11話 視察団の到着
タリアさんと一緒に衣装室から中庭へと向かう。
歓待の用意が終わったのか侍従たちも落ち着いているようで、椅子に座って一息つくビクトリアさんとアーシャの側で待機している。
こちらに気づいた侍従たちは私の姿を見て驚いていた。
「お待たせ、まだ辺境伯様は来られていないんだね?」
「領都から来られる場合は昼頃には到着すると思うわ……エスト……くん……」
私の名前を呼んだ後、ビクトリアさんが両手で口元を押さえて絶句する。
感動したように潤んだ瞳でこちらを見つめて言葉も出ない様子だ。
アーシャは目をキラキラ輝かせてこちらを見つめている。
「どうですか?似合ってます?タリアさんにも凄く褒めてもらいました。これなら認めてもらえそうでしょう?」
「……まるで異国の王子様みたいで素晴らしいわ!これならお父様からあなたへの第一印象は完璧ね!」
「エスト兄様はやっぱり王子様だったんです!挿絵で見た王子様にそっくりです!」
女性陣皆が王子様のようだと褒めてくれるので少し恥ずかしいが安心した。
……挿絵の王子様とはなんだろう?
「アーシャ、挿絵で見た王子様って?僕に似ているって言われたら気になるんだけど」
「最近出版された『聖王国物語」って小説の主人公にエスト兄様はそっくりなの」
「聖王国といえば、シルヴェスタ聖王国だよね。北の山脈を越えた向こうにあるっていう」
「聖王国の王子様と聖女様が魔王を封印して結婚するまでの物語なんだけど、王子様がすっごくカッコいいんだよ?剣技も魔法も使いこなせる魔法剣士なの」
「魔王は勇者が討伐したって聞いたことがあるけど、フィクションかな?挿絵の王子が僕に似てるのはすごい偶然だね、今度僕も読んでみたいから貸してくれる?」
「うん!すごく面白かったから、エスト兄様も読んでみて!」
アーシャとの雑談後、昼まではまだ時間があるけれど、開拓村の入り口で待っている方が印象が良いだろうと思ったので皆に相談することにした。
「みんな、開拓村の入り口付近で辺境伯様が来られるのを待たない?早くに来られる可能性もあると思うから、僕はそっちの方がいいんだけど」
「そうですね、お父様は時間に厳しい方なので、遅くなることはないと思いますし、そうしましょ」
「わたしもそう思います。印象も少しは良くなるかと」
「えっと、辺境伯様が来たら、わたしは本当にいるだけでいいの?不安だなぁ」
「アーシャちゃんはいてくれるだけで華やかになるから、エスト君もその方が助かるわよね?」
「僕が婚約者を名乗った時、アーシャがいてくれたら少しは怒りが収まりそうな気がするよね?打算的で申し訳ないけど」
「ううん、わたしが少しでも役に立てるなら嬉しいな」
話がまとまり、開拓村の入り口付近で辺境伯様を待つことになった。
ビクトリアさんが警備班や侍従に指示を出し、辺境伯様を迎える準備はすでに終わっている。
残りの時間は辺境伯様の情報を再確認していた。
辺境伯様は厳格な性格で息子や娘にも甘いところはあまり見せない。
位階が三つ上がっていて、剣術・弓術・槍術・体術のスキルを習得している完全武闘派で、昔は戦場で暴れ回っていた過去がある。
好きなものは奥さん達で、嫌いなものは王都の貴族らしい。
結構仲良くやれそうな要素も多いけど、奥さん達を大切にしてるなら、娘達も大切に想ってる可能性が高いだろう。
考えれば考えるほど、戦いを避けれる気がしない。
まあ、個人的には戦闘経験が豊富な人と戦える事は嬉しくもあるけど、婚約者達の父親を傷つける事はしたくない。
結局は想像でしかないので、出たとこ勝負で流れに身を任せてしまおうか?
「辺境伯様とは戦いたくないね、理性は強い人なのかな?」
「お父様は賢い人よ?感情的になってる姿を見たことはないわ」
「流石に十歳のエスト様を叩きのめそうとはしないかと、子供が好きな人なので」
「でも僕が十歳って、今の姿で信じてくれる?」
「……十歳というのは聞かれるまで黙ってましょう?」
「エスト様なら戦いになっても大丈夫です。死ななければ問題なしでいきましょう」
「エスト兄様なら全部なんとかなります!頑張りましょう!
婚約者と認めてはもらえないだろうと、最初から覚悟はしている。
身分の違いがあるので、最低でも貴族になれと指示されるだろう。
その時は年齢を明かして猶予を貰い、ダンジョンで伝説級のアイテムを見つけて王家に納める予定だ。
伝説級のアイテムを王家に納めた者は、最低でも子爵に任命されるという暗黙の了解があるのだ。
情報収集は遠征中に行っており、数年あれば達成できると判断した。
「そろそろお父様が着くと思います。各自位置について待機して下さい」
「今日は代官補佐としてお姉様の隣ですね。いつもの癖でお嬢様と言ってしまいそうです」
「僕は二人の少し後ろで挨拶するタイミングを待ってるから、アーシャは僕の隣にいてくれる?
「うん、わたしも頑張るから、エスト兄様も頑張ろうね?」
地平線の先から、辺境伯様の視察団と思しき集団が近づいてくるのが見えた。
事前に報告されていた人数よりかなり多い、これはイレギュラーな事態である。
「事前に報告されていた人数より多いよね?ただの視察の可能性は消えたかな」
「先頭の馬車はうちの家紋で間違いないわ、でも周りに掲げられた家紋。他所の貴族が同行してるようなので、面倒なことになりそうね」
「婚約者候補を連れてきたのかもしれませんね、好きな人がいると知らせた筈ですが何を考えているのでしょうか?」
「すごい人数……約束よりも多いんだよね?」
ただの視察である可能性は消えたといってもいいだろうな。
婚約者絡みでかなり面倒なことになりそうな予感がする。
スイッチを切り替える必要がありそうだ。
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