2ー11 スミ
あては、木之元の大見郷から来たスミという。
あてが友達のミワとアヤに誘われて蒼龍隊に入ったのはもう二年も前の事やね。
当時あては11歳やった。
家は貧しかったから、その年に姉が売られていった。
次はあての番かもしれへん。
そんなときミワが耳寄りな話を聞きつけてきた。
隣村のリイチが、長浜に行って、ソウリュウタイというところに入って銭をもろうておるという話やった。
ソウリュウタイ?
なに?それ?という感じやったけど、ソウリュウタイに入ると飯が食えて、べべも貰うて、住むところもあるという話やった。
これは、リイチから直接聞いた話やないで。
ミワの知り合いのヨウゾウが、リイチと同じ村のカシゾウから聞いたという話で、また聞きのまた聞きじゃ。
何とも心細い話じゃったが、あてら全員が身売りの話が出てくる年頃や。
やから、取り敢えず行って確かめてみようという話になったんや。
女子ばかり四人で、丸々一日かけて長浜へ行ったんや。
すぐにはソウリュウタイの場所がわからへんやったけれど、長浜でも結構有名な話やったみたいで、そこらの子供に聞くとすぐに場所はわかった。
そうしてソウリュウタイに入れば、食わせてもらえるというのはホンマやったみたいなんや。
但し、入っておるんは男ばかりやそうで、女はおらへんようなんや。
ほんで、当然に『どないする』という話になったんやけど、ミワが言うたんや。
「わてらかて、何かがでけるはずや。
これからソウリュウタイの頭に会うて、入れてくれるよう頼んでみようやないか。
女やからって差別されるのは嫌や。
世の中、男と女しかおれへんのやから、ちゃんと言えば、わてらの気持ちもわかってもらえると思うで。
此処で引き下がっとうたら、わてら、売られるのを待つだけや。
それよりも銭を家に送ることができるようになったら、それだけでもおっとうやおっかあは助かるじゃろう。
当たってなんぼの話や。」
あてらは、ミワに引きずられるように四人でソウリュウタイに行くことになったんや。
長浜の集落の南はずれにある田村山にソウリュウタイがあった。
周囲を柵で囲って砦みたいやが、砦にしてはチョットちゃちやったな。
そのソウリュウタイの門構えのとこに顔を出したら、なりはでかいけど同じぐらいの年の男の子が出て来たんや。
「何や、お前ら、ここに用事か?」
「うん、わてらソウリュウタイに入りたい。
頭に合わせてほしいんや。」
「お前ら、女子やろ。
此処は男しかおらんソウリュウタイやぞ。
女が入れるわけないやろ。」
「あんた、ソウリュウタイの頭なんか?
あんたが頭なら諦めるけど、頭に直に会うて聞かな、わてら諦めへんで。」
「そらぁ、俺は頭やない。
じゃが、此処で二人しかおらん副隊長をやっとるもんや。
その俺があかんと言うとるのに、まだ、粘るつもりか?」
「わてら、此処に入れんやったら、いずれ売られるんや。
やから、どうしても、此処に入りたいんや。
なぁ、頭に一回だけ合わせてくれへんか。」
「身売りか・・・。
ウーン、しゃぁないな。
ほなら、明日の朝にここに来てみぃや。
頭である隊長は、今日はもう家に戻っとるで、ここにはおらん。
明日朝にはここに来るはずやけぇ、お前らが来たら会わしたる。
俺は、伊助という。
明日の朝来たら、俺の名を出せ。
隊長が来るまでこの付近で待ってもらうこともあるかもしれんが、俺が口利きだけはしちゃる。
じゃが、結果までは知らんぞ。」
そんなやり取りがあって、あてらは翌日何とか隊長はんに会うことができた。
隊長って言うくらいやから、大きな大人を考えていたんやけど、あてらと同じくらいの男の子やったからびっくりしたで。
何でも、長浜城のお偉いさんの息子さんやそうな。
その隊長はんと色々話をしたんやけど、ミワはもちろんやけど、特にアヤががんばったなぁ。
隊長はんが苦笑いしながらソウリュウタイに入ることを許してくれたんや。
但し、男子と同じことはさせられんということで、あてらはその日からおさんどんに就くことになったんよ。
育ち盛りの男の子40人近くの飯を作るだけで大変な作業や。
