第31話 冤罪への対処法
遅くなりました。これからはもう少しペースが上がるはずです。
『ならば、お前はどうすれば、自分に罪を着せてくるやつを黙らせることができると思う』
皇帝は、ニヤニヤしながら、いつも以上に憎たらしい顔でそう言った。
それが簡単にできたら苦労しないって話をしたんだろうが!
「一番の方法は、私が皇太子殿下を狙う理由がないことを示すことだと思いますが、それは難しいと思われます」
できるならとっくにやってるしね。
「なので、あえてその者たちの証言に乗ればよろしいかと」
「そうなると、お前はクレイルを狙った犯罪者となるが?」
それでいいのかという副音声が聞こえてくる。
私は、その様子に、わずかにうん?と思ってしまう。
皇帝からすれば、私は始末したくてしょうがない存在だ。
今は処分するに充分な理由がなく、まだ皇帝から利用価値があると思われているから、始末されていないだけである。
その程度の生かすための理由は、クレイルの命が狙われたことには勝らないだろう。
だが、皇帝は私を生かすことを選んでいるように見える。
最初は、私がどう対処に動くのか見たいだけかと思っていたけど、何か間違っているのだろうか。
「それで、そいつらの戯れ言に乗ってどうすると聞いている」
皇帝が不機嫌そうに見ているのを見て、私は飛ばしていた思考を振り払う。
「私は犯罪者ではありません。私がやったという証拠はないのでしょう?そうであれば、私はまだ容疑者の段階のはずです」
容疑者と犯罪者はだいぶ違う。私が犯罪者の扱いを受けているなら、私はよくて即投獄。悪くて即処刑だろう。
こんな風にのんきに話を聞いたりはしない。
「そうだな。ならば、容疑者となってどうするのだ?」
「しばらく、私が殿下との私的な接触を控え、陛下の命のもと、私のことを監視してください。大げさであればあるほどいいでしょう」
「ほう」
皇帝がニヤリと笑う。私の思惑に気がついたようだ。
「いいだろう。そのように貴族たちには周知させるとしよう。皇女宮には、騎士たちに送らせよう。しばし待て」
「かしこまりました」
皇帝は、ダリウスを呼び出し、様々な指示をしていく。
ダリウスもたいして驚いている感じもしないし、ずいぶんとスムーズに行われているので、似たような指示は行われる予定だった可能性が高い。
やはり、先ほどのは私のことを試すためだったのだ。生かす価値があるのかないのか。それを測るためだけの。それで、皇女宮に帰すと言っているのならば、私はまだ生かされるようだ。
しばしと言われたが、数分もしないうちに、皇帝が呼んだ騎士が来て、私は皇女宮に戻ることとなった。
騎士の数は、おおよそ十人くらいだろうか。確かに、皇女の護衛としては大げさだ。
……堂々と、歩かないほうがいいか?
犯人扱いされている弱い皇女が堂々と歩いていると、違和感しかないだろう。
皇帝宮は、人の出入りも多いし、誰かに見られてもおかしくない。
少し、小さくなってみよう。それで、動揺しながら歩けば、カモフラージュになるかもしれない。
「あ、あの……私はどうなるんですか?」
「陛下のお心次第です」
おどおどしながら聞いた私に合わせるように、騎士たちは冷たく答える。
「そうですか……」
残念そうに、私は俯く。我ながら、なかなかの演技力だと思う。
このままこんな感じで演じ続ければ、誰に見られても、罠だとは思われないだろう。向こうも合わせてくれるのはありがたい。皇帝から何か吹き込まれている可能性もあるけど。
そのまま、何事もなく皇女宮へと戻ってきた。途中で、数人の貴族とすれ違ったけど、軽く会釈して終えた。
普段なら、私に嫌味の一つでも言うのだけど、さすがにそれは止めたらしい。私がクレイルにエスコートされていたからだろうな。
ちなみに、騎士はまだ皇女宮に残っている。理由としては、私の警備だけど、皇帝の態度や、私がどのような立場に置かれているのかを知っている者たちは、こう考えるだろう。
皇女は、監禁されているのだと。騎士たちのことを、護衛という名の見張りと思ってくれるはずだ。
今ごろは、皇帝は、自分の元に訪れた貴族たちに、皇女の悪評をさりげなく広めてくれていることだろう。私の噂が広まるのは、そう遅くないはずだ。
(さて、みんなはどう動くかしら?)
嵐の前の静けさというやつのはずなのに、私の心は、どこか弾んでいた。