「これってラブレタ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!」
気が付けばわたしの足は校門へ向かって全速力で走っていた。
もう振り向くことも無いだろう。ていうか振り向けない。
「ちょ・・・ちょっと元姉!!!」
妙才の声がしたけど完全に無視。もうあの場に戻るなんて不可能。
わたしは吐きそうな口元を押さえながら全力疾走で走る。例え追いかけられることが無くても、
わたしは逃げる。あの女に関わるなんて死ぬのと一緒だ。
「ひゃっ!」
刹那、足元に転がっていた人間の遺体に足を引っ掛けて地面に転がるわたし。
それと同時に吐き出されるわたしの内容物。でもここの人々はそんなことが起きても、
全くこちらに振り向こうともせず平然と歩いていた。
今日この時だけは、この町に住む人間の性質に感謝したいと思った。




