2ー9 蒼龍隊 その三
若様曰く、一日に五文もらえると、一年で千八百文を超えるらしいのじゃ。
米一石で時期に寄り値段は変わるが、概ね六百文から千文のはずじゃと聞いた」。
つまりはワイらが一年若様の下で言う通りに動いていれば、米二石分弱から三石分近くの銭が入ると言う訳じゃ。
これは大きいぞ。
米一石は、概ね人一人が一年に食べる量じゃ。
まぁ、ワイら農民の子は中々米が食えんのじゃがな。
じゃから、この銭を半分でもおっかあに渡せば、随分と助かるはずじゃ。
そうして金を渡して、おっとうとおっかあにこの話をしたら目を丸くして驚いておったし、二人して若様のところで気張れと言っておったんや。
ワイらはそれぞれの親元でかなり発破をかけられて送りだされたものじゃ。
そりゃぁ、そうじゃ。
この時分、丁稚奉公に出たとしても満足に仕送りのできるような者はまずおらん。
手代ぐらいになってからなら、ようやくまとまった金を仕送りできるぐらいじゃろう。
丁稚の間は食わせてもろうて、寝る場所を与えられるだけましというものじゃ。
それでも農家の食い扶持が減るだけ、親は喜んで子供を丁稚奉公に出すんじゃ。
それから見ると天地の差があるわなぁ。
十歳かそこらのガキが、月に六十文とか八十文もの仕送りをしてみいや。
親が頭を下げまくるでぇ。
いずれにせよ、ワイら12名は、若様の手下になって銭を貰いながら、飯と住む所を与えてもらったわけじゃ。
根城は作ったが、若様はこの根城には泊まらん。
その代わりに朝から夕暮れ近くまでは、根城におる。
若様は、新しくできた城の近くに武家長屋があってそこに住んでるからのぉ。
毎朝、そこから通って来るんじゃそうな。
ワイらの集まりが「蒼龍隊」と名付けられたのは根城ができてから三日目のことじゃった。
◇◇◇◇
蒼龍隊が発足したが、いずれにせよ、住むところや食い物の心配をせずに、半年ほどで1両の金が入るとなれば年端も行かない子供にしては結構な実入りのはずやろう?
江戸時代前期で、小判一両では親子四人が一月生活できたのだが、戦国時代とは物価も違うだろうけれど、いずれにせよ大金の筈だよな。
支給する銅銭は、そもそも俺が造ったもので実質の経費は掛かっていない。
単純にまっさらな宋銭(若しくは明銭)を造ることもできるんやけど、そもそも新造の貨幣が入ってくることはほとんどないから、偽造と見做される可能性が大きいし、経済に大きな影響を与える可能性もあるので、全くの新しい鋳造は取り敢えずはしない。
銅地金の価格から見て、俺以外の者が銅銭を偽造すれば、費用が掛かりすぎて赤字になるおそれもあるから、普通はしないはずだ。
だから、戦国時代に銅銭をわざわざ造った大名はいないことになっておるな。
但し、記録には出て来ないが、あちらこちらの豪族たちが贋金づくりをしていた可能性は否定できん。
甲斐の武田は碁石金を造ったけど、より価値の高い「金」で貨幣を作るから意味があったわけや。
俺の場合は、流通している銅銭の中で程度の良いものばかりを選び、しっかりとそれに似せて造ったものだからいくらでも造れるし、使える。
実は、戦国時代は銭そのものが不足していて、慢性的なデフレになっていたんや。
インフレだと物の値段が上がるわけだけれど、デフレの場合は銭の価値が上がる。
やから、本来は流通する銭を増やしてやらねばならないんだが、為政者はそうした経済観念を持たない者ばかりやから、対策が満足に取れていないんや。
そもそも大陸から輸入してきた渡来銭(宋銭や明銭)は、日本から輸出する何かを代償に輸入することになるのやが、大陸から比べると後進国であった日ノ本に左程輸出できる産品があるわけでもない。
宋の時代、実際の交易では日ノ本の金が代金として支払われていたとの記録があるらしいから、金を輸出して銅銭を輸入していたことになる。
元寇の役以降で大陸との交易が閉ざされた際に、銅銭が日ノ本に入って来なくなったから、以後の経済発展が狂ったのは間違いない。
従って、鎌倉時代から商業が盛んになるに従って、慢性的に日ノ本はデフレが続いていたと言えるやろうな。
従って、俺が流通する銅銭を少々増やしたところで左程の支障は無いだろうと踏んだんだ。
信長も、撰銭令を出して極端な鐚銭を廃棄することと、色々な銅銭の価値を一律一文と定めたからね。
その方針には逆らっていないし、むしろ鐚銭の解消に尽力しているぜ。
無論、本物と同じ成分だから誰かが調べたとしても贋金とは絶対に分からない。
回収した銅銭に微量なりとも有用成分が含まれていれば、それを抽出するのが俺の仕事でもあるんや。
実は、この時代の銅貨には微量の金銀が含まれていることが有るんや。
灰吹き法が日本に伝わったのは16世紀の初めなんだが、銅の精錬ではなく銀を抽出する方法として伝わっている。
同様に宋銭や明銭も銅の精錬の際には灰吹き法が用いられていない可能性があり、微量の金銀が含まれていることが有るというわけやな。
