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悪役皇女は何が何でも生き残りたい!  作者: 星野光
第一章 環境を改善したい!
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第8話 皇后とお茶会をしてみる 2

 皇后の今の表情は、まるで娘を心配する母のようだ。皇后を務めているだけはあり、腹芸はうまいらしい。

 でも、私には通用しない。だって、皇帝が訪ねた理由なんて、とっくに把握しているはずだ。


「特に何もありませんでしたよ。陛下は、私に聞きたいことがあったようで、それを尋ねに来られただけですから」

「そうなの?それはよかったわ」


 何を?などと聞かないのは、さすが皇后だ。皇帝との会話を尋ねるのが不敬というのは、皇后にも当てはまる。だからこそ、必要以上に聞き出そうとはしない。まぁ、心当たりがあるというのもあるのかもしれないけど。

 やはり、使用人なんて可愛いものだ。皇后や皇帝を相手するほうが、よっぽど疲れる。

 私の言葉の刃も、ぬるりと躱されてしまうし。


「それにしても、ずいぶんと粗末なドレスね。いつの流行かしら?」


 指摘されるとは思っていたけど、面と向かって粗末と言われると腹が立つな。

 そもそも、皇后がちゃんと私の宮の予算管理をしていれば、こんなことにはならなかったと思うんだけど。多分、流し作業のように了承していたのだろうな。それほどまでに、私には興味がなかったということだ。 


「申し訳ございません。一番いい持ち合わせがこれしかなかったものでして、半年は前のものかと……」

「だからドレスを欲していたのね。それが一番というのなら、十は購入してもよいのですよ。オーダーメイドもいいかもしれませんね」

「はい。ですが、私は既製品で結構です」


 買ってもいいと言ってはいるが、これは十以上購入しろと命令されている。そして、その中にオーダーメイドを入れろと。

 それは、どうせ皇女宮の予算から出る。そんなに言うならあなたの予算で買ってほしい。ドレスを十も買うくらいなら、もっと実用性のあることに使いたいのだけど……こればかりは仕方ない。皇后の怒りを買うよりはましだ。


「いえ、このような事態を引き起こしてしまったのは、私の責任ですもの。遠慮しなくてもいいわ。これからは、もう少し念入りに見ておきますから」

「ありがとうございます、皇后陛下」


 これは、あれか。しっかりと見張っておくから、余計な真似をするなという警告のようなものだろう。皇帝側につくようなことがあれば、即座に報告のようなものが皇后にいくはずだ。皇帝からも人を送られているから、そのまた逆もしかりだろう。

 私室でも落ち着かない日々が続くかもしれないけど、こればかりは我慢するしかない。むしろ、私が無害であるというのが示せると思えば、何日でも演じきることはできる。


「三日後に商人が来る予定ですから、その時にドレスも持ってくるように指示しますわ。他にもあるかしら?」


 これは……正直に言っておくべきか?それとも、隠しておくか。

 正直言うと、ドレス以外もいろいろと足りないものはある。普通なら、それも要求するべきではあるかもしれない。でも、おそらくは私を試している。

 私が、ドレス以外にも足りないものがあるのをおそらくは知っているだろう。お茶会の日までに、徹底的に調べているだろうから。

 この返答次第で、今後の皇后の動きが変わってくると言っても過言ではない。

 少し……挑戦してみよう。皇后がどんな返答を求めているのか、確かめてみよう。


「装飾品も少なくなっておりますが……私にはドレスだけで充分です」


 これは、暗にそれも寄越せと言っているも同然だ。本当に要らないのなら、口に出す必要はない。

 それを理解してか、皇后の目は冷たくなる。

 どうやら、そんなものはありませんとか、要求を拒否するほうを望んでいたらしい。

 それならと、私は言葉を続ける。


「ドレスを購入できるだけでも私にとっては、光栄なことなのです。これ以上を求めてはならないでしょう」


 だから、本当にいらないよと言外に付け足す。内心では疑われているかもしれない。でも、はっきりといらないと口にしたのだから、これ以上何かを言ってきたりはしないはずだ。

 皇后は、私をじっと見てきたが、「あなたがいいのなら」と、これ以上とやかく言うことはなかった。


「陛下。私は、この後にドレスの選別を行わなければなりませんので、名残惜しいところですが、皇女宮に戻っても良いでしょうか」


 もう聞くことはないだろ?という意を込めて聞くと、皇后は笑みを浮かべて了承する。


「ええ。楽しいお茶会だったわ。提案してくれてありがとう」

「滅相もございません。では、失礼いたします」


 私は、深く頭を下げて、部屋から出た。


(はぁ~……)


 毎回毎回、部屋を出るとため息をついているような気がする。

 でも、今回のはあまりうまく行かなかったかもしれない。失敗にはならないだろうが、成功でもないだろう。

 皇后には、少し強引ではあったかもしれないけど、立場を弁えているということはアピールした。

 だからといって、皇帝と繋がるつもりがないということを、伝えられたわけではない。きっと、皇后も疑っているだろう。

 でも、監視を送ることを匂わせるような発言もしていたし、私が行動に気をつければ、しばらく手を出してきたりはしないだろう。

 ほんのわずかな間かもしれない。偽りかもしれない。でも、とりあえずの平穏は手に入れられたように思う。


(後は、本当に皇子だな……)


 皇子に関しては、こちらから接触するほうが危険だから、大人しく向こうから来てくれるのを待ったほうがいいだろう。

 あの皇子の性格上、皇帝や皇后の興味がこちらに向いていることが分かれば、間違いなく突撃してくるだろうから。

 今のところ、できることはない。継ぎの試練は、ドレスの購入時だな。

 私は、そう考えたことで、あることを思い出した。商人が来るのは……三日後だ。


(あれ……?私の平穏、今日を入れても三日で終わり……?)


 皇女宮に戻る足取りが重くなる。心なしか、体もしんどく感じてきた。

 せめて、一週間はくれ。

 そう思いながら、私は皇女宮に戻った。

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