2ー3 スキル その二
夕刻になって、トト様が帰ってきた。
この時代、「灯り」は油が高価だから、明るい内に仕事や食事を済ませるのが普通であり、仕事に出かけるのも日の出前に出かけるのが普通の生活だ。
トト様は俺の顔を見るなり、近づいて俺を抱き上げて言った。
「与一郎、よう、頑張った。
わしゃぁ、半ば諦めとったが、ちゃんと回復したということは、おみゃぁに神仏の加護があるっちゅうことじゃのもし。
助かった命、大事にしよれよ。」
うん、久方ぶりに父の愛情を強く感じた。
俺(浩一郎)の両親は、事故で突然に亡くなったから別れを言う暇も無かった。
俺を抱き上げ、顔をくしゃくしゃにして喜びをさらけ出している男は、確かに与一郎の父なのだと感じた。
それから、夕食は夕暮れが迫る中で、家族三人でいただいた。
俺の食事はかゆである。
トト様とカカ様の主食は玄米だな。
おかずはナッパの塩漬け、それに汁物だ。
汁物は何だろう。
色がついていて塩味なのでみそ汁のような気もするが、俺が知っているみそ汁と風味も色合いも違うな・・・。
根菜のようなものが入っているがよくわからん。
この時代、味噌と醤油はあるのやろか?
塩味だけでは、ちょっと口が寂しいで。
異世界商店に俺の知っている醤油や味噌も置いてあったから、そこから手に入れて、いずれはカカ様にプレゼントだな。
それにはまず純金(24金)が要る。
先立つものは銭ならぬ純金やな。
戦国時代の武田の隠し金山は有名やが、滋賀県には金山はあったっけ?
土倉に銅鉱山があったという話は知っている。
銅が取れるということは少量の金・銀も取れたかもしれんな。
そう言えば、甲賀の方でも昔は金が採掘されていたという話を聞いたことがあったな。
土倉はまだ近いが、甲賀は長浜からではちょっと遠すぎるぞ。
甲賀は滋賀県でも南部やからな。
長浜からだと、直線距離でも45キロは優にありそうや。
道なりに進めば、多分80キロ前後になるやろな。
戦国時代なら大人が普通に歩いても絶対に二日はかかるよな。
関所とかもありそうだし・・・。
よし、この際、甲賀はきっぱりと諦めよう。
そう言えば、地下の岩や土壌にも、微量だけど金が含まれているんやなかったっけ。
錬金術か鍛冶師のスキルで抽出はできんものかいな?
今できるのは近場に限るから、うん、明日庭先で確かめてみよう。
実は与一郎のぼんやりとした記憶から言うと、今の我が家は仮の住まいなんや。
現在は、今浜(長浜)のお城と城下町を普請中だから、いずれ城の周りにも家臣の屋敷ができる。
木下家もその一つに入ることが約束されているらしいんや。
だから、今住んでいる家は仮の宿で、本当にバラックだな。
床、壁、屋根があって、寝泊まりができ、炊事場と便所がある程度だ。
便所は共同便所な。
幼子には、少し恐ろし気なポットン便所じゃぁ。
与一郎の今の身体は、多分110センチも無いのじゃないかと思う。
俺が小学校三年の時には140センチを超えていたように思うから、与一郎が令和の小学校に行っておったら学年で一番のチビだったかもしれんな。
おまけにやせっぽちじゃ。
あと、そう言えばトト様とカカ様の言葉には、尾張の訛りが入っていたようやな。
二人の喋り方も、令和の時代とは大分イントネーションが違うぞ。
あの調子でもって早口でまくし立てられたら、意味が掴めんくなるかも知れん。
まるで外国語の様だもんな。
これにも、早う慣れねばならんな。
後は、文字か・・・・。
ミミズののたくったような文字が通用している時代だから文字を読むにも一苦労だな。
楷書体で書いてくれる人はおらんじゃろうしのぉ。
これも慣れるしかないんやろうな。
ところで例の時空間仙術やが、もしかして令和の時代に戻るっちゅうこともできるんじゃろうか?
俺の魂がこの与一郎の身体に捕まっているわけだから、あっちの俺の身体は一体どうなっている?
もしかして、魂が抜かれたままの死体か?
それとも植物人間?
どっちにしろ、えらいこっちゃで。
どないしたら、ええのかなぁ・・・・、と、途方に暮れているで。
陽が沈むとお休みタイムじゃ。
夜更けにトト様とカカ様が何やらごそごそとしよる。
浩一郎だった俺は18歳だったからな。
男女の秘め事は耳学問やらネットでそれなりに知っちょるぞ。
まぁ、知っていてもここは見て見ぬ振りだな。
10歳にもならんガキんちょの身体じゃ、覗いたとて、立つものも立たんわい。
おやすみなさい。
zzzzz・・・。
◇◇◇◇
翌朝、鶏の鳴き声で目が覚めた。
未だ薄暗いけれど、トト様は仕事に出て行ったな。
でもまだ早いから俺は寝床から出ない。
そう言えば、今の季節は何だろうねぇ。
朝晩は、ちぃとばかし寒いんじゃ。
昼間何となく日差しが温かいし、窓の隙間から垣間見える草木は枯れてはおらんようなのじゃ。
与一郎は長らく床に臥せっていたようやから、季節の移り変わりを余り覚えていないんだ。
それでも寒い冬が過ぎたことは何となく覚えているみたいなので、晩春から初夏ぐらいなのじゃないのかな。
それとも昔よくあったという寒い夏?
