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悪役皇女は何が何でも生き残りたい!  作者: 星野光
第一章 環境を改善したい!
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第3話 まさかの訪問者

 私の目の前には、アンジーナが最も会ってはいけない存在がいる。

 私は、なんでここにいるんだよと叫びたい気持ちを抑えて、目の前の人物に礼をする。


「帝国の太陽、皇帝陛下にご挨拶申し上げます」


 私がそう言って、臣下の礼である両手でドレスの裾を掴み頭を下げる。

 ほんと、なんでこうなったのか。

 皇帝は、特に何も言わない。

 臣下の礼をすると、主……皇帝の許可なく頭をあげられないので、私は頭を下げ続ける。

 まだ、何も言わない。多分、もう一分は経っている。

 いや、いつまで頭を下げさせるつもりだこの皇帝!勝手にやったのは私だけども!


「……いつまでその銀を見せつけるつもりだ。早く頭を上げろ」


 おそらくは、不快という表情を隠しもせずに吐き捨てているだろう。


(なんだとこの皇帝!一言余計なんだよ!)


 そう心の中では罵倒しながらも、私は「はい、陛下」と顔をあげる。

 笑みはつけていない。こんな奴に笑みなんて向けたくないというのが大部分だけど、笑顔が気持ち悪いとか言われたら最悪だから。


「話がある。ついてこい」

「かしこまりました」


 私は、歩き出した皇帝の後をついていく。

 賢い人はなんとなく察しがつくだろうが、私は五歳児で、皇帝は二十歳は越える、成人した立派な大人。そのため、歩幅の違いがあり、私と皇帝の距離はどんどん広がっていく。

 あの皇帝が、私に気遣って歩幅を合わせてくれたりはしない。時々後ろを振り返っては、少し止まり、私との距離が縮まってくると歩き出す。それだけだ。

 でも、それも面倒になってきたのか、はぁとため息をつき、近くを通った使用人をおいと呼び止める。女の人だから、多分侍女だと思われる。


「あれが遅いから、お前が持ってこい」


 軽く息切れしていた私は、はぁ!?と声を荒らげるところだった。

 私を荷物みたいに言ってるんじゃねぇ!!そして、あれとはなんだあれとは!私にはアンジーナという名前があるんだよ!

 さすがの使用人も、少し戸惑っているようだったけど、皇帝の命令には逆らえないのだろう。

 私に小声で「失礼します」とかけて、おそるおそる私のほうに手を伸ばす。

 私の脇の下に手をいれて、持ち上げる。そして、左腕を私のお尻の下辺りに手を入れて、体を支える。右腕は、私の腰に回して、落ちないようにしてくれた。

 私は、使用人の女の人に抱っこされている状態だ。それも、まるで母親が子どもにするような優しい手つきで。ここの家族とは大違いだ。

 私も、思わず女の人の首に手を回してしまう。ぴくんと体が反応したけど、特に抵抗するような素振りはなかった。この人が母親なら最高だったろうに。

 私が首を回して、皇帝のほうを見ると、皇帝はすたすたと歩き始めている。

 まぁ、この姿に何か思う奴ではないということはわかっていたけど、目の当たりにすると腹が立つ。そもそも、私がこの人に甘えていることにすら気づいていないかもしれない。

 それどころか、早く来いとばかりに私たちのほうを睨んでくる。

 使用人は、その目の睨みに気づいたのか、私に気を遣うような素振りは見せながらも、駆け足気味で皇帝のほうへと向かう。

 使用人さんがしっかりと支えてくれているお陰で、私が落ちそうになることはない。むしろ、安定しすぎて、ゆらゆらと電車みたいな揺れが、眠気を誘ってくる。

 でも、皇帝が側にいるということを認識すると、とたんにそれは吹き飛ぶ。安心できないからなんだろうな。

 それから数分が経っただろう。皇帝が急に足を止めたので、使用人さんも足を止める。


「ここでいい。それを置いて、持ち場に戻れ」


 私は、辺りをキョロキョロと見渡す。どう見てもただの廊下だ。

 ここって言っても、何もありませんけど?


「は、はい。陛下」


 私が戸惑っているうちに、使用人さんはそう言って私を降ろした。そして、静かに立ち去っていく。

 使用人さんがいなくなったことで、ここには私と皇帝以外に人の気配はない。

 ちょっと、ここで二人きりですか!?そんなの聞いてない!目撃者がいないから、ここで始末されたらジ・エンドなんだけど!

 私が皇帝のほうを見ると、皇帝は何やら壁に向かって何かをしている。

 一体何を?と思っていると、皇帝の何かの呟きと共に、ゴオオオという地響きのようなものが響く。思ったよりも音が大きくて、私が耳を塞いでいると、皇帝がこちらを向いた。


 行くぞ


 耳を塞いでいたからはっきりとは聞き取れなかったけど、そう言っていたように見える。現に、皇帝は奥のほうにすたすたと歩き始めてしまった。

 私は、駆け足で皇帝の後を追っていく。一体、どこまで行こうというのか。

 五分ほどで、廊下の突き当たりへと着いた。私は、駆け足だったのもあり、もうへとへとだ。

 私は息切れしているけど、皇帝は壁に手をかざす。その瞬間、キラキラと壁が光り出した。

 その光が止むと、さっきまでなかったドアが瞬く間に現れる。

 隠し扉というやつか!?あれが、魔法というやつなの!?

 私があわわと体を震わせていると、皇帝は私を冷たい目で見てくる。あれは、早く来いという目だ。

 私は、震える体に鞭を打って、皇帝のほうへと駆け寄った。

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