輝きを失わない女10-終
1色目 『輝きを失わない女 10―終』
さすがに腰を振り続けた後の運動はキツイ・・・。はぁ・・・我が主には軟弱と呼ばれ、
我が主の妹君は何故か俺の股間をキラキラした瞳で見ているし(多分、食事的な視線で)
我が主を抱っこするならまだしも、俺が今抱っこしているのは我が主と
俺のクラスメートの脇夏姉妹。
妹をお姫様抱っこしつつ、姉は背中にぶら下げている。はぁ・・・マジつれー・・・。
意識がはっきりしてきた。だがわたしは今どこにいるのか、ここが先程の道路の真ん中
なのか桶の中なのか、わたしは知ることが出来ない。
流れを思い出すと、わたしは店から出て行き君ヶ主と弟塚の二人の後を尾行。
二人は誰かの家の中に入りそのまま1時間程たっても出てこない。
さすがに寒くなってきて眠いし諦めて帰ろうと振り返れば奴がいた。
そしてナイフで刺されはしなかったが、何故かまた君ヶ主三女に右目を抉り取られる。
何の脈拍も理由も無く、本当に突然。
多分この緑の化け物は人間を人間として見ていないのだろう。
人間は食べ物、わたしたち一般人がバスツアーで苺狩りを楽しむような感覚で
わたしの眼球も狩られたのだ。
痛みは無かった、いや、もう突然すぎて声も出なくて結果意識朦朧とした中でそれでも
ここでショック死するのは悔しいから、『絶対生きる』を合言葉にずっと意識を
保たせていたら、なんか妙才の声がして馬鹿なわたしは安心してしまい、
気が付けば気を失っていた。
そして先程、何かが腹の上に乗ってきた重さと衝撃で意識がうっすらと戻ったが
如何せん身体が動かないし両目見えないもんだから、もう流されるがまま身を流して
どこかの誰かに持ち上げられ持って行かれ、
そして現在に至る。
さて・・・あんまり寒くないけど、ここはどこなのだろうか。もしかして病院?
「もしもーし」
「・・・?」
聞き覚えのある声がわたし?に呼びかける。
「死んでしまいましたか?えーっと・・・脇夏 元譲・・・さん?」
「・・・え・・・」
・・・まさか・・・まさかこの声は・・・?!
「き・・・君ヶ主!!」
「まだくたばってなかったのね。あら残念」
・・・なんてことだ・・・。これは・・・本当にわたし、改造人間にされて
しまうのでは?!
「病院まで連れて来てくれたの?」
「残念だけど、ここは私の家よ。あなたの妹さんはうちの妹があなたの妹の太ももを
食い千切ろうと噛みついたせいで肉がベロンベロンになっていたから、とりあえず
そっちだけは病院へ連れて行かせたけど」
「そんな・・・、妙才・・・」
馬鹿妙才。あいつ・・・あいつ何してんのよ・・・。
いつも三女のことは危ないから近づくなっていつも言ってたのに!
「勇敢な妹さんね。うちの妹から聞いた話だけど、攻撃を仕掛けてきたのはあんたの
妹さんかららしいわよ?
なんか凄く怒っていてビックリした。ですって」
「・・・」
・・・あぁ・・・馬鹿ぁ・・・、馬鹿妙才・・・・。
「安心なさい。神経までは傷つけていないみたいだから、治ればまた立って
歩けるそうよ」
「・・・そう・・・」
心から喜ぶことは出来ない。わたしのせいで何も関係のない妹の身体に傷を
負わせてしまった。
姉である私がもっとしっかりしてれば、
あの時走り出さなければ・・・そうすれば・・・。
「はぁー・・・。しかしあなたたちは本当に待遇のいい人生を送っているわね」
「・・・何よその言い方・・・」
「何?まさかカッチーンとかでも言っちゃう?神様に問いただしちゃう?
私たち姉妹の人生のどこが待遇されているのかって」
「・・・」
わたしが言いたいこと全部言いやがって・・・!!!
「この町を見なさい。あなたたち姉妹の様に待遇のいい人生を送っている奴は
こうやって誰かしらに助けて貰い生き延びることができるけど、それ以外の奴らは
誰からも助けられることなく
何の処置も受けないままただ死んでいくのよ。
助けを求めても誰も助けようとしない、手を差し伸べようともしない。
それがこの町。
そんな中で見知らぬ誰かに助けて貰えるという行為がどれだけ大変で
有難いことなのか・・・この町で生きてきたあなたなら理解できるでしょう?」
何故だろう。
わたしは今、君ヶ主に怒りを覚えなければいけないハズなのに・・・
わたしは彼女に反論する気が起きない。それどころか・・・何でだろう?
