肺の治療
父が亡くなり、その翌年、母が亡くなり、どちらも穏やかな死のようで安心しましたが、そのさらに一年ほど経った頃です。
夫の呼吸が悪そうで、病院に連れて行ったところ、肺の肺胞壁が破壊されてスカスカになっているのだと説明されました。夫はこの健康推進時代に逆行して、古くの喫煙文化に憧れを持ち、趣味として煙草を楽しんでいる人ですから、この肺はその影響だろうとの事でした。
「この呼吸機能障害も一昔前は慢性化、つまりまぁ完治する事なく一生付き合っていく事になったわけですが……治りますよ。ただ、これに懲りて喫煙はやめることでしょうね」
「気をつけます」
夫はおかしそうな顔をしながらそう答えました。後から私がどうしてそんなに面白そうな顔をしていたのか聞いてみますと、彼は、治るんだったらまた治して貰えばいいのに、なにも禁煙までさせるなんてばかみたいだと思って、と答えたのでした。
肺胞の細胞も、再生治療が出来るのだそうです。夫の呼吸は、大分良くなりました。
「俺は煙草が好きだよ。ニコチンの依存性のせいと言われればそれまでだけど、体に悪い事を出来るっていう自由を感じるから、面白いね。悪くなっても、こうやって治すことができて、そんでもって君と一緒に生き続けられるってんなら、やめる理由なんてないさね」