第9話 社畜男、死す!?
「お待ちしてましたよぉ、アリシア少佐ぁ!いや、元少佐ですかねぇ、裏切り者のアリシア元少佐!!」
「お前は…」
何とも憎たらしい顔つきのいやらしい喋り方の男を睨みつけるアリシア。
見るからにわかる、こいつは悪者だな。
「お前は……誰だっけ?」
「……は?」
「なんかお月様みたいなお顔ですね…魔物でしょうか?」
「魔物って喋るのか?」
「私はゲネイオンですねぇ!初対面で失礼な連中ですねぇ!!」
ゲネイオンと名乗るその男が喚き散らしていると、
「ゲネイオン?あぁ、そんな奴もいたな」
ようやくアリシアは思い出したようだ。
「それで?ゲネイオン、この惨状は貴様の仕業か?」
「口を慎みなさいアリシア元少佐ぁ!今の私は大佐ですよぉ」
ニヤリと嫌な笑みを浮かべるゲネイオン。
「今の私は帝国とは関係ない。我々に刃を向けるなら貴様らは敵だ」
「ほう、やると言うのですか?しかし私はツイてますねぇ、魔物の具合を見にこんな所まで来てみたらアリシア元少佐の住処に辿り着いた訳ですから」
「魔物の具合?どうしてここが私の住処だとわかった?」
「あなたが帝国にいた頃からの愛剣がありましたからねぇ」
ゲネイオンはアリシアの大切にしていた剣を取り出し、地面に叩きつけ踏みつけた。
「魔物は我々マブロス帝国が悲願の為に生成して世界中に放ってるんですねぇ!」
「なんだと!?」
「魔物を生成?!人間にそんなことできるはずが…」
リリムの表情が一気に強ばる。
「ゲネイオン大佐、そんなに話してしまって大丈夫でしょうか?」
1人の兵士が問いかける。
「これから死ぬ連中ですよぉ!冥土の土産に特別に教えてあげたんですねぇ!!さあ、お前達やっておしまいなさい!」
ゲネイオンが合図をすると、取り巻いていた4人の兵士が剣を構える。同時にアリシアも剣を構えた。
さすがにこれはまずいと察した俺は、
「リリム、今こそ女神様の力を使う時じゃないのか?早く俺に女神様の力をかけてくれ!」
するといつになく真剣な表情でリリムは、
「いいですか?ソウジさん。“かける”というのは1のものに対して2をかけることによって2になりますが、0のものにかけても0のままなんです」
「この状況でまだそんなこと言う!?」
なんてやり取りをしていると、一瞬アリシアが動いたかと思うと次の瞬間。
「ぐはぁ!」
4人の兵士が倒れていた。
「すげぇ」
「さすがアリシアさんですね!」
「ぐぬぬ…さすがに一筋縄ではいきませんねぇ」
「当たり前だ!下級の兵士が4人程度で私をどうにか出来るわけがないだろう」
「かっけぇ!俺もあんなこと言ってみてぇ!」
「ソウジさんには絶対無理ですね」
お前が俺に女神様の力をよこさないからじゃないのか…
「くっ!」
ゲネイオンはその場から走り去った。
「あっ!逃げた!?」
「大佐ともあろう者が敵前逃亡か…まあいい、この4人を捕縛して王国に引き渡そう。聞き出したいこともあるしな」
「殺してないのか?」
「私はもう無駄な殺生はしたくないからな」
「明日には王国の方が来ますしちょうどいいですね!そこで引き渡しましょう」
すると、ズズン!と大きな足音が聞こえてきた。
「な、なんだ?」
「あれは!?」
「ククク、逃げたとは笑わせますねぇ!これから本気の私が相手して差し上げましょう!」
ゲネイオンだ。ロボットのような大きな鎧に身を包まれていた。
「ゲネイオン、何だその姿は?」
「魔晶アーマーですねぇ!我がマブロス帝国の技術の結晶ですよぉ!!」
「…すっげーダセェけど?」
「はい、かっこ悪いです。三日月みたいなアゴしてるくせに」
「つくづく失礼な連中ですねぇ!アゴは関係ないんですねぇ!!」
「…私が帝国にいた頃はそんな技術はなかったはずだが?」
「新皇帝に変わられてからマブロス帝国は生まれ変わったんですねぇ。魔物を生成し世界に放ち、強力な魔物からは魔晶石を取り出し我々の力に、他の魔物は世界各地適当に襲わせておけば各国大混乱、そこにこの強大な力を持った我々マブロス帝国軍が攻め入ればたちまち世界は我がマブロス帝国のものになるんですねぇ!!」
