5-1.「着せ替える」
――――後悔先に立たず、という言葉を異国の言葉を思い出す。
あるいは、ご利用は計画的に。これもまた異国の言葉だったように思う。
早い話があたしは無計画に行動し、その結果、現在後悔をしているというところだ。
「・・・・・・どうしたらいいの」
そう呟いてみても、目の前の鏡は魔界製であったけれど、あたしが幼い頃に母から聞いた御伽噺の鏡のように答えをくれることはなかった。
磨きぬかれた鏡は、青い顔のあたしを静かに映すだけ。
* * *
あたしはとある問題にぶつかっていた。
ここに着てから美味しいものが食べられるせいで、体がかなり女性らしいラインになってきたことがそれだ。失敗した。もっと考えて食べればよかったのだ。
勿論、本来なら喜ぶべき事だろう。必要なところに肉がつき、不要なところに肉が無いボディライン。
あたしだって、魔界に来る前の、それもあたしが色々なものを失ってしまう前の生活を続けていたのだとしたら、きっと諸手をあげて喜んでいた。
でも、今の状況だと嬉しくない。
何故ってあたしの役目は今--着せ替え人形なのだから。
体型が変わるたびに、以前の服は着られなくなってしまう。
あたしで遊ぶために用意された服は次々と着られない服になっていくのだ。
なんてもったいない話だろう。
人形と違い、生きている人間は生きている限り体型に大なり小なり変化が現れるのは当然だ。けれども、あたしの場合、元々がかなり痩せていた・・・というかガリガリの骨と皮だっただけにその変化は劇的だった――――劇的過ぎた。
しかも、ご主人様がお好みの服は、ふりふりのひらひら。どちらかというとスレンダー体型の方が似合う洋服である。
ところが、最近のあたしの体の成長具合からいうと、そろそろその手のデザインの衣装は卒業したほうが良さそうな按配。
ご主人様の好みのラインから、あたしはどんどんずれていっている。
(用無しになったらどうしよう・・・・・・!)
――――その時、自分の身の安全は保障されるのだろうか?
ぞっと背筋に冷たいものが落ちていく。
何しろ、あたしのご主人様は「魔族」なのだ。
精神構造が人間とは異なる。
人間だって、近しい身内をいらないとなったら売るのだ。魔族となれば、いわんや。人間の命など虫けらにも等しいのではないだろうか。
(人間だって――――)
そうだ、血を分けた叔父だって、あたしを売り飛ばそうとしたではないか。