第10話 社畜男、初の!?
ゲネイオン襲撃から1ヶ月経った集落にて。
畑は綺麗に整備され、破壊された家屋も修繕されており、50人程の人と兵士の姿があった。
先日国王と話した、ここで大量のマヨネーズ作りをする為の準備を着々と行い、本日より本格的に稼働し始めるのだ。
「何とか形になったな。ここにソウジの姿がないのが残念だが…」
俺は相変わらず抜け殻の状態でベッドに横たわっている。
「ソウジさんは死んだ訳ではありません。引き続きこちらの部屋には誰も立ち入らないようにしておきましょう」
「そうだな。見張りの兵もここにしっかり配置したし、とりあえずは大丈夫だろう」
この集落に住み込みで働く人々には、俺の家屋には立ち入らぬよう配慮されていた。
「しかし…何か不思議なモノを感じるとは思っていたが、リリムが女神様の巫女とはな…」
「すいません、隠していたわけではないんですが…」
「気にすることはないさ!君にも色々事情があるのだろう?」
「アリシアさん…ありがとうございます」
今後の事を見据え、リリムはアリシアに自分の存在や目的、俺の事を話していたようだ。
「ではリリム、ソウジの事は頼んだぞ!私の行先は国王陛下に伝えておく」
「はい、アリシアさんもお気を付けて!」
「ピィ!!」
「はは!サバオもソウジの事、頼んだぞ!」
「ピィ!!!」
こうしてアリシアは1人集落を後にした。
「さて、サバオ!私達も行くとしますか!!」
「ピィ!!」
そう言うと、リリムとサバオも歩き出す。
「さあ、私達の冒険の始まりですよー!」
************************
『ピンポーン』
部屋のチャイムが鳴る。
「置田さーん!お迎えに来ましたよー」
俺はあの後退院し、すぐにでも出社しようと会社に連絡をしたのだが、無理をせずゆっくり1週間体を慣らしてから出社するように言われたのだ。
そして1週間が経ち、今日が久しぶりの出社なのだ。
随分といい会社になったものである。
以前の体制で、かのパワハラ部長であれば、点滴をぶら下げてでも出社してこいとか、病室で仕事しろとか言ってきたことであろう。
俺は急いで身支度を整え、玄関を開ける。
「おはよう、瀬谷さん。ほんとにわざわざ来てくれたんだ?」
「もちろんです!また何かあったら大変ですし、外には危険がいっぱいなので!」
「あはは、まあ気をつけるからさ」
「帰りもご一緒しますからね!」
「そ、そこまでしてもらわなくても…」
「知らない人に声掛けられたりしたら危ないですし…」
「保護者か!?」
そんな会話をしつつ会社に到着すると多くの社員が俺に駆け寄ってきた。
「置田!もう大丈夫なのか?」
「あ、ああ、心配かけたな」
出会う社員みんなに声を掛けられる。
瀬谷さんが言ってた、俺がヒーローになってるというのはあながち間違いではなさそうだ。中には本当にお礼をしてくる者もいた。
こうして俺の日常が戻ったのであった。
日常が戻ったとはいっても、以前のように法外な残業をすることもなければ、休日出勤もなく、しっかり週2日休める環境になっていた。
「置田さん、お疲れ様でした!それではまた明日!」
「ああ、お疲れ様!」
日常が戻ってから2週間、今日も瀬谷さんと一緒に帰宅した俺はアパートの前で彼女と別れる。
逆に俺が家まで送ると言ったら、何と彼女の家は俺のアパートの横のマンションだったのだ。
とはいえ、普通こんなに毎日一緒に出社して一緒に帰宅なんて普通はありえない。
(もしかして瀬谷さん、俺の事…)
うん、期待外れだったらショックだからこれ以上はやめておこう。それにこれはラブコメではない。
俺は部屋に入り、上着を脱ぎ捨てるとそのままベッドに横になる。1人になるといつもふと思い浮かぶのはあの異世界のことだ。
あれから集落はどうなったのか、マヨネーズは、大量の金貨は、皆んな俺が居なくなってどうなったのか、サバオは寂しがってないか、アリシアは自分を責めてないか、リリムは…アイツは平気そうだな。
しかし異世界の事を考えるも、日が経つにつれてこう思うようになる。
“あれは夢だったんだ”と。
それから数日経ったとある日、この日俺は自分の体に起きている異変に気付くことになる。
「おはようございます!蒼司さん!」
「おはよう、凛々香さん」
俺達はいつの間にかお互い名前で呼び合うようになっていた。今まで女性とこんな経験はなかったのでとても新鮮だ。もうこうなったらラブコメばっちこい!