「なんという事だ…この魔物の大量発生は貴様らの仕業だったのか!?」
「…魔物を生成して魔晶石を取り出す、それは禁忌の力のはず!」
リリムの表情に緊張が見える。
「新皇帝様は素晴らしいお方ですねぇ。様々な知識や力を我々に与えてくださる…その力で死ねること、光栄に思いなさい!!」
ゲネイオンが左腕を横に差し出すと光線のようなものが。次の瞬間、集落の家が一瞬で塵となったのだ。
「クッ…さすがにこれはまずいか?ソウジ、リリム、私が時間を稼ぐ。君達だけでも逃げるんだ。そして国王陛下にこの事を伝えてほしい」
「そんな…アリシアさん」
「アリシアはどうなるんだよ!?」
「…私は戦士だ。命に代えても君達を守る!」
「1人も逃がしませんよぉ!まずはお前からぁぁ!!」
ゲネイオンは俺に向かって先程の光線を出そうと構えた。
「まずい!ソウジ、逃げ…」
アリシアが声を上げようとすると、俺の鞄の中から目にも止まらぬ速さでサバオが飛び出し、ゲネイオンに向かって突っ込んだ。
「グハッ!」
ゲネイオンの鎧に大きなヒビが入った。
『クキヤァァァァ!!!!』
サバオは大きな雄叫びをゲネイオンに向かって上げると、ゲネイオンの鎧が剥がれていく。
「あれは…咆哮か!」
アリシアが目を見開く。
「ば、バカな…幼竜?!」
鎧を剥がされたゲネイオンはその場に膝から崩れ落ちたのだ。
「好機!」
アリシアはゲネイオンに向かって斬りかかった。
「!?」
しかしアリシアの剣はゲネイオンに届いておらず、いつの間にか現れた者にその剣先を止められていたのだ。指二本で。その者は黒い鎧に黒い仮面をしていた。
「ゲネイオン、戻りが遅いと思ったらこんな所で遊んでいたとはな」
「ヒッ!も、申し訳ござません!」
「帰るぞ。皇帝様がお待ちだ」
黒い仮面の者はヒョイと4人の兵士を担いだ。
「はっ!只今!」
ゲネイオンも続いた。
「何者だ?貴様は」
アリシアは剣を構えているが、黒い仮面の者はまるで相手にしていない。
サバオが俺の所に戻ってくると、
黒い仮面の者が一瞬で俺の目の前に。
「ソウジ!!!」
「…君、面白いねぇ」
「え?」
黒い仮面の者は人差し指を俺の額に当てた。
すると一瞬大きな光を放つ。
「また……るよ」
意識がなくなる寸前、仮面の者が何かを俺の耳元で囁くと、そのままゲネイオンと担いだ兵士達とその場を立ち去った。
「ソウジさん!!」
リリムは青ざめた顔で俺に駆け寄る。
「ソウジさん!ソウジさん!!」
「ソウジ…そんな…」
「ピィ…」
そこにあるのは“身体だけ”となった俺だった。
この後、大きな光が見えたとの事で王都から兵士がやって来た。アリシアが事の経緯を説明すると、直ぐに国王陛下とダンテが集落へやって来た。
アリシアや国王陛下達が今起きた事、今後についての話をしている間、ベッドに運ばれた俺の傍でリリムはずっと付いていた。
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「ッ!?」
俺は目を覚ますと、眩しい光が目に入る。
蛍光灯だ。
「え?」
身体の節々が痛い。頭に違和感を感じ、触れてみると包帯が巻かれていた。
「ここは…病院?」
俺はつい先程起こっていた事を思い返していた。
「確か黒い仮面の奴が俺の目の前に来て、気が付いたら真っ白になって…何か言ってたような…」
『また会えるのを楽しみにしているよ』
色々思い返していると、ガシャン!という音が聞こえてきた。
「置田…さん?」
「ん?君は…」
「置田さん!意識が戻ったんですね!!」
「うおっ!」
泣きながら抱きついてくる彼女は瀬谷凛々香。
社内一の美女と言われている俺の一つ下の後輩だ。
「何で瀬谷さんがここに?」
「そ、それは…あ、私看護士さん呼んできますね!」
(流された?)
