8話 婚約者たちとの夜
婚約指輪をアーシャに渡して告白し、無事に受け入れてもらえた。
まだ九歳のアーシャに婚約指輪を渡すのは前世の記憶から少し抵抗があるけど、状況的に今渡しておかなければ悲しい想いをさせることになってしまうので仕方がなかった。
身体の成長が早く十三歳くらいの美少女にしか見えないのでセーフだと考える事にした。
夕日が沈んで暗くなってきたので、婚約指輪についてアーシャに説明する。
「安心してくれた?不安に思っていることには気づいていたんだけど指輪を準備することに手間取ってね、この指輪はマジックアイテムでもあるんだ。使い方は同じ種類の指輪の持ち主の眼を見て伝えたいことを念じるだけだよ」
婚約指輪はテレパシーのスキルを使用できるマジックアイテムだ。
同じ種類の指輪をはめている者同士の間でテレパシーによる会話が可能になる。
人数分の材料を集める為に各地の宝石店を駆け回り大変だった。
付与術師が作成したマジックアイテムは値段も相応に高いので、お金の工面にも時間がかかった。
ダンジョンに行けばお金を稼げるのかもしれないが、今は地盤を固める時期だと考えているので、開拓村が街になるまでは安全を優先して行動している。
「エスト兄様の気持ちがとても嬉しかった。不安な気持ちはもうないよ」
婚約指輪がはめられた自分の薬指を見てアーシャは微笑んでいる。
「エスト兄様、ビクトリアお姉ちゃんたちにはもう婚約指輪を渡したの?」
「まだだよ?最初に約束したのはアーシャだし、先にビクトリアさん達に渡したらアーシャが辛いと思ったからね」
「……エスト兄様ありがとう」
「実はね一週間後に辺境伯様がこの開拓村の視察に来るんだ」
「お姉ちゃんたちのお父さんがくるの?」
「そうなんだ、それに多分なんだけど、ビクトリアさん達の婚約についての話と、ニ人が辺境伯様に送った手紙に書かれていた好きな人という人物を見る目的もあると僕は考えてる」
「なんかエスト兄様大変そうだね?」
「対策として先に二人に婚約指輪を着けてもらって、辺境伯様がどう出るのかを確かめたいと思う」
「いつ渡すの?」
「アーシャを家に送り届けたら渡しに行くよ」
言っている間にアーシャの家の前に帰り着いた。
「十歳の僕が九歳のアーシャに婚約指輪を贈ったこと、家族はなんていうだろうね」
「喜んでくれると思うよ?わたしがずっと欲しがってたの家族はみんな知ってるから」
「そうかな?ならいいんだけど」
「わたしはもう大丈夫だから、お姉ちゃんたちによろしくね」
アーシャが家の中に入り姿が見えなくなるまで見送った後、ビクトリアさんとタリアさんの屋敷に急ぐ。
門番のおじさんに大切な用事があると伝えて屋敷に入るとタリアさんがやってきた。
「どうしたのですかエスト様?」
「二人に話があってね、ビクトリアさんは?」
「今は入浴中ですね」
「じゃあタリアさんの部屋に行きませんか?」
「わたしの部屋にですか?わかりました」
ビクトリアさんが入浴中なら、先にタリアさんに婚約指輪を贈りたい。
部屋に入ってすぐ、彼女に前世でいう壁ドンと顎クイを行い、その艶やかな唇を奪う。
警戒をしていなかった彼女は、私のキスを拒むこともせずなされるがままだ。
長いキスが終わり彼女の眼を見ると、惚けた様子で呆然としている。
彼女の左手をそっと取り、自然な流れのようの婚約指輪を薬指にはめた。
「タリアさんは私の気持ちを知っていますよね?この指輪を受け取ってくれますか?」
「……私でよければ喜んで」
先ほどのキスの余韻で頬が赤く染まっている彼女が婚約を受け入れてくれる。
よく見ると彼女の脚が震えており、今にも崩れ落ちそうになっている。
激しいキスの結果、脚の力が入らなくなったらしい。
ベッドまで誘導し、優しく寝かしつける。
「ベッドで休んでいてください。またあとで会いましょう」
名残惜しさを感じたがなんとか別れの挨拶を交わし、タリアさんの部屋を後にした。
ビクトリアさんの部屋に着くも彼女はまだ入浴中のようで部屋にはいなかった。
最初は部屋のベッドで座って待っていたが、サプライズで驚かせようかと考え部屋の影に潜む。
暫くすると、彼女は部屋に帰ってきた。
ベッドに勢いよく寝転んだ彼女は、独り言を話しだした。
「……お父様は婚約希望者について話をしにくるのでしょうか?私には好きになった殿方がいますのに、まだ十歳ですけど……」
どうやら今日話しをした内容で父親に不満があるようだ。
貴族の義務とか言って婚約を強制する毒親でなければいいけど。
ビクトリアさんがぼんやりとしている。
サプライズを仕掛けるのに丁度良いタイミングなのでそろそろ驚かせようと思う。
死角から彼女の体に覆い被さるようにして声をかける。
「僕を呼びましたか?ビクトリアさん」
彼女はとても驚いたようで絶句している。
そのタイミングを狙って貪るようにキスをした。
暫く堪能していると、彼女は酸欠状態になり息も絶え絶えになっている。
呼吸を求めるように身を震わせ、抗うように私の胸を弱々しく押し続けた。
キスから解放してあげて彼女が回復するのを待っていると、ようやく少し回復したのかぽつりと一言。
「ケダモノですわ……」
「これでも我慢はしたよ?」
そう返すと、彼女は目を細めながらまだ静かに息を整えていた。
「ごめんね、サプライズしたい気持ちだったんだ。もう少しで辺境伯様が来て大変になりそうだし」
謝りながら彼女の上半身をゆっくり起こすと不思議そうに私を見つめる。
その瞬間に彼女の左手をそっと取り、薬指に婚約指輪をはめた。
「ビクトリアさん、婚約指輪を受け取ってくれますか?」
「……婚約指輪を……私に……?」
「はい、辺境伯様がどのような理由で視察に来るにせよ先に婚約をしておけば、辺境伯様の反応を伺えると思います」
「……でもいいのかしら?お父様の反応が怖くないの?」
「大丈夫です。もし貴族の義務とか言って来ても、私があなたを絶対に守ります」
「その……私でよければ、喜んでお受けします……」
「ありがとうございます。ビクトリアさん」
大切な女性たちが婚約を受け入れてくれた。
あとは辺境伯様来訪までの一週間、開拓村の準備を済ましておけば問題はないだろう。
ビクトリアさんと暫く雑談しているとタリアさんがやって来た。
そのまま三人でベッドに横になり会話を楽しむ。
気づけば皆眠りについていた。
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