何で君ヶ主は今、こんなに必死になって喋っているのだろうか。
分からないけど、多分彼女が今喋っている言葉は
わたしに投げかけているんじゃない。
「でも・・・」
でも・・・それでも・・・それは分かっているけど・・・
「そんなの屁理屈じゃない」
わたしの妹は傷つけられた。わたしも両目を失った。理不尽だ・・・
納得できない。
「・・・あっそ」
「・・・」
一生、わたしとあなたは理解しあえない。そうでしょ?君ヶ主も・・・
「じゃあ、とりあえずお前、私のベッドから降りろ。虫が湧く」
「へ?」
突然頭に激痛。痛い!ちょっと・・・ちょっと髪を掴むな!!!
「はっ・・・離し・・・」
制止の声など無視して君ヶ主はわたしの頭を引っ張り上げる。
「痛いから!痛いから離して!!!」
「・・・」
無視かよ!
「・・・分かった」
そう言って頭部の痛みが取れたかと思ったら、今度は身体が一瞬宙に浮いてそのまま
重力に任せて落下。
しかも真っ直ぐ落ちた訳では無いようで暗闇の中、わたしの身体はベッドにぶつかり
半転しながら床に落ちた。
腰が痛い・・・手も変な形に着いたみたいで、これどうみても捻ってるだろ!!
くそう、
くそう
君ヶ主いいいいいいいいいいいいい!!!!
「痛てえだろうが、ボケェ!!!」
声を上げると今度は腹に蹴りが一発。
「ぐふっっ!!!」
容赦無さすぎだろ、君ヶ主家の次女(あと三女も)
「・・・はっ・・・はっ・・・」
お腹が痛くて身体を丸めると今度は言葉で責めてきた。
「あらあら。こんなところに大きなダンゴ虫がいるぅ!」
「・・・くっ・・・くそがぁ・・・」
どこまで最低最悪な奴らなんだよ、お前ら姉妹は。
「っ・・・」
痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がる。まだ攻撃は仕掛けられていない。
「き・・・君ヶ主いぃぃぃぃ・・・・っっ・・・!!」
相手がどこにいるのか見えないけれど、それでもわたしは君ヶ主に一撃を加えるため
力強く腕を伸ばす。
だがまったく何にも当たらない。どこへ伸ばしてもわたしの拳は君ヶ主に当たらない。
「く・・・ちくしょお・・・・・・!!!ちくしょおお・・・・・・・!!!」
無我夢中で身体を動かすわたしの姿を君ヶ主はどんな目で見ているのだろう。
どうせ憐れんでるんだろう・・・そう思うだけで悔しさと恥ずかしさが重なりわたしは
当たらない攻撃をひたすら繰り出す。
「うわあああああああああああ!!!うわああああああああああああ!!!う」
突然わたしの両足が床から離れ、そして再び落下した。
「ああっっ!!」
痛みが全身に響き渡り、動かしすぎた両腕は痙攣を起こし左右に震えて止まらない。
「・・・」
勝てない・・・わたしがこの女に勝つことは出来ない・・・。
「・・・」
気力が消えていく。
「・・・もう・・・戦え・・・ない・・・よぉ・・・・」
溢れ出た汗が涙の代わりに頬から流れ落ちる。
「・・・うっ・・・うぅっ・・・」
「・・・」
「うっ・・・うぅ・・・・うううううううう・・・・・・!!!!!」
擦れたわたしの声が部屋の中に響く。悲しくても涙を流せないなんて、拷問だ。
「・・・謝らないから」
「うっ・・・ひぅっ・・・」
「私はうちの妹があなたたち姉妹にしたことも、今私自身があなたにしたことに対しても
謝る気は無い」
「くっ・・・うぅぅ・・・・!!!」
気が付けば両手で顔を覆っていた。
「でも・・・」
「うううううっ・・・・」
「あなたたちは私たち姉妹に復讐をする権利がある」
「・・・?」
「だからこれをあげる」
顔を覆っていた手の間に何かを挟む君ヶ主。なんだろうこれは?
カサカサしていて・・・、これは・・・これは、紙?