但し、銅銭から微量の金銀を採掘しようなんて者は、この時代の日ノ本にはおるわけもない。
従って、俺だけが銅銭を回収してわずかな金銀を得ることができるというわけやな。
尤も、宋銭は宋が無くなって、後に明銭と入れ替わっていくことになった。
俺が隊員に支給する銭については、家族の苦境を見かねて仕送りがてら親に渡している隊員が居る。
俺も渡した金の使い道についてまでは特に制限をつけていないぜ。
むしろ働き手になり得る子供を俺の手元に置いているんやから、家族の方で奉公先と考えてくれればそれはそれでかまわないと思っている。
そうした銭が手に入ることを聞きつけたのが俺のところに直談判に来た女の子たち四人のようやな。
この銭の支給に関連して、ついでに古い銅銭(鐚銭と呼ばれる酷く摩耗した銅貨)も率先して集めているわけや。
そもそも長い間の流通で貨幣が摩滅していて銅の分量が減っているわけやから、地中などから銅成分を抽出して貨幣を再生する際には、減った分を補充してやらなければならないという作業が必要なんやけどね。
この作業では、余分な費用は一切掛からず、必要なのは俺の労力だけやな。
鐚船というか、ちびてしまった銅貨というものは商人の中では価値が半減する。
だから五分の四から四分の三程度にまですり減った銅貨をサラに近い銅銭に替えてやると商人が喜んで古銭を提供してくる。
傍目からみると受け手が損する計算やが、通貨の流通には役立つことになる。
あくどい大人たちが本当に使えないような鐚銭多数を持ち込んで交換を持ちかけて来たら、その時は銅の実質重量で交換することにしている。
中には鉛などの重量金属を混ぜたりするような小細工を弄する輩も出て来るけれど、一銭一銭の確認をして交換させているから、問題は生じない。
向こうが「仕事が遅い」と騒ごうが喚こうが関係ない。
こちらはじっくりと中身を確かめて、適正な割合で交換するだけの話だ。
これだって持ち込む側には十分な利益があるんやで。
その確認の時間が待てないような輩なら、お帰り戴くしかない。
この両替は、ある意味でボランティアや。
いつでも両替を辞められるし、特定の者に対して交換そのものを受付けないこともできる。
中には騙そうとしてウソがばれて居直る輩もいるけれど、そいつらにはあらかじめ準備しているテーザー銃やスタンガンでの洗礼だな。
気絶した奴を外に放り出せば二度とは現れない。
因みに接客については、田村山の敷地の境界に建てられた頑丈な丸木小屋で内部を仕切った格子越しに行っており、客が相手をしている子供に物理的に接触することは一切できないようになっている。
格子の下にある隙間を移動する受け皿を経由して、銅銭のやり取りをするだけの場所だ。
この両替所については、俺の仙術で不燃の木材に加工した上で、強化しているから、仮に火をつけられても燃えやしないし、掛矢や槌で叩いたって壊れやせん。
破城槌でも多分無理じゃないかな?
中にはこっちを信用しない連中もいるみたいやけれど、そういう者には利用してもらわなくても構わないんや。
商人と言うのは利に聡いから、自分の利益になると思ったら率先して利用するのが多い。
だから鐚銭駆逐の両替所もキチンと成立できるわけである
ただ、普通にやっていては絶対に採算が取れないから、他の者がウチの真似をすることはない。
蒼龍隊隊員の衣食住の「衣」は、異世界商店で木綿の布を大量に購入して定期的に基地に渡している。
また、女子隊員に頼んで蒼龍隊の制服なども造ってもらっているところだ。
因みに制服は、男女兼用にしているぞ。
俺の記憶にある自衛隊の制服や警察の制服からデザインをパクり、甲種は儀典用で滅多に着ない。
乙種は、まぁ戦闘出動服じゃな。
丙種は、訓練用だ。
各種類とも夏と冬で多少生地の厚さを変えとるし、長袖と半袖の違いもある。
一応、それ以外に普段着の作務衣に絣の上着もあるぞ。
こいつは私的に使って差し支えないので、休養中なんかにも使うことができる。
あとは下着、靴下、靴等の支給やな。
靴については、普段履きのもんと、訓練時、出動時で異なる他に、近江は雪も降るから、夏場と冬場はやはり変えておる。
こういった支給品は結構な荷物になるから、専用の行李に入れて寝台の下に入れるようにしてある。
まぁ、これらが最低でも二着ずつあるんで結構な大荷物じゃがな。
おまけに子供たちの成長は早い。
人によっては半年でサイズを変えねばならん。
従って、各種サイズを余計に造ってもろうて倉庫に保管しておるんじゃ。
女性用のものを別枠で作っても良いが、資源の無駄遣いは避けるべきじゃろう。
おしゃれは、制服以外ですべきだと俺は思う。
そのために女の子たちには、色々な色合いの木綿の布をある程度自由に使っても良いと言っているからな。
それを持ち出して他所に売りつけるような真似をせん限りは干渉しないつもりじゃ。