その後連絡を受けた俺の両親と妹も駆け付け、医師からももう大丈夫と告げられた。今週中には退院できるとのことだ。
「蒼司、あなた2ヶ月も意識がなかったのよ!」
「お前が事故に遭ったと聞いた時は生きた心地がしなかったぞ」
どうやら俺は2ヶ月間意識がなかったらしい。その間俺は異世界に?いや、まさか…夢だったのか?
「その間毎日凛々香さんがきてくれてたんだよ?お兄ちゃん?」
ニヤニヤと笑う妹の夕貴。
「ちょっ、夕貴ちゃん!」
「さて、私達は色々な手続きをしてくるよ」
「あ、私もそろそろ行くね!それじゃあねぇ、凛々香さん」
ニヒヒと笑う夕貴。何だ?この状況は…
病室に残された俺と瀬谷さん。
「え、えーと…その、毎日来てくれてたの?」
コクコクと頷く瀬谷さん。
「あ、はは…悪かったな、心配かけて」
「い、いえ!そんな…」
しかしどう考えても俺はこの瀬谷さんと全く接点がない。社内一の美女とだけあって、その存在は知っていたがなぜ毎日ここに来てくれてたのか見当もつかない。
「あの…」
「ん?」
「いつも助けていただいてありがとうございました!
あと、私のせいでこんな事に…ごめんなさい!!」
「え?え?助けて?あと瀬谷さんのせいなんてことは…」
「置田さんはお優しいのですね!だっていつも…」
彼女の話によると、瀬谷さんは日々パワハラ部長から執拗に誘われたり、セクハラされたりと相当悩んでいたようで、その度に俺が間に入って助けていたのだとか。
(俺は部長から押し付けられる仕事が多すぎて、一つ片付ける度に報告に行ってたからな…まさかそれが毎回瀬谷さんに絡んでる時だったってことか?)
毎回そのタイミングで瀬谷さんはパワハラ部長の元から逃げ出してたようだ。
「いつもそうやって助けていただいて…もしかしたらそれで部長から目をつけられて無理な仕事を強いられて…それで身体がボロボロになったところ事故に遭われたのかと…私がもっとしっかり言い返せていれば…ごめんなさい!」
「いやいや、瀬谷さんは悪くないよ!悪いのは部長なんだからさ」
「本当にありがとうございます!あと置田さん、あなたは会社でヒーローになってますよ!」
「え?ヒーロー?」
「はい!川原部長懲戒解雇になったんですが、置田さんが事故に遭われたことで川原部長の悪事が明るみに出るようになって…」
「悪事って?」
「私へのセクハラはもちろん、置田さんへの嫌がらせ、仕事の押しつけ、サービス残業の強制、手柄の横取り、横領、まだまだあるみたいで…」
「あいつ…相当ヤベー奴だったんだな…」
「はい、そこで事態を重く見た会社は川原部長を懲戒解雇にして、ブラックだった会社の体制をホワイトにしようということで色々改革が行われて、今ではすごく働きやすい環境になったんです!」
「ほ、ほぇー」
「川原部長の嫌がらせに耐え、身を挺して会社を救ってくれたと、だから置田さんは会社のヒーローなんです!」
「あ、あはは…」
どうやら俺は異世界を救う前に会社を救っていたようだ。
「置田さん、来週から出社できそうなんですかね?そうだったら私朝お迎えに行きますので一緒に会社行きましょう!」
「あ、ああ」
そしてしばらくして彼女は帰っていったわけだが…
(俺の異世界生活はどうなったの!?)




