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昔昔の老夫婦

作者: ネコノトリ

最遊記に登場する五荘観、長寿の実人参果が登場する二人の老夫婦のお話です。



 昔昔のそのまた昔、中国のとある小さな村に住む二人の老夫婦のお話。


 おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯へ毎日同じことの繰り返しですが、それでも二人の生活は幸せそのものでした。そんなある日のこと、山へ柴刈りへ向かったおじいさんが家へと帰ると、家の中でおばあさんが倒れていました。

「あなた……私の命はもう長くないやもしれません。」


 おばあさんを布団に運び寝かせると、おばあさんは普段吐くことのない弱音を吐きました。

「体調を崩して弱気になっているだけだ……そんな悲しいこと言わんでくれ……」


「わかるんです。体も上手く動かせないし、食欲もない、お医者様にも見てもらいましたが異常はないそうです……あなたを一人にしたくはなかったのですが……」


「そんなこと…………そうだ!婆さん五荘観だ!村のやつに聞いたんだが、五荘観には食べれば寿命が延びる実があるらしい!儂がそれを貰ってくるから、頼むから弱気にならんでくれ。」


「ですが、五荘観のある万寿山には人を食べる妖怪が出ると言うではありませんか……そんな危険な場所に私のためとはいえ行って欲しくはありません。」


「こんなヨレヨレな老人を食べたいと思う妖怪なんておらんよ。それに、儂は婆さんと死んでしまうことの方が妖怪なんかよりずっと怖い。」


「わかりました……何を言ってもあなたは行ってしまうでしょうから、もう止めません。ですが早く帰ってくださいね、あなたがいないと静かすぎて、家が寂しがってしまうかもしれませんので。」


「あぁ……すぐに帰る。村の奴らにも様子を見るよう頼んでおくから、安静にして儂の帰りを待っていてくれ。」


 数日分の食料と水を持ち、住み慣れた村を離れ五荘観へと向かった。五荘観へと向かう途中、数々のハプニングに見舞われ想定よりも着くのに時間がかかってしまったが、ようやくおじいさんは五荘観へと辿り着いた。


 儂が五荘観の掃除をしている人物に長寿の実について尋ねると、五荘観の客室へと案内された。


 しばらく客室で待つと、長い髭に大きく垂れた耳たぶを持った男が客室へと入ってきた。

「はじめまして、私の名前は鎮元子。ここ五荘観の主をしております。あなたが弟子の話していた長寿の実が欲しいというご老人ですね。」


「そうでございます。婆さんが倒れて元気がないのです。お願いします仙人様!儂にできることならなんでもやります。どうか長寿の実を一つお恵みください!」


 気持ちが伝わるよう俺は必死に頭を下げた。

「まず、あなたの言う長寿の実とは、この人参果という果物です。」


 仙人様は赤子の姿をした木の実を俺に見せ話を続けた。

「この人参果という実は育つのに相当な時間がかかり、食べ頃になるまでには一万年程の時間が必要な大変貴重な果物です。普段なら大切なお客様をおもてなしする時にしか差し上げることのない貴重な木の実なのですが、あなたには特別に一つ差し上げます。」


「ほんとですか!」


「えぇ、もちろん。あなたの奥さんを思う心と五荘観までの大変な道のりを労ってのものです。」


「ありがとうございます!すぐに帰って婆さんに食わせてやろうと思います!」


「そうですね、それがいいでしょう。最後に一つ、あなたよりも長く生きた年長者から教えを授けます。「人の命は有限です。百年の月日よりも大切な一日というものもあるのです」あなたが間違った選択をとらないことを祈ります。」


 儂は仙人の言葉を聞いて不安になり、急いで山を下った。休憩もせず睡眠も取らず。来た道を半分の時間で村へと戻った。

「婆さん!帰ったぞ!」


 そこには、おばあさんの姿はなく温もりのない布団が一枚寂しく敷かれていた。儂はすぐに様子を見るよう頼んだ村の友人の元へと走った。

「おい!婆さんはどうしたんだ!」


「……言いずらいんだが……あの人は死んだよ。綺麗なまま送ってやろうって、お前がいない間にみんなで弔ったよ……」


 そう言うと村の友人は儂を連れ、婆さんを埋めたという墓の元へと連れていってくれた。

「あの人からお前に伝言を預かってる。」


 儂が墓の前に立つと、友人は婆さんが俺に残した言葉を聞かせてくれた。

 「まず、あなたを待つと約束をしたのに先に逝ってしまいごめんなさい。あなたは昔から私のために体を張って行動してくれました。私は、それがとても幸せでした。私の死に立ち会えなかったことをあなたは悲しみ、そして自分を責めるでしょう。ですが、私は最後まであなたと一緒になれて本当によかったと思っていることを忘れないでください。」


「悪いな……この村に文字を書けるやつがいないから覚えている限りだが、確かにお前に伝えたぞ。」


「大丈……夫……ありがとう。」


 大粒の涙が流れる。婆さんが最後まで儂のことを考えていてくれたことを聞き、気づいてしまったのだ。俺の婆さんに死なないで欲しいという思いは、婆さんのためではなく自分のためなのだと。


 こんな長寿の実など貰いに行かず。一緒にいるべきだったのだ。儂はその日の夜、婆さんの眠る墓の前で一晩中泣き続けた、自分の愚かさを後悔しながら。


 次の日、いつの間にか眠ってしまっていた儂は、目の前に転がる人参果と目が合った。儂は婆さんならなんというか少し考え、食べてしまえば婆さんに会えないと感じ人参果を川へと流した。


 その日から儂は、次の日も、その次の日も、そのまた次の日も墓の前で婆さんへと語りかけた。婆さんが寂しく感じないように。


 

 

 

 

 

昔昔の老夫婦をお読み頂きありがとうございます。


本作で三本目の短編になります。(一つは二話に分けてしまっているけど)


本作はお読み頂いた方に伝わって頂けていると嬉しいのですが『時間』をテーマに書かせて頂きました。子供の頃の一日と歳をとってからの一日の価値は違います。そんな貴重な数分をこの作品に割いて頂きありがとうございました。


これからも短編をたまに書くので読んでいただけると嬉しいです。


余談ですが、作者は学生の頃遊ぶ約束をした元友人が六時間遅れて現れ、ヘラヘラしながら謝られたことがあります。皆様は家族や友人、大切な人やペットなどの時間を無駄に使わせないようお気をつけください。

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