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譲れないモノ

 いつになったら竜出てくんねん、とお思いの皆様。申し訳ありません。 

 作者自身も思っています

 「人外転生モノ書きたかったのに、結局王道ファンタジーの序盤みたいな事してるやん......。」って

 

 とかいいつつも、人間のニールとそのヒロインであるヒルデちゃんに 凄い愛着が湧いてきて困っています。助けて下さい。


 てな訳で、もう少し人間のニールにお付き合い下さい。

 

 「賢者のガキはどこにいる。」



 「し、知りません!本当です!!本当に分からないんです!」


 

 「そうか、残念だ。」



 単純な作業のように、無感情に剣は振り下ろされる。いや、実際 奴からしたらただの作業なんだろう。

 こうしてまた、首の無い死体ができあがる。



 先ほども大量の死体を見たとは言え、あまりの現実離れした光景に、その情報を脳が処理しきれていなかった。


 しかし、今度のは違う。

 先程まで生きていた人が、命を失い ただのモノに 死体になる瞬間をこの目で見てしまった。

 



 そして、先ほどの()もこうして一つ一つ積み上げられた。 という事実が皮肉にも非現実的な光景を現実へと導いてしまう。

 


 「ニール、だめよ吐いちゃ。」



 お願い我慢して。

 そう言ってヒルデはもう一度優しくボクを抱きしめる。



 

 「ニール、一度落ち着ける場所へ行きましょう。」

 


 そんな場所があるかは分からないけれど と自嘲気味に笑ったヒルデに手を引かれ ボクは朦朧とした意識に鞭を打つように走り出した。


  



  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 「ヒルデ、さっきの話聞いてただろ!?

 奴らは君を探しているんだ。どうして家に戻ってきちゃうのさ!!」



 ヒルデに連れられるがままだったボクも流石の予想外な事態に声を上げずにはいられなかった。




 「馬鹿ね、奴らは私を探してるのよ? なら1番最初に家を探しているはず。 だったら今は逆にここが安全だと思ったのよ。」




 あ、確かに......。やはり賢者、天才である。




 それに、お父様とおばさまの事も気になったしね.....。



 そう言って荒らされた家の中を見渡すヒルデの視線の先には



 "ヒルデ、誕生日おめでとう!!"



 とデカデカと書かれた横断幕が揺れていた。



 ニコニコしながら用意をする2人の姿が目に浮かぶようだ。


 でもきっと、そんな2人はもう......


  

 なんでも無いかのように振る舞うヒルデの手は固く握られていて、まるでその震えを握りつぶしたかのようだった。


 


 「ところでヒルデ、奴ら(つの)が生えてたね。」



  ボクはダメだな。ヒルデにあれだけ支えられてここまで辿り着いたのに。


 こんな時に気の利いたセリフひとつも出てきやしない。慌てて話題を逸らすので精一杯だ。




 「ええ、存在そのモノの話は聞いていたけれど まさか魔族がこの村にやってくるなんてね......。」




 そう、魔族だ。


 頭部にある一対の角、高い魔力に、剣術も扱う。

 そしてその残虐性からか、人間の国では古くから恐れられてきた存在。




 "夜更かしすると魔族がくるぞ〜" だなんて決まり文句がある程、その恐ろしさは子供の頃から染み付いている。



 

 その恐ろしい魔族が実際に存在しているというのに、まるで子供騙しのように扱われていたのには理由がある。




 元来 魔族とは結束力や政治力に欠け、魔族同士の争いも絶えないことから 人間の国の遥か北にあるという通称"魔族領"から出てくる事は稀だと言われていたのだ。


 ましてや人間の国にまで出現したことは古い文献にも数える程度しか(しる)されていなかった。



 だからその存在は知っていても 実際に恐怖を持ち続けている人は多くなかったし、 一部では架空の存在なんじゃないか?とまで言われる始末だった。




 しかし、三年前 その魔族を率いる存在が現れるという予言があった。



 そして、その予言は世界を恐怖に陥れる。

 ーーーなんて事にはならなかったのだ。



 良くも悪くも平和ボケしていた人類は魔族といういるかいないか分からないような種族なんかより、近隣諸国との争いを優先したのだ。




 そして魔族の侵攻が8年後(今から5年後)という予言もその平和ボケに拍車を掛けていた。



 勇者や賢者の卵がまだこの田舎でのんびり暮らしていたのが良い証拠だ。




 勇者......?




 「そうだ、勇者! この村には勇者がいるじゃないか!! あいつなら魔族にだって......!」



 なんで忘れてたんだ!!!ボクの馬鹿!!




 はぁ......。とヒルデがため息を吐く。



 なんでい!いっつもクソ勇者クソ勇者って言ってるのに頼るのがそんなにいけない事かよ!!




 「そうじゃなくて、あんたこそさっきの話聞いてなかったんじゃない?」



 「さっきの話?」



 "答えろ。賢者のガキはどこにいる。"



 ちゃんと聞いてたよ。だから今ここに隠れてるんじゃないか。




 「それよ、それ。 奴らは賢者を探していたの。

勇者と賢者じゃなく、賢者だけを。」



 え、どう言う事だ?



