第28話 パーティーに参加してみる 5
クレイルを連れて、私は皇帝と皇后の元に向かう。
もし、これが私に向けられたものだとしたら、私もここまではしなかったかもしれない。でも、このクレイルのことだ。私に渡すなんて言っていなかっただろう。
それなら、大問題だ。
「もう奴らとは馴れ合わなくていいのか」
戻ってきた私たちに、皇帝が尋ねる。明らかに、私の目を見ていっている。私がクレイルから離れて、クレナとダンスをしていたから不機嫌なのか?でも、あれくらいは一人で対処できなきゃ、皇帝は絶対に無理だ。
それはそれとして、今回のことは皇帝に黙っているわけにはいかないし、だからといって、人が多いこの場でばか正直に話すのも……と思うし。
仕方ない。ここは、皇帝の理解力に期待しよう。
「このジュースが口に合わなくて、気分が悪くなってきてしまったので、皇女宮に戻りたいのですが、許可をーー」
「こ、これは苦手なものだったのか!?」
私の言葉を真に受けたクレイルが、私の言葉を遮り、途端に慌て出す。私は、逆にクレイルの反応に慌ててしまう。
いやいや、そのままストレートに受け取らないでくれ!違う!違うから!あなたがそんな反応をするとややこしくなるから!
「ほう。それはクレイルが渡したものだったのか」
皇帝は、今までに見せたことがないくらいの屈託のない笑みを浮かべている。
これはヤバイ。答えを間違えたら、明日にはゴミとして処分される。
私は、直感でそう感じた。
あ~もう!クレイルが変に反応しなかったら、複雑にならなかったのに!
「はい。氷で冷やされていて冷たかったので、とても嬉しかったです」
ここはちゃんと、クレイルにケチをつけるつもりがないのを示さなければ。
「ただ、以前に口にしてしまったものと、同じような味がしたので、少し気になってしまったのです」
「……そうか。クレイル、これは皇女に渡すために受け取ったものか」
「は、はい。そうです」
私を尋問するのは止めたようで、今度はクレイルに尋ね始める。
ただ、皇帝よ。そんな遠回りな聞き方だと、この純粋なお子ちゃまには通じないかと思うぞ。
「殿下が冷たいものをと頼んでくださったそうです。殿下のお心遣いには感謝しますわ」
私は、最初に皇帝に命じられたように、サポートしてみた。
クレイルは、少し顔を赤くして照れているように見えるが、皇帝……皇后もか。二人の目は、途端に冷たくなる。
さすがは私が話術での攻防戦に苦労しただけはある。私の裏を読み取ったようだ。
「ーークレイル。本当にそれしか言っていないのか」
「そ、それとは……?」
皇帝があんな目でクレイルを見るのは初めてなのだろう。クレイルは、少し怯えた様子を見せる。
これは、クレイルに聞かれたことなので、私が答えるわけにはいかない。
「給仕に頼む際に、皇女に渡すものだと伝えたのかと聞いている」
「い、いえーーっ!」
ここまで来れば、クレイルもさすがに気づいたようだ。
クレイルも、決して阿呆というわけではない。少なくとも、皇帝となれるだけの賢さは備えている。私は論外として、まだ六歳というのもあり、皇帝や皇后ほどの推察力がないだけだ。
このジュースの件。一見すれば、私が狙われたように見える。
銀髪のソルディノの皇女
これだけでも、内側であろうが外側であろうが、狙う理由は充分だ。だからこそ、私が狙われることは、おかしな話ではない。
でも、もし私を狙ったのだとしたら、おかしな点がある。クレイルは、一度も皇女に渡すと伝えていないことだ。
普通なら、飲み物を頼まれたら、頼んだ本人が飲むものだと思うだろう。二つではなく、一つしか頼んでいないのなら尚更だ。
もし、あのジュースをクレイルが飲むのだと思って渡したのだとしたら、誰を狙ったのかは明白だ。
「皇帝陛下。少々、気分が優れませんので、退出してもよろしいでしょうか」
私は、皇帝に招かれる形でこのパーティーに参加した身だ。無許可でここを出ていくことはできない。
「そうだな。皇女宮に戻るといい。皇后、送ってやれ」
「かしこまりました。では行きますよ、アンジーナ」
「ありがとうございます、皇后陛下。では、失礼いたします、皇帝陛下、皇太子殿下」
私は、最上級の礼をして、その場を後にした。