5話 混浴は不可抗力しかし責任は伴う
ビクトリアさんの屋敷に戻ってきた。
そのまま自宅に帰宅しようと思ったのだが、帰ろうとすると強制的に抱えられた。
汚れた服を着替えさせられた後、夕食をいただいている。
「アーシャちゃん、美味しいでしょ?ダンジョン産の希少部位を使ったサイコロステーキよ」
「とってもおいしいっ!こんなおにくはじめてっ!」
「アルマ母さんの手料理も美味しいけど、高いお肉は柔らかくて美味しいですね」
「サラダも食べて下さいね?バランスは大切ですよ?」
今日は朝から至れり尽くせりでありがたいけど、このニ人は本当に子供が好きなんだな。
ビクトリアさんもタリアさんも出会った時からすごく優しくしてくれている。
感謝の気持ちを表したいと思うが、子供っぽいお礼は苦手なので普通にお礼を言わせてもらう。
皆が食事を食べ終わり一息ついている。
「美味しい食事をありがとうございます。今日は覚醒石の使用から初訓練まで同行して頂き感謝します。何か僕に出来ることがあれば力になりたいと思うのですが」
今日一日の感謝とお礼がしたい事を伝える。
アーシャが可愛いのは分かるけど、度が過ぎる優しさだと感じる。
ここまでの厚遇は普通にあり得ないレベルである。
「ふふふ、いいのよ。将来有望な領民が増えて喜ばない領主はいないでしょう?私も鼻が高いですし、あなた達はまだ子供なのですから、大人に甘えていいのですよ?」
「僕は甘えるのは苦手なので、少しでも恩を返したいと思ってしまいますね……」
「私はあなた達に甘えて欲しいので、恩返しは大きくなってからお願いしますね」
「……分かりました。恩は忘れませんので」
「キリッとして凛々しいですね」
「エスト様は利発で凛々しくて、将来有望だとわたしも思います」
「本人を前にして言うのはやめて下さい。少し照れくさいです……」
転生してるから普通の子供を演じる方が難しいだけなんだけど。
……アーシャが静かになっているのどうしたのかな?
アーシャを探すと、ソファの上でタリアさんに膝枕してもらって今にも眠りそう様子だ。
「アーシャ眠そうだね。そろそろ帰ろうか?」
「……まだ……あそぶ……」
「楽しかったから気持ちは分かるけど、そろそろ時間が遅いよ」
「……や」
困ったな、眠気が強くて欲求優先になってる。
置いて帰るわけにもいかないし……
「泊まって帰ったらどうですか?親御様には連絡しておきますよ?」
「それはいいわね、私も賛成。二人とも泊まっていきましょ?」
「……うん、とまりたいの」
この流れは泊まりで決まりかな、諦めて脱力する。
夜になりお腹がいっぱいだと眠たくなってくる。
私にも眠気が襲ってきた。五歳児はこうなると無力だ……
「エスト様も眠たいようですね」
「でもお風呂に入らないと、今日は初の訓練でクタクタだろうけど、汚れは落とさないとダメよ?」
「仕方ありませんね、一緒に連れて入りましょう」
何やらビクトリアさんとタリアさんが会話しているが、眠気が勝ってよく聞こえない。
うとうとしていると、ビクトリアさんの胸に抱えられる。
「汚れを落とさないとダメだから、お風呂に入りましょ?綺麗に洗ってあげる」
「アーシャ様も綺麗にしましょうね」
「……うん、おふろはいる」
「……おふろ?」
何か都合の悪い出来事が起きそうな気がする。
でも眠気には逆らえない……
《ビクトリアside》
着脱室にやってきた。エスト君が眠そうにボーとしているのは貴重な姿だと思う。
自分の衣服を脱ぎ籠に入れ、エスト君の衣服を手早く脱がせてから浴室に誘導する。
タリアもアーシャちゃんを連れて一緒に浴室に入ってきた。
まずはシャワーチェアにエスト君を座らせる。
「エスト君、頭を洗うわね?」
「はい…」
頭からシャワーをゆっくりとかける、もしかしたら嫌がると思ったけどまだ五歳児なのに静かに浴びている。
シャンプーを適量手に取りエスト君の髪を洗うと髪の毛がさらさらで手触りがよくて気持ちがいい。
シャワーでシャンプーを綺麗に洗い流すとエスト君はやっと目が覚めた様子だ。
「身体も洗っちゃうわね?」
「……自分で洗えます」
「任せてちょうだい、私が洗いたいのよ」
タオルにボディソープをつけエスト君の身体を隅々まで洗う。
……男の子の体ってこんな感じなのね。
「う……あ……」
エスト君凄く恥ずかしそうね、……流石に色々と触りすぎたかしら?
「はいバンザイして、お湯で流すからね」
洗い終わったエスト君は先に浴槽に行こうとする。
「エスト君待っててちょうだいね?浴槽は深いから一人で入れないわよ?
エスト君は困ったように立ちどまっている。
あまり待たせないように頭を簡単に洗い、身体も洗う。
背中は洗い難いから……
「エスト君?背中を擦ってくれない?手が届かないのよ」
「え……、はい、分かりました……」
素直に洗ってくれるエスト君、優しい手つきで背中を撫でるように洗ってくれる。
「エスト君は背中洗うのが上手ね。またお願いするわ」
お湯で流してから浴槽に入るため、エスト君を胸に抱える。
しっかり抱えないと、浴室で怪我は危ないからね。
エスト君の耳が真っ赤に染まっている。恥ずかしいのかな?
ゆっくり湯船に浸かるとホッとする。
「気持ちいいわね、エスト君」
「はい……気持ちいいです……」
「わたしも入りますね、失礼します」
「おふろきもちいいね」
タリアとアーシャちゃんも来て湯船に浸かる。幸せな時間が流れる。
今日はとても充実している。大好きなアーシャちゃんとのエスト君を招いたのは正解だった。
お父様には小言を言われたけど、覚醒石も良い買い物だったと思う。
結界魔法と強化魔法、どちらも将来有望で楽しみである。
「エスト君とアーシャちゃんには期待してるからね?」
「頑張ります……」
「うん、きたいしててね!」
「……エスト様大丈夫ですか?顔が真っ赤ですよ?」
エスト君の顔を覗き込むと目を瞑って顔が真っ赤になっている。
流石に一緒にお風呂は刺激が強かったのかな?
「そろそろ出ましょうか?」
「お願いします……」
「あーしゃもでる!」
「はい、一緒に行きましょう」
皆で揃ってお風呂を上がる。
用意されていたネグリジェを着て髪を乾かしていると、エスト君の体調も良くなったみたいで普段の様子に戻っている。
「のぼせてすいません、助かりました」
エスト君が頭を下げて謝った。私がイジワルしすぎたのに、律儀で可愛いわ。
《ビクトリアside終了》
眠気に負けると知らぬ間に風呂場に連れ込まれて身体を隅々まで洗われてしまうとは……
浴槽にも足が届かない為、抱えられて浸かった事もまたのぼせる原因だった。
五歳児の身体とはいえ、転生して精神は成熟している。
年頃の乙女との混浴で興奮し、羞恥心と罪悪感をすごく感じた。
責任は取らなければならないがアーシャとの約束もあるし、五歳児では取りようがない。
未来のことをもっとしっかりと考えなければいけない、責任をとらなければいけない女性が増えたのだから。
「身体も温もったし、もうちょっと休憩したらみんなで寝ましょうね」
今日の女難はまだ続くようだ……果たして私は眠れるのだろうか?
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