7話 辺境伯様の視察対策と幼馴染との婚約
ビクトリアとタリアの視点はもうちょっと進んでから書きますね。
ビクトリアさんとタリアさんに会い、辺境伯様の視察を歓迎する準備を進めなければいけない。
屋敷へと歩きながら歓迎に必要なことを考える。
リチャード様の視察の予定日を確認して、街道の整備と安全確保を行う。
開拓村の住民に対する周知と注意、特産品や開拓の記録を整理して、正装を用意し夜会の準備をする。
これくらいだろうか?一人で考えてもわからない事があるので屋敷に足早に向かった。
「こんにちは、今日もご苦労様です」
ビクトリアさんの屋敷では門番は日替わりで交代しているけれど、何度も屋敷に出入りし挨拶を交わすうちに、今ではすっかり皆が顔馴染みになっている。
「おう、ありがとな。ビクトリア様がエストを待ちかねてるから、早く行ってやってくれ」
「わかりました。じゃあまた」
昔と違い顔パスで屋敷に入れてもらう。
屋敷内の使用人も顔馴染みばかりの為、屋敷内で自由に行動する許可も与えられている。
少し待つとタリアさんがいつも通り私の訪問に気づいて玄関まで迎えにきてくれた。
「エスト様、来てくれたのですね。視察の件ですか?」
「うん、村の会議で辺境伯様が視察に来る事を聞いて、二人との相談が必要だと思ってね」
「お父様の視察は初めてですからね、確かに話し合いが必要かと」
「じゃあビクトリアさんの部屋に行こうか」
部屋に入ると、憂鬱そうな顔をしたビクトリアさんがこちらを見ていた。
「やっと来ましたね、エスト君」
今日はビクトリアさんの口調が心なしか荒い気もする、何かあったのか?
「どうしたんですか?今日は機嫌が悪そうですね?」
指摘すると大きなため息を吐き、少し落ち着いた様子だ。
「お父様が視察に来るでしょう?その理由はなんだと思いますか?」
可能性は幾つか浮かぶが、消去法で一番高い可能性を考える。
「今回の視察で辺境伯様はこの開拓村にのみ訪問すると聞きました。この開拓村で辺境伯様が興味を持つ対象は娘であるビクトリアさんとタリアさんだけです。多分ですが、婚約の話ではないかと思います」
ビクトリアさんはもう一度軽いため息を吐くと呆れたように言った。
「わたしもそう考えています。貴族が結婚適齢期をあまり気にしなくていいと言っても、貴族の会話で婚約話は付きもの。きっと断りきれない婚約希望者が現れたのでしょう。私かタリアか、はたまた両方か」
「お父様に何度も手紙は送っているのですけどね、わたしたちには好きな人がいるから、婚約者はいらないと」
「……辺境伯様はビクトリアさんとタリアさんの好きな人を確かめに来るのでは?」
手紙に私の事を書いて送っているとは知らなかった。
確認辺境伯様からすれば娘の好きな人が気になるだろう。
婚約の話をするだけなら実家に呼び戻せばいいので、私を確認する目的で視察に来る可能性が高い。
「私は送った手紙に好きな人がいるとは書いたけど、どんな人かは書かなかったわ」
「わたしも書いていませんよ?エスト君は一応まだ十歳なので、手紙に書くわけにはいかず」
「……好きな人の確認と婚約の話の両方かもしれませんね」
私が十歳であることはバレないと思うけど、二人と婚約しても成人するまで待ってもらう必要があるので、結局は辺境伯様に私が二人に相応しいと存在だと判断してもらう必要がある。
「お父様は一週間後に視察に来ますわ。何か対策を考えましょう」
「実は昔からこういう時の為に考えていた事があるので、任せてもらってもいいですか?視察を歓待する準備は一週間後までに終わるように明日から手配しましょう」
視察まで忙しくなりそうで暫くは働き詰めになる。時間が取れるのは今日だけだろう。
ビクトリアさんとタリアさんと婚約したら、アーシャを不安にさせてしまう。
約束を果たしに行こう。
視察の手配についての役割分担を話し合った後に屋敷を出た。
もう夕方が近づいている時間帯だ。
アーシャの居場所を探すのに時間がかかる可能性があるので異能に頼る事にする。
【因果の強化】、それは位階が二つ上がってから実用段階に強力になった概念を強化する異能だ。
【強化】はあらゆる事象を強化できる為、概念であろうが何でも強化する事が出来る。
私の認識や強化の出力次第で本当にあらゆる事が可能なので、位階が上がると段違いに強くなる。
婚約する心構えができたので、アーシャに出会う因果を強化した。
因果を強化する事で、あらゆる行動がアーシャと出会う事に結び付きやすくなる。
引き寄せられるように、ゆっくりと開拓村の西にある誓いの丘へと歩いていく。
誓いの丘は恋人達の憩いの場で、仲の良い男女が互いに告白する時も、この丘に足を運ぶ。
丘には人影が幾つか存在しているが、一人の人影は一つだけであった。
「アーシャ、約束を覚えているかい」
夕日で赤く染まる銀髪を靡かせながら振り返る美少女。
バイオレットの瞳が私に向けられる。
「覚えてる。忘れるわけがないよ。だって、それはわたしにとって大切な約束だから」
その瞳には期待と不安が入り混じっていた。
私が出す答えをじっと待っているのだろう。
答えはわかっている筈だけど、答えが出るまでは不安な気持ちが勝ることもある。
私は静かに足を踏み出してゆっくりと膝をつき彼女の瞳を見つめる。
「君のことを愛しています。私の婚約者になってくれますか」
私の瞳と似た色彩の宝石で作った婚約指輪を差し出す。
「あの日交わした約束はずっと覚えていたよ。アーシャの気持ちが変わってないなら、受け取って欲しい」
彼女の瞳から零れ落ちた涙が、夕日に染まる頬を伝う。
「気持ちは変わってないよ…わたしはずっと貴方が大好き!」
飛びつき私の胸に抱きつくアーシャを両手で抱きしめた。
「必ず幸せにすると誓うよ」
アーシャは暫く私の胸の中で喜びの涙を流し続けた。
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