「・・・何・・・これ・・・」
「私たち三姉妹に武術を教えてくれた先生の居る道場の地図」
「・・・武・・・術・・・?」
「だって私たちだけ武術を習っているのは、フェアじゃないでしょう?」
「・・・」
「そこに行くか、それとも家で引き籠るか。それはあなたたち決めればいい」
「・・・じゃあ・・・」
「じゃあ、あなたたちを殺しに行っても?」
「・・・ふふふ・・・。そんなこと私に聞かないでよ」
「・・・・・・。そう・・・だよね・・・」
顔を覆っていた両手を降ろして、まだ痛みが残る腕を無理やり使いながら
上半身を起こす。
「・・・君ヶ主さん・・・」
「何?」
「お願いしていいですか?」
「ん?」
「妹のいる病院に、わたしを連れて行って貰えませんか」
「・・・」
「・・・」
「・・・いいわよ」
「ありがとう」
ありがとう、君ヶ主 孟徳。
わたしはもう何も見えないけれど、お前たちを殺すという目的が出来ただけで、
わたしの世界は・・・とても輝いているよ・・・。
子考に頼んで脇夏1を2がいる病院へ連れて行かせる。はぁ・・・疲れた。
「お姉ちゃん」
「・・・玄徳・・・」
まったくうちの妹も碌なことしないんだから。
「おやすみ」
「・・・おやすみ・・・」
謝礼の言葉なし!さすがうちの妹。ダメだ、何も感じてねーよ
「・・・待って玄徳」
「なに?」
「あの脇夏 元譲の左目を食ったのがアンタで、取ったのはアイツよね」
「・・・そうだね」
あら?随分と不機嫌そうな返事ね。やはりこの話題は止めておくか・・・
「ごめんね、何でも無いの」
「うん」
「おやすみ、玄徳」
「おやすみなさい。孟徳お姉ちゃん」
可愛い桃柄のパジャマを着た妹はユラユラと階段を登っていく。
私はダメ押しでもう一回溜息を付いた。
「・・・はぁ・・・」
なんだか、また何か起きそうな悪寒・・・。
脇夏姉を病院まで送り家に帰ると、兄が遅い夕食を食べていた。
「公覆兄さん、雲長は?」
「あ、お帰り子考。雲長はもう寝てるよー」
「そう・・・」
机の上を見る。俺が作っておいたカレーと共に栄養ドリンクの瓶が
数本置かれていた。
「・・・お姉さんの具合、どうだった?」
「んー?あぁ・・・そろそろ退院できるかもだって。よかったよかった・・・」
「じゃあ兄さんも一安心だな」
「そうだねー・・・。まあ、また入院しそうな気がするんだけどねー」
「へー・・・」
毎度毎度、我が主の姉君は何故かいつも大怪我をしては入退院を繰り返して、
そして我が家の長男はこうやって毎日夜遅くまで病院に行き看病に明け暮れている。
まあ、二人は彼氏と彼女という関係なのだから、これくらいして当然か。
もし我が主が入院でもすることがあれば、俺だって面会時間を無視してでも一日中
ずっと我が主を看病して差し上げたい!
「そういえば、あの病院にうちの高校に通っていた子がずっと入院していたんだよね。
最近知ったんだけど・・・」
「そんな子居たっけ?」
「居たよ。だってその子の面会にうちの制服を着た子が着てたし」
「友達がうちの高校なだけじゃないの?」
「そうだったかなー・・・。なんか文さんと色々してたら忘れちゃったよー」
・・・色々とは・・・病院のベッドの中で何をしていたことやら・・・。
「まあいいや。俺、風呂入るから」
「うん、了解」
風呂場に向かう最中で俺は今日持ち出した武器のことを思い出し玄関へ走る。
玄関先に置かれた自転車の椅子の後方、傘の様に日本刀が刺さっていた。
「よいしょっと」
引っこ抜いて庭にある倉庫の中へ日本刀を戻す。
倉庫の中には日本刀以外にも銃や鎌、斧など多種多様な武器が綺麗に整頓されて
置かれている。
これは俺たち兄弟の亡き両親が置いて行ったものだ。
二人がどんな仕事をしていたのか、俺も雲長も兄の公覆すら知らない。
全てを謎に包んだまま死んでいった
我らが両親の死は、この物語には全く関係ないことなので
これ以上言及はしないが・・・
まあ、まともな人間じゃない事だけは分かる。
息子ながらにそう思っております。
でもこの武器があるから俺と我が主のデートは常に毎回
新鮮な空気を保てているのだから、まあ・・・まあ一応感謝をしておこう。
ありがとう、お父さん、お母さん。
・・・ところで、二人の名前は・・・何だっけ?
三色パン 1色目 『輝きを失わない女』 完
次回 三色パン 二色目 『裏切りの美徳』




