第23話 パーティーに参加してみる 1
ついに迎えたパーティー当日。私は、皇后の用意したドレスに身を包んでいた。
本来ならコルセットを締めないといけないけど、それがないので、気持ち的には少し楽になっている。
貴族の選別も終わり、ダリウスを通じてクレイルに渡しておいたので、クレイルも必死に覚えているだろう。でも、すべてを覚えているわけではないだろうし、私のサポートも気が抜けない。
念のため、すぐに答えられるように関わるべき貴族のことを思い出していると、コンコンとドアをノックする音がする。
「皇女殿下、お時間でございます」
「今行くわ」
アニーから呼ばれて、私は皇女宮を出る。会場がお城だからそこまでの距離を移動したりはしないが、まずはクレイルのいる皇子宮を訪ねなければならない。クレイルのパートナーである私は、クレイルにエスコートされなければならないからだ。
皇后宮と皇女宮は大して離れてはいないけど、皇子宮はかなりの距離があるので、馬車での移動になる。広すぎるんだよ、皇宮が!
そして、普通ならクレイルが迎えに行くんじゃないかと思うかもしれないけど、なぜか私が向かうことになっている。皇帝からそのように指示されたからだ。何を考えているのやら……
皇子宮に着いて、馬車の扉が開いた時、そこにはすでにクレイルがいた。
私は、ここから皇子専用の馬車に乗り換えて会場に向かう。皇子が上なのを強調するために、こんなめんどくさいことをやらなければならない。ほんと、めんどくさい。
「お待たせしました、皇太子殿下」
私が臣下の礼を取ろうとすると、「待て!」とストップがかかる。
私が頭を上げると、クレイルが焦ったような表情をしていた。
「……そんなことはしなくていい。行こう」
クレイルは、なぜか複雑そうな表情を浮かべている。そして、私の手を引っ張るように連れていく。
えっ?えっ?と動揺する私をよそに、クレイルの足はどんどん速まっていく。
(ちょっと!?こけるんですけど!?)
周りからは、皇太子がエスコートしているようにしか見えないだろうけど、私はついていくのに必死だ。
遅く歩けと言いたいけど、私の立場上、そんなことが言えるはずもなく……。
結局、私が休めたのは、皇子の馬車に乗った後だった。
馬車でも、クレイルの機嫌はずっと悪かった。クレイルのほうを見ていられなくて、私は馬車の外を見る。
さすがは大国のソルディノ帝国というだけはあって、お城はどこもきらびやかだ。
馬車がゆっくりと進んでいるからか、景色もゆっくりと楽しめる。
馬車がゆっくりなのは、皇族は最後に入場するためだ。もし皇族よりも遅くなってしまうと、不敬に当たる可能性もある。主役が最後にはいるのが習わしだからだ。
そのため、会場に着くのが遅くなるようにゆっくりと進んでいる。
「……アンジーナ」
「はい、皇太子殿下」
声をかけられて、私はクレイルのほうに向き直る。
「……会場では、そのように呼ぶ必要はない」
うん?会場こそ、皇太子として接しないといけないのでは?公の場なのだし。
訳がわからずに、私は皇太子に聞いてみる。
「では、どのように……」
「だ、だから、他の呼び方に……」
「他の呼び方……というと……?」
皇子殿下?いや、皇太子殿下とほとんど変わらないし、むしろ不敬になってしまう。それなら、クレイル様とか?いや、もっと失礼だ。
そうなると、他のは思いつかない。
やはり、皇太子殿下が一番いいと思う。
「いや、やっぱりいい。忘れてくれ」
「はぁ……」
クレイルが何を求めていたのかわからず、馬車には気まずい空気が流れてしまった。