 「ほんと、馬鹿ニールなんだから......」



 いや、そう言われましても分からんものは分からんのだ。



 しょうがないわねぇ。とヒルデ



 「良い?奴らはわざわざこんな田舎の村まで何をしにきたんだと思う?」

 

 

 「そんな事、さっき聞いた通りじゃないか 何度同じ事聞くのさ ヒルデこそ人の話ちゃんと聞いてるの~?」



 「いいから答えなさい、この馬鹿。」



 やめてっ、(すね)を蹴らないでっ。




 「そりゃ、君を探しに来たんだろう?」




 「そうね、じゃあどうして私を探しに来たと思う?」



 それも分かりきっている。魔族がヒルデを恐れる理由なんてひとつだ。




 「それは、予言で出た 未来の脅威を排除する為......?」




 「えぇ、そう考えるのが自然ね。

 なら、私と勇者では脅威はどちらが上かしら?」




 ......そうか。




 「贔屓目無しにみると、間違いなく勇者だ。」




 「そして、未来の脅威の芽を摘みに来たはずの魔族達が もう勇者を探していなかった。」




 と言う事は?とヒルデがボクに最後の結論を(うなが)す。


 


 「勇者はもう、死んでいる。」




 大正解。とニコッと笑うヒルデの手は今も震えていた。

 





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 「ーーーヒルデ、ボクに作戦がある。」



 「駄目よ。」



 「いや、話くらい聞いて???」




 家に辿り着いてから少し時間を置き、満を持して話し出した作戦も出鼻を(くじ)かれるどころかその出鼻までも話させてもらえないとは.....




 「駄目よ、こんな時に馬鹿ニールの作戦が役に立つなんて思えないもの。」




 ひどい...... でもそう言われても仕方ないくらいの事は今までやって来た自信があるので返す言葉がない......





 でも、これだけは譲れないんだ。

 今まで色々な事を諦めてきたけれど、これだけは譲れない。


 


 「じゃあさヒルデ、誕生日プレゼント 欲しくない?」




 「なによ、こんな時に。」

 



 憎まれ口を叩きつつも、貰えるモノは貰っておくけど?なんて言ってるボクの幼馴染は今日も可愛い。




 「はい、これ。」

 


 そう言ってボクはずっと内ポケットに入れていたモノを取り出す。





 「これは......ネックレス? どうしたのよ...こんな高い物......」




 そう言ってヒルデの目から涙が溢れる。



 いつもなら そんなに喜んでくれたかぁ!なんて思う所だが、

 この涙はきっと、違う。



 ボクがネックレスをあげたことで、ヒルデの感情をせき止めていた(せん)が外れてしまったのだろう。



 その栓をぬいたのは"喜び"という感情でも、溢れ出してくるのは目一杯の哀しみだ。



 そうだ、ヒルデは元々感情豊かな子だったんだ。


 そしてヒルデは優しい子だ。



 今、ヒルデの頭には 

 "自分のせいで皆んなが死んだ"

 なんて考えまで浮かんでいるかもしれない。

 



 一度溢れ出してしまった感情をもう一度抑えようと必死なヒルデを、今度はボクが抱きしめる。



 

 「ヒルデ、聞いて。」



 必死に嗚咽を止めようとするヒルデからは返事がない。

 


 いつもならヒルデが落ち着くまで待つ所だが、今回ばかりは抱きしめながらも構わず続ける。




 「ヒルデ、奴らの目的は賢者だ。」




 何を分かりきった事をって?本題はここからだ。




 「そう、賢者さえ殺せれば奴らは満足して帰るだろう。」

 


 

 だからってヒルデは、ヒルデだけは絶対に殺させない。




 「でも、奴らは賢者に対する情報をたいして持っていないんだ。 だからあんなに無作為に人を殺していた。」

 



 ボクにだって譲れないモノはある。



 「だからね、ヒルデ。」

 


 色々な事を諦めて来たボクだけど、これだけは譲れないんだ。




 「ボクが、賢者になるよ。」



 ヒルデの幸せ。それだけは譲れない。


 

 

 

 この話で幼少期編を終えるつもりだったのに、気付いたら結構長くなっちゃってました。。。

 流石にこれ以上長くしちゃうとダレそうなので、さらにもう1話に分けさせて頂きます。もう少しだけお付き合い下さい。楽しみにお待ち頂けると嬉しいです。


 四話から第五話にかけては出来るだけ時間を置かずに読んで欲しいので、次回更新は今晩にでもできればなと思います。


 始まりの街に魔王が攻めて来て

 「普通魔王がそんな大人気(おとなげ)ないことするか???」 ってやつ最近だと珍しくもないけど、

 始まりの街どころか 幼少期に育つ村に攻め込んだ方が早いよねーって前々から思ってたんですよね。 魔族ってこわいねー。

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