2ー12 サクゾウ
ワシは、サクゾウちゅうもんや。
近江と美濃の国境にある柏原の水飲み百姓の三男坊で、ついこの間まで食うや食わずの生活やった。
ひょんなことから今浜、いや、今は長浜というらしいが、そこでワシと同じぐらいの坊主が集まって、『ソウリュウタイ』っちゅうのに属して生活をしとると聞いた。
飽くまで噂話程度なんじゃが、ソウリュウタイに行くと、住むとこ、着るもん、食いものがもらえるらしいんじゃ。
まさかタダ飯をくれるわけもないから、何か代わりに何かせんとならんのかと聞くと、どうもソウリュウタイの掟を守って、習い事や身体の鍛錬をするらしい。
習い事っちゅうのは、エライ坊さんから字の読み書きを習うらしい。
ほいでもって、鍛錬っちゅうのは、剣術の先生がおって、そんお人に剣術を習うらしい。
ソウリュウタイには、隊員が住む長屋が有って、そこで隊員みんなが一緒に寝起きをしよるようじゃ。
飯は、毎度米の飯が出よるそうな。
ワシは百姓の子じゃが、米の飯はほとんど食うたことが無い。
柏原は寒いけぇ、米作りも中々難しいのじゃが、米も何とか作れる。
じゃが、米は作れても年貢で持って行かれよるからな。
特に岐阜と近江で戦が多かった時分には、田畑も荒れ放題だったそうな。
貧乏人の子だくさんというが、ワシの家は子が多いんじゃ。
ワシの上に四人、下にも2人おるもんで、子供だけで7人じゃ。
まぁ、一番上と二番目の姉さぁは、嫁に行ったから、今は儂を入れて五人じゃが、おとうにおっかぁ、それにバア様もおるで、食い扶持がどうしても少のうなるんじゃ。
ワシのガキの頃からの、・・・。
いや今でもガキには違いないが、とにかく遊び仲間のホウスケがソウリュウタイに入ったらしい。
んでもって、着るもん、食うもん、住むとこを与えられて、習い事や稽古事をしておるようだ。
この話にはおまけがついておった。
ソウリュウタイに入ると、どうも銭がもらえるらしい。
いくらもろうとるかは知らんが、ソウリュウタイのもんが、ホウスケの家にやってきて、ホウスケの仕送りじゃと言って、二百文を置いて行ったそうや。
ホウスケが「わしゃぁ長浜に行く。」と言い残して村を去ってから三月ほどになるが、その間に二百文を稼いだということやろな。
ワシは、幼馴染の与助と語らって、一緒に長浜へ行くことを考えたぞ。
食い物とゼゼコをもらえるなら、少々きつい仕事でもやる覚悟はある。
ワシが稼げれば、家に仕送りもできそうやしな。
そう思って、村から同じ歳くらいの三男坊、四男坊あたりを誘って、長浜へ向かったのや。
全部で四人、皆がワシと同じ、11のガキじゃ。
柏原から長浜までおよそ四里半、ワシらの足でも何とか日があるうちに辿り着ける距離やった。
但し、ソウリュウタイの場所がようわからんで夕方まで迷ったぞ。
ようやくソウリュウタイの場所を知っておる人に聞いて、来た道を一里近く戻る羽目になった。
来た時は違う道やったが、すぐ近くを通り過ぎていたところであり、こんもりした丘があるなぁと見ていた場所やった。
ワシら文字はわからんが、門の板になんやら大きな文字が書かれておったな。
ほいで、柵をめぐらした砦のような場所にソウリュウタイがあったんや。
暗くなる前に何とか辿り着き、ワシら四人、その日からソウリュウタイに入れてもうろうたんや。
後で聞いたんやが、年齢が10歳より下だと面倒なことになったらしい。
10歳になっていない者は、すぐにはソウリュウタイに入れてもらえんのや。
基本は10歳になるまで待つことやそうな。
歳を誤魔化してもあかんのやそうな。
何でもエライできる親分がおって、嘘をついてもすぐにばれるらしい。
その親分のことをソウリュウタイのみんなは「隊長」と呼んでいる。
一日に一度はゲンブタイのある田村山にも顔を見せるんやが、隊長だけは寮には泊まらんのや。
せやから、毎日長浜にある隊長の家から田村山にまで来ておるようやで。
隊長はワシらと違うて、身体がごつう大きいで。
まぁ、隊長より大きい身体の隊員もおるけれど、片手で数えるほどやな。
そうして、たまに隊長も混ざって鍛錬をするんやが、誰も隊長には勝てへん。
何せ、ソウオリュウタイで最も身体のデカい四人が一斉にかかっても敵わんのや。
いずれも儂の先輩達やけど、あのデカい先輩たちが力で負けて、刀でも槍でも負けていては、ワシらでは絶対に勝てんと思うたわ。
せやから、ワシらソウリュウタイの隊員は、古参も新参も全員が隊長には敬服してるんやで。
大事なことを忘れておった。
ソウリュウタイには、女子もおるんやで。
年増はおらんでぇ。
皆、ワシらと同じぐらいの年齢や。
ワシが入隊した時には男子で最少年齢が10歳で、最高年齢が15歳やった。
女子が11歳から14歳までやったな。
ソウリュウタイは、入隊時は10歳から14歳と決められているが、14歳以上になっても本人の希望があればソウリュウタイに残れるんや。
因みにソウリュウタイができて3年近くになるんやが、これまでゲンブタイから出て行った者は一人もおらんと聞いておる。
それはそうやろうとワシも思うで。
うまい飯が食えて、新しい着物が色々もらえて、住むところもある。
おまけに学問というものを教えてもらいながら、鍛錬もでけるんや。
そうして真面目にソウリュウタイでの稽古事を続けていれば、丁稚奉公では到底もらえない銭がもらえるんや。
こんな嘘みたいなエエところが他所に有ってたまるかい。
ソウリュウタイに入って初めて知ったことやが、ソウリュウタイを維持するだけでかなりの銭が要るんや。
食い物、着物に使う布地、ワシらが稽古で持たされている武器や防具、それにワシらが住んで居る寮の全てを賄って居るんが隊長やと。
ワシらに毎月配っている銭も隊長が出しとるんや。
隊員は、全部で500名を超えるぐらい居るんやで。
一月に隊員全員に百五十文ほどを配っておったら、それだけで銭七十五貫ほどになるやろ。
どえらい金持ちやで。
その金をワシらのために湯水のように使ってくれておるんや
ワシらは隊長に大恩がある。
ワシは何が有ってもソウリュウタイを辞めへんで。
泥を啜ってでも隊長について行くんや。
勿論、危険は承知しとる。
ゲンブタイは、今は稽古事だけで済んでおる。
しかし、一定の能力に達したなら、隊長が選んだ者を引き連れて戦にも出ることもあるそうなんや。
隊長が皆を前にして言ったことが有る。
「お前らは、皆、ワシの手下や。
やから、仮に戦に出たにしても、ワシの命令通り動いて居れば、お前らの誰も死なせるつもりはない。
絶対に無理はするな。
危ないと思ったら退け。
戦っちゅうもんは、五体満足でありさえすれば、退いてからなんぼでも巻き返しがでけるんや。
死んでもうたら、そこでしまいやで。
やから、死ぬな。
これはワシのお前らに対する絶対的な命令じゃ。
よう覚えて置け。」
隊長はワシらに死ぬなと言うた。
やけど、この隊長のためなら、この命捨てても構わんと思うたわ。




