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7-1.「キセ・帰る」

 ご主人様は相変わらずお優しい。

 初めから一貫して態度が変わらない。

 床に就く時間が前より長くなったあたしのことも心配してくれる。

 優しいのはいい。嬉しい。

 けれども、ずっとナムエの言葉【ご主人様は女性嫌い】が頭の中を回っているあたしとしては、いつ手のひらを返されるか不安でしょうがないのだ。

 それとも――――――――あたしは女ではないと思われている…とか?

 そうかもしれない。

 あたしだって、その辺の猫がオスであっても、体を見て「ああ、オスなのね」と思う程度で、異性を感じてどきどきしたり恐怖を感じたりしない。

 そうなんだ、きっと。

 あたしは自分の中で答えを見つけて安堵を感じると同時に――――――――何故か少し胸がちくりとした。




 ……などと、目の前にいる相手に話しても無駄だったかもしれない。

 人選、絶対間違えた。

 あたしと同じような立場・・・・・・という観点で選んだけれど、大失敗だ。


「なるほど。胸が痛んだと。・・・狭心症ですか?」

 彼女とあたしの相互理解は遠かった。

「そんな持病はないわよ」

「と、すると。ああ、わかりました!」

 目の前の女性は顔をほころばせた。

 そして声を潜めて、あたしにだけ聞こえるように囁いてくる。

「乙女週間ですね。確かにその前後は胸が痛みますから大変ですね。ほんと。周りが男性ばかりだと苦労しますよね、わかってもらえないし」

 表情を曇らせて、うんうんと頷く彼女は絶対わかっていない。

 わかっていない。

 どういう風に思考回路を繋げばそんな考えにたどり着くのだろう。

「専用のショーツも簡単に手に入れることが出来ませんし…あっ! あの方に今度は目先を変えてサニタリーショーツを差し出してみるのも有りですかね。魔王様の為なら結構色々手に入れることができるんですよ。・・・魔族な上、男性であれば一生縁がないものだと思いますし、意外にアレなら面白がって受け入れていただけるかも・・・どう思います?」

「セクハラだと思うわ」

「・・・ですよねえ。ナニなら気に入っていただけるのやら」

 はぁ、っと頬に手を当てて可憐に溜息をつく彼女の悩みは、一生解決しないと思う。

 寧ろしないほうがいいと思う。しないで欲しい。

 万民の精神衛生を保つためにも。

 彼女のセンスに任せたら、きっと魔界の頂点に立つものとして尊敬できない魔王様ができあがると思う。


 彼女は魔王様の唯一の召使であり、あたしと同じ人間だった。

 最近あたしは漸く外を歩く事を許してもらえるようになり、同じ人間ということで紹介されたはいいのだが・・・彼女、玉に・・・いや頻繁にあたしの理解の及ばない解釈をする人間だった。

 根本的に彼女とあたしは精神構造が違うらしい。

 分かり合える気がしなかった。

 あたしが一般より繊細なのか、彼女が大雑把過ぎるのか――――客観的に考えて後者だろう。

 あたしは別にそう悲観的なタイプではないが、彼女ほど楽観的に生きる事はできない。

 ついでにあたしは彼女のようにぱんつに拘るような人間ではない。

 声を大にして言わせてほしい。


 彼女が魔王様に彼女の選んだぱんつを履かせる事に並々ならぬ執着を燃やしているらしい事は、魔界の一部では公然の秘密だった。

 どこまで本当かはしらないが、一部の魔族は彼女の事を「命知らずな・・・」と畏れたり、「一体ナニがそんな情熱を駆り立てるんだ?!」と戦いたり、果ては「そんな彼女イカス、フォーリンラブ」といってファンクラブを影で作っているものもいるとかなんとか。

 実際に彼女に懸想している魔族の筆頭が、かなり有名な方な為、ファンクラブがあったとしても表立った活動はウカツにできないだろう。まかり間違えば実力者の彼に消される。

 だから詳細は今のところ不明だ。

 先だって、まさに彼女のせいで一人の魔族が消えたそうだ。

 あの巨乳信望者(滅びてしまえ)ナムエの従兄弟だったらしいのだが、ナムエとはいがみ合っていたらしく、消えた際にはこの世の春とばかり浮かれていたのを目撃した。物凄くイイ笑顔だった。嫌なものを見てしまった。

 そんなことを思い出して、あたしは顔をしかめた。

「どうかしました?」

「ううん、なんでもないわ」

 それよりも、とあたしは話を強引に変えた。

「貴方は毎日楽しそうね。魔王様は気難しい方ではないの?」 

 そう訊ねると、彼女は僅かに首をかしげて、考えを思い巡らせるように暫し沈黙した。


「・・・そうですね、あの方に仕えてますが、それほど手は煩わされません。・・・お召し替えの手伝いも断固として拒否なさるんですよね。傍仕えは私しかいないので、必然と御自分でなさることになるのですが、文句も言わずに。…もっと手伝わせてくださってもいいんですが」

「・・・多分、あたしがあの方でも遠慮するわ」

「そうですか?まあ魔王様は接触嫌悪症ですしね」

 唯一触れる私でも触れられないとなると、深刻ですねぇ・・・と彼女は苦笑した。

「そ、そうねえ…」

 あたしは「寧ろそれは関係ないと思うわ」と正直に答えるべきか悩んだ。

 たとえ正直に答えても、果たして彼女が万人の理解力の斜め上の方向に解釈しないか不安になったため、そこで口をつぐんだ。

 暫く言葉を捜して、間をおいて口を開く。

「きっと、魔王様は自立心旺盛な方なのよ」

 貴方の手を借りたくない程度には。

 彼女は「もっと頼って下さってもいいのに」と残念そうな顔で呟いていた。



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