第22話 パーティーの準備をしてみる
私は、皇帝からきっちりと送られた資料とにらめっこしていた。
皇太子の社交デビューを兼ねたパーティーなのもあり、ほとんどの貴族……というか、すべての貴族が参加しているため、名前を覚えるのも一苦労だ。
名前だけならまだしも、私は皇太子のパイプ役としての役割もあるため、人の選別をしなければならないーーが。
(何も書いてないじゃない!!)
資料に書いてあるのは、爵位と名前の他には、どんな仕事をしているのかや、領地の特産品などのみで、この人とは交流を持っておけとか、この人には注意しろとか、そんなのが何も書いていない!
これは、あれか。私が自分で判断しろってことかあのクソ皇帝!
私がパイプ役を行う以上、私のほうが必然的に相手に先に話しかけることになる。今回のパーティーには皇帝も出るから、恐らくは私のことを見てくるだろう。
皇帝は、試しているんだ。私が皇女としてふさわしい振る舞いを務めることができるのか。
皇帝の私を見る目が、気に入らない皇女から、興味深いおもちゃに変わってる。だからこそ、私を試すような真似をしてくるのだ。
あの皇帝に娘として見てもらうのを期待していたわけではないけど、これはこれで腹が立つ。心のどこかで、やってやろうじゃないかと思ってしまっている自分にも。
(こうなったら、あの皇帝が文句を言えないくらいに完璧にやってやる!)
私は、転生して以来、最大の集中力で、資料を読み漁った。
二日後。
なんとか、貴族の名前を記憶することは完了。ここの貴族、数が多いな。
後は、残った時間をかけて、選別をすれば問題ない。何の問題もなくパーティーをーーと思ったところで、重要なことに気がついた。
「あっ!ドレス、仕立ててない!」
私が以前に注文したのは、普段着用のドレスで、パーティー用ではない。
あの皇帝が気を利かせて用意してくれるとは思えないし……なんとか仕立ててもらわないと。
皇后のところに行ってレーファを呼んでもらうかと、椅子から立ち上がろうとした時、コンコンとドアをノックする音がする。
「アンジーナ皇女殿下。アニーでございます。入室してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
私が、椅子に座り直してそう言うと、アニーが部屋の中に入ってくる。
その後ろから、他の侍女たちも入ってきた。
けど……私は、アニーに冷たい視線を向ける。
「アニー。後ろの者たちは?」
私が入室の許可を出したのはアニーだけで、後ろの人たちには出していない。後ろの侍女たちは、無断入室になる。それに、アニーは気づいたようで、後ろの侍女たちはビクッと体を震わせたけど、アニーは慌てて頭を下げる。
「申し訳ございません!この者たちは、皇女殿下のドレスを持ってきた者たちでして……私のミスでございます!」
「次から気をつけてくれればいいわ。それより、ドレスってどういうこと?」
もうオーダーメイドのドレスが届いたの?と思っていると、意外な言葉がアニーの口から飛び出す。
「皇后陛下が、皇女殿下がお考えになられたドレスを気に入られまして、その礼とのことです。今度のパーティーで使ってもいいとおっしゃっておりました」
アニーが説明しながら、次々とドレスが運ばれてくる。私は、ぽかんと呆けることしかできない。もちろん、顔には出していないけど。
確かに、私がデザインしたドレスを、皇后に進めてはみた。でも、こんなドレスを送ってくれるほど気に入ってくれるとは思わなかった。
お墨付きを貰えればいいかな~程度だったんだけど、予想以上の効果だ。
私のデザインを参考にしたんだろう。華やかさはあるけど、基本となるデザインは、私の考えたものとほぼ一緒だ。
「それじゃあ、そのドレスを着ていこうかしら。アニー。それに合うアクセサリーと一緒に、一番いいものを選んでおいて」
「かしこまりました。では、失礼いたします」
アニーは、ドレスや他の侍女と共に、私の部屋を出ていく。
どうやら、あのドレスたちは、私が気に入るものがあればという考えで持ってきたもののようだ。
何はともあれ、これでドレスの心配はなくなった。ちょっとタイミングが良すぎる気はするけど、ドレスを気にしなくて良くなったから、前向きに考えよう。
後は、貴族の選別か。貴族の選別は、それこそ爵位や、その人の仕事や行っている事業、その人の人柄など、細かくチェックして選別しなければならない。
それをほぼノーヒントでやれと、あのクソ皇帝は言っている。本当に腹立たしい。
だからこそ、やってやるという気持ちになる。絶対に今回のパーティーは、成功させてみせる!