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悪役皇女は何が何でも生き残りたい!  作者: 星野光
第一章 環境を改善したい!
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第6話 使用人を罰してみる

 皇帝と話した翌日。

 次は、再び皇后に会うことに決めたけど、私は部屋で待機していた。

 皇后に会うには、皇女宮を出るしかない。でも、黙って出ていったら、皇帝との約束を破ってしまうことになる。

 時間が経つほど危ないが、こればかりは人が来るのを待つしかない。むしろ、その間は少し休憩できると考えたら得かもしれない。

 転生を自覚してから、一週間も経たないうちに天敵二人と接触したから、思ったよりも疲れているようだ。

 私は部屋に置いてある椅子に腰かける。本当はベッドで寝転がりたいところだけど、このドレスが皺だらけになってしまうのでやらない。

 座ったところで、読書もできなければ、眠くないので仮眠も取れない状態では、今後の方針を立てるくらいしかやることがない。


(……後は、兄の皇子か)


 皇帝は、あの対話で監視をつけてきたので、しばらく殺されることはないだろう。

 皇帝がそんなんだから、皇后も表立っては動けないはずだ。となると、警戒するのは皇帝に目をかけられている皇子だろう。

 皇子の機嫌を損ねるようなことがあれば、せっかく少しはましになった皇帝の態度も、一回で悪化するだろう。

 だからといって、皇子に接触するのが一番危険だ。

 小説では、露骨にアンジーナを嫌っていた。子どもらしいと言えば聞こえはいいが、前世でアンジーナに殺されたのかというくらいに嫌っている。

 理由はおそらく、劣等感だろう。小説でも書かれていた。

 アンジーナは、家族に恵まれていないだけで、勉学にも秀でており、魔力も高く、容姿も端麗という、皇女としては優秀な部類に入る。

 あっ、皇帝のメンツのため、私も勉強はさせられているのよ。帝王学はやっていないけど、数学や外国語、神学や魔法学……といった英才教育を。

 つまりは、自分は父親だけとはいえ、親にも愛されていて、次期皇帝という立場なのに、妹で両親からも蔑まれている妹のほうが優秀なのが気に入らないということだ。

 私からしてみれば、知らんがなという感想しかない。

 皇帝に愛されているんだったら、それだけでアンジーナの何倍も恵まれている。それなのに、妹が自分より上のものが一つあるだけで憎むとは。さすが駄作扱いされた小説だ。


「はぁ~……」


 私が皇子のことを考えて深くため息をついたとき、コンコンとドアをノックする音が聞こえる。

 皇帝が送ってきた人が来たのかと思い、「どうぞ」と言ったが、入ってきたのは使用人だった。

 皇女宮でちらりと見かけた覚えがあるから、皇女宮の使用人だろう。服装からして侍女だろうか。


「何の用?」

「皇女殿下にお尋ねしたいことがありまして」


 やたらと偉そうな態度でそう言った。アンジーナがどれだけ使用人に舐められているのかよくわかる。


「私に聞きたいこと?」

「皇帝陛下と何のお話をされたのですか?」


 ニヤニヤと憎たらしい笑みを向けながらそう言う使用人に、私は深くため息をつく。


「……あなた、意味がわかって言っているの?」

「そ、それは……」


 私は、睨み付けながらそう言った。

 使用人は、先ほどまでニヤニヤとしていたのに、急に体をびくっと震わせる。

 私がこのような態度に出ているのは、これが不敬罪にあたるからだ。

 私にこのような態度を取っている時点でアウトではあるけど、まだグレーゾーンには入る。でも、完全にアウトなのは、皇帝との会話を聞いていることだ。

 皇帝との会話は、それこそ世間話のような私的なことでも、許可なく話すのは不敬にあたる。それを私に犯せと言っている。腹も立つだろう。


「まさか、知らなかったとでも言うの?」

「えっと……ですので……」


 はいともいいえとも言わない。言葉を濁すだけだ。当然だろう。だって認めたら、私を陥れようとしたことを認めることになるし、知らなかったと言ったら、自分の無知を私に示すようなものだ。

 どちらも、無駄にプライドの高い皇女宮の使用人は受け入れがたい結末だろう。

 ここで、かまをかけてみるとしよう。

 私は、あぁと何かを思いついたように言った。


「世間知らずの皇女なら道連れにできると思ったのね?」


 私がそう言うと、もう病気を疑うレベルで、顔が白くなった。

 そして、流れるように、私に膝をつく。


「そ、そんなことは決してございません!殿下を道連れなどーーっ!」


 そこまで言ったところで、使用人ははっとなり口を抑えたけど、すでに手遅れだ。

 私を道連れにするつもりはなかった。彼女は、私の言葉を否定するつもりだったのだろう。それ自体は、罪を軽くするためには当然のことだ。

 でも、今回はその否定が裏目にでた。私を道連れにするつもりはないということは、自分が何か罪を犯したことを自白しているようなものだ。

 何も罪を犯していないのなら、私が道連れと口にしたことに疑問を持つはずだから。

 まぁ、不安な状況だから反応した可能性もあるにはあるけど、途中で気づいて言葉を続けない時点で、どう考えても黒だろう。

 この使用人をどう処分しようかと考えていると、コンコンとノックの音がする。

 今日は客が多いな。


「失礼します、皇女殿下」


 ほとんど形ばかりのようなものだが、ノックをして、私の部屋に誰かが入ってくる。

 その人は、執事のような男の人で、全然見覚えがない。


「無許可の入室、お詫び申し上げます。少々、気になる会話が聞こえたものでしてーー」


 その男の人は、私に向かって、深く頭を下げる。

 ここで、ずっと使用人の不躾な態度を見てきた私にはわかる。これは、嫌々ながらのものではない。本当に申し訳ないと思っている。少なくとも、私を舐めたりはしていない。

 内心はわからないが、皇族への敬いが見える。

 この人が、皇帝の送ってきた人だ。

 私は、直感でそう感じた。


「かまわないわ。ちょうどあなたともお話ししたかったことだし」

「私と……ですか?」

「ええ。私の独断では、この者を裁くのは難しいもの。陛下にご用立てするには、あなたを通さねばならないでしょう?」


 私がそう言うと、一瞬ではあったけど、男の人は目を見開く。

 どうやら、私の予想は的中していたようだ。見抜かれるとは思っていなかったみたい。でも、すぐに仕事人の顔になるあたり、皇帝から信用されているだけはあると感じる。


「陛下に何かご用でも?」

「この者が、私と陛下の会話内容を聞き出そうとしたの。そんな大罪、私には裁けないわ」


 そう言った後に、ちらりとその使用人を見ると、絶望の表情を浮かべていた。まぁ、不敬罪なんて、牢の外に出られたら奇跡というレベルだから、こうなるのは当然か。

 それに、この人には、一介の使用人よりも、皇女である私の言葉のほうが信用されやすいし、私の言葉が嘘だと、今の彼女には言えないだろう。


「かしこまりました。この者は、私が責任を持って連れていきます」

「ええ、他にも頼みたいことがあるから、誰かをここまで来させてくれる?」

「はい。すぐにでも殿下の元へ向かわせます」


 男の人は、すでに魂が抜けたような使用人を乱暴に持ち上げ、部屋を去っていった。

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