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プロローグ

読み終わった後、感想などあれば嬉しいです。

 大型のショッピングモールで仲の良い友人と買い物を楽しんでいた日、先に会計を済ませていた私は、友人が出てくるのを入り口付近で待っていた。


 待ち時間の暇を潰す為にSNSでも確認しようとスマホを取り出していると、少し離れた所をとても綺麗な女性が歩いており、自然と吸い寄せられるように視線を向けていた。


 彼女はまだ未成年なのだろう。男の理想を詰め込んだようなスタイルをしているが、その美しく整えられた顔立ちには、どこか幼さも残っている。


 女性を観察していると、彼女の後ろの方でパーカーをフードまで被った男が、挙動不審な態度でキョロキョロとしていたのが少し気になった。


 何気なしに見ているとその男がポケットからナイフを取り出し、女性に向かって足早に接近し始める。


 私は思わず「危ない!」と大声を発していた。


 女性が異変に気づき後ろを振り向いた瞬間、男は更に加速する。

 咄嗟の行動にその人の本性が現れるというが、私の身体が反射的に動いて、女性を守るように背中で庇っていた。


 次の瞬間、背中に衝撃を感じ、ナイフがずぶりと突き刺さる。


 予想よりも痛みはずっと鈍く、体の奥底からじわりと広がっていく。


「何で邪魔すんだよ!?俺はその女が殺してーんだよ!さっさとどきやがれっ!!」


 男が怒鳴りながら私を退かそうとするので、咄嗟に腕を掴み行動を妨害する。

 女性は怯えて体が震え動けないようで、その目には恐怖が映され、何が起こっているのか理解できていないように見える。


「……そんなに死にてーんならお前から先に殺してやるよ」


 男は静かにそう呟いてから私の手を振り解き、ポケットから新しいナイフを取り出した。

 体勢を崩していた私は男に対して碌に抵抗もできずに身体中を切り裂かれる。最終的には腹部を深く突き刺され抉られたのが致命的だった。


「死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!俺の邪魔をすんならすぐに死ね!!」


 抵抗する力を失い倒れた私の息の根が完全に止まるまで、男は滅多刺しにナイフを突き刺し続けた。

 男の意味不明な叫び声と周囲にいた人々の喧騒や悲鳴を遠くに聞きながら、意識が消失していくのを感じる。


 最期に想うのは、家族や友人に対する謝罪の言葉と、凶行から庇ったあの美しい女性の無事だけだった。

 死の瞬間は意外と安らかで、生命の灯火が静かに消えていくのを感じながら、私はその生涯を終えた……。



 ……突然だが、私は再び命を与えられ転生したらしい。

 最初は滅多刺しにされた記憶と真っ暗な状況を結び合わせて、植物状態になったと考えた。


 しかし、時々微かに聞こえてくる優しい声が、私が赤ちゃんに転生したことを直感させる。


「早く産まれてきてほしいな」「愛してるよ」「元気に育ってね」


 母の愛情を感じる、心地良くて安心する快適な環境だった。


 長い間その環境で過ごしていたが、ついに産まれる時がきたようで、頭に圧迫感を感じた。

 暫くすると母の胎内から外界に出たことを体全体で感じとる。

 柔らかい布に産み落とされてから少しして、どこかで「クリーン、ヒール」と聞こえると身体がさっぱりした。


 何が起こったのか不思議に思っていると誰かが覗き込む気配がした。

 目を開けて見ると、水色のロングヘアで透き通るような蒼い瞳の美少女が至近距離で見つめていた。

 驚いている間にゆっくりと優しく抱きかかえられ、露出している胸に顔を近づけられる。

 柔らかいものが唇に当たると、本能的な行動なのか身体が勝手に吸い付いてしまい、授乳を受けていた。


 母乳がのどに流れ込む、赤ちゃんだからなのか、いやらしい気持ちは起こることもなく、ただひたすらに飲み続ける。


 お腹がいっぱいになると自然とゲップが出て、今自分は赤ちゃんなんだと実感した。


 授乳してくれた美少女の顔を見ると目があってしまい失敗したと思った。

 意志がある赤ちゃんなど気持ち悪いと捨てられるかもしれないと不安になるけど、彼女はそんな様子を見せることなく話しかけてくれる。


「あなたの名前はエストです。私の息子で、人生のパートナーになる存在、……とても嬉しい」


 私の名前はエストらしい、人生のパートナーは流石に大袈裟な言い方だとは思うが、泣いて喜んでくれている。


 ……ふと不思議に思う、聞こえてくる言葉が日本語ではないのだ、それなのに何故か言葉が理解できてしまっている。

 もしかして異世界に転生したのだろうか、産まれてすぐに聞こえた「クリーン、ヒール」という言葉は魔法で、母の髪が地毛だと考えると地球である方がおかしいことになる。

 産まれた世界が異世界かもしれないと疑っていると、また彼女と目があった。


「やっと出会えて嬉しい……あなたが私のところに産まれてきてくれたのは運命。本当に愛してる」


 抱きかかえながら、お腹の中にいた時と変わらずに愛情のある言葉を与えてくれる。

 とても愛情深い女性だと感じた。


 暫くして満足したのか額辺りにキスをしてからベビーベッドに寝かされる。

 愛情をしっかりと示してくれるのは嬉しいものだ……。


 赤ちゃんの身体で色々考えていた為か、睡魔に襲われ眠りについていた。

 次の日、起きて彼女の授乳を受けたばかりの私に唐突に告げられる。


「昨夜にあなたが産まれたことを誰も知らないの、散歩のついでに顔見せしましょう」


 彼女は何を言ってるのだろうか、昨夜に赤ちゃんを産んだばかりの女性は出来るだけ安静にした方が良いと思うけど?

