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刻まれた記憶

 本日、一挙二話掲載です。読み飛ばし等ご注意ください。



 交じり合う剣は光を散らし、その光の隙間を埋めるかのように放たれた魔法も剣聖は切り裂く。




 魔王との闘いは熾烈を極めていた。



 波のように押し寄せる魔法を絶え間なく切り結んだその先、魔王の攻撃が一度止んだ。




 剣聖ニールは息を整え、少しでも体力の回復を図る。





 魔法は言うまでもなく、剣技まで一流だとは。

 

 

 時折魔法を絡める剣舞に苦戦し、こちらの攻撃はまだ一太刀も魔王には届いていない。

 



 ーーーだが確実に通用している。




 その証拠に、オレもこれまで手傷という手傷は負っていない。


 


 オレの剣は魔王に届く......!




 

 「ふむ、剣聖というだけあって中々やりおる。」


 


 オレの気を知ってか、魔王が声を掛けてくる。

 



 「特に魔法への対処能力が人間のそれではない。」



 そう言いながら魔王は今一度、業火の魔法を放つ。

 




 ーーー  一閃(いっせん)  ーーー




 

 研ぎ澄まされた剣聖の剣は魔王の魔法であろうと一太刀で切る。




「まさか余の魔法さえ切り裂いてくる存在が人間にいようとはな。」



 

 「当たり前だ。あの日から、あの日からオレはお前達を殺す為だけにこの剣を磨いて来たんだ。」

 


 


 尚も魔王は不敵な笑みを崩さない。




 「......それだけに惜しい、実に惜しい。」




 ......惜しい?



 「何を言ってやがる......!?」



 オレの剣は確かにお前に通用している。まだ届いていなくても必ず最後にはこの剣でお前を......!




 「届く届かないの話ではないのだ。」




 魔王の顔から笑みが消える。

 その表情は改めて語る。

 "惜しい"と




 「お前も人間ならばあの有名な予言は聞いた事があるだろう。」





 あるに決まってんだろ。あのクソ予言のせいでオレは、ヒルデは.......





 「予言なんていかにも抽象的なモノだが、あの予言は的外れでないどころか この魔王に関しては間違いなく的を()ていた。」




 ......何を言っているんだ?





 「魔王を倒せるのは、勇者。そして魔法使いだ。」





 剣聖ニールは目を見開く。


 今まで、死にもの狂いで努力をし剣を振ってきた。

 そして今やその剣技は魔王にさえ届き得る所まで昇華されていた。


 それでも、それでもニールは剣聖なのだ。


 




 「知っているとは思うが魔族は生まれる際、なにか一つ特性が与えられる。」





 それは周知の事実であり、魔族ごとに何かしらの特性を持って生まれ、その特性の強さで魔族内の優劣が決まると言っても過言ではないほどらしい。





 「それは魔王である我も例外ではない。そして我が持って生まれた特性は......」




 やめろ、やめてくれ

 


 魔王が言葉を繋ぐその一瞬、ニールの頭を埋めつくしたのは怒りでも後悔でもなく"拒否"であった。




 だがそんな拒否など知ってか知らずか魔王の言葉は残酷にも紡がれる。





 魔王が持って生まれた特性は......





「ーーー物理攻撃に対する完全耐性だ。」




 

 最後の最後までのしかかる、勇者ではない。魔法使いではない。その事実。



 



 「いくらお前が魔法を切れようとも意味がないのだ、我を守るのは魔法でもなければ魔力でさえない。」



 ーーーそういう特性なのだ。





 「剣聖よ、勇者ならば、魔法使いならばあるいは我に届き得たかもしれぬ才能よ。」





 「故に、()しい。」





 オレが、オレが勇者だったら......オレが魔法使いだったなら......


 結局あの予言なのか。あの予言が最後までオレを......





 「もし少しでもお前に魔法が使えたならばまた違った結果になったかもしれぬな......」




 

 今までの努力は、犠牲はなんだったんだ。

 オレをここに連れてくる為にヒルデを始め何人が犠牲になったと思ってやがる......