「蒼司さん、もうすっかり元気になりましたね!」
「ああ、おかげさまで!何かわかんないけど前よりも元気な気がするんだよな。全然疲れないし。」
「蒼司さん元々丈夫でしたもんね?」
「まあ…な?」
(なんかそんなんじゃなくて…うーん、何と言ったらいいのか)
そして俺達はオフィスに到着し、間もなくして就業開始となった。今日も皆のびのびと仕事をしている。
「置田さん、この案件なんですけど…」
「ああ、これは…」
俺が答えようとした時だった。
『ガシャーン!』という大きな音と女性社員の悲鳴が聞こえてきた。
「何だ!?」
只事ではないと感じた俺は、目の前の女性社員に警察をすぐに呼べるようにと指示。
俺が音のした方へ向かおうとすると、向こうからこちらへやって来た。
「置田はいるかぁぁ!!!」
パワハラ部長こと川原元部長である。
手にはバールを持っていて、かなり興奮している様子。
危険だ。
俺を探しているようだったので、他の社員に危害が及ばないようお望み通り川原の前に出る。
「お久しぶりですね、川原元部長」
「置田ぁ…」
「あなた解雇になったんですよね?部外者は立ち入り禁止ですよ?そんな物まで持って、何を考えてるんですか?」
俺が川原にそう言い放つと、先程の女性社員に警察を呼ぶよう目で合図を送る。
「置田ぁ、お前のせいで…あの時お前が事故になんか遭ったせいで俺はクビになったんだ!俺はもう終わりだ!終わる前にお前とこの会社をめちゃくちゃにしてやる!!」
「何かと思ったら…逆恨みもいいとこじゃないですか。普段から俺に仕事を押し付けてたバチが当たったんでしょう?」
「うるせぇ!大人しくここで徹夜してれば事故になんか遭わなかっただろ!俺の人生壊しやがって!!」
「さっきから聞いてれば言ってることが無茶苦茶じゃないですか!」
凛々香さんが前に出てきた。
「瀬谷ぁ…お前もお高くとまりやがって。俺の誘いに一度も応えなかったなぁ」
「瀬谷さんは関係ないじゃないですか!俺が憎いんでしょう?」
しかし川原は俺に見向きもせず、凛々香さんに迫る。
「瀬谷ぁ、お前は俺と一緒に来い!」
川原は凛々香さんの腕を掴み、強引に引っ張ろうとする。
「や、やめてください!」
怒りが頂点に達した俺は、凛々香さんの腕を掴んでいる川原の腕を掴み、「いい加減にしろ!川原ぁ!!!」と、怒号を浴びせた。
その瞬間俺の腕に力が入ると、『ボキッ』と何かが折れる音がした。
「あぁぁぁ!!痛え!!折れたぁぁ!!」
痛みに藻掻く川原。それよりも俺は凛々香さんを川原から引き離し、凛々香さんと向き合う。
「凛々香さん、大丈夫か!?」
「蒼司さん…はい、ありがとうございます」
俺が凛々香さんに対して安堵の表情を浮かべていると、
「置田さん!」
周りの社員の声でハッと後ろを振り返ると、バールを振りかぶって俺に向かってくる川原が。
俺はとっさに腕でバールを受け止めた。
「はーっははは!これでお前の腕も折れ…」
俺に痛みは全くなかった。
それどころかよく見るとバールがぐにゃりと折れ曲がっていた。
「あわわわ…」
川原は尻もちをついて怯えている。
俺は川原に歩み寄り、「いい加減に…」と言いかけたところで警察官が到着した。
川原は不法侵入、器物破損等の現行犯で逮捕されることとなった。
最悪な元上司は何とも惨めな最後を迎える事となったのだ。
数時間後、俺と凛々香さんは警察署で事情聴取を受け、オフィスに戻る途中。
「蒼司さん、本当に大丈夫なんですか?本当にお怪我はないんですか?」
「ああ、ほんとに大丈夫だよ!ほら」
凛々香さんに腕を見せる。怪我どころかアザの一つもないのだ。
「まあ…バールがあんなことになっちゃうくらいですもんね。蒼司さん実は格闘技とかやってました?」
「いやいや、何もやってないよ」
格闘技をやってるからといってもバールは曲げられないと思うが…
「何にしても良かったです!また蒼司さんに何かあったら…私…」
「はは、心配してくれてありがとな。凛々香さん」
すると凛々香さんは立ち止まり、
「蒼司さん、その…ご迷惑でなければこれからもずっと蒼司さんのそばにいさせてもらってもいいですか?」
「!?」
これは…ラブコメ突入ルートか!?
