13話 婚約者候補と家臣達は辺境で行方不明になりました
「極力殺しはしないように、決闘始め!」
極力殺しはしないようには私への牽制かな?でも手加減するなとも言っていた。手加減しないで殺さないのは難しい。貴族とはいっても、この二人は私を殺してビクトリアさんとタリアさんを奪うつもりなので、権力を持っているだけ盗賊のようなものだ。遠征中でも盗賊の類いは殺す事になっている。問題は二人の貴族が連れて来た家臣の反応だな、敵対するならその時は殺すしかない。
考え事をしている間にミシェルがレイピアに冷気と嵐のような風を纏わせて鋭い突きを繰り出そうと構えており、アルダの方は炎魔法を極大化するまで溜めて撃とうと両手を上に掲げている。殺意が明らかなのでこの二人にはとりあえず死んでもらう。まずはミシェルが近づいて来たのでクイックチェンジを発動してレイピアを取り上げ、そのまま喉に深く突き刺して始末する。
「ぐぁっ!……ぁ」
「ミシェルっ!?嘘だろ!!あいつ本当に殺しやがった!!」
私がミシェルを殺すとアルダが動揺して口調を荒げ叫んだ。アルダは考えが甘い貴族の坊ちゃんと言った雰囲気だ。生かすメリットもあるけど、殺してしまったほうが無難だろう。アルダが制御できる能力以上に炎魔法を強化する。制御を失った炎魔法は燃え盛り実力不足の術者を燃やし始める。
「熱い!?何故私の炎が!?辺境伯様!助けて……!!」
炎に焼かれアルダは火柱になり燃え尽きようとしているのでもう助からないだろう。ついでにミシェルもアルダと一緒に燃やしてしまう。これで力の証明は完了かな。
辺境伯様の方を見ると呆然とした様子で火柱を見ている。どうしたのだろうか。
「辺境伯様?決闘は終わりましたよ?」
「……ああ、貴様の力は見せてもらった。貴様が貴族であろうと容赦ないところもな」
「結局はメリットとデメリットです。遺恨を残して生かすより、殺してしまった方が後腐れがない。あの二人の人格的に恨みを持つでしょう」
辺境伯様も理由に納得が言ったのか一応納得してくれたようだ。辺境伯様からしたら手紙で任された他の貴族の息子を守れずに死なせてしまった事になるので都合が悪いのだろう。しかし、人を殺して婚約者を奪おうとする者達は死んだ方がいいに決まっている。
「エスト君、無事でよかったわ!信じていたけど、不安になるものね」
「あの二人は周りに迷惑をかけるタイプの人間だったかと。エスト様なら上手く処理されると思っていました」
「すごい火力で一気に燃えちゃったね。ちょっとだけ怖かったかな」
「最初の対応が肝心だからね、決闘で甘い対応をすればまた二人のような婚約希望者が湧いてくる事になるかもしれない。私からすればあの二人は盗賊と変わりないしね」
婚約者達が私の周りに集まって話をしていると、モンド伯爵家とシュタイン侯爵家の家臣達が囲うように近づいて来た。敵意を抑えることもせず武器を構えている者もいた。
「決闘の結果とはいえ、我々が仕える貴族家のご子息様達を殺した事は許せません。仇は討たせてもらいます。……皆、構え!」
辺境伯様を見て確認するもじっと腕を組んで傍観されている。娘達も一緒に囲まれているのに焦った様子もない。これは好きにしていいということか。
「私も黙って死ぬわけにはいかないので、あなた達には死んでもらいます。決闘の結果を受け入れられないのであれば、決闘の話が出た時に止めるべきでしたね。アーシャ、結界でみんなを守っていてくれるかい?」
「うん、頑張ってね!」
婚約者達の周囲に結界が張られたのを確認した。辺境伯様に私の力を知ってもらった方が都合が良いのでもう少し分かりやすく強力な力を見せる事にする。アイテムボックスから取り出したのはとある盗賊が使っていた射程延長効果が付与された短剣のマジックアイテム。これに強化の能力を使う事で遠距離からの一方的な虐殺が可能になる。
「短剣だと?そんな物で我々と戦おうなどと笑わせてくれる!一斉に攻撃だ!」
流石に貴族の家臣だけあって様々なマジックアイテムを持っているようだけど、効果を発動する前に死んでしまえば意味はない。マジックアイテムを使用される前に短剣の切先を延長、素早く短剣を突き出せば数人の喉を突き刺し致命傷を与える。
「な、なにをした!あの距離で短剣が届くはずがない!」
「教えてあげる必要はないでしょう?今から皆死ぬんですから」
身体強化と短剣の射程延長のコンボは初見殺しなので、これだけで大概の敵は対応できずに死んでいく。最低でも話に聞くSランク冒険者ぐらいは強くなければ生き残れないだろう。貴族の家臣達は短剣を突き出す度に倒れていき、数秒後には誰も生きていなかった。虐殺の後は虚しいな。
「敵対されなければ私も殺さずに済んだんだけど、これも彼らの選択の結果だよね……。アーシャもう大丈夫だよ」
「うん、大変だったね。お姉ちゃんたち以外の貴族関係者でまともな人見たことないよ」
「お疲れ様ですエスト君、これで開拓村まで来て婚約を申し込む人もいないでしょうね」
「エスト様に殺意をもって攻撃したのですから、あの方達も死ぬ覚悟はあったのでしょう。気に病む必要もありません」
前世なら子供の段階で法律を守るという洗脳が施され、理由があっても暴力を振るえば悪にされる。婚約者のみんなは現実的で理解があって優しいので嬉しく思う。
「娘達が逞しく育ったのは嬉しいが殺意が高いな。……貴様の名前はエストだったな?」
「はい、エストです。辺境伯様に覚えていただけて嬉しく思います」
「……私の事はリチャードと呼ぶがいい、エストよ。婚約は認めよう、しかし、貴様には足りないものがある。分かるか?」
「辺境伯家の娘と釣り合う身分ですね?今の私は平民にすぎませんので」
「貴様の容姿・財力・力は確認したので、あとは身分さえあれば問題はない。用意してやる事も出来るが、立身出世を自分の力で果たしてこそ、その立場に相応しくなれるのだ。私が子供達に代官を任せている理由でもある」
婚約を認められ、辺境伯様の名前を呼ぶ事も許された。元から立身出世するつもりだったから問題ないな。リチャード様は実力主義者って事なら、私との相性も良さそうだ。
「分かっています、貴族の身分を得るために、ダンジョンで伝説級のアイテムを手に入れる予定です。王家に納めれば最低でも子爵に任命されると聞きますので」
「なるほど、計画性もあるか。エスト、貴様を気に入ったぞ!屋敷で色々と話をしようじゃないか!」
「そう言ってもらえると嬉しいです。よろしくお願いします」
リチャード様は意外と気さくな方なのか、私の肩に腕を回し親しげにしてくれる。婚約者の親という事は結婚すれば私の親でもあるので、仲良くできそうで安心だ。
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