 前世の常識で考えてはいけないのだろうか?

 この世界に魔法があるなら、そんなに心配する必要はないのかもしれない。


 そういえば彼女はシングルマザーなのだろうか、誰も赤ちゃんを産んだことを知らないとなると、家族等の頼れる人はいないということか?


「……どうしたの?」


 考え込んでいたせいかどうやら態度に出ていたらしい。

覗き込まれた瞬間、内心で慌てながらもベビースマイルで誤魔化す。


「可愛い……じゃあ行こっか」


 彼女は私を抱いたまま外出した。

 身体はもう大丈夫なのだろう。

 とても元気そうな足取りである。


「ここは出来て一年くらいの開拓村で、私は普段食堂を経営してる」


 歩きながらこの場所と彼女について簡単に説明してくれる。

 意志を持つ赤ちゃんを不気味に思わずに話しかけてくれるとは、不思議な女性である。


「アルマちゃん!? 赤ちゃんが産まれたのかい!!」


 驚いたように声をかけて、弓矢を背負った青年が近づいて来た。


 ……そういえば彼女の名前を知らなかったことに気づく、アルマという名前なのか。


「モルトさん? そうなの、可愛いでしょ?エストっていうのよ」


「よく顔を見せてもらってもいいか?」


 モルトという青年が私の顔を覗き込む、彼はとても厳つい顔をしていた。


 私は人を顔だけでは判断しないので怖がったりしないが、普通の子供なら泣いて怖がるだろうと思う。


「おおっ! 俺の顔を見ても泣かない赤ちゃんは初めてだ! 賢そうな子だなぁ!」


 泣かなかっただけで喜んでくれるとは、少し可哀想になるな。

 アルマさんもモルトの顔が怖くないのか笑顔で対応している。


「エストとの散歩のついでに皆に紹介しようと思って。それに食堂を再開することも伝えないと」


「もう食堂を再開するのか?流石にちょっと休んだほうがいいんじゃないか?」


「大丈夫、私は元気だから。それに家にずっと居てたらエストが退屈しそうだし」


「まだ赤ん坊で退屈も何もないと思うんだが……」


 まだまだ考えることは沢山あるので、私は家の中で暫く過ごしてもいいのだけれど、情報は多い方が建設的に考えがまとまるだろう。食堂で多くの人と関わることは私にとってメリットが多い。


 アルマさんは美少女だし、その人の手料理を食べられるのだから、若い男を中心に繁盛していると見て間違いないだろう。


 そんな思案をしていると、もう一度モルトが私の顔をじっと見ていることに気づく。


「……さっきも言ったけど本当に賢そうな子だな。目に意志をあるような……?」


「エストは特別だからとっても賢いの、だから退屈させたら可哀想でしょ?」


「……そうかもしれないな。でも無理はするなよ?」


「うん、モルトさんは今から狩りでしょ?いってらっしゃい」


「おう!頑張ってくるぜ!」


 モルトは意気揚々と狩場へと去っていく。

 その後もアルマさんは私の顔見せをしながら、食堂を三日後に再開することを伝え歩いた。

 何度か私が眠たくなった時に彼女が休憩を挟んでくれていたので、もう夕方が近くなっている。


 眠気を感じながら揺られていると、ふと少し離れたところに黒い木造建ての立派な屋敷が見えてきた。

 その傍らには広い湖が静かにたたずんでいて、更に遠くには地球では見たこともないような標高の高い雄大な山脈が連なっている。


 あまりに壮大で圧倒的な風景に、思わず眠気が吹き飛ぶ。


 まるで異世界に迷い込んだような感覚だった。


 こんな景色は、前世ではきっと見ることすら叶わなかっただろう。



「エスト、いい景色でしょ?私が好きなこの景色、ずっとあなたと一緒に見たいと思ってた」


 アルマさんの言葉を聞いた瞬間、なぜか胸の奥に喪失感のような感覚が生まれた。

幸せなのに、どこか切ない。


 それはきっと、前世で私が愛した家族や友人たちへの未練だった。


 前世では、全身を切り裂かれ、滅多刺しにされるという凄惨な最期を迎えてしまった。

 思い出すたびに、家族や友人の顔が脳裏に浮かび、胸が締めつけられるよな気持ちになる。


 それでもこの異世界に転生し、アルマさんという優しい女性の子供として新たに生を受けたことは、確かに救いだったと感じていた。


 後悔がないと言えば嘘になる。

 けれど、過去を悔やみ続けても仕方ない、この新しい世界を懸命に生きていく。


 私はその決意を静かに胸の内に刻んだ。



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