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悪役皇女は何が何でも生き残りたい!  作者: 星野光
第一章 環境を改善したい!
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第30話 皇帝からの呼び出し

 事前に連絡されていたから、怒ってはいない。うん。怒ってはいないんだ。でもな、一つだけ、私は言いたいことがある。


 朝の6時に呼び出しはねぇだろ!!!


 もしかしたら、あの言葉は皇帝からの遠回りな心配かと思ってしまった私の時間と気持ちを返してほしい。

 皇女が一人でうろちょろするわけにもいかないから、アニーについてきてもらっているけど、本当に早朝から申し訳ない。

 きっと、皇帝も嫌がらせでこの時刻にしたわけではないとは思っている。普段から多くの人間と共に仕事をしている皇帝は、こんな時間しか人払いができないのだろう。

 でもな、私は五歳なんだよ!まだまだ子どもなのに、なんでこんなに早起きして事情聴取という名の戦を始めなければならないのだ!


「あうー……憂鬱」

「大丈夫ですよ。今回は、念のため、皇女殿下に裏づけを取るだけでしょうから!」

「まぁ、そうだね」


 今回はという言葉がすべてを語っていることに、アニーは気づいているんだろうか。

 その言葉は、何のフォローにもなっていない。

 私の歩幅は、皇帝のほうに近づく度に、小さくなっているだろう。

 一応、休んでいる間にシュミレーションはしてきたけど……どうなることか。


◇◇◇


「陛下。お呼び立てと聞き参上しました」


 皇帝の私室へとやってきた私は、カーテシーを取る。


「顔を上げろ。その銀をいつまでも見せつけるなと言っただろう」

「失礼しました」


 笑顔でそう言うけど、私の苛立ちは増していた。

 だ・か・ら!一言余計なんだよクソ皇帝!顔を上げろだけでいいでしょうに!

 私は、今にもそう怒鳴りそうなのを抑えて、呼吸を整える。

 そして、チラリと部屋を見るけど、私以外には誰もいない。さすがに、クレイルはこんな時間から呼び出したりしないみたいだ。羨ましい。


「呼んだ理由はわかるか」

「先日のパーティーの件ではないというのなら、説明が欲しいです」

「それがわかっていれば充分だ」


 自分でも嫌な言い方をしたと思うけど、当の本人は、ピクリとも表情を動かさない。

 むしろ、そんな皇帝の様子に、自分のほうが苛立ちを覚えるような感覚に陥る。


「クレイルの証言を元に、クレイルにジュースを渡した使用人は捕縛した。だが、そいつが妙なことを言っていてな」

「妙なこととは?」


 自分はやってないとかいう否定の言葉なら、この皇帝のことだから、特に言葉を飾らずに、ストレートにそう言うだろう。

 それなら、◯◯の命令で~とかでも抜かしたのだろうか?でも、そこに皇后やドゥーエの名前が出たところで、別に何もおかしくはないような……?


「皇女の意を汲んで、だそうだ」

「……私の……ですか?」


 はぁ?と悪態をつくのを堪えた私を、誰か褒めてほしい。

 なんか、勝手に名前を使われた怒りとかよりも、呆れのほうが強いよ。

 いや、だって。だってさ。まだ、皇后やドゥーエの名前を出すのならわかる。皇太子が狙われたとなれば、一番に疑われるのはその辺りだろうから、罪を被せたりするのには、一番使い勝手がいい。

 でも、アンジーナは?犯人にするのには、結構無理がある。帝国の貴族たちだって、皇女が主犯と思っているのは一人もいないだろう。


 なぜなら皇女は、力がないからだ。


 たとえ、暗殺者を雇ってクレイルを殺そうという計画を立てたとしても、そもそも自由に使えるお金とかも持ってないし、当然ながら、そういう稼業の者たちへの伝手もない。

 使用人への命令権も、ないに等しいと言っていいだろう。

 そんな皇女が計画を実行しようとしても、密告されるか、そもそも実行すらできないかもしれない。

 ほぼ100%失敗するのに、そんな危ない橋を一緒に渡ろうとするような命知らずはいないだろうしね。

 だからこそ、主犯に仕立て上げられるなんてことはないと思っていたのだけど……何事も、例外はあるということなのだろうか。それとも、そいつらがあまりに考えなしなのか。


「私が殿下にそのような思いを抱いていたと思われるのは、心外でしかありませんね」


 嘘ではない。この理不尽な世界で生き残るという目的のために、クレイルを手にかけようとするわけがない。

 そんなことをすれば、この皇帝がそれを口実に、処刑とまではいかなくても、幽閉はしてくるだろう。

 内密に処理される可能性だってある。誰がそんなバカな真似をするものか。


「まぁ、今のお前ならば、あんな雑な真似はしないだろうな」


 ……これは、褒めてるのか?まったくそんな気がしないけど。

 五歳らしからぬ振る舞いをしている自覚はあるけど、一体、私は、皇帝にどんな風に思われているのだろうか。


「だが、皇女のその言葉を信じるやつは、どれくらいいるのだろうな?」

「それは、私にもわかりません。ですが、毒物を入れていない証拠は存在しないため、報告することができませんから、無実を証明する術はありません。そのため、根拠を出せと言われてしまえば、私にはどうすることもできないでしょう」


 そう。『毒を入れた証拠が見つからない=毒を入れていない証拠』にはならない。

 毒の混入に関わらず、やったことよりも、やっていないことの証明のほうが難しい。それが簡単にできるのならば、この世から冤罪という言葉は抹消されていることだろう。


 自分はやっていないのに、疑いをかけられるということが、こんなにも精神にくるものだとは、経験するまで気づかなかったな……。早起きだから余計にだ。


「ならば、お前はどうすれば、自分に罪を着せてくるやつを黙らせることができると思う」

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