 項垂れたオレは魔剣ファフナーを見つめる。




  ......ん?

 "魔剣"ファフナー......?




 あ、そういやこいつ魔剣だったわ。




 びっくりするほど急にケロッと立ち直った剣聖は魔剣を構えて言う。




 「へっ、まだだぜ魔王。」




 今度はオレが不敵に笑う番だ。




 「なに!?それは魔力か......?」




 魔王は歪な光を発する魔剣を凝視する。




 「こいつは魔剣ファフナーって言ってな」




 オレは魔剣を天へと(かか)げる。




 「魔剣なんて呼ばれてはいるがろくに魔力は纏えねぇし、切れ味だってそこらの剣と変わらねぇ。」




 「だが、この剣には一つだけ特殊な能力があってな」


 



 「こいつは使用者の記憶に刻まれた1番の魔法を、1度だけ再現する事ができるんだ。」




 記憶に刻まれた魔法、忘れたくても忘れられないあの日の魔法。




 「たったひとつ。たったひとつの魔法だ。」

 



 たったひとつの想い出の魔法。




 「これからそいつで、お前を倒す。」




 剣聖ニールの心に残り続けるたった一つの魔法。

 


 それは後悔の記憶、何度も夢に見た哀しみの記憶。

 


 だがとても暖かく、後にも先にもあれ以上の魔法を見る事は無かった。



 


 「いくぞ魔王。こいつはオレを......」




 『 ドラゴンに変える魔法だ!!!!』





 声が重なる。


 

 あの時の暖かな光とは真反対の歪な光に視界が包まれる。


 



 

 ーーーそして光が収まるとそこには、黒い鱗を光らせた巨大なドラゴンがいた。









 『なんだ魔王?すこし小さくなったか?』




 おお、なんか声が野太い。新鮮。




 「どう考えでお前がデカくなったのであろう......」




 ですよねー。

 それにしてもあの時とは違ってすごい大きくなった。

 良かった、あの魔法本当にドラゴンに変える魔法だったんだ。ごめんねヒルデ、今まで疑ってて。




 

 それにしても......と魔王が続ける


 「黒龍とは、皮肉なものよ。」



 そう言って魔王は玉座の横にいまだに佇む黒髪の女に視線をやる。



 


 

 なんだあの女。今までずっとオレらの戦いを観てやがったが、ここに来て加勢でもする気か......?



 いや、微動だにしてないわ。なんやあの女。



 まあええや



 『いくぞ魔王!!』




 オレは黒龍になった身体で突撃の姿勢を取る。



 それにしても今動かしてみて分かったが、思ったより膂力(りょりょく)があるなこの身体。

 


 いける......いけるぞこれは!!




 「なんだ?なんなんだそのポーズは......?」

 

 


 カッコいいだろう?クラウチングスタートって言うんだぜこれ。





 オレの爆発的なスタートの直前に足払いをしてくるような賢者様はもういない。


 だがアイツに貰った力でオレは魔王を......!



 


 「来い!剣聖!!!」



 魔王が剣を構える。




 さあ、クライマックスだ。


 

 

 黒龍の身体が爆発的に射出(しゃしゅつ)される。


 

 

 うおおおお、すごい速度だ。実際には分からないが魔王城に突撃した時くらいの速度が出てるんじゃないか......?



 「くっ.......」



 流石の圧力に魔王も怯む。

 剣で受け流してはいるが、先程とは違い魔王の目に笑みはない。




 届く......!間違いなく、この姿なら魔王に届く!!





 何度か突撃と迎撃を繰り返し少し距離が出来た所で、一度体勢を立て直そうとした魔王は業火の魔法を放つ。



 


 『おいおい、魔王様よ 確かにその魔法は人間の身体なら焼き尽くす程の威力だろうが 龍の身体なら!!』





ーーー致命傷にはならない





 オレは業火の中にあえて突っ込む。

 



 そして炎を抜けた眼前(がんぜん)には目を見張る魔王の姿。





 『終わりだあああ!!魔王!!!!!』



 


 黒龍は爪を振り下ろす。




 これで、これで人類は救われる。

 これで俺達は、彼女達は報われる。




 いっけええええええええ!!