おまけに、麻の反物を仰山渡してくれて、これで着るモノを作ってくれと言われたんや。
反物の量が半端ない数やったなぁ。
倉庫の中に反物屋かと思うほど積まれておったわ。
一応、隊員の制服みたいなもんがあって、皆がそれを着ているんやけど、それに似せて仰山つくれといわれたなぁ、
袴とは違うんやけど似た感じのものとか、頭からすっぽりかぶるもんとかいろいろな形があった。
ほやから朝から晩まで、おさんどんで忙しいんやけど、腹いっぱい食えて、住むところもあって、着物もあてらの自由に作ってよいと柄付き反物を50反ほどもろうたわ。
多分これ売ったら一財産やけど、隊長から言われた。
「これを持ち出したり、売ったりしたらあかんで。」
あてら、その言いつけを守っている。
ソウリュウタイは、ものすごくエエところや。
家も隙間風が無いし、フトンやら毛布やらで夜も暖かく寝られる。
おまけにソウリュウタイには温泉の風呂まであるんやで。
これまでは男しかいなかったけど、隊長はんが、あてらがソウリュウタイに入ることになって、すぐに女子だけの住む家と女湯も作ってくれた。
温泉はええでぇ。
何時でも温かい湯が沸き出ておる。
おもろいのは温泉のお湯とは別に、温かいお湯が出ることやな。
ジャグチという筒先から何時でも出したり止めたりできるお湯や。
温泉のお湯は隊で用意しているセッケンでも泡立ちが悪くなるんやそうな。
やから、温泉のお湯で水を温めて湯にしているそうなんや。
その辺の道具の造りはようわからへんけど、冷たい水と温かいお湯の双方が、寮では使えるし、風呂場でも使えるんや。
髪を洗う特別のセッケンも隊長はんからもろうたで。
これで髪を洗うとつやつやになるんや。
あてなんかひび割れしとった指先が、温泉に入るだけでようなった。
それに風呂場や手洗い場に用意してあるセッケンでいつでも手がきれいになる。
もうひとつ、女子は子が産めるようになると月のものが出る。
何で、隊長はんが知っとるのかわからへんけど、隊長はんが、あてらの《《月のモン》》のための下着とセイリヨウヒンなるものをくれた。
使い方も教えてくれて、あてら年長者が順次女子班の隊員に広めているんや。
すごく便利やで。
あても去年始まって以来、使うてるんやけど、後始末が楽になる。
おっかあは、あて布とふんどしで何とかしよったようやけど、洗濯を含めて後始末が大変なんよ。
それに男に見られたら不浄と言われるしなぁ。
神社によっては、女子は不浄なモンとして立入りが禁止されてる場所もあるんやで。
もう一つ、ソウリュウウタイに入ってハミガキをするようになった。
何でも、食事の後は歯の手入れをせんと、大人になった時に歯痛を起こすことになるんやて。
隊長の言うことにゃ、女子は特に歯を丈夫にせんといかんらしい。
やや子ができた時に、おなかの子に歯になる養分を吸われて、歯がもろくなるんやそうな。
ほやから、女子は歯を大事にせぇと言われた。
隊長はんは、あてらの恩人やからなぁ。
隊長はんの言うことなら何でも聞くつもりや。
そうして二年、今じゃ青龍隊の女子班も総勢で百名を超えた。
ミワが女子班の班長をしとるし、あても副班長でミワを支えとるんや。
女子が多くなった分、生産力も上がっておるんやで。
食事当番も交代制にできるようになった。
それに、女子班の中にも武人の潜在能力を持つ者が1割に満たないけれど居るらしく、その者たちは特別な訓練を受けだしたんよ。
多分、あれは和尚さんが教えてくれた乱波の「くのいち」を目指しとるんやないかと思う。
あてらには、そんな体力はないけれど、その子らは高い木やら塀なんかも平気で上りよる。
武術もそれなりに習うとるようじゃ。
あてらも、護身術は習うとるが、それとは別物じゃな。
隊長が手ずから教えとるみたいやね。
隊長はんは、お武家の子らしいから、あてらにしたら高嶺の花なんやけど、ええ男やし、何でもでけるし、婿にでけたら万々歳なんやけど、あてらじゃ無理やろなぁ。
女子同士でいっつも憧れのまなざし向けながら、指くわえてみているだけのお人なんやで。
もし、望まれたなら、あては、いつでもほいほいと寝床に行くでぇ。