歴史の授業で、冷夏があると作物が取れないので多数の餓死者が出たと習ったな。
今の俺には多分何もできないから、そんなことにはならないよう祈るしかないな。
ようやく陽が昇ったので、起きて共同の井戸端に行き、顔を洗い、口を漱いで、家に戻る。
病み上がりの所為なのか、妙に身体がフラフラするような気がする。
本当にこいつは体力をつけねばならんな。
この仮住まいには、狭いけれど一応裏庭があるので、そこで俺の技能検証のための実験だ。
朝餉はもう少し後になりそうや。
カカ様が竈で火吹き竹を使いながら、飯を炊いている。
トト様の出がけに、カカ様が、『飯が炊けたら、届ける』と言っておったから、カカ様がトト様のところへ握り飯でも運んで行くのやろう。
俺も今日の夕食からは玄米飯になるようや。
カカ様が昨日そう言っていたからな。
朝餉の声がかかるまで、俺は独り裏庭でごそごそとやってみる。
そう言えば、鍛冶師や錬金術師とは別に、俺には採掘師っていう技能がある。
レベルは2.12じゃけれど、これで何ができるか試してみよう。
採掘師のスキルを思い浮かべると、何やら体の奥深くで感ずるものがある。
こいつは何だ?
ラノベで言うならこいつが魔力又は霊力か?
ならばテンプレを期待して、体内で回してみよう。
最初はなかなか動かすのがムズいのでゆっくりと、やがて慣れてくると徐々に早くなって、そのうち抵抗もなく体内で回せるようになったので、改めてそのものを指先から放出してみた。
仄かに金色に光るガス状のものが指先から出て行き、周囲に拡散して見えなくなる。
その途端に俺は周囲のものを知覚できるようになった。
これは気配?
いや、モノの存在そのものやろうな。
鑑定の技能じゃろうけれど、物の区別がつくんじゃ。
人や動植物などの有機生命体もあるようじゃが、泥や石のような無機物まで把握できる。
その中で強く「金」をイメージしてみると、周辺にある土壌の中にほんのわずかな金が察知できた。
不思議だよな。
俺も金は知っていたつもりやったけれど、純金なんかを扱ったことは一度も無いんやで。
精々身の回りにあったのは、金メッキ製品ぐらいかな。
与一郎に至っては、純金自体をどうも知らないようだ。
でもおれの頭の中で確かに“金”と把握できてしまうんだから、これ以上説明もできん。
そいつを意識して集めて、俺の臨時保管庫の中に移動させるようにして採取してみる。
うん、よくわからないけれど、イメージだけで何とかやり遂げたで。
それでも、実は、金を把握するまでに四半時(30分)、それを臨時保管庫に放り込むまでに、またまた四半時ほどもかかったので、結構苦労はしているんだぜ。
併せて小一時間でようやく採取できた金(砂金)なんやが、空間的に把握できている感覚からすれば、おそらくは親指の先ほどの量なのじゃないかな?
だが、重量にすれば多分10グラムに近いと思う。
金の比重は19チョイだったはずなんや。
直径一センチの球状であれば、体積は約0.5㏄余り。
これに比重をかけると約10グラムになる。
実のところ、この時には俺に鑑定の能力があることをすっかり忘れていたよ。
鑑定をかければ重さもその価値もわかった筈なのにな。
令和の時代、金が高騰していたから1グラム1万8千円を超えていたこともあったなぁ。
だから24金10グラムやと、概ね18万円に匹敵する価値がある(筈?)。
時給18万円なら職人としても一端の高級取りに違いないぜ。
一度、地中を漁ると、この裏庭では、もう金の採取は無理かもしれないから、今度やるときはまた別のところでやってみよう。
川辺りなら山から流れてきた砂金が堆積しているかも知れないな。
朝餉を食べてから俺はちょっと遠出をすることにした。
やせっぽちの俺は体力も余り無いから、余り遠くへは行けないんやが、幸いにして小川はすぐ近くだ。
因みに臨時保管庫に収納した純金を異世界商店のメニューの支払い口に投入すると、すぐにポイントに換金してくれたで。
因みにポイントは160,002pだった。
1グラム当たり16,000p弱程度なのか?
商店のメニューに並ぶ価格代わりのポイントから言うと、概ねスーパーの価格の半分程度の数値でポイントがついているみたいだ。
例えば、8枚切の食パン一袋が82pなんだが、俺が最近似たような食パンを購入したときは、スーパーで安売りなのに178円だったはず。
これに消費税が加算されるから支払いは192円ぐらいやったはずや。
だが、萬屋(得)通販では、ポイントで購入しても消費税がつかないとヘルプに記載してあったんや。
それに勿論送料無料じゃぁ。
仮に1pが2円相当とすれば、今回採取した金は32万円ほどになるんや。