 そしてその爪は魔王の身体に迫り......


 






 ーーーーガキンッ







 耐性に弾かれた。




  『えっ』



  「えっ」



 

 俺と魔王は至近距離でキョトンとした顔を見合わせる。





 魔法で龍に変わっても物理攻撃扱いなの.......?





 「な、なんだ、その.......」

 



 ほら、魔王様もめっちゃ気まずそうじゃん......




 「ご愁傷様だな。」



 

 ......ほんとにね。





 「剣聖よ楽しかったぞ。」



 



 こうして剣聖ニールは魔王に敗れ、業火に焼き(ただ)れた龍の身体を魔王の剣で切り刻まれた。

 







 「ティアよ、こいつはこれでも黒龍だ。丁重に処理を行い、糧とせよ。」


 魔王の声が玉座に響く。

 





 こうして勇者達は敗れた。

 しかし、敗れはしたものの魔王城に風穴を開け、あまつさえ魔王にまで(やいば)をとどかせたとの噂は人間の国にまたたくまに拡がり数多の勇気を与えたという。


 

 そしてその物語は後の世まで語り継がれ、勇者や聖女、そして剣聖の名は人々の胸に深く刻まれたのであった。







 ーーーそして物語は始まる。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 



 「あれ?俺はさっき魔王にやられて......」



 魔王討伐を生き甲斐に死に物狂いで剣聖まで上り詰めた男がいた。



 「なんだこの景色は?」



 見上げる先には巨大な木、巨大な岩




 「どうやらおかしな所に飛ばされたみたいだな」

 


 少し記憶が混濁しているみたいだ。

 

 今まで見た事のないような全てが巨大な森、そして少し離れた所からはモンスターの雄叫びが聞こえる。


 その雄叫びに身体が震える。

 


 な、なんて大きな雄叫びだ

 どれだけデカいモンスターなんだ......?

 


 「まあいい俺はもともと剣だけでやってきたんだ。剣さえあればどんな強大な敵だって......!」




 そして男は気付く。



 「あれ、なんかすごい肌が乾燥してる気がする......」



 「首の可動域がすごい......」



 「それになんか歩くたびにペタペタする......」



 「え?ていうか四足歩行してね?」



 そして男は自分の手(前足)を見つめて叫ぶのであった





 「剣持てませんやんこれっっ!!」








 これにて人間としてのニールの旅は終わりを迎え、やっと次回からドラゴンライフのスタートとなります。

 いかがだったでしょうか?


 いやぁ、それにしても思ったよりだいぶ長かった......

 元々は二話くらいで転生させる気だったのですがまさかここまでかかるとは。。



 でもでも、長々書いた分 書きたかった事はしっかり書けました!! (それでもめちゃくちゃカットしたけど!笑)



 少しでも楽しんで頂けたならめっっっちゃ幸いです。


 そしてタイトルの "刻まれた記憶"というのは、ヒルデ達の事でもあり、語り継がれた勇者御一行の事でもあり、今回魔王に切り刻まれたニールの事でもありました〜

(この作者こういうの好きですね......笑)



 評価、感想、質問など大変励みになります!よろしければ何卒お願いします!



 次回の更新は作者のインフルエンザの後遺症が治って万全になった頃を予定しております。咳が止まらなくて夜寝れなくて不眠症気味です、、しんどいよおおおおお



 ↓ 以下ちょっとしたおまけのプチ情報 ↓



 魔剣ファフナーとニール

 これら二つが合わさってドラゴン、ファフニールとなる訳ですね。



 そして、お気付きの方もおられるかもしれませんが


 ニールと共に幼少期を過ごした賢者ヒルデ、そして勇者シグルの名前も それに関連付けて名付けております。


 これらはそれぞれ、ブリュンヒルデ シグルズから取らせて頂きました。


 

 つまりそんな2人が倒す予定だった魔王とは......?

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