「も、もちろんだよ!これからもずっとよろしくな、凛々香さん」
「はい!」
(これは…そうだよな?彼女といっていいんだよな?人生初の彼女!胸キュンなやついっぱい頼むぞ、作者!!)
※このお話は異世界ファンタジーです
そして俺達はオフィスに戻り、仕事を終わらせた帰り道。
「皆んな心配してるかと思ったけど…何か怖がられてた?」
「まあ…バール曲げちゃいましたからね…」
「俺もびっくりしてるんだけどな…」
「そ、それはそうと…蒼司さん!」
「ん?」
「その…良かったら今晩ウチで一緒に晩ご飯食べませんか?私頑張っちゃいます!」
「え?いいの?」
「はい!では一緒にお買い物付き合ってもらっていいですか?」
「もちろん!」
俺達は帰り道のスーパーで一緒に買い物に。
食べれないものはある?とか何が好き?とか。
しかも相手は社内一の美女凛々香さん。俺の彼女!
(あぁ…ラブコメ最高!ありがとう、作者!!)
※このお話は異世界ファンタジーです
「では、私準備をして待ってますので、着替えたら来てくださいね!」
「ああ!すぐ行くよ!」
俺は足早に部屋に向かった。
女性の部屋なんて初めての俺は舞い上がっていた。
と同時にこの後どんな展開になるのかと、心躍らせていた。
が、ここで予想だにしない展開が待ち受けていた。
部屋に着き玄関を開けると部屋の方から何か聞こえてくる。
『アァ~ン♡』
「え?」
何ともいかがわしい声。誰かいるのか?と思ったが、よく見るとテレビが付いているようだ。
「あれ?俺消し忘れた?てか…俺昨日素敵BluRay観てたっけ?」
恐る恐る部屋の奥へ向かうと、
「お、おぉぉぉ…す、すごいですぅ…」
見た事のあるピンク色の髪の少女が目を爛々と輝かせながら素敵BluRay鑑賞をしていた。
「……」
「お、お前!リリムじゃねーか!!何してんだよ!!!」
「あ、ソウジさんおかえりなさーい」
「おかえりなさいじゃねぇ!!」
『ア、アァァァァン!!!』
「まずはBluRayを止めろ!!」
俺はBluRayを停止し、改めてリリムに問う。
「リリム!お前何でここにいるんだ!?」
「私だけじゃないですよ~」
先程は気付かなかったがキッチンからガサガサと音がする。
「ソウジ、オナカスイタ…」
そこには小さな男の子が。
「いや、誰!?」
「そんな…ソウジさん…私達の愛の結晶なのに!!」
「アホか!そんな記憶はねえ!!」
「リリム、チガウ。ボク、サバオ」
「え?サバオなのか?」
「てへ♡」
「てへ♡じゃねえ!!」
「それで、ソウジさん?私達の愛の結晶を認知していただけるんですか?」
「認知って何だよ!サバオだろ!!」
「ところでソウジさん、私もお腹空きました」
「っと!それどころじゃないんだった!早く行かないと」
「えー…空腹の私達を置いてどこに行くんですか?」
「ソウジ、オナカスイタ」
「その辺にある物適当に食ってていいよ!俺はこれから彼女の家で一緒に晩飯なんだよ!」
「ほえ?彼女??」
「そうだよ!って言ってもまだホヤホヤなんだけどな!色々聞きたい事はあるけど話は後だ!」
「ご飯…それなら是非私達も…」
「来んじゃねえ!!いいか?お前ら絶対ここから出るなよ?めんどくせーことになるのはごめんだからな!」
「あ!ソウジさん、待ってください!!」
「何だよ!?」
「これ、裏モノはないんですか?」
「ねーわ!!どこでそんな事覚えた!?とにかく、お前ら絶対にここから出るなよ!絶対だからな!!」
そう言い残すと俺は部屋を出て足早に凛々香さんの家に向かう。
「…サバオ、ソウジさん行っちゃいましたよ?私達を置いて…」
「オナカスイタ…」
「こんな事…許せます?」
「オナカスイタ…」
『ピンポーン』
凛々香さんの部屋のチャイムを鳴らすと、エプロン姿の凛々香さんが迎えてくれた。
「蒼司さん!お待ちしてました!」
部屋に案内されると、そこには凛々香さんの手作り料理が並べられていた。どれも美味そうだ。
「すげぇ…めちゃめちゃ美味そう」
「ふふ、頑張っちゃいました!早速食べましょう」
「ありがとう!それじゃいただきまーす!」
「遠慮せずに食べてくださいね!」
「美味い!凛々香さん、めっちゃ美味いよ!」
「良かったです!」と嬉しそうに微笑む彼女。
俺は世界一の幸せ者だ!と思っていると窓の外から視線を感じる。
「サバオ、ソウジさんとても美味しそうなもの食べてますよぉ…」
「オナカスイタ…」
そこには窓に張り付いているリリムとサバオの姿があった。
「ぶっ!!」
「蒼司さん!大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ、ごめんごめん大丈夫だよ」
「?」
凛々香さんは首を傾げる。
(お前ら…頼むから部屋に戻っててくれ!)
俺は窓に張り付いている2人に視線を送る。
「何か外から視線を感じるような…」
凛々香さんが窓の方を向こうとする。
「いやいやいやいや、大丈夫!何でもないよ!!それにほら、ここ5階だし有り得ないって!!」
「ふふ、そうでしたね」
(あるんだけどね…)
手料理を全て平らげると、凛々香さんは俺にピタリと体を寄せてきた。
「蒼司さん、私幸せです」
(これは…この展開は!!)
「凛々香さん、俺も…」
俺は凛々香さんと見つめ合う。
『ジーッ』
窓の外から寒気のする視線を感じる。
「サバオ、ソウジさん今度はイチャコラ始めましたよ?」
「オナカスイタ…」
(こいつらまだいやがった…)
周りの視線なんか気にせず抱きしめたり色々したいところではあるが、残念ながら俺にはそんな耐性はないため、
「凛々香さん、なんと言うかその…俺は凛々香さんの事がすごく大事なんだ!だからほら、あの、俺達まだ今日の今日だし…」
俺は凛々香さんの両肩に手をやり真剣な顔で見つめた。
「ふふ、蒼司さんは優しいのですね。でもそんなあなただから惹かれたんです」
(とりあえずこの場は凌げたか?)
窓の外には相変わらず不法者が張り付いている。
それからしばらく会話をして、今日は解散ということになった。
玄関先まで凛々香さんが見送りに来ると、
『チュッ』と俺の頬に唇を当ててきた。
俺の顔は一気に真っ赤に燃え上がる。
「今日はこれで我慢します(笑)おやすみなさい」
「あ、あぁ、おやすみ」
そして俺は幸せ気分で凛々香さんの部屋を出た。
(くっそー…アイツら、帰ったら話を聞く前に